第2章 「萌え」密教と「異世界」浄土
「異世界転生もの」が浄土信仰なら「日常系」や「萌え」は何なのか?
「萌え」は手塚治虫以降の長いサブカル史の中で徐々に育まれたものであるが、
これはストーリーではなくキャラクター由来のもので、
完全なるイラスト文化である。
パッケージ買い、表紙買いという言葉があるように
萌えは絵ありきで、ストーリーやキャラ設定などは付加要素である。
こうした事を考えると萌え文化は正教会のイコンに非常に近い。
正教会とは東ヨーロッパやロシアなどで普及しているキリスト教の一派であり、
ギリシャ正教や東方正教会とも呼ばれている。
イコンとはイエスなどの聖人や聖書の物語などを描いたフレスコ画、写本挿絵、モザイク画などの平面画像の事で
多くの宗教が立像を作る中で正教会の特徴と言える。
イコンとアイコンは同じ語源であり、
SNSで見かけるアニメアイコンはまさに萌え文化を象徴している。
ただ、「異世界転生=浄土系」と比較するのため
あえて日本仏教の中で類似点を探ると真言密教がこれに近いかも知れない。
空海は密教の難解な教えを仏門に入っていない一般庶民に説明するために
「曼荼羅」という一枚の絵によって世界感を現した。
これは「日常系」のような箱庭感覚に非常に近いのではないだろうか?
特に胎蔵曼荼羅と金剛界曼荼羅は両界曼荼羅と呼ばれ、
それぞれ空間と時間を現しているが、
ポスターやフィギュアというグッズと萌え4コマの関係性に近い。
また真言宗は「高野山」を中心とした山岳仏教であり、
世俗とは隔離されたまさに「密教」であるわけだが、
これはそのまま「秋葉原」に置き換えることができる。
その名のとおり聖地巡りという文化もあるが、
オタク(教徒)はこぞってメッカ(聖地)に足を運ぶ。
こうした密教系の萌え・日常ものに対して浄土系の異世界転生ものは
絵ではなく小説という文字の文化であり、
秋葉原という限定された地域ではなく、
ネットというオープンスペースで生まれたところに特徴がある。
真言密教は皇族や貴族などの現世利益を叶えるとして
こうした一部の身分の人々が厚く信仰したが、
浄土宗は「南無阿弥陀仏」を唱えれば
誰でも浄土(天国)へ行けるため、武士や庶民などに広く信仰された。
こうした比較によってもアニメと宗教は限りなく近い存在に見えてくる。
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