13 ちょっとディープな話に赤面&鼻血ビューな女騎士がかわいすぎる件
「――そいつは、奴隷商人」
別行動中にあったことについて打ち明けると、まず口を開いたのはゼナでした。
現在、隊長部屋にいるのは僕とカレンさん、それにエナとゼナの四人。カレンさんについては、今回ばかりは部外者ということで扱い席を外してもらおうとしたのですが『はいはいどうせ私は年増の邪魔者ですよ……』といじけてしまったので、ひとまずは知恵を貸してもらうこととなりました。
「奴隷商――人身売買ってことね。じゃあもしかして馬車の中の品物っていうのは……」
「ああ、人間だよ。そして中身は全部男――これからこの国の奴隷になってもらうために、あのバケモノみたいな化粧した女から買ったものだ」
僕の問いに答えてくれたのエナでした。リーリャを始めとしたこの国を取り巻く事情について詳しく教えてほしいという僕のお願いに、最初のうちは戸惑いを見せていた彼女でしたが、その後のゼナの説得もあり、一応は協力的な立場をとってくれたようです。
「ねえ、隊長。この国で暮らし始めてからほんの少しだけど、何かに気付かなかった?」
「ん、っとそうだな……女性の数が圧倒的に多いなっていうのは感じていたけど……それこそ年配の方から子供まで」
エナの問いに対し、僕は共和国に入ってからのことを少しずつ思い出していきました。老婆、少女、それから幼女――それから、奴隷と思しき成人の男性――。
と、ここで僕は一つのことに気付きました。
「……男の子がいないね」
今まであまり気に留めてはいなかったですが、この国には少年と呼べる年のころの男の子を、僕は一度も目にしたことがなかったのです。小さな女の子は、いっぱいいるにも関わらず、です。
「そう……共和国の女から産まれる子供は、みんな女。共和国で産まれた男の子、いない」
「……これまでの歴史で、誰一人として、ってこと?」
ん、とゼナが頷きました。
「体質なのかそれとも呪いなのか――その理由はわからないけどね」
エナの話によると、少し前の時代まではその状況をなんとか打破し、自分達の力だけでなんとかできないかと試行錯誤(ちょっと生々しい話なども含む)を繰り返したみたいですが、結局その原因を究明することはできずじまいだったとか。
「いないのならば、余所からとってくればいい――つまり、この国で働いている奴隷の人達は……」
「そうだよ。いずれ私たちが身ごもるための、種になる人間達だ。私やゼナも、戦士として戦えなくなったら、その中から適当に見繕って――ってわけ。私も、ゼナも、そうやってこの国に産まれて育ったし、私たちの親がやったことと同じように、いずれは私たちも子を育てていく」
まるで未来が確定しているような口ぶりでエナは言いました。
おそらく、それこそがこの国に住む人間として果たすべき義務――掟ということなのでしょう。
共和国は特に人口が少ない国ですし、出生する子供の性別が限定されてしまうのような特殊な状況であれば、そういう選択をせざるを得ないのも理解できます。
と、ここで、僕の隣でやたらと息が荒くしている方が。
「どうしたんですか、カレンさん? なんだか物凄く顔が赤いですけれど――」
「いや、大丈夫だ。問題ない。それぞれの国の種の繁栄、その文化に口を出すつもりは毛頭ないので黙って聞いていたが……初めて聞くような話も多くて私にはどうやら刺激が――」
「ああ、より優秀な血を後世に残すために、何人もの種族の違う個体をあてがってみたり――同時に不特定多数と交わって、とかその辺ですか?」
「い、言わなくていいからっ! うぐっ……そ、想像しただけで鼻血が――」
部屋の中が純愛小説と縫いぐるみであふれかえっている純情乙女なカレンさんにとっては、確かにこれまでの話は刺激が強すぎるように思えます。僕だって平静を装ってはいますが、内心は結構ドキドキものだったりします。
「え? オバサン、この程度の話で興奮しちゃってるの? 情けないなあ……あ、もしかして処女だったりするわけ?」
「……天然記念物」
「しっ……失礼な! 私だって、経験ぐらいはしたことある! 本当だぞ!」
ちょっと前に一回だけですけどね。それも果たして経験と言っていいかどうかというレベルですけど。
「そういうお前らはどうなんだ? お前らこそ、ただの耳年増で実際は処女なんじゃないか?」
「そりゃそうだよ。私たちはまだ戦わなきゃいけないから、そういうのはまだ禁じられてるし」
「……ん」
共和国騎士団の少女達の年齢層から考えてもそうなるでしょう。徐々に力が落ちてきたところで、それまで担っていた役割を次代へと移す――いかんせん、そのサイクルが早すぎる気もしますが。
「やっぱりそうだ。ふふん! 未経験のお子ちゃまが、経験豊富なこの私を侮るなど百年早い――」
「でも、その場に同席して準備をしたり、最中の手伝いはいつもやってるからだいたいのことはわかるけど――」
「同席ッ!?? 準備ッ!??? 最中の手伝いッ!!????――」
どうやら完全にカレンさんの常識の範疇から外れたようで、カレンさんは耳から首筋にかけてまで真赤に染めて倒れ込んでしまいました。
どれほどのめくるめく世界がカレンさんの脳裏には浮かんでいるのか、『あへぇ~……』と言いながら気絶している彼女の鼻から垂れた鼻血がソファを紅に染めていました。後で掃除しなきゃ。
「えっと……とりあえず君達の国の置かれた状況っていうのはよくわかったよ。奴隷商人がこの国にいる理由もね」
ただ、それだけではリーリャがあそこまで男という人種を憎んでいる理由にはならないはずです。
戦いで錯乱状態となった際に、彼女が口走った『お父さん』という言葉。
それこそが、今回の任務を解決するための鍵になるはずですから。
「……わかった、話すよ、話す。ただ、私もリーリャ様から詳しい話を聞いているわけじゃないからね」
「――私も、私が知っていること、できるだけ話す」
こうして、三人を囲んだ話し合いは夜が更けるまで続いたのですが――。
カレンさん、今日は鼻血を吹いただけで全然役に立たなかったな……。
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