3 遠征先の宿で死ぬほど狼狽える女騎士がかわいすぎる件 (一つの布団で添い寝編)
怪我の治療という名目で、カレンさんの白い柔肌をばっちりと堪能した僕は、幸せ気分で自室へと向かっていきました。
混浴できればもっと最高ではありましたけれど、それについては、カレンさんに断固拒否され、結局はつまみ出されることとなりました。
しかし、もうすでに僕の脳内には、ばっちりとカレンさんの一糸まとわぬ姿が刻まれています。もしここでいきなり
とはいえ、今日はもうこれ以上何をする気も起きません。簡単な任務とはいえ、一人ですべてをこなすのは初めてでしたので、さすがに体の方は疲れているのか、なんとなく瞼が重くなってきているように感じました。
「――とりあえず、今日はもう寝ようかな」
部屋に入ると、お風呂に入っていた間に店主のお婆さんがやってくれたのか、すでに部屋の中央に寝床が作られていました。
真っ白なシーツの上に敷かれたふかふかの毛布――おそらくあの中に入ってしまったらあっという間に寝入ってしまうでしょう。この農村ではベッドより、このように床(正確には『タタミ』とかいうらしいですが)の上に直接敷くことが普通なんだそう。
僕は、そのまま何も言わずにそこへダイブしました。
「ふにゃ……今日はなんだかいい夢見れそう……だ」
暖かい感触に包まれながら、徐々に意識が薄れていきます。
ああ、なんて心地が良いのだろう。
こんな時、となりにカレンさんがいてくれたらどんなにいいだろうか、と僕は考えていました。
初めてと言っていいほど、まともに触れたカレンさんの肌。
凄まじい剣技を繰り出すその体からは想像もできないほど、女性的で、とても綺麗だった。
もっと、もっとカレンさんの近くに居たい。
せめて夢の中だけでもいいから――。
そんなことをボヤボヤと考えていると、ふと、僕の目の前にカレンさんの顔が現れました。
「あれ? カレンさんだ。へへ、夢の中でも出てきてくれるなんて、うれしいなあ」
眼前に差し出された頬を、僕はぺたぺたと触ります。普段はこんなこと、絶対に絶対に許されないのですが、これは夢です。僕が作り出した幻。
であれば、触ってもなんともないはずです。ですので、カレンさんの張りのある頬をこれでもかというぐらいに弄びます。掌でぺたぺたと手形をつけるように触ったり、時には、指でつんつんとつっついてみたり。
こんな時、カレンさんはいったい僕にどんな反応を示すでしょうか。普段なら『気安く触れるな馬鹿者!』と怒られるでしょうが、今、目の前にいるカレンさんんは幻であり、僕の理想のカレンさんです。なので『こぉらっ☆、私はお前のお母さんお姉さんじゃないんだぞっ、めっ!』とかいうリアクションを、たまには見せてほしいところ。
――しかし。
「ひっ……!? こ、こらハルっ、やめっ……!」
ですが、夢の中のカレンさん(幻)は、僕の予想とは少し違うリアクションを返してきてくれました。焦った様子で顔を真っ赤にしているのは同じですが、とくに優しく『めっ!』してくれるわけではなく、『来るなぁっ』とばかりに突っぱねてくるのです。
「そんなぁ、カレンさんひどいです。僕はもっとカレンさんと仲良くなりたいんですよ?」
「なっ、仲良くっ……だとっ……!? おまえ、この状況でなにを言っているんだバカぁっ!」
「ぐえっ!?」
ひときわ大きな声を上げたカレンさん(幻)が僕の鳩尾に思い切り蹴りを入れました。夢のくせに随分と痛いことをするなぁ――。
と思って……いた、のだけ――ど――――。
「あ、れ……?」
ここで、僕は正気を取り戻しました。
目を覚ました先にいたのは、自らの全身を守るようにして毛布にくるまっていたカレンさん。
「隊、長……なんで」
「なんで、お前が私の部屋にいるんだ!? ハルっ!」
え? なんで?
それはもちろん、ここが僕の部屋だからですが――。
「……あ」
と、ここで、あることに気付きます。
これ、前にもありましたね。
この直前にも、お風呂で、同じようなことが。
それは、どうやらカレンさんも気付いたようで。
「ババアっ! またしてもあのババアっ!? 私たちは仕事で! 任務で! ここに来てるというのにぃ~! 私たち二人をなんだと思っているんだあっ!?」
若い男女ですから、それはまあ、ねえ。
「とはいえ、さすがにもう深夜ですし。部屋を別にするのは無理ですよ」
「む……それはハルの言うとおりか」
「そうです。なので――」
僕は、カレンさんのほうを――正確には、一つしかない寝床のほうを指して。
「隊長、一緒に寝ましょう?」
「なぁ――――!?」
僕の一言に、カレンさんはびっくりするほど素早い動きで後方へと飛び上がりました。
「な、なななんあなんあなんあなななんあなんあなななんあなんあななんあなななんあなんあな…………何を言っているんだお前はああああああああ!??」
自らの貞操を守るようにして胸をかき抱くカレンさんは、すでにこれ以上ないというぐらい動揺し、瞳をぐるぐると回して混乱しています。
「隊長、もしかして、ダメ……ですか?」
「あ、ああああ当たり前だ馬鹿者ォっ!? けっ、結婚前の男女が同じ部屋で一夜を過ごすだけでも破廉恥極まりないのに、一緒の布団で抱きしめ合って寝るとかっ……かっ、考えるだけでもけしからんっ!!!」
別に一緒の寝床だからって、抱きしめ合う必要はないと思うんですが。
ただ、それを指摘してしまうとカレンさんが恥ずかしさで憤死してしまうかもしれないため、ひとまずその点はスルーすることにしました。
「でも、この部屋に予備は一切ないですよ? もちろん、二人のうちの一人はそのままそこらへんに寝転がれというのなら話は別ですけど」
「そ、それは……」
ですが、カレンさんにその考えはないはずです。この農村は深夜から早朝にかけてとくに冷え込むのです。そんなときに毛布もかぶらず寝てしまったら、明日の体調に差し障り、次の任務に支障が出てしまいます。
「良い仕事は健康体でなければ難しい――隊長がいつも僕達隊員に仰られていることです。隊長が自らそれを破るというのは、如何なものでしょう」
「うっ……」
「さ、隊長。こちらへ。風邪、引きますよ?」
「うぐぐっ……」
真ん中に陣取って小さく手招きする僕を、カレンさんは二度、三度とチラ見し、
「し……しょうがないな。こんな時間に苦情を言いにいくのもなんだし、今日はそういうことにしておくことに……する」
俯き加減でそう呟いて、カレンさんは、僕の待ち受ける寝床へいそいそと体を移動させてきました。
――ああ、かわいいよ、かわいいですよカレンさん。
口車にのって、あっという間に僕との添い寝に賛成してしまうカレンさんにじゅうきゅうさい――めっちゃちょろくてかわいいです。
その後、カレンさんと仲良く肩を並べて横になった僕はぐっすりと眠りにつくことができました。幸せなひと時だったと思います。
ちなみに、翌朝のカレンさんは、下瞼に墨でも塗っているかというほどのくまをつくっていました。
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