4.ちょっと変わった神崎さん その2

 結局神崎は午後の授業に出ることはなかった。

 神崎の事だろうし、サボってるんだろうなとか思ったりしていた。


 今更なんだが、どうして神崎とこんな関係を持っているんだ。


和也かずや。それは君が人生の主役だからだよ」

「人生の主役じゃないなら、そりゃ俺じゃねぇ。てかなんで分かったんだよ」

「うんうん。それはね、和也の顔に書いてあったからだよ。「神崎超好きだわ。やべーどうしよ」なんて──」

「適当なことを言うな」

「いやいや、僕としては神崎さんのことを見てるとついついどっちもいじめたくなってね。反応を見てるのが楽しいんだよ。和也は面白くないけどね」

「面白くなくて悪かったな」

「頑張りなよ? まぁ、僕は帰るけどね」

「お前、昨日のやつは作らないのか」

「……良いんだよ。あれはあれで、あれはあのままで。僕はもう筆を持たない。昨日は帰ってから一悶着あったからね……」


 それだけを言い残して立ち去っていく。


 人それぞれに事情があるわけで、それに足を突っ込むという事は人の事情を解決をするという前提で動かなくちゃいけない。

 もしそうでなければ、信用がなくなる。

 信用とは大切なもので、失ってしまったら取り戻すのに一苦労する。


 一度経験したかのような口ぶりで頭の中を巡りだす。

 どうでもいいなんて思わないけど、今は神崎が優先するべきだろう。


 男なら男なりのやり方があるはずだ。


>>>


 彼女のいる保健室にまたやって来た。

 ガラガラと戸を開ける。


「失礼しまーす……って、いないし」


 俺が見渡す限りだと居ないように見えたが、よく目を凝らすとパーテーションの代わりとなっているカーテンがゆらゆらと揺れていた。

 その場所へ近づいてめくるとやはり神崎だった。


「あっ……」

「やっぱりな……お前、隠れることないだろ」

「だって」

「だってもなんもねぇよ。ほら、でこ見せてみろ」

「んっ」


 さりげなく前髪を手で優しくかきあげる。

 怯えるわけている訳では無さそうだが、ビクッと肩を竦めて目をつむると、ほのかに顔が赤くなっていく。


「まだ少し赤いな。処置はしてもらったよな?」

「一応、昼休みの時に……」

「あの時は神崎が悪かったような気もするけど、そんなことはないから気にすんなよ。俺自身がだらしない格好で話を聞こうとした所為でこうなったから」

「もういいでしょ……」

「あ、あぁ。すまんな」


 手を放すと前髪を払い、うつむく。


「俺はもう帰るから。また明日な」

「ま、待って!」


 手を掴むのに抵抗があったのか制服の袖を掴んできた。


「家までじゃなくても校門まででもいいから、一緒に帰らせて今はそんな気分なの


>>>


 特に会話と言った会話もなく、校門まで来てしまった。

 俺から喋りかけるにも話題性に欠けて、会話として成り立つことがなかった。かと言って、向こうから喋りかけることもなかった。


「……今度こそ、またな」

「あっ、うん……」

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