7.電車と俺と神崎さん
目を逸らしたかと思えば、また見つめての繰り返し。
「なぁ神崎。あれをどうにかしてくれると嬉しいんだけど」
「あれって、どれ? 名前をいいなさいよ」
「ほら、今見た!」
「……ねぇ、同じクラスなんだから喋れるでしょ」
「名前とかいちいち覚えてらんねぇよ。な、相良」
「うんうん。僕は覚える派なんだけど、今は和也に賛同するよ」
「結局、誰なの!」
俺らが騒がしくしていたからか、それから、その子はこちらを向くことはなかった。俺を見ていたとかで騒いでいたけど、実際は神崎に用があったのかもしれないと考えると、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
「しかし、よくもまあ、高校生だというのに遠足なんてやってられるよ」
「そう言いながらも相良君はついてきてるのよね」
「だって仕方がないじゃないか。休んだ人はしょうがないとして、サボタージュした人は学校で補習だ。誰が、好き好んで、勉強なんてやらなきゃいけないんだ!」
「珍しく怒った」「珍しく怒ったね」
相良は怒るというか、怒るところを見たことが無い。しかし、怒られているというところは必ずと言っていいほど毎日見ている。主に授業中の睡眠で。
「いいじゃない。学年単位でぞろぞろと行くわけでもないんだから。ちらほらと同じ制服の子を見かけるけど」
「僕はあれだからね。それが嫌で、腕を悪くしちゃいけないとか言って、休んだのを今でも覚えてるよ」
「あー、あったな。そんな事」
あの時は反抗期というか、まだ本気になっていた頃というか、あまり良い印象を持たない時期の話で、俺自身もよく覚えておらず適当返事をしてしまう。
「その事知ってるの?」
「いや、待ってくれ。なんで神崎が知ってるような感じで聞いてくるんだ」
「だって、ほら、相良君と同じ学校だったから……」
よくよく考えてみると、この前の朝、わざわざ家まで来るなんて、場所が遠ければ絶対と言っていいほどめんどくさいはず。人間だったら誰しも、朝は色々とめんどくさい。
そう思えば、この三人は家が近いってことになるんだが。
「家どこ」
「な、なにそれ。やらしいことでも考えてるの」
「んなわけ無いだろ。どう考えても」
「じゃあ、なんなのよ」
「あーなんだ。そりゃあれだ。例えば、遊びに言ったり……?」
何言ってだよ俺。どうしてそうなる。聞きたい事と言ってる事が全くかみ合ってないじゃん。
「ばっ……!」
「ななみんが久しぶりに照れたね。和也、今がチャンスだよ」
「どこにも照れる要素なんて無くないか」
「ちょっと! こっち見ないでよ! 変態!」
「いや、俺なんもまだ見てなっ」
ベチンと乾いた音が響く。
瀬良は弁明をしようとしたが、その行動は神崎の手のひらで塞がれる。
「なに? 急に俺がイケメンに見えたって? そりゃしかたゔぉへ!」
神崎からの追撃を食らうと、またもう一つ。瀬良の両方の頰は、焼かれたのかと聞かれそうなくらい、真っ赤になっていた。
恥ずかしがって紅潮する神崎とはレベルが違う。
「わか、分かったって……冗談はこんだけにするから……」
「……本当に?」
「本当だって。神崎好きなんだろ?」
「好きって何が好きなの」
「そりゃ────」
突然、ガコン!と車内が横に揺れる。
その反動で手をつく所が窓ではなく、女子特有の胸の膨らみを鷲掴みしていた。
「あっ、やべ……これは事故! 事故だから!」
この後、どうなったのかは言うまでもない。
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