6.ウインクが出来ない神崎さん
遠足とか中学生まででいいんじゃないのか? とか去年も同じようなことを考えていた気がする。
流石に高校生で遠足は無いだろうとは思ったがそれは無駄。
すでに目的地行きの電車に乗っているからである。
まあ、隣りに座っているやつに関しては察してほしい。
「ふぅ、んっんっ」
その隣に座っている神崎は一生懸命目をぱちぱちさせているようだが、その動きは見ようにもあまりにも可愛すぎるため誰にも見せたくない。
「んっ、んっ、んん~~~」
「なにやってんだよ。目にゴミでも入ったのか? なんかちょっとエロいから止めてくれ」
「エロくないし、違うわよ。ウインク。ウ・イ・ン・ク」
確かにウインクにも見えなくもないけど、今やることでもないだろ。
「つっても俺も人のこと馬鹿に出来んからなぁ」
「へぇー。ふぅーん。ふぅーーーん」
「なんだよなんだよ」
自慢をするような出来でもないのに何かを言いたそうにしてるのがはっきり分かる。
「出来るから教えてあげてやってもいいわよ?」
「出来てねぇから口出ししたんだよ」
「ちゃんと目玉ついてる?」
和也は顔をめがけて腕を伸ばし、手で目の辺りを触る。
「ちょっと、なにすんのよ」
「良いから黙ってろ。神崎がやってたのは目を両方閉じてたんだ。それはただのまばたき」
なるべく力が入らないように。しかも目の辺りというものだから、敏感で、繊細で、触るにはやはり抵抗がある。
「で、ウインクがこう」
目を片方は閉じさせて、もう片方は開けておく。
あまりにも長く触りすぎるのも良くないと思ったのか、その動作は一瞬だけだった。
「ふん! 知らない! 女の子の顔を触るなんて最低ね最低」
「そりゃ悪かったな。俺は見てられなかったんだよ」
「なにが」
「プライドってもんがありそうだからさ、それを壊さないために」
ただの嘘で塗り固めた神崎なんて見たくもないけど、今まではずっとそうだったんだ。そこでふとした可愛らしさなんて見えてみろ。神崎の株が爆上がりだ。
それが嫌だと思う俺は意識をしていると言ってもいいのかもしれない。壮語であり、誇張であり、過言であるかもしれないけど。
「あーやっぱ今のなしで」
「なんでなんで! かっこよくやってくれたっていいのに」
「言葉が出てこねぇからだよ。ウインクなんてそうそうやる相手いねぇだろ」
「いるから練習してるのよ!」
「いんの!?」
「そんなに驚くこともないでしょ……って、大丈夫!? ねぇ!」
そこまで練習したい相手は誰なんだろうか。やっぱり相良か。七海と下の名前で呼んでるんだから……ウインクしててもおかしくないな。
じゃあ、一体誰なんだ?
誰だっていいと思いたいが、ありのままの神崎を独占しようとしている俺がいる。気持ち悪い。気持ち悪過ぎて、俺ではないように感じた。
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