進路調査票

 夕焼けでオレンジ色に染められた職員室。

 外から部活動に励んで頑張っている声がかすかに聞こえてくる。

 しかし、俺の今の状況はそんな青春じみたものではない。

 絶賛叱られ中なのである。


「……相澤。本気で言っているのか? 少し頭を冷やしてたらどうなんだ」

「えぇ、いつだって俺は本気ですよ。例えば、体育の時間にハードル走があるならハードルをなぎ倒してでも最速を目指しますし、テスト中だって赤点を免れる為にかんぺだって作りますよ……まあ、たとえ話ですけど」

「たとえ話をして話を逸らそうとするんじゃない。このふざけた内容はなんなんだ?」


 そう言ってデスクの上に置いてある、俺の書いた『進路希望調査』を目の前に突き出してくる。

 持っているところがシワになってしまうほど力強く握られている。


「なんて書いてあるか声に出して読んでみろ」

「はぁ……大学に進学って書きましたよ。何がダメなんですか」

「その下だ」

「笹原先生はやっぱり理想が高いですよね?」

「私は進路希望調査を配布をしたはずなのに、お前だけどうして質問コーナーになって返ってくるんだ。アホか」


 笹原先生は額に手を抑えて、呆れながらも次の言葉を繰り出す。


「質問に答えるつもりはないからな……それと、これだけ消してこい。進学か就職をするのかを聞きたかっただけのアンケートだ。去年の成績を聞いたが、妥当の判断だと思うぞ」


 確かに俺のテストや成績を見れば上位に食い込んでいることが分かる。

 しかし、素行に関してはあまり聞かされていないようだった。


「質問だけを消すなら消しゴム貸してくださいよ」


 何も言わず、いかにも「自分の消しゴムを使え。無いなら誰かに借りて、もう一度持って来い」の意味を込め、手で振り払っているように見えた。

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素直になれない神崎さん 時雨色 @sigure_iro

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