5.あだ名が付いた神崎さん

「おーい、見えてないのー?」

「そりゃ見えんわ」


 顔にプリントをシワが付いてしまうほどの距離というか、顔に当てながら問いかけてくる。


たちばなやめてくれ。俺のプリントにシワが付くだろ」

「だって、もうこんな時期でしょ? 遠足だよ遠足! どうせならななみんも付けるからさ」


 顔から剥がして書いてある内容を見てみると、俺にも渡された遠足に関しての連絡だった。

 話を全然聞いていなかった為、どこに行くかとかはきっちり目を通さないと分からない。


「どうしてそこで神崎が出てくんだよ。てか、ななみんって……」

「だって、一週間ぐらい喋ってないんでしょ? 本人から聞きだすのに三日かったんだからね」


 確かにあれから一週間が経っている。連絡先でも聞いておくべきだったと後悔している。

 あの日の次の日は、声をかけたいけどどこかに消えてしまったり、他の女子と喋り、何かと隙を作らないように見えた。


「まあ、それが普通。普通はそれが本当の関係なんだよ。分かるか? 俺みたいなやつと校内一の有名人で頭がよくて、なにより、可愛いんだぞ? 橘、分かるか? なんつかーさ、あんな奴がドジやったり、顔真っ赤にしたり、あんまり見せない顔を見してくれんだよ」

「ふーん……」


 神崎の話になった途端、急にふて腐れてしまった。何が不満だったんだろうか。


「なんかさー、変わったよね。一年でこんなに変わるもんなの?」

「人は変わるもんなんだよ……」

「なになに、そんな誰かが死んだような顔して」

「はっ、騙されるとはまだまだだな、橘」

「……もう、知らないからね」


 バンッと机を叩くと同時に、ポケットから一緒に出して叩いたのだろう。

 そこには、電話番号が書かれていた。

 橘はそこから立ち歩くこともなく、ずっと俺の隣に座っていた。


 心臓の鼓動が聞こえ……ないけど、気持ち的にはそんな感じがした。

 俺は彼女二人を友人ではなく、もっと別の相手として見るべきなのか。


>>>


 橘から渡されたと言っていいか分からないが、その紙に書かれている電話番号にかける。

 3コール目で相手は出てくれた。


「もしもーし、僕だよ僕」

「お前かよ! てっきり神崎かと思ってたんだけど! ……なにさ。なんか用か」

「まぁ、この電話番号は僕のではないけどね」

「誰のだよ」

「今時はあれだね。電話とかメールは使わずにSNSとかで連絡を取り合うんだから。ちなみに持ち主はななみんだよ」

「二人してななみんはねぇだろ。はい、本人を出してくれ本人」


 マイクを手で塞いでるのか、遠くから声がするように聞こえる。

 

 俺は一体どうしたいんだろうか。もし、向こうが避けてるなら引いた方がいいと思うけど、それはそれで向こうの気持ちを考えずに動いてるからリスクが高くなる。


「も、もしもーしななみんだよ」


 予想はしていたけど、今にもきゃぴるんとか聞こえて来そうなぐらい頭の悪いものだった。


「ちょっといいか? それは何?」

「橘さんがやるといいよーって。それで、じゃなくて! 来月のゴールデンウィークあるじゃない? それで一緒に出かけたいなーとか思ったりして」

「月末の遠足の話じゃ」

「やっぱそっちの話」


 食い気味に食いついてきたな。


「遠足の話だけど、一緒に回りたいなーなんて」

「どうせ俺一人だろうし、いいぞ」

「ほぇ? いいの? そんなにあっさり」

「まあ、な。せっかくだし、人気者なんだから一番乗りしないとだろ?」

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