#2
1.トゲトゲの神崎さん
瞼を開けるとそこは見慣れない天井が広がっていた。体を横に向けると、すぐ横に窓があり夕焼けでオレンジ色に染まった空が広がっている。
「……あ、起きたの?」
後ろから聞こえる声は神崎だった。
その声の方向に顔を向けると、何かを取り出している。しかし、その仕草はただスカートを正しているだけだった。
「ちょっとやり過ぎちゃったね」
「「やり過ぎちゃったね」じゃないよ。そのまえにここはどこなの」
見回してみる限り、学校の保健室ではなく、誰かの部屋の一室と呼ぶべきだろう。しかし、そうは言っても部屋に物が無さ過ぎる上に、油絵具特有の鼻につんと突くような刺激的な臭いがこもっているような気がする。
「臭いで分かると思うけど相良君の部屋。因みに運んできてくれたのも相良君よ? 感謝をするべきね」
「今回の件にしては、俺も悪いけどあれは不可抗力。それでも、我慢すればよかったものを気絶をさせるような真似をしたのも悪い」
「……仕方ないじゃない。誰だって嫌でしょ? おっぱいを鷲掴みされるのって言ってみれば、男の人の大事なものを掴むことと一緒。実際──」
「これから起こらないように徹底すればいいわけだろ? 例えば、近づかない。それが無理なら触れ合わないような距離を取るとか色々ある。それを決めればいいだけだ」
神崎の表情が一瞬、それだけは嫌だと言わんばかりのものをする。
「そういうことを言いたいわけじゃないの」
「なら何が言いたいんだ」
「……言ったとしても分かってくれる確証が持てないから今はダメ。この先ずっとかもしれないしから、さっきのことは忘れてもらって結構」
「いつもより、なんかトゲトゲしてないか?」
「分かるでしょ……」
「いや、分かんねぇ」
「け、今朝のこと覚えてるでしょ? 普通の女の子だったら距離を置くはずなのに、こうしてそばにいるってことが異常ってことを理解してないよね」
「確かにそうだけど……でも、橘なら一年もずっと一緒にいるし、ありえそうだけどな」
さっきからずっと、神崎の右手が往ったり来たりしていたが名前が出た途端、その手を引っ込めてしまった。
「それでもこうして、あんなことがあったってのに神崎が看病……って言っていいのか分かんねぇけど、まあ、なんていうか、嬉しいよ」
なんとなくはずかしいモノを言ってしまった気がするが、時すでに遅し。照れ隠しなのか、なだれて視線を下に向ける。
この雰囲気をぶち壊す、バンバン!と戸を叩く音が部屋に響く。
こちらの応答を待たずに入ってきた。
「聞き捨てならんよ! 瀬良和也ぁ!! なんだよ! 「まあ、なんていうか、嬉しいよ」って! ふざけんなぁ?!」
「ちょ、ちょっと彩香ちゃん! 今入っちゃだめだって」
「うっせぇ! 黙っとけ! 白髪頭!」
確かに相良の髪の毛は銀髪なのは知っているが、まさか、橘にまで言われてしまうとはな。
「えっ? なんで橘さんがここにいるの?」
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