第7話帰りの呑み会
「おい、この後軽く1杯やるかどうする?」
傭兵弁当屋の娘に聞いてみる。
ダンジョンでの仕事は命がけである、傭兵との信頼関係の構築も立派な仕事なのだ。所謂飲みにケーションという奴だ。
「まずは1杯だね。いくよ!」
これから馴染みの酒場に飲みに行く、酒場と言っても酒だけじゃない。色々な商売人が商売している複合型店舗なのだ。
地価の高い王都では、気楽に個人で店を持つのは不可能なので、底辺労働者相手に商売をする商売人は、ダンジョン組合の旗の下に集っているのである。
この酒場の雰囲気は、ダークブラウン色のシックな風合いのする木製床張りに、ブラウン色のマホガニー製のテーブルと、椅子には今流行の草花の装飾が施された猫足の物であり、シュラックスのニスが施されている。
店内は昼間でも薄暗く、外界の光源を頼りとし、時間は昼間なので客足は閑散としている
適当な椅子にドカッと座る。
指を鳴らし、人差し指を2度程くねらせカウンターで暇そうにしている女を呼びつける。
「看板娘、エールを2つ持って来い」
テーブルの上に5
エール2杯で
テーブルの上に置かれたその液体は、
自分の隣に看板娘が座る、今は酒場の仕事をする気はどうやら無いらしい。
「「フウゥゥ・・・」」
常温のエールを喉に通すと、自然に溜めた息がでてくる。
仕事終わりに酒を飲むというのは、言わば儀式である。
アルコールという人間がダメになる毒素を、わざわざ摂取するのは、今日はもうダメに成って良いんだよ?と身体と頭に教えてやるためである。
「看板娘、この後風呂に行くから俺の着替えを持って来い、2時間後に間に合うように飯の準備もしておけ」
看板娘は近くに居る小間使いを呼んで、自分が頼んだ要件を又聞きで伝える。この看板娘とは何気に古い付き合いだ。
それに酒場に来てすぐに食い物を作れ!と言うのは、作る方からしてみたら堪ったものではない。
頼む側も、長い間何時来るか解らない注文を待つのも嫌なのである。
金を先払いし、時間を指定してやるのがここの
不意に周囲から異臭が立ち込んできた。
強烈なアンモニア臭で、浮浪者とおぼしき臭いが香ってくる。
「あ?
髪は脂でギトギトのボサボサ、無精ひげを顔中に生えていて、何よりも汚らしい格好をし、この臭い男は自分が敬愛する実の弟であった。
弟が自分の傍に近付いて来ると、ガタッと看板娘と弁当屋の娘は立ち上がり鼻にハンカチを当てて離れて行った。
弟は
トボトボと歩き自分の席の向に弟は座る。
「弟よ、元気か?まあこれでも飲め」
自分の飲みかけのエールを渡してやる、弟は一気に飲むとはぁァと息を吐いた。
「
弟はタバコに火をつける。この独特の甘いバニラ香のする銘柄は、月まで飛んで逝けるである。
「弟よ、兄に1本くれないか?」
弟にタバコをせびり一服する。吸った瞬間に多量の幸福感を感じ、身体の底から元気がでて月までハイでイケそうになる。
このタバコはダンジョン内で働く底辺労働者の御用達必須アイテムなのだ。
「
タバコを吹かしながら愚痴るように弟は言う。
「公務員のお前が派遣だと?何やってるんだ?」
公務員と言っても普通の公務とは違った特殊な仕事なのだが、イケメンの弟が浮浪者に変わるとは尋常ではない。
「
ここで組んだ連中がもう最悪でさあ。」
ダンジョン労働者のヒエラルキーの中でも、ぶっちぎりの最低辺な仕事がある、それが冒険者だ。
弟曰わく、調査の為に深部に潜って居たところ、偶然そこに宝石装飾が施された宝箱が出たらしい。
その瞬間から、パーティー内全員で殺し合いの抗争が勃発したらしい。
弟は全員を血の海にし、ダンジョン内で散々迷った挙げ句の果てに、やっとこさ帰って来れたようだ。
「あのさ
弟が何か言いかけた所で、自分は待った!をかけた。
「その話は長くなりそうなのか?弟よ、俺の隣の女を観ろ。汗臭くて敵わないだろう?これから仕事帰りの風呂に行くところだ。弟も一緒に来い」
それに仕事着で街を彷徨くなど、恥ずかしくて敵わない。さっさと着替えたいのである。
「看板娘、ここ最近花粉症が酷くてな。すまないがそのハンカチを1
渋々売って貰ったハンカチには、香水の香りとファンデーションの香りがする。これで少しは花粉も抑えられるだろう。
「店長、同伴行ってきまーす」
どうやら看板娘も付いて来るらしい。
ともあれ今は仕事終わりの風呂だ。
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