追記:磔にされた京都アニメーション

7月18日に起きた京都アニメーション第一スタジオの放火は

サブカル史において過去最大の悲劇だった。

34人の尊い命が数々の資料と共に

たった1人の心無い行為により失われてしまった。


「ゼロ年代~テン年代のアニメ史考察」でも述べたように

京都アニメーション(京アニ)はゼロ年代を代表するアニメ

「涼宮ハルヒの憂鬱」(2006年)を制作したアニメスタジオであり、

続く「らき☆すた」(2007年)や「けいおん!」(2009年)など

日常系アニメのヒット作を連発、

繊細な表現描写、高い作画力によってアニメファンを虜にした

アニメスタジオのブランド化の先駆けであった。


筆者は京アニ全盛期を高校大学時代に経験、

また「異世界転生と浄土信仰」でも平等院に言及しているように

京アニ本社のある京都府宇治市は筆者の地元でもある。

京アニ作品には馴染みのある京都の風景が舞台や設定のモデルとなっており、

JR木幡駅前にある黄色く塗られた京アニ本社を

いつも電車の車窓から眺め画塾や大学に通い

漫画やアニメーションを学んだという思い出もあり、

最も身近で馴染みあるアニメスタジオだったので

今回の事件を受け、何ともやりきれない日々を過ごしている。


これまで「ゼロ年代~テン年代のアニメ史考察」

「萌えとは何か?」「異世界転生と浄土信仰」と続けて

アニメや漫画に関する評論を書いてきた。

今後のサブカルの考察について

2010年の東京都青少年育成条例改正に始まる表現規制、

2011年の東日本大震災における出版流通の混乱と電子書籍の勃興、

2017年のクジラックス事件、

2018年の漫画村問題などを上げ

コミケ会場問題も絡めて

2020年の東京オリンピックに向けて

サブカルチャーは暗黒時代に入っていくと予想してきたが、

オリンピックまであと一年に迫った2019年、

京アニ放火事件が図らずもとどめを刺す形となってしまった。


平成以降最悪の放火被害という記録だけではなく、

この被害の大きさは一企業の損失では収まらない。

京アニはゼロ~テン年代のサブカルをけん引してきた存在だった。

しかし、今回の事件で数多くの優秀なアニメーター、

2020年代に羽ばたくはずだった

若い次世代のクリエイターを失ってしまったのである。

これは日本アニメーション界、サブカル界全体の損失だ。

犠牲者、負傷者が関わった数々の京アニ作品、

名声を誇った京アニブランドには未来永劫暗い影を落とすことになってしまった。

テロという重い現実とはかけ離れた

楽しい日常系作品を数多く輩出してきただけに、

京アニがここから立ち直るのは難しいだろう。

いくら金銭的支援が集まっても人の命と技術は帰ってこないし

この残酷な事件が歴史から消えることはない。


サブカルチャーの歴史においてこれ程の受難がかつてあっただろうか?

予定されていた作品含め、京アニが今後どうなるかはわからない。

しかし過去の作品は我々の心に残っており、その遺志を継ぐ事はできる。

青葉容疑者に対する憎悪を理解する事はできるが、

犯人の素性や動機が何であれ

このようなテロを引き起こした社会的要因は必ず存在する。

それは作り手、受け手問わず考える必要がある。

いずれにしても一人の人間が責任を取れるレベルの話ではない。

磔にされた京都アニメーション。

残されたクリエイターやアニメファンが

その十字架を背負って贖罪を行っていくしかないのだ。

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異世界転生と浄土信仰 川上漫二郎 @k_manjiro

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