14 ショタコンと噂された上、別に付き合ってもいないのに親から勝手に交際を断られた女騎士がかわいすぎる件


 盗賊団討伐の任務を全て終えた後、僕は、予定より少し早めにブラックホークへと戻りました。


 先の作戦行動中の独断専行の責任をとり、所属元での再教育を徹底させる——というのが表向きの理由ですが。


 実際は、もっと単純なことだったりします。


「あの、隊長?」


「……なんだ?」


「注文していた備品がそろそろ届くので、受け取りにいきたいんですけど」


「ダメだ。受け取りなら別の者に行かせるから、お前は持ち場を離れるな」


 いつものように二人きりとなった隊長室では、カレンさんがペンを走らせる音だけが響いていました。書いているのは始末書——部下である僕への監督不行き届きに対するものでした。


「お前はいつも私の目を離した隙に厄介ごとに巻き込まれて、それで自らの身を危険に晒すからな。再教育もかねて——その……お前はしばらく私の傍を離れちゃ駄目なんだからな」

 

 言って、カレンさんは僕の腕を強引に掴まえて、僕が一人でどこかに行かないよう行動を封じました。


 そうです——今回、わざわざ他部隊研修の日程の終了を僕だけ前倒しにしたのは、カレンさんがそのことを強く希望したからに他ならなかったからです。


 理由は——まあ、聞かなくてもわかります。あれだけのこともありましたし『同じ隊の仲間なんだからそれぐらい当然だ』なんて、カレンさんは否定してましたけど。真っ赤な顔して。


 ただ、『再教育を徹底する』というお題目があったとしても、まさかここまで束縛が強くなるとは思いませんでした。


 ここ最近は、朝、昼、夕、そして夜中——と、だいたい僕の行くところにはカレンさんがいることがほとんどで、ひどい時には僕の住む騎士隊舎まで付き添おうとするほどです。


 ちなみに、今はトイレに一人で行くのにも報告が必要だったりします。


 カレンさんにそうさせることとなった原因は、あの事件で、僕のことを連れ去ろうと画策した女魔術師のアンリさんが作っていました。


 騎士団で調査をかけてもその素性が未だ知れないアンリさんとのことは、カレンさんには包み隠すことなく報告をしていました。


 魔眼という特殊体質の持ち主であること。僕のことを『お気に入り』にして自らの傍においておこうと僕を連れ去ろうとしたこと——そして、まだそのことを決して諦めていないこと。


 カレンさんは多分そのことで必要以上に神経質になっているのだと思われます。転移ワープを使い神出鬼没的に僕のもとに現れ、そしてそのまま音もなく連れ去っていく――そんなシナリオを想定しているのでしょう。


「ん――そろそろ昼か。よし、そろそろ食事休憩をとるぞ。ハル、お前もついてこい」


 午前の事務仕事を終えたところで、カレンさんは僕の腕をとったまま隊長室を出ました。僕が何を言おうと聞いちゃくれません。問答無用です。


 もちろん、カレンさんといつも一緒にいれることは嬉しいです。それだけ、

カレンさんの中で僕の存在が大きいわけですから。


 でも、さすがにここまで過保護にされると——今度は別の問題も出てくるわけで。


 それについては、これから行く嫌というほど聞くことになります。

 

 × × ×


『――おい、来たぞ』


『またかよ。よくもまああれだけ一緒にいて飽きないもんだ』


 カレンさんに手を引かれ、同業たちがごった返す昼の食堂に僕が足を踏み入れると、ほんの一瞬、彼らの注目が、僕やカレンさんに注がれました。


 実は今、近衛騎士団の間で、『ブラックホークの新入りと、泣く子も黙る女隊長が付き合っているのではないか』という噂で持ち切りとなっており、それが理由で少々肩身が狭い思いをしていたのです。


【未だ独身の孤高の女騎士に、ついに訪れた春の息吹!】だの【上司という立場を最大限濫用して手に入れた奴隷!】などというタイトルを銘打って、騎士団全体に広がっていました。まあ、それだけカレンさんに今までほとんど男の陰がなかったという何よりの証拠なわけなのですが。

 

 ある日を境にして急に四六時中一緒にいれば、そんな根も葉もない噂もたつわけで。


「あの、隊長——」


「……き、気にするな、と言っているだろう。野次馬共は、お前が狙われていることを知らないからのんきなことを言っていられるんだ」


 その割にはカレンさんも結構気まずい顔をしているのは僕の気のせいでしょうか。


 というか、確かにアンリさんは何を考えているかわからないところはありますが、全隊員がいる騎士団のど真ん中にわざわざ乗り込むようなことはしないと思います。


 ですが、もちろん、彼女には『魔眼』という特殊体質があるので、まだまだ僕達の知らない固有の魔法や異能スキルを持ち合わせている可能性もあり、確実とも言い切れないのですけど。


「アンリとかいう女狐……貴様なんかに私のハ—―私の部下をそうやすやすと渡すものか……(ブツブツ)」


 言い間違いでしょうか。先程カレンさんが『私のハル』と言いかけた気がするのですが。追及したいですが、さすがにこの場所でそんなイチャコラを繰り広げるわけにはいきません。


「おばちゃん、特盛A定食を二つだ。ハル、お前もそれでいいな? お前にはもっとたくさん食べてもらって、体を強く、大きくしてもらわないといかんからな。私がいなくても、いずれは大丈夫なように」

 

 お昼は基本的に小食気味だった僕ですが、カレンさんが傍にいてからというもの、食事の世話まで焼かれる始末です。これでは、恋人、というよりは母親とかお姉ちゃんという関係性に近いかもしれません。


 大皿にまるで山のようにてんこ盛りにされた麺類やサラダ——それを幾度となくリバースしそうになりながらも必死に胃の中に詰め込んでいると、


「ハル君――食事中にすまないが、ちょっと構わないか?」


 と、背後より声をかけられました。


「んぐ——? って、総隊長……?」


「久しぶりだな。といってもあの時からそれほど経っているわけでもないが」


 僕の後ろで仁王立ちのようにしていたのは、ホワイトクロスの総隊長であり、また、カレンさんの父親でもあるガーレスさんでした。


 事件以来それっきりでしたので、こうして直接話すのも久しぶりに感じます。


「あの、総隊長——研修の際はご迷惑をかけまして申し訳ございませんでした」


「気にするな。確かに、君の無茶のおかげで多少は隊全体が慌てた部分があったが、結果的には本体に怪我人一つなく無事終えることができたのだからな」


 普通なら独断専行=命令違反のようなものですから、普通なら謹慎や休職、下手したら免職という可能性までありましたが、特にそういったことなくブラックホークに戻れたのは、総隊長の口利きもあったからです。


 その点については、感謝しなければなりません。


「ところで……総隊長――私たちに何か御用ですか?」


 かしこまった様子のカレンさんが、すぐさま食事を中断し、敬礼の姿勢をとります。親子ですが、ここ近衛騎士団では上司と部下です。

 

「いや、カレン分隊長、今回の用は君にではない。話があるのは、君の隣にいる——」


 と、総隊長のぎらりとした眼光がこちらを向きました。


「――僕、ですか?」


 なんとなくそんな予感はしていました。


 根も葉もない——いや、よくよく考えればあるのかもしれないですけど、騎士団内に広がっている噂の内容を考えれば当然のことです。そりゃあ呼び出されますよ、と。


「ああ——本来ならこういうところではなく、きちんと自宅にでも招いてしなければならない話なのだが……こういう身分だ。なかなか忙しくてな。食事の時間を削ってしまいすまないが、今からウチの隊長室に来てもらおうか」


 僕は無言で頷き、踵を返した隊長の後をついていきます。

 

 周辺では、ついに父親が登場か――と、興味がすでに最大値マックスを振り切られ、もうこれでもかと好奇の目が僕の背中に注がれます。


「ハル……」


 娘であるカレンさんも、ある程度察しているのかさすがに追いかけてくることはありませんでした。ほんの少し、不安な表情でこちらを見つめてくるだけです。

 

「大丈夫です、隊長。お昼休みの間だけですから、すぐ戻ってきますよ」


「ああ、それについては心配していないが……」

 

 言いたいことはそんなことじゃない、でしょう? わかりますよ。そんなことはもちろん。


 でも、やっぱり心配しなくてもいいですよ。


(僕は、今の正直な気持ちを口にするだけですから)


 普段よりも冷たい雰囲気を纏わせるガーレス総隊長へ向けて、僕は心の中でそう呼びかけました。


 × × ×

 

 昼休みだけあって、ホワイトクロスの詰め所には誰一人としていません。話によると、正午から約一時間は完全に仕事を休ませるとのこと。

 

 ということで、もちろんマルベリやサクミカさんもいません。


「適当にかけてくれて構わないぞ。仕事の話ではないからな」


「……それでは、お言葉に甘えて」


 口ではそう言いつつも、体はガチガチに緊張しています。

 

 これから僕は、『父親』であるガーレスさんに対して、とある宣言をするつもりなのです。


 緊張しないわけがありません。


「さて、と。まあどんな話になるのかは……頭のいい君だ、なんとなく察しがついているだろう。ということで、単刀直入に聞こうか」


「はい——お父さん」


 僕の返事に、ガーレスさんは、ふっ、と口元にわずかに笑みを作りました。


「ハル君、君はカレン—―私の娘のことをどう思っている?」


「好きです」


 間をあけることなく、僕はガーレスさんへまず一言。そして、さらに続けます。


「こういった状態でお伝えすることとなったことを、まずは謝罪させてください。僕のほうこそ、きちんとした形でお伝えしたかったのですが――今はただの片思いですので」


「片思い……ということは、まだ正式にカレンへ交際を申し込んだわけではないわけか」


「入隊当初に一度したのですが、その時はあっさり断られまして」


「そうだったのか? ちょうど君がブラックホークに入った時期に、妙にカレンの顔がニヤニヤとしていて気持ち悪かった記憶があったものだからてっきりすでにそういう関係だと勘違いしていたよ」


 やはりカレンさんも満更ではなかったようです。じゃあ断るなよ、と言いたくもなりますが、あの時の告白は唐突すぎた自覚もありますので、仕方がない気もしますが。

 

 というか、カレンさんのウキウキ顔……見てみたかったです。絶対かわいかったはずですから。


「わかった。聞きたかったのは、それだけだ。ハル君、もうカレンのところに戻ってもいいぞ」


「え? あ、はあ……」


 娘の将来を憂い、わざわざお見合いをセッティングするぐらいの人ですから、もう少し追及があるかも……身構えていましたが、意外とあっけなく終わってしまい何だか肩透かしをくらった気分になりました。


 ガーレスさんの今回の目的が、単なる噂の事実確認だけだとすると、僕の気持ちまで言ってしまうのはやり過ぎだったかも――。


 と、そう思いつつ部屋から出る間際。


「あ、そうそうハル君。君に一つ言い忘れていたことがあったよ」


「?」


 ドアが閉まるか閉まらないかのタイミングで僕が振り向くと、総隊長は、それまでと同じような穏やかな口調で、こういいました。


「カレンからは手を引け。以上だ」


「え……?」


 バタン、と扉が閉まると同時、休憩の終わりを告げる鐘の音が響き渡りました。


「あの、総隊長――それはどういう意味で」


 別れ際、不意打ち気味に発せられた父親からの拒否の意志について聞き返そうとした僕でしたが――。


「――あら、ハル? こんなところで何をしていますの?」


 マルベリ他、ホワイトクロスの隊員が昼食を終え、ちょうど詰め所に戻ってきたところにかち合ってしまいました。ああ、もう何て悪いタイミングなのでしょうか。


「いや、別になんでもないよ。お昼を総隊長とご一緒しただけだから。じゃあね、マルベリ。お昼からも仕事頑張って」


「あ、ちょっと待ちなさいなハル――あなた様子が変……って、こらお待ちなさい!」


 足早にホワイトクロスを後にする僕に向けて、マルベリが何事か言っているようでしたが、今の僕にはそれを気に掛けるほどの余裕はありませんでした。


(総隊長のあの言い方は、まずいな)


 優しい口調ではあったものの、有無を言わさず『手を引け』と言ってくるあたり、総隊長の先ほどの言葉がまぎれもない本心であることがうかがえます。


 ある程度いい印象を与えられていたと思っていた矢先でしたので、さすがに狼狽を隠しきることができませんでした。マルベリに指摘を受けるくらいですから、それはもうわかりやすい様子だったのでしょう。


「……ようやく戻って来たねハル君。ちょっとこっちに来てくれないかな?」


 どんな話があったのかについてカレンさんに気付かれないよう、しっかり深呼吸を入れてから食堂に戻ると、カレンさんの隣に、仕事着である白衣型の魔法衣ローブを着たマドレーヌさんがいました。


 いつもならもう少しフランクな感じで話しかけてくれるマドレーヌさんですが、今日にいたっては真面目な表情と口調です。それに、手になにやら重要そうな書類を持っていらっしゃいますし。


「マドレーヌさん……こんなところでどうしたんですか? 普段、ここの食堂なんて使わないはずなのに」


「ああ――本当は総隊長から他言無用と言われていたんだけどね。それじゃああまりにもフェアじゃないから、私の口で、二人にきちんと説明させてもらおうと思って」


「フェアじゃないって、一体どういうことですか? まるで全部知っているふうな口のきき方ですけど」


「それはもちろん知っているさ。だって、総隊長殿に『決断』をさせるに至った情報を提供したのは、他ならぬ私なんだから」


 言って、マドレーヌさんは、僕と、そして親友であるカレンさんに数枚つづりからなる書類を手渡しました。


「なあ、マドレーヌ。いい加減話が見えないんだが……いったいどういうことなのか教えてくれないか?」


「――簡単なことよ。ハル君は、今しがた、アンタの父親であるガーレス総隊長に『娘との交際は認めない』って言われたところなのよ」


「ふえっ!? わ、わわわ私たちは別に付き合っているわけじゃ――っていうかお父さん、なんで勝手に拒否してるんだ!?」


 自分の預かり知らぬところで話がどんどん進行しているため、カレンさんの思考が追いついてこない様子でした。


「まあまあ、詳しい話については、カレン――アンタのとこいってからだね。ハル君も、それでいいね?」


 × × ×


 ブラックホーク詰め所の隊長室に戻った僕とカレンさんに、マドレーヌさんは、ほんの少しの沈黙の後、ゆっくりと話し始めました。


「――それじゃあ二人とも、さっき私が渡した書類の方を見て」


 マドレーヌさんの指示に従って書類に目を落とした僕とカレンさんでしたが、そこにあったのは意外なものでした。


「え? これって――」


「……ハルの入隊時の履歴書だな。近衛騎士団に新規に配属された際の」

 

 近衛騎士団に配属される予定の騎士学校の生徒の資料は、基本的に学校側が全て作成することとなっているので、僕自身もどんなものが添付されているのは知りませんでしたが――。


「騎士学校時代三年間の成績、職業適正、所持スキルから普段の授業態度まで――結構事細かに書かれているんですね」


「まあな。配属される人間にあった役割や配置、それから育成のために必要かつ重要な資料だからな。まあ、その中でも図抜けた成績を修めていたお前だけは、それこそ各部隊長を含めた全員が欲しがったので話がまとまらず、結局はくじで配属先が決定されたがな」


「え……そんな理由だったんですか」


 カレンさんより初めて打ち明けられた僕のブラックホーク入隊秘話でした。


 っていうか、くじって。議論がまとまらなかったとはいえ、近衛騎士団、結構いい加減な決め方するなあ。


 それを引いてなければ、僕とカレンさんはこのような形で出会ってなかったということです。運命のいたずらというか、なんというか。


「思い出話はその辺にしておいて――カレン、ちょっとハル君の戸籍を見てくれない?」


「一応だが、さっき、ざっと目を通したぞ。……採用時にも確認したが、やはり特に問題があるようには見えないが。本籍地は王国領中部、内陸の農村で酪農を営む両親の間に今より十六年前に生まれる。兄弟はなし――典型的な一人っ子の家庭だな。裕福ではないが、貧困に喘いでいるわけでもない」


 カレンさんの言う通りです。僕は至って普通の家庭に生まれました。


 とくにこれといった、取り立てて特別なことはない、平凡な生活を営む――特に――


 ――あれ?


 瞬間、僕の思考に、自らもその原因が不明な混乱が生まれました。


「どうかした、ハル君? なにか都合の悪いことでも思い出したのかな?」


 違います。僕は何も都合の悪いことなど思い出していません。


 むしろ、僕の生まれに関して、こそが都合が悪いと感じていたのです。


 マドレーヌさんは僕のそんな戸惑いを見抜いたのか、苦い顔をしつつ、話をつづけました。


「ハル君――君は、自らが持つ能力に対して、出自があまりにも平凡すぎたんだよ。おかしいほどにね。総隊長は、まず初めにそこに違和感を抱いて、私に調査を依頼していたわけだ。戸籍上の父と母との親子関係がしっかりしているか、魔術的な素質のつながりを含めて、ね。カレンがらみで君に接触していたのは、そのためだ」


「なるほど。それで、やたらと僕に対して色々と協力的だったんですね」


 やはり、マドレーヌさんは油断のできない人です。カレンさんのお見合いを二人で見守っていたときなどに、ちゃっかりと髪の毛や皮膚片などを採取していたのでしょう。


「しかし、それだけでハルのことを疑うなどと――出自が平凡で、騎士としての能力に素質のない親からでも、何かのきっかけで優秀な人材が出てくることもあるだろう?」


「確かに、カレンの言う事も正しい。その可能性もゼロじゃない。でも、かぎりなくゼロに近いのも事実よ。だからこそ、今まで慎重に調べていたってわけ」


 王都を守護する最強の鉾と盾として機能しなければならない近衛騎士団の性質上、外部からも、そして内部からも、騎士団そのものが瓦解する可能性のある要素は排除する必要がある――。


「で、調査書の最後になるわけだけど――結果から言うと、総隊長の懸念は的中していたことになるわ」


 それぞれの資料を元に導き出された結論。


 ――ブラックホーク所属新人騎士、ハルの出自は全くの不明である。


「戸籍上の住所を訪ねてみたら、確かに両親は存在していたわ。君のことを気にする素振りもしていた。でも、本当にそれだけだったのよ――君の両親は、息子である君と生きてきたはずの十六年間の思い出を一切話すことができなかったのよ。もちろん、解析した結果、親子としてのつながりも皆無だったわ」


 僕が何も思い出せないわけだ。だって、ただそういう役割を演じるためだけに設定された『何か』でしかなかったのですから。思い出や記憶などあるはずもない。

 

 そこで、また新たな疑問の種が生まれます。


 なぜ、僕は、いったい何が目的がこの場にいるのでしょうか。騎士学校を抜群の成績で主席卒業し、何の疑問も持たずに王都の近衛騎士団に入り、普段は厳しくても僕のことを常に気にかけてくれるカレンさんや他の上司、マルベリやメイビィ、そしてエルルカ様といった同年代の仲間と助け合って日々の仕事を頑張っている――その目的は。


「――なあ、マドレーヌ。その……ハルは、私の部下は一体どうなるんだ? まさか、そのまま騎士団を追放されるとか――」


「それについては総隊長が否定していたわよ。カレンがらみで多少の問題行動はあるけれど、基本的に勤務態度は真面目だし、それに忠誠心だってある。実力も申し分なし。出自については、ただ親子関係が否定されただけ。解雇クビなんてありえないわよ。でも――」


「――交際となると話は別だ、ってことですよね?」


 マドレーヌさんが小さく首肯しました。


「まあ、ここから先については、総隊長の家庭の問題もあるから私がとやかく意見を言う立場じゃないけどね。ということで、これで私の話は終わりよ。ゴメンね、仕事の時間を邪魔しちゃって」


 僕の肩を軽くぽんぽんと叩き、そして最後にカレンさんの耳元で何事かを口にしてから、マドレーヌさんはいつものように手をひらひらとさせながら隊長室を後にしました。


「あの、隊長」


「……ん?」


「マドレーヌさんから、何と?」


「……教えない」


「……そうですか」


 気まずそうに目を伏せたカレンさんに、この時ばかりは僕もそれ以上何も言う事はできなかったのでした。

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