第8話裸の付き合い

ダンジョン労働者にとって、信頼関係の構築は重要だ。

命がけの仕事である、雇用関係意外での繋がりを構築し、自分と傭兵との間に信頼が築けるのであれば、裸の付き合いの一つや二つ位する。

人との信頼関係を築くのは、一朝一夕で出来る程容易ではない、長い時間が必要なのだ。

人との信頼はいわば、底辺労働者ダンジョンにとっては資産なのだ。

風呂は大浴場であり、ダンジョン組合が運営していて無料で解放されている。

デカい浴槽場に広いサウナが売りである。

脱衣所で着替える、石鹸とシャンプーと身体を洗うタオルが無いので、近くに居る小間使いから買う、ついでに弟の分も購入する。

「小間使い、俺と弟の作業着をクリーニング屋に出しておけ、それと弟の着替えを持って来い。」

金貨ダカット1枚を渡してやる。

いちいち自分達が名乗らなくとも、彼等には問題は無い、もし解らなくとも彼等のネットワークを駆使して調べ上げるだろう。

王都に住んでいる人間は噂好きだ、個人情報など全て筒抜けなのだ。

小間使いは男女数人の子供を召集すると、リーダーの指示の後で、統率の取れた動きで散っていく、子供には子供の仕事が王都にはちゃんと有るのである。

大浴場は昼間だからであろう空いている、無料なので夜には人がごみのように集まるので、有り難い事である、人で溢れ返って混雑する風呂は嫌である。

風呂場は男女共用であり、脱衣室も共用である、この国の平民や底辺労働者の女達は羞恥心が無い、良く言えば性に寛容であり、悪く言えば繊細デリカシーさに欠ける。

個性というものは上流階級や貴族の特権であり、嗜みなのである。

羞恥心という立派な個の確立は、支配者層側からしたら許容出来ない、平民が個性豊かになると、支配者層側に反旗を起こすからなのだ。

「弟よ、そこの整髪屋で整えてみてはどうだろうか?」

整髪屋に金を渡す。風呂場で財布を持つのは面倒だが、盗まれるよりはマシである。

大浴場には色々なサービスが有る、エールや林檎酒サイダーを売る者、整髪をする者、化粧水や乳液を塗る者等々。

「お背中お流しまーす」

弟より先に身体を洗っていると、看板娘に背を洗われる。

なぜ背を洗いたがるのか疑問なのだが、自分なりの解釈をするならば、ダンジョンで敵に背を向ける行為は死を意味する。

味方に背中を向けるのは信頼の証なのであろう。

「弁当屋の娘、背中を洗ってやる」

背を洗うだけで信頼関係が築けるのならばお安いものだ、いくらでも洗ってやる。

浴場で湯に浸かって居ると、弟が散髪を終えたようだ、ボサボサの髪はベリーショートに整えられており、顔中に生えてた無精髭は綺麗に剃られている。

実年齢よりも大分若く見違える程のイケメンに生まれ変わっていた、弟は髪を切った事で恥ずかしさから下を向いて歩いている。

「きゃー、マクシミリアン様素敵です!お背中お洗いします!」

弟は繊細デリケート純心ピュアなので恥部をタオルで隠して居るのだが、看板娘は生まれたままの姿で弟に抱きつきだした。

デリカシーの無いやつだ、弟は純心ピュアで繊細なのだぞ。

浴場の湯に浸かって居ると、隣りに弟が腰掛け、その隣りに看板娘がいる、どうやら弟に懐いたようだ。

兄貴あにいよう。頼みが有るんだけどよお」

弟は先程酒場での、会話の続きをしたいそうだ。

敬愛する弟の頼みならば、大抵の事は何でも聞いてやる、それが家族の絆なのだから。

「・・・あのよう頼みずらいんだけど、もう頼れるのは家族しか居ねえ、兄貴あにい俺と一緒にダンジョンに潜ってくれ!このとおり」

弟は頭を下げて手を合わせて懇願し始めた。

弟の頼みに思わず目眩と頭痛がした、きっと湯に浸かってのぼせたのだろう。

「弟よ、いくらお前の頼みとは言えそれは少し厳しそうではないか?」

手を額に当てて頭痛を軽減化させる、湯に浸かりすぎてのぼせたせいだ。

「弟よ、俺はダンジョンに潜ったら100%死ぬ自信がある。俺は英雄ゆうしゃでも超人ヒーローでもない、それはお前もだ」

湯に浸かりすぎて頭痛がヤバい、そろそろ限界だろう。

兄貴あにい安心してくれ、家族のコネクションで潜っても死なないよ」

弟はにっこりと笑いながら、親指と人差し指で輪を作る。

「それは・・・家業ファミリービジネスなのか?」

弟はうーんと唸り声を上げながら言う。

「半分くらいはそうかな。兄貴あにぃそろそろ秋だろ?早くしないとダンジョンちゃんのご機嫌がそろそろヤバい。」

これはもう限界だろう、湯に浸かりすぎてのぼせすぎた、もう帰ろう。

「弟よ、兄は湯に浸かりすぎてのぼせたようだ。この話は長くなりそうなのか?続きは酒場で聴くとしよう。」

自分は立ち上がると、サッサとその場から立ち去さる事とする。


風呂から上がれば後はどうするか?今なら女達の買い物にでも付き合いたい気分だ。







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