第9話

この国の人は基本的に、今持っている金を使い切る生活を美徳としている。

所謂宵の越しの銭は持たないという奴である。

理由はまず、ダンジョン労働者は何時死ぬか解らないのと、死後の財産は全て国庫に徴収されるからだ。

国民の生命と財産は全て国の資産なのである。

大浴場の外で待ってると、弟が着替えてやってきた。

ブラウン色のジャケットにスラックスと革靴

、グレー色のベストに乳白色のシャツ。三つ揃い《スリーピース》スタイルと言うものだ

弟と別れて、再度また落ち合う事とした。

上司に報告と業務進展書をこれから提出するらしい。

酒場に行くまでにはまだ時間がある、自分は女達の買い物に付き合う事とした。

女達の行動パターンは基本的原則的に決まっている。まず小物を仕入れ、衣服を買い、化粧屋で装備品を整え、軽食あまいもので英気を養うのだ。

こ狭い服屋ブティックで腕を組ながら待つこととする。

男の服装とは違い、女の服装には種類が多い、女は装備品にこだわりが強く、自分の装備スタイルを他の女達に見せ付け、平民層でのヒエラルキーの上位に君臨したいが為だ。

この王都にも伝統的な衣装は存在してたのだが、一気に廃れてしまった。

理由は織物技術が他国の追随を許さないほど優れた国、帝国インペリアルの影響力であり、優れた技術に安価な生地の流通と影響で、全ての国のファッションは帝国インペリアルスタイルである。

「3番さ~ん、どうです?似合いますか?」

看板娘は自分に近付いて意見を求めに来た。

紺色の襟の付いたブラウスで胸元にはリボンが付いており、

紺色のスカートには膝丈位の長さの織り目が付いていて、先端部にはフリルが装飾されている。

合わせてベストも着ているこのスタイルは《スリーピース》であろう。

足下には革製のハイソックスブーツを履いていた。

ここで間違っても、似合ってるや可愛いと言って褒めたり肯定したりしてはならない。

言ってる本人が似合ってる事など解って言ってるのだ、下手に同意するとあれもこれもと迷いだして欲しがるし、意見を求められても回答に困るからだ。

ここは黙って頷いて買ってやるに限る、所詮は場末な酒場の店員だ、金は無いであろうからな。

傭兵屋は赤いワンピースとハイヒールを選んだようだ、青い幅広の羽根付き帽子ハットで合わせていた、立派な体格の女が赤を着ると存在感がある、彼女かのおんなは装備品には拘りがあって自分の金で買うのだ。

化粧屋で買った小物と化粧をして、戦闘準備をする、夜は女達の戦闘たたかいが有る。

同性に舐められる訳には行かない、自分の連れが舐められたら嫌である。

その後王都を練り歩き、その後酒場に行く。

光源はシャンデリアを頼りにしているがやや感じの薄暗い雰囲気では有りながら、昼間の閑散な雰囲気とは打って変わって、夜は活気に溢れている。

酒場はダンジョン労働者の社交場と化しているのである。

木製の玉で木製のピンを競って倒して、負けた方がエールを奢る《ボウリング》や、的に手投げ矢を投げ得点を競い合う《ダーツ》など娯楽も揃っている。

適当に空いているテーブルに腰掛ける。

注文をしなくとも林檎酒サイダーと料理が直ぐに運ばれる、此処では金払いの良い奴が優先されるのである。

料理は場末の酒場らしくシンプルな物が多い、大量の揚げた芋に白身魚、ウサギのパイの包み焼きに、茹でてクタクタになった大量のニンジンである。どうやら金払いが悪いせいかニンジンが大量に来てしまったようだ。

底辺労働は兎に角、味よりも量が優先されていて腹が膨れれば満足するのである。

全ての料理には味が付いてない。ここの料理人は、味の解らない底辺労働には味付けなど

不要と考えて居るので、味付けはテーブルの上に有る調味料で勝手にやれというスタイルだ。

塩、ケチャップ、タルタルソース、ウスターソース等々様々な調味料が有る、自分の気に入る味をここで付けるわけだ、拘りが強い奴は調味料を持参するのである。

それとこの酒場には、ダンジョン関連に相応しい面白いギャンブルも実はあるのである。

そうこうしている間に弟が来たようだ。


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