第3話「カナリア、閉ざされた生徒会室」
「…なるほどね。鈴之原には数年ぶりに戻ってきた、と」
「えぇ、母親の実家が鈴之原にあって、俺もちょうどよく高校があるって聞いたからここに入学してきたんです。ちょっと点数もギリギリだったので運がよかったとも言うんでしょうけど」
生徒会室で、朝陽の淹れてくれたお茶を飲みながら、義隆は自分の来歴を同級生より先に先輩達に説明する。
「それじゃあ畑中さんの事は知らないよねー」
「まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないか」
義隆の話を聞いて、岬も朝陽もお茶を飲みながら納得する。生徒会室の扉は鍵をかけられたままで、未だに開放されてはいないが、岬の先ほどまでの空気も氷解して、義隆も少し居心地がよくなってきていた。
「それで、その畑中三美さんって一体どんな人なんですか?」
興味本位という一点で義隆は二人の先輩に彼女の事を聞いた。しかし、そんな義隆の軽い気持ちが女子二人に通じるわけもなく、二人は義隆の軽はずみな一言に、たくらみ顔を浮かべて義隆を見る。
「ほ~う?そんなに彼女の事が気になるんだ~?」
「まぁ、同級生の同い年だし、気になるのも仕方ないわよねー」
「えっ、は…?」
意味深な言い回しで義隆に詰め寄る二人、そんな様子に落ち着いていた気分が急激に追い立てられ、どう切り抜けようかと防衛本能が急にスイッチをオンにした。
「で?どんなところが気になってるの?彼女、久しぶりに見たけど一層可愛くなっているし、引く手は多いと思うんだ~」
「あのっ、何か勘違いしてるみたいですけど俺はただ…」
先輩二人の思惑とは全く別の意味で焦る義隆に、勢い付いた岬がさらに言葉を重ねる。そして徐に義隆の前まで来て、彼の隣に座って見せる。
「まぁまぁそんなに焦らなくても。こうなったら私たちも赤の他人じゃないんだし、何なら私に相談してもいいわよ?」
いたずらっぽく小首を傾げて義隆に詰め寄る岬。表情が目まぐるしく変わる楽しそうな先輩の姿に、義隆は別の意味で焦りを募らせた。しかし、直ぐに首を振って岬に向き合って、やや冷酷に岬に返す。
「…あの、あまりからかう様ならさっきの約束、守りませんよ?」
「………それは、先輩である私に対しての脅迫という事でいいのかしら?」
殺意か何かを静かに背中にたぎらせて岬は義隆に問う。その気迫に完全に圧倒されていたが、その恐怖を抑えて尚、義隆は岬に返す。
「…はい」
静寂が僅かな時間の中を通り過ぎて、先に口を開いたのは渋い表情を浮かべた岬の方だった。自分の脅しに屈しない後輩、そして、自分が向けた脅迫を逆手に取られて自分への脅迫の材料になってしまったことに、完全にしてやられた気分だった。
「………うぅ~」
義隆を睨みつけていた岬は、急激に顔を赤くして目に涙を溜めて朝陽を見る。その様子を見ていた朝陽は、少し困ったように眉をひそめた。
「あーさーひー…もう私だめだよぉ~………」
「はいはい落ち着いて落ち着いてー、今のは完全に岬ちゃんの自業自得だからねー」
笑顔で岬を諫めた朝陽。半泣きで朝陽に助けを求める岬は、たたた…と朝陽に駆け寄っていって、そのまま膝立ちで朝陽の胸に顔を埋めた。状況が全く理解できない義隆は、何もできずにただ湯呑みのお茶を飲んで話が進むことを願うしかできなかった。
………
「…こほん。それで畑中三美さんの事なんだけど」
結局、岬が平常心に戻って義隆に話を切り出すまでおよそ5分。その間ずっと岬は朝陽の胸に顔を埋めていた。一方岬にすり寄られていた朝陽は、心なしか顔がつやつやしており、柔らかい笑顔もどこか満足げにも見えた。そして満足げな朝陽をよそに、岬は義隆に説明を始めた。
「…まぁ、真面目な話、鈴之原に住んでいる人ならどんなに市内の出来事に疎くても、名前や噂なら知っていると言っていいほどの有名人よ。畑中三美さん…新聞で取り上げられたときの通称は”カナリア”。歌と合唱に力を注いでいるこの鈴之原市で、彼女の名前はちょっとしたニュースになっていたのよ」
それは、義隆にはわからない点が多い話だった。
そもそもこの鈴之原市は、音楽・芸術を市が援助しており、こと音楽においては合唱や声楽に力を注いでいる。そして、この鈴之原市では、年に数回の合唱コンクールが催されており、特に秋に行われるコンクールは市内の中学・高校にとっては学校の威信を賭けたコンクールとして毎年多くの観客を寄せる一大イベントになっている。
「私たちも、北部瀧中学校っていう中学で合唱部として3年間出場してたのよ。ちなみに朝陽も同じ学校で、同じ合唱部」
「はーい」
岬の話に手を振ってこたえる朝陽。そして岬は話を続ける。
「それでね、私たちの北部瀧中も中学では1,2を争う程で、トップ常連だった鈴之原学園中等部ともいい勝負をしてたの………あの秋の一回を除いては、ね」
意味深な表情で含みを持たせる岬。そもそも話の本懐がそういう所ではないことを思い出して、義隆はその話が自分の隣の席の彼女に近づいていることを無意識に感じていた。
「私たちの卒業前の最後のコンクール、3年前の11月コンクールの時、ほとんどの人達の予想では私たちの北部瀧中、鈴之原学園中、そして南三善中っていう常連が評判だったんだけど、自由曲の後に歌うことになった課題曲で衝撃が走ったのよ」
「衝撃?」
その一言に、義隆は一気に興味をそそられて、岬の話にのめり込み始める。そんな義隆の様子に少し興が乗ってきた岬は、楽しさ以外にも、ちょっとだけ複雑そうな気持ちも含めて話を続けた。
「その年の課題曲には、一人だけが歌うソロパート部分があったんだけど…常連だった中学のどれでもない…その年まで全く噂にもならなかった白秋中学の合唱部のソロパートを、まだ1年生だった生徒が担当したことで、秋のコンクールに大番狂わせが起きちゃってね。結果、その年の最優秀賞は白秋中学、その後に瀧中、トップ候補だった鈴之原学園が実質3位に落ち着くっていう予想だにしない結果になっちゃったの」
「それはまた、さぞ驚いたでしょうね」
「それで、その白秋中学でソロパートを歌った、当時1年生だった女の子っていうのが………その”カナリア”こと畑中三美さんよ」
鈴之原という土地の音楽観から、中学の合唱コンクール、そしてすべてを纏めて畑中三美というクラスメイトまでの説明を掻い摘んでしてくれた岬に、義隆は大体の事情を理解した。
「そんな一大イベントがあったもので、白秋中学は一躍合唱コンクールの常連に。そして三美さんはコンクールの今までの伝統に一石を投じた噂の人物として広まっていったのよ」
「なるほど…そういえば教室にカメラや記者みたいな人たちが来ていたけど」
「まぁ十中八九、三美さん目当てでしょうね。一応生徒会も先生たちも式典中のそういう行為は固くお断りしてたけど…さすがに教室はどうしようもなかったか」
岬の説明を一通り聞いて、義隆は入学式から今までの教室をめぐる事情の理由を理解した。後ろに集っていたカメラやメモを携えたのは、三美の高校入学を聞きつけて駆け付けた地元のメディア。クラスメイトのざわつきはそんな三美についての話だという事だ。
「…ん?でもちょっと待った。そんな歌がすごい人がどうして一般クラスに?」
「お、気づいたわね。まぁ、今の話だけ聞けばあなたもそう思うわよね?ここは鈴之原高校。そして、あなたもクラスEの事は知ってるのね?」
「はい。クラスAからクラスDまでは、少しずつ中身は違うけど一般クラスという事になってて、それとは全く別に音楽専攻のクラスEがあるっていう事くらいは」
「よくできました」
鈴之原高校は全学年が5つのクラスに分けられている。主に大学への進学を念頭に置いた完全な一般クラスのクラスAから、就職・技能・情報処理などの分野ごとに分けられるBからDまでの3つのクラス。そして、この鈴之原高校の最大の特色であり、クラスのほぼ全員が合唱部に所属するという特殊な学級であるクラスEという5つのクラスで構成されている。
「そう、合唱を担当するクラスEがあるのに、そんな類まれな能力を持った三美さんは義隆君と同じクラスに在籍しているの」
「それはまたどうして…そんな人なら…」
「まぁそうなんだけどね…実はさっきの合唱コンクールの話って、実は続きがあるのよ」
岬は、少し気まずそうにその先の話を続ける。
「白秋中学が、一躍鈴之原市のスターになったのは良いんだけど、その翌年以降、三美さんは合唱コンクールに姿を現さなかったのよ。そして三美さんの出なかった白秋中学は鳴かず飛ばずで、結局それからは白秋中学が上位に上がることはなかったの。それで、合唱コンクールの事情を知っている写真屋さんとかに話を聞いたら、あの秋のコンクールを期に、三美さんは合唱部を辞めちゃってたらしいのよね」
「辞めた…?」
義隆の一言に、岬が無言でうなずく。
「それからはずっと噂ばっかりが舞い込んできててね。白秋中学も部外者の立ち入りは厳粛に禁止してたし、かといって三美さんの家に押し掛ける事も出来ず。結局あの幻の一件以来、誰も三美さんの事は知らずじまいってこと」
「…そうですか」
岬の説明に、納得しながらも残念そうに返す義隆。歌で人を賑わせた彼女が、どういう理由で自分と同じクラスに居て、ああやって本を読んでいたのか、自分の隣の席で、あの彼女はどんなことを思っていたのか。義隆は、岬の説明を聞いて、岬たちが思っていた方の興味が自分の奥底から零れ始めていたのを感じた。
「さて、これであなたも用済みで、ここからは私たちの好きに出来るわけだけど…」
「何言ってんすか」
気持ちを切り替えるように胸元でパンと手を叩く岬。そして彼女が発した物騒な一言に、嫌な予感を感じずにはいられない義隆は、座っている椅子に手をかけてその場を立ち去ろうとする。
「とあっっ!!」
「ひいっ!!」
逃げる獲物と追う獣の姿勢でにらみあってた岬と義隆。そしてすぐさま岬が飛び掛かろうとして、反射的に義隆は席を離れて出入り口の扉に手をかけた。しかし
ガチャガチャ…!!
「な、開かな………!?」
いくら扉を当たっても、扉は開かないどころか、鍵すら解錠出来ない。そして、焦りを露にする義隆の背中では、大胆不敵な笑みを浮かべた岬がじりじりと義隆に近づいていった。
「ふっふっふ、この教室って不思議な構造をしててね。この鍵でロックすると、内からも外からも開けられなくなるのよね~」
「ちょっ!?先輩本気でっ!?」
本気で自分を閉じ込めていたのか…そう聞くまでもなく、岬のしたり顔が「その通り」と告げていた。
「そーらっ!観念しなさいっ!!」
「ぐあーーーっ!!」
逃げ道を無くした義隆は、なすすべもなく飛び掛かって来た岬に後ろから抱きつかれ、首をがっちりと決められる。
「こうなったらあなたの事は逃がさないわよ!私が何としてもあなたを目の届くところに置いて監視してやるんだからっ!」
「な、何をっ!?ちょむねっ!胸当たってっ………!!」
「あーらー?そんなウブな反応したって私はびくともしないわよー!お約束は通じないんだからねっ!!」
「あ~あ、岬ちゃんもう収拾が付かなくなっちゃったね~。成田くーん、もう諦めて岬ちゃんの言いなりになったほうが、学校生活は安心だよ~」
「それってどうい…ぐえっ!」
「な・ん・な・ら!!このまま絞め落として記憶なくしてやろうかー!!」
朝陽の忠告に返答する間もなく、義隆は岬のチョークスリーパーを食らい、いよいよもって身体がヤバいと感じ始めた。結局そんなやり取りが終わり、義隆が生徒会室から解放されたのは、昼も二時を通り過ぎた頃の話だった。
………
帰り道、高校のある小高い山を降りて、通学用の駅までやって来た義隆。義隆の家は、高校のある鈴之原町から西に大きく一駅の場所なので、こうして駅までやって来て、改札に定期をかざして電車を待っている。自分の乗る電車の順番はおよそ10分後、それまでは駅の構内でようやく息をつくことが出来る。
「はぁ………死ぬかと思った」
結局、岬が次の用事である合唱部に向かうまでの間、義隆は生徒会室に軟禁されてずっと岬たちの相手をさせられていた。やれ新しい生徒会の規律だとか、やれ春のコンクールの課題曲の事だとか、そんなとりとめの無い話に、義隆は訳もわからず巻き込まれていたのだ。それも…
(近々のイベントが落ち着いたら、あなたに用事があるから、覚悟しておいてねっ!)
と、岬は義隆に宣言をしていった。義隆は、もう少し高校は落ち着いて暮らしたいと思っていただけに、岬の宣言には嫌な予感しかしなかった。
「はあ」
疲労分百パーセントの盛大なため息をついて、気持ちを整えてから電車を待つ。
駅構内は閑散としていて、鈴之原の生徒しか使わないと言われている通り、下校から時間の経った今、人の気配はまばらだった。その静寂は、さっきまでのやたらうるさい環境に捕らえられていた義隆にとっては、ようやく訪れた安らぎの時間だった。
「…あれが、生徒会長で、部長なのか」
義隆は、自分の目で見た生徒会長の姿を思い浮かべる。それは、とにかく快活で、行動力に溢れている人。そして、入学式で、あらゆる注目を浴びても尚、堂々と舞台に立ち、自分の役目をこなすことの出来る人。
「元気な人、だったな」
義隆は、自分を振り回していた彼女に、呆れたように一言呟いた。そして、電車を待ちながらもう一度駅を見回してみると、まるで潜んでいるかのように、ホームの隅っこで座っている白の制服を一人見つけた。
「あ………」
そして、見つけた制服の女子生徒をよく眺めてみて、義隆は思わず感嘆の声を溢した。
三度、目を奪われる碧緑の髪と黄色い瞳。それは間違いなく自分の隣の席に座っていた。そして、多くの人を魅了したらしい少女"畑中 三美"その人だった。
彼女は、教室の時と同じように俯いて、小さな文庫本に目を遣っていた。やはり微動だにせず、ただひたすらにページをめくって本に書かれているのだろう文字を追っている。そして、今度は彼女の方から何かに気付いたように顔を上げる。
彼女は顔を上げると、左腕の時計を見た。
彼女は時計を見て、一度ビクッと跳ねた。
彼女はそのあとゆっくり左を、
そして、右を見て義隆と目があった瞬間、もう一度ビクッと跳ねた。
そんな、一つ一つの動作が小さくも豊かな三美は、目があった義隆をじっと凝視していた。その表情は、あまり穏やかではない。
「あー…」
三美の視線から、今さっきまで翻弄されていた岬先輩と同じ、関わらない方が身のためな空気を感じて義隆はすぐに顔をそらして線路の方に視線を向けた。
しかし
カツカツと
靴の鳴る音と共に
こちらを凝視したまま
彼女は義隆のそばまでやって来た。
「………」
いよいよ誤魔化せなくなった義隆は、仕方なく彼女に顔を合わせる。黄色の瞳は自分を捉えており、眉は僅かにハの字になっていた。
「よ、よう…畑中さん?」
「………隣の席の人」
義隆がクラスメイトだと知った上で、三美は義隆をそう呼んだ。義隆も、それが作為的な呼び方だとは気付いていたが、自分が名前の事で不快な思いをさせていた事を思い、あえて何も言わなかった。
「こんな時間まで学校に居たのか?」
「……違う」
ふるふる
と、首を横に振って返す三美。
「じゃあ………」
次の質問を頭で考える義隆。こんな会話をしていていいのかと言うフィルターが、聞きたい言葉を口に伝えるのを躊躇わせる。そして、しばらく考えてふとひらめいた義隆は、三美に告げた。
「…じゃあ、駅で電車を待つのに本を読んで待っていたら、実は乗りたかった電車が通りすぎている時間だった、とか?」
「っ…!」
義隆の言葉に、三美の顔があからさまに変わった。そして三美は、そっと鞄で顔を隠して、しばらく間を置いてから義隆に答え合わせをする。
「………………違う」
「顔を隠して誤魔化すんじゃない。その間はなんだ、その間は」
間違いなく鞄の裏で見せたくない顔をしているだろう三美に、思わず普段の癖とばかりにツッコミを入れる義隆。そして言った後で気付いて、あわてて謝る。
「あぁ、ごめん。気に障ったなら謝るよ。つい癖でな」
「………別に、大丈夫」
義隆の謝辞に、ようやく落ち着きを取り戻した三美が返事をする。そして、顔を隠していた鞄を下ろして、三美は今まで通りの表情で義隆に向かった。
「あなたこそ、帰り道?」
「あぁ。鈴之原西だから、この後の電車で帰るんだよ」
「次は、西方面行き?」
「の、ようだがどうした?」
「私も、西の人だから…」
端的に、単語を奏でるように喋る三美、鈴のような声で、必要最小限で話す彼女の言葉は、会話をしていた義隆にとって、言葉とは思えないほど繊細で、心地のいい"音"だった。
「じゃあ、途中までは同じかもな」
「多分」
義隆は、彼女の奏でるような声に、自分の何時もの癖を使っていた。三美の声は、一定のトーンで歌われる歌のようで、義隆の耳には、彼女の話し声は音楽のように聞こえていた。
"斜め右上"
三美の声に、義隆が感じたのはそんな抽象だった。そして、義隆がそれを察した時、三美に対して無意識に質問をかけてしまっていた。
「………歌、歌ったりしないのか?」
「っ!!」
義隆が、何の気なしに放った言葉が、三美の顔を歪める。変化した彼女の顔は、義隆には怒っているようにも、また悲しんでいるようにも見えて、自分が言ってしまった言葉の重さを痛感した。
「…その、ごめん。なんか気に障ること言ったみたいだな」
「…そんな、こと」
義隆は謝った。恐らく一番気にしているだろう事に不遜にも触れてしまったことを。しかし、三美は言い淀みながらも、義隆に否定を返そうとする。
「こんな俺が隣の席だと、居心地も悪いだろうから、もし担任が許してくれれば俺も席を変わ…」
「違うっ」
義隆が、三美に気を聞かせたつもりで言った言葉。しかしそれを少しだけハッキリと否定したのは、他でもない三美自身だった。
「…大丈夫。そんなに気にしてない…から。成田……さん」
三美が、振り絞るように呼んだ義隆の名字。敬称が不思議な点は義隆も気になったが、彼女がそう呼んだ事を、義隆は重要なことと思い、あえて安心したように言った。
「そうか」
名字で呼ばれたことに彼女の気持ちを汲み取って、義隆はそれ以上何も言わず、三美もそれ以上会話を交わさず、お互いに同じ方向に向かう列車の、別々の扉に入っていった。
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