第6話作業報告

行きはヨイヨイ、帰りは怖い。通りゃんせ、通りゃんせ。

という歌が有るようにダンジョンにおいても帰り道が最も怖いのである。

作業が終わった事で気を抜いたり、ボーナスが出て心ここにあらずでの状態は、事故を起こしやすい。

それに金と等価の鉄を台車一杯に積んでいるのである。盗賊や同業者や密猟者等に狙われても不思議ではない。

別にわざわざ苦労してドロップアイテムを集めなくとも、相手から奪えばいいのである。無法地帯のダンジョンでは殺そうが、盗もうが社会的になんら問題は無ない。

「手押し車が重いとこんなに移動しずらいんですね…。」

新人の1人が愚痴を零す。手押し車は車輪が1つしか付いていないため、重量が増えるとバランスが取りずらいのである。

「班長そう言えばさ、最近ここいらで盗賊が出るらしいね」

移動中の暇つぶしと、新人達をびびらるため、もとい気を引き締めさせるために敢えて本当かどうかの情報を流す。

班長は口をへの字にして、ウーンとうなり声をあげながら言う。

「ん~。怖いねえ~。さっきから周囲で殺気を感じるよ。3番くんその時はガツンと頼むよ!」

この頼むと言うのは、戦力として頼むと言っていないと思う。

多分班長が逃げ出す時間を稼ぐ為に頼むと言っているのだろう。

もし盗賊が出張って来たら、相手にするなんて冗談じゃない、相手は殺しの本職プロだ。

相手をして怪我では済まない可能性も有る。

「えぇ、任せて下さいよ!班長」

自分は頷きながら自信を持って答える。

とは言えこっちには、12人の武装化した戦力が居るのだ。

そうそう襲われる心配は無いだろうが、来るなら来てみろ!自分だけでも逃げ切ってみせる覚悟はある。

相手に威圧するかのように自分は銃の引き金を引く。

その後、ダンジョン内でこだまするように銃声が響き渡るのであった。

「おい、弁当屋の娘。俺はもう限界だ手押し車を押すのを変わってくれ」

長時間による台車の運搬で、二の腕がぷるぷるしてもうかなりキツいのだ。

ついでに肩も痛い。こんな状態で戦闘状態に入ったらまともに戦える気がしない、この状態だと鴨がネギを背負っている様なものだ。

「あんたそれでも男かい?情けないねぇ。変わってやるからそこをどきな」

流石ダンジョンで働くだけあって体力が有る女だ。

このタフさを自分は気に入って、長いこと契約してると言っても過言では無いだろう。

「おばちゃん、私の変わりも頼むよ~。もう年だからかね~?キツい、キツい、年は取りたくないねえ。」

班長も音を上げたようだ。

おばちゃんはあいよっと、と言ってヒョイと台車を押し始めた。

ダンジョンで仕事をするには、楽を覚える事も立派な仕事なのである。

帰り道は特に何事も無くすんなりと帰れた。

無事が一番である。変なハプニングなどごめんだ。

ダンジョンの入り口付近にある事務所で換金しに向かう。

ダンジョンで採れた資源は皆、国の財産なので申請を出さずに持ち出せば、色々な罪状で見せしめかのように、莫大な罰則金を支払わなければならない。

事務所ではまず初めに、検品屋にドロップアイテムを渡す。

不純物が付かないように磨き上げ、変な物が混じっていないか検査するのである。

その速度たるや圧倒的な速さでの作業スピードだった。

黒ずんだ鉄の鎧が眩い銀色光を放ち始める、鉄とは磨けばこんなにも綺麗な輝きを放つ物質なのかと思い知らされる。

あ、自分が回収した鉄のナイフが不良品としてハネられている。

淡い紫色に輝いている刃先には、魔術的な付加効果エンチャンターが付与されていたのであろう。付加効果エンチャンターのアイテムは金属としての価値は恐らくは無いようだ。

数十人の検品屋が作業を終えるまで数十分であろう、その間に作業報告書を書いておく。

何時から何時まで仕事をし、どの程度回収したという報告書である。

1日の仕事終わりに課長に提出しなければならない。

「新人5。手に入れたボーナスは、国に提出する事前申告書を書く事に成っている。書類はこれだ、書いて課長に提出しておけ」

宝箱を勝手に持ち出したり、使ったりしたら、国から起訴されて罰金を払わなければならない。

丁度検品屋が作業を終えたようだ、換金額が書かれた書類を渡された。

これとセットで作業報告書を提出するのである。差異が有ると書き直しし、気付かないで提出し通ると組織的な横領に成ったりと色々面倒な事になるのだ。

「お疲れ様です。まず新人4君の報酬は32金貨ダカットです、確認して下さい」

32金貨ダカットなかなかの稼ぎだ。

物価の高い王都ならまあ、それくらいの収入が無いと食うに困るのだ。

新人は嬉しそうに1枚ずつ、机に置いて数えている。だがベテランの自分は知っているこの後がっかりとする様を。

「では明細書と差額分の10金貨ダカットです、確認して下さい」

新人の手が震えていた。納得が出来ない気持ちであろう。

国税、地方税、ダンジョン組合費、共済保険費、それに新人は武器の支給控除費も引かれ、更には今日契約した傭兵屋の支払いの所得の2割引きで、手元に残るのは3金貨ダカットなのだ。

所詮は底辺職場である搾り取れるだけ搾り取るのである。

因みに自分は諸経費を引いて32金貨ダカットで、傭兵屋の娘に13金貨ダカットを手渡す。

命を張ってるのにこの少なさは、誰でも出来る簡単な仕事らしい、安っぽい額である。

「皆さん、お仕事お疲れ様です。ここ最近受注量が増えて、納期遅れが日々深刻化しています。早出出勤、残業などで対応して貰えると非常に助かり・・・」

この後は、課長の長話を聞いてやる。

毎日身体に気を付けて出勤しろ、身内の不幸意外で休むななどだ。自分の顔を見て言うあたり、3日後に休みを取ることによっぽどご不満のようだ。


とは言え仕事は終わった。仕事が終わったら、酒だ。



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