6 放課後の指導でくっころされる女騎士がかわいすぎる件


 特別クラスの教室と直接つながっている担任講師専用の資料室で、僕はその時を今か今かと待ちわびていました。


 授業用である資料や辞書、図鑑を整理しある程度のスペースは予め確保してありました。決してお世辞にも広いとは言えませんが、二人で使う分には特に問題はありません。むしろ、お互いの距離が近くなるので逆にいい感じかも。


「しっ……失礼しましゅすっ!」


 噛み噛みな声とともに扉の向こう側がノックされました。伝えておいた約束の時間五分前の到着——これから何をされるかわかったものでもないのに、律儀というか真面目というか。


「どうぞカレンさん。ちょっと狭いかもしれないけど」


 誰にも見られていないことを確認してからこっそりと部屋ぼくのしろの中に入ったカレンさんでしたが、その表情はどこか落ち着いていませんでした。


「どうしたの? もしかして、そんなに僕の『罰』に期待しちゃってる?」


「ち、ちちち違いますっ! これからどんな罰を受けるのか怖いだけです!」


 まだ発展途上の膨らみを守るようにして、カレンさんはできるだけ僕から距離をとるように後ずさりました。もし何かあったらすぐにでも逃げられているように備えているのでしょうが――。すでにカレンさんが入室した瞬間に結界魔法が発動しているため、僕が解除しなければ外に出ることはできません。


 全ての物音もシャットダウンしているうえ、人払いの魔術もかけている——となれば、後は心ゆくまでカレンさんを『指導』するだけです。


「無理矢理襲ったりなんてしないから大丈夫だよ。確かにカレンさん——君は何歳の状態でも魅力的な女性だけど、今は生徒と先生だし。一線だけは超えないよう気をつけるから」


「じゃあその『一線は越えないけどそれ以外ならなんでもやる』っていう邪悪な顔を浮かべるのを今すぐやめてください!」


 それは出来ない相談です。


 だって、これからのことを想像するとワクワクしてしょうがないんですもの。


「いや、本当に大丈夫だって。この時間にカレンさんに来てもらったのは『あること』に協力してもらうためだよ」


 言って、僕は、部屋の片隅にあるキャンバス——それを覆っている白い布を取り払った。


「僕が趣味でやっている絵のモデルになってもらう——それが今回の内容」


「え……?」


 その言葉を聞いたカレンさんが拍子抜けした様子で部屋の中をきょろきょろと見回していました。


 放課後、二人きり、そしてクラスのみんなに気付かれないところで——十四歳といえばもう年頃も年頃ですから、想像をしてしまうのは致し方ありません。


 まあ、当たらずとも遠からずではあるんですが――本当の目的を教えるのはもう少しあとです。


「一目見た時から思ってたんだ——今のカレンさんの姿を何らかの形で残しておきたいってね」


「それで『絵』ですか?」


 僕は頷きました。


「下手の横好きだけどね」


 最近は仕事ばかりでほとんど出来ていませんが、実は絵を描いたり小説を書いたりというのは結構好きだったりします。いつぞやの時、カレンさんに自作のエッチな小説を朗読させたりということもありましたが、それは趣味が高じた結果でもあります。


「変かな? 騎士のくせに剣を握るより絵筆を握るほうが好きなんて」


 騎士のくせしてなんてなよなよした趣味を——と思われることが多いですが、カレンさんはしっかりと首を振ってくれました。


「いえそんなことは——むしろそっちのほうが先生にはお似合いだと思いますよ?」


 入室直後には怯えのあったカレンさん——ですが、これまでの二言三言のやり取りで安堵しきってくれたようで笑顔さえ見せてくれるようになっていました。


 カレンさん、十四歳になってもやっぱりちょろいです。


「じゃあ時間も遅くなってきたし、夕日が沈む前に早速始めようか。カレンさん、僕の『罰』、もちろん受けてくれるよね?」


「……わかりました。先生がそこまでお願いするのなら仕方ないです」


「本当に? 本当に大丈夫?」


「しつこいですよ先生。私とて騎士のはしくれ——騎士に二言はありません」


 よし、言質とった。これで僕も心置きなくやれるというものです。ふふ。


「えっと、私はこれからどうすればいいのですか? ここに座れば? ポーズはどのように?」


 早速カレンさんが手近にあった椅子に座りました。色々を体勢を変えながら僕の指示を仰ぐその姿はすっかりモデル気分のようでしたが、


「――ねえカレンさん、どうしてそんな鎧姿のまま座っているの?」


「え?」


 次に発せられた僕の問いに、思考の追いつかないカレンさんは目をぱちくりとさせるしかできません。


「いや、今の姿のカレンさんなんてわざわざ絵にしなくても十分でしょう? いつも見てるし。そうじゃなくて、僕がやりたいのは、普段のカレンさんが絶対に見せない姿や顔を絵にすること——これだけです」


「え?」


「ということでカレンさん、今からこれに着替えて? どんなポーズをとってもらうかはその都度指示を出すから」


「え? え?」


 訳も分からず僕の鞄から取り出された『衣服』を押し付けられたカレンさんは、その服の正体を捉えた瞬間、ギギギ、と首だけ器用に僕のほうへ回しました。


「あ、あの、先生これは……?」


「ああ、それ? 見てのとおりのメイド服だけど?」


「メっ……!?」


 僕がカレンさんに渡したのは、スカート丈のちょっと短いフリル付きのもの。ちょっと露出度は高い気もしますが、王都では良く見かけるタイプのものです。むしろ標準的といっていいでしょう。カレンさん基準では、十分エッチな部類に入るみたいですが。


「なななななななんで私がこんな恥ずかしい格好、こんなんじゃ膝小僧が見え、みえみえみえ」


「着たくない? あれ、おかしいな。カレンさん、さっき僕の『罰』を受ける、ってそう言ってくれたじゃないか。騎士に二言はない——その言葉は嘘だったの?」


「そ、それは――」


 確かに僕は最初、カレンさんに対して絵のモデルになって欲しい、とは言いました。ですが、それが今日の『罰』の内容であるとは言っていません。そう勘違いするように誘導したのは事実ですが。


「さ、これからが本当の『罰』の始まりだよ。生徒である『部下』にとって先生である『上司』の命令は絶対――人の話を聞かないカレンさんへ、それをこれから『指導』してあげますからね?」


「う……」


 顔を真っ赤にして俯くカレンさん——ですが、本当に面白いのはここからなのでした。


 × × ×


「あ、あの、ううう……こんな、こんな感じでしょうか?」


 その後、そのまま僕に押し切られてしまったカレンさんは、耳まで真赤に染まりながらも、かわいいメイドさんの格好を僕に見せてくれました。


 あまり短いスカートをはき慣れていないのか、しきりにスカートの裾を抑えているカレンさん——うん、なかなか素晴らしい構図です。


「いいね。それじゃあそのまま床にへたり込んで——おねだりするような上目遣いで僕のほうを見て」


「ふえっ——!?」


 僕のさらなる要求に目を丸くするカレンさん。本来はやりたくなんてないでしょうがこれも『罰』。であれば従うしかありません。


「う~ん、なんかイマイチ雰囲気が出ないな——あ、そうだこうしよう。今から僕がいうセリフを言ってみて。さ、後から僕に続いて——『お願いです、ご主人様。この卑しいメイドにもっともっとお仕置きをしてくだ——ぶへらっ!?」


「そっ、そんなこと言えるわけないじゃないですか、このバカっ! 変態教師っ!」


 僕がセリフを言い終わる直前、カレンさんが僕の顔を目がけて思い切り絵具の入った小さなガラス瓶を投げつけてきました。絵具の赤によってあっという間に血だらけの男みたいな状況になりましたが、それを気にする僕ではありません。


「ダメじゃないですか抵抗しちゃ。ほら、もう一回。これじゃあ罰になりませんよ?」


「くっ……うう、もういっそ私をころして……!!」


 羞恥で全身を火照らせるカレンさんの姿を切り取るように、僕は逐一ポーズとセリフを指示しつつ、自分でも驚くほどの筆の速さでカレンさんを描写していきます。


 二枚、三枚、そして四枚——次々と仕上がっていくキャンバスには、普段では絶対に見られないカレンさん(十四歳)が余すことなく絵の中に納まっていました。


「――ふう、まあこんなところかな」


 そうして何枚目かのカレンさんを描き終えたところで、ようやく僕は一息つきました。


 集中していたせいで気づきませんでしたが、夕日はいつの間にか地平線の向こうへと姿を消しており、徐々に夜の闇が迫ってきているようでした。


「カレンさん、お疲れ様。今日はもう暗いからこれでおしまいにしておこう」


「は、はひ……」


 慣れないポーズを何度も繰り返したカレンさんもそれを聞いてぐったりと倒れこみました。普段鍛錬では使わない箇所をたくさん酷使した分、おそらく明日はなんらかの筋肉痛が彼女を襲うことになるでしょう。


「それで、カレンさん……一応、聞いておくけど、これからはどうする?」


「……次からはしっかりと先生の言うことも聞きますし、委員長ハウラとか、他の子たちの忠告にも耳を傾けようと思います——ごめんさない」

 

 その言葉が聞ければ後のことは問題ないでしょう。ハウラを筆頭として他の子たちも基本的にはいい子たちばかりなので、これでカレンさんが孤立することはないだろうと思います。


「それであの……先生に一つ聞きたいことがあるんですが……」


 カレンさんの視線が、僕の書いたメイドカレンさんへと移りました。


「メイドカレンさんの絵のこと? ああ、それは――」


 絵に収まった様々なカレンさんを見、僕は彼女へこう返しました。


「優秀作として勝手に校内の目立つところに掲示しようかと思って――って、ちょっとカレンさん! 僕の最高傑作に剣を振り下ろして真っ二つにするのは今すぐやめて!?」


「離して、離してくださいっ! こんな作品モノ、今すぐ私がぶった切ってやるっ!!」


 こうして、メイドカレンさん(絵)を巡る僕とカレンさんの攻防は、結局夜遅くまで続くこととなったのでした。


 ちなみに翌日、描いた絵を結局はクラスの後方の壁に掲示したのですが、それについては朝登校してきたカレンさんに一枚残らずズタボロにされたのは言うまでもありませんでした。

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