第19話信頼は一瞬で崩壊する

弟が居なくなった事で、自分と総務のアリシアの2人だけになっていた、とりあえず紅茶ちゃを楽しもう。

この紅茶ちゃは新鮮なマスカットフレーバーの風味が実に良い、貧しいルミナスの土地で穫れる茶葉は実にいい風味だ。

両者何も喋らず気まずい雰囲気でも、紅茶ちゃを飲んでるだけで雰囲気なんて気にならないのが良い。

不意にドアが開いて、別の人間が来たどうやら自分に電話だそうだ、電話は嫌いなのだがしょうがない出るとしよう。

「あんた、仕事をクビになったんだって?連絡しな、現場にあんたが居なくてあたしは今日はただ働きだよ」

どうやら傭兵弁当屋の娘のようだ、今日はいつも通り働きに行ったらしいご苦労な事だ。

「俺のせいではない、急に出向を命じた上が悪い」

これは誓って言っても良い、自分に罪はない

「はぁあんたね、まあ良いさコイツはね明確な契約反故だよ、この後の言い訳を考えときな」

まずい…。俺がこの世で一番大切にしている物が消えようとしている、クソったれ。

「ああ、今から30分後に酒場で落ち合おう本音を話すには酒が必要だ」

急いで行動しなければ、電話をガチャリと置くとチラリとアリシアを見た、コイツを無視して行くか考えるが面倒なので連れてこう。

「おい、俺の実家に行くぞ!付いてこい」

自分は足早に去っていった、アリシアは困惑していたこの状況と、この重要なプロジェクトの進行をこの男に任せて良いのかと…?

当面はとりあえず様子を見ることにした。


自分は歩きながら考えていた、クソッ派遣出向してからろくな目に有ってないと、そんなことよりまずい…。

俺がダンジョン作業者の仕事を飛ばされた事により、傭兵の稼ぎ口が消えるのである、傭兵を養えない自分は立派な契約違反者だった。

俺が金よりも最も大切にしている物、10年も掛けて積み上げて来た信頼関係がこんなつまらない事で消えるなんて、納得行くか!

誠意だ、誠意を見せるしかない。


実家に付くと執事に頼み母親を呼んで貰う。

「母さん!今すぐに俺の全財産を下ろしてくれ!」

自分は金を信頼出来るところに預けていた、つまりは実家なのだが、母は困惑しながらも細かい事は聞かなかった有りがたい。

引き出した金貨ダカットの山を背嚢に詰めて持って行く、クソ重いが誠意を見せるには現生が一番だ。


酒場につくとまだ傭兵は来ていないようだ、椅子に座って何もしないで待つ、酒など独りで飲む気分でもないからだ。

程なくして傭兵弁当屋の娘が来た、お互い無言で座りながらジンを注文する、3杯程飲まないと本音など出ないからだ。

3杯程飲んで自分から口を開いた。

「今回の契約違反の謝罪金として100金貨ダカットを受け取って欲しい、それとこの後に再契約を結びたい400金貨ダカットだ、これが俺が10年も働いてきた全財産だ。どうだ笑えるだろう?」

テーブルの上に金貨袋ダカットの束を5個ドサリと置く、傭兵弁当屋の娘は無言だった。

しばらくして口を開いた。

「あたしは言い訳を考えて来いと言ったんだ、これがあんたの言い訳かい?」

自分は困惑していた、いや解っていた回答はこれじゃないことに、しかし言えないのだ、ミスミ家の血と自分のゴミみたいなプライドのせいで。

「そうだ…。これが俺の誠意だ…。これでお前との10年掛けて積み上げて来た信頼を回復したい、もし駄目でも400金貨ダカットは持って行けそれが退職金だ」

弁当屋の娘はぁーっと息を吐いてこう答えた

「あんたがそこまで言うなんてねぇ、だが言い訳としては失格だねえ。」

・・・。

「いいかい?あんたの事は信頼はしている、それは物事の筋道をちゃんと通すからさ、だがねあんたの実力は信用していない、雇われてあんたと弟と私の3人でダンジョンに行っても死ぬだけさ、無駄死にはゴメンだね」

傭兵弁当屋の娘は立ち上がると500金貨ダカットの袋の束を掴んで言った。

「出直してきな」

俺は自分の大切にしている財産を今日失った、泣きたい気持ちだった。

「帰るぞ」

自分は酒場を出て歩き出した、帰ろう…。今日は実家に帰ろう。

実家に付くと母に会った、思わず言葉が出てしまった。

「母さん、今1金貨ダカットも無いんだ悪いけどお金貸してくれないかな?」

母に20金貨ダカットを借りて今日はもう不貞寝を決め込む事にした。

自分の部屋で1日中寝ることにした。


アリシアは事の顛末てんまつを観て確信した。

駄目だ、コイツに任せると全てが終わる私が何とかしないと。

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