17 先生を賭けて勝負に挑む女騎士がかわいすぎる件 4
いつのまにか僕の運命をかけて行われている、カレンさんとナツの、一対一の戦い。
お互いに自身の力を発揮し、初めの内は互角にみえた勝負ですが――。
時間が経つにつれ、徐々に展開が一方のほうへと傾いていったのでした。
「くっ……!」
的確に射抜かれるナツの雷魔法に、カレンさんがついに膝をつきました。
試合が開始されてからおよそ十数分――ライトナさんのいう『力』は使ってはいませんが、ナツ自身がもっとも得意だという雷属性の攻撃・補助魔法を使い始めると、カレンさんはほぼ防戦一方となっていきました。
「私はまだ余裕だよ——
「っ――」
ナツの指先より放たれた小さな電撃を、カレンさんは自身の大剣を使ってなんとかそれを防ごうと試みます。フィールド内を逃げるように移動したり、それでも防ぎきれない場合は大剣を盾にしたりで、二撃、三撃と連射されるそれになんとか耐え忍んでいました。
「――そこ」
「しまっ——!?」
足元目がけて放たれた電撃を無理に躱したことによりできた隙を、ナツは見逃しませんでした。
「このっ……!」
間合いを一気にゼロ距離まで詰められたカレンさんは、体勢を崩されながらも、自身の体を軸にして回転し、ナツへ向けて大剣を振り回します。
自身の膂力のみで放たれた捨て身覚悟の攻撃——ナツにとっても意表を突かれたのかほんの僅か目を見開くのですが、
「惜しい、けどやっぱり無駄」
自身にも電撃を帯びさせている影響下なのか、驚くべき反射速度でそれを交わした後、彼女の脚が青白い電光に包まれました。
「紫電脚——」
言って、天高く足を振り上げたナツは、そのままカレンさんの胴体へ自身の踵を振り下ろしました。
「あぐっ……あああああッ!?」
ドゴッ、という鈍い音とともに、カレンさんの全身をナツの電撃が襲いました。
「カレンさん——!」
「……!」
僕は悲鳴にも似た声でカレンさんへと叫びますが、それでもカレンさんは僕へ向かって必死に首を振りました。
負けていない、私はまだやれる——誰が見ても不利な状況で、いつ強制的に終了させられるかわからない中で、カレンさんはまだ寸でのところで踏みとどまっていました。
電撃により痺れの残る全身をなんとか奮い立たせ、再び相手との距離をとるカレンさんを、ナツは呆れたように眺めていました。
「降参したら? 私がちょっと本気を出しただけでこれなら、カレン—―あなたに勝ち目はない」
「ふ、うん……それが本気なら、大したことないわね。そんな毛みたいな電撃じゃ、私を完全に打ち負かすなんて夢のまた夢よ」
「減らず口をきいて——」
挑発するカレンさんに、しびれを切らしたナツが自身の周囲に大型の魔法陣を展開しようとします。いい加減勝負を決めるのであれば、小細工なしに大技をかけて戦闘不能にしてしまおう、ということです。
「そうは、させないッ!!」
しかし、ナツが詠唱を試みるたび、それをつぶさに読み取ったカレンさんが、妨害するようにして攻撃を放ってきます。
一対一の戦いで魔法使いが圧倒的に不利となるのはこれが原因でした。威力の高い魔法を一撃放てば終わる戦いですが、それを完成させるためには大きな隙を作らなくてはいけません。戦いながらの詠唱をする高等技術もあるにはありますが、こちらは素質云々というよりは、長い鍛錬が必要となるため、若いナツはまだ使うことが出来ないようです。
いい加減早く勝負を決めたいナツと、そしてそれを意地でも拒むカレンさん——その図式が、かれこれ三十分以上は続こうとしてました。
「すごいな、カレンちゃんは。ナツのあれだけの猛攻を紙一重でしのぎ続けるなんて——精神力もそうだが、なにより体力がお化けすぎる。いったいどれだけ鍛錬を積めば、あそこまでの持久力がつくんだか」
ライトナさんが欠伸をしながら、呆れた声で僕に話しかけてきました。
カレンさん自身に素質があるのはもちろんですが、
伊達にカレンさん(二十九歳)考案の『地獄の朝鍛錬』メニューをこなしてはいないというわけです。
防戦一方のカレンさんの無尽蔵ともいえる驚異的な
ナツの攻勢を耐えて耐えて耐え忍んだカレンさんに、ついに反撃の機会が訪れたのでした。
「この、いい加減に……!」
カレンさんの粘りをなんとか振り切ろうと魔法を連発していたナツに、突如異変が訪れました。彼女の指先より間断なく放たれていた
それと同時に、彼女の体が大きくふらつきました。
「
魔法拳士とでも言えばいいのでしょうか、ナツは攻撃のほとんどを魔法の力を借りて行っていました。攻撃魔法や、
ナツの魔力量も驚嘆に値しますが、これだけ長いこと連続使用していれば、いずれは枯渇するはず。
カレンさんも初めからこれを想定して戦っていたわけではないでしょう。
しかし、決して勝負を諦めなかったその姿勢が、ついには、相手側に傾いていた天秤を、自身のほうへ大幅に引き戻すことに成功したのでした。
「ヤアアアアッ——!!」
カレンさんの目の前に、ついに大きく開かれた突破口――もちろん指を咥えてみるだけの彼女ではありません。自身の大剣をもう一度しっかりと握り直し、一転攻勢とばかりにナツへと斬りかかりました。
「うっ……こんな、もの」
最初の攻撃をなんとか回避したナツですが、その足元はふらふらでおぼついておらず、放っておいてもすぐにでも倒れそうな状態にまで追い込まれていました。
完全に立場が逆転したこの状況に、特別クラスの面々からも大きな声援が飛びました。
『頑張って——頑張ってカレンさん! 相手はもう虫の息ですわよ!』
「……んッ!!」
一際大きく飛んだハウラの応援に呼応するかのように、カレンさんがナツへと一気につまりました。
防御のために力なく突き出されたナツの腕へ、カレンさんが構わず一撃を叩きこみました。みしり、という骨の軋む音は、ナツの腕が再び使い物にならなくなった証でした。
「っ――針、雷」
「無駄よッ!」
最後の精神力を振り絞ったであろうナツの魔法を、カレンさんは避けずそのまま受けました。パチリ、とまるで静電気かと思うほどひ弱になったそれは、カレンさんの圧力を止めることは一切できませんでした。
「行けっ、行けっ——勝てっ、カレンさん!」
「――はいッ!!」
大剣を肩に担いで、大きく跳躍したカレンさん。
これで、とどめの一撃――。
「ナツ、勝負は私の勝ち——そして先生は、私のものだッ!」
「私の、負け……お兄ちゃんはカレンの……」
ナツの首元目がけて、カレンさんの斬撃が袈裟懸けに振り下ろされる瞬間。
抵抗することなく、剣が彼女自身へと吸い込まれるところを見つめていたナツの口元がほんのわずかに動きました。
「お兄ちゃん——」
と。そして続けて、
「いや——」
と。
すると、その刹那、思いもよらない展開が僕の目の前で起こりました。
「んなっ……!?」
そのことに一番最初に気付いたのはカレンさんでした。
それもそのはず、勝負を決めるはずの攻撃が、まるで空振りでもしたかのようにそのままナツの体を通り抜けてしまい。
そして、次の瞬間には、カレンさんは強く握りこんでいたはずの大剣をあっさりと手放していたのです。
「お兄ちゃんは私のモノ—―どんなことをしてでも絶対に誰にも渡さない」
「! あぐっ……!??」
カレンさんの顎を、拳一閃で的確に射抜いていたのは、全身を青白い電光包み込んだ——いや、まるで自身が電光それ自体となっているナツその人でした。
「そ、んな――――」
不意打ちに放たれたナツからのカウンターを受けたカレンさんは、そのまま意識を失うようにして、手放した自身の大剣とほぼ同時に地面に叩きつけられました。
巻きあがる土埃の中、その場に立っていたのはカレンさんではなく、なんとナツだったのです。
誰もが、そう、僕ですら予想していなかった最後の最後で起こったどんでん返しに、周囲はただ黙ることしかできませんでした。
しかし、一人だけ。
その状況に嘆息しながら、何事かを呟いていた金髪金眼の【
「精霊化——だから、『力』は使うなとあれだけ言っただろうに……」
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