第2話作業時間

どさっと黒い影が倒れるのが見える。ダンジョンは薄暗いからハッキリとは視認出来ないが、あのサイズは多分ゴブリンであろう。

「ひ、人だったらどうするんですか?殺人罪になりますよ!」

新人達は青い顔をしていた。彼らはダンジョンというシステムを理解していないようだ。仕方ない此処は先輩としてアドバイスしてやろう。

「お前ら治外法権って言葉を知ってるか?」

新人達は首を横に振る。

「つまりだ、ダンジョンで人をぶっ殺そうが無罪だ。死体も残らないしな」

ダンジョンで働く人間は基本的にバカしかいない。多少の難しい言葉さえ言えば先輩風を吹かせられる。そんな事より獲物だ、あれは自分が仕留めたのだし当然自分の取り分だ。

全身に黒ずんだ鎧を身に包み、鈍い銀色光を放つ片手剣を持った生き物が息絶えている。

ゴブリンソルジャーと呼ばれる生き物であり

当たりの分類だ。自分は馴れた手つきで装備品を剥ぎ取ると、鉄の鎧と鉄の兜と鉄の剣を手に入れた。台車にそれらを乗せるとズシリとした重みが伝わる。さて前進だ作業場までまだ距離が有るのだから。

「今日はここで採掘しますか~!」

班長のハツラツとした声が響き渡る

「「ういーーす」」

全員が台車を置き始め円陣を組む。まぁ採掘と言ってもツルハシを持って鉱石を掘るのではない。ダンジョンが生成した生物の金属を採集するのが自分達の仕事だ。

「3番く~ん元気無いじゃないかよ~」

班長が小突きながら獲物に銃口を向けて発射する。周りからはドン!ドン!と銃声が響き渡っている。

「はぁ~そうですか?まあまあ....ですね」

自分は長い間ダンジョンで仕事をして気付いた事がある、ダンジョンで働く人間には2種類しか居ないと、底抜けに考えなしの明るいバカか、底無しに考えすぎて鬱になる暗いバカだ。前者が班長で後者が自分だ。

「班長。ソロソロ回収行きたいんすけど」

1番が提案してきた、獲物のドロップ品の回収作業に移りたいということだ。

「う~んそうだねえ~」

班長は周りを見回した後に指示を出す。

「良し!行こう~!全員着剣用意~。着剣」

全員が銃にナイフを装着し始める。これには理由があり、自分達が使用している銃は威力が高いが近距離で撃つと自身が巻き込まれる可能性が有り危ない。近距離には白兵戦で対応しなければならない。

「横列散開!確実連携せよ~」

班長の号令と共に確実散り始める。ダンジョンの採掘工員にとって回収作業は最も危険な作業なのだ、ドロップ品の回収作業に集中するため周りが見えなくて強襲を受ける事も度々あるのだ。

「回収開始します!」

回収する方は命懸けだ、自身の回収テリトリーの作業進捗度を逐一報告しなければ成らない。

「「了解監視します」」

監視作業の責任は重大だ。回収作業員の分だけ戦力が低下するのでしっかりとやらないと、回収作業者が最悪死んだりするからだ。自身がカバー仕切れない状況なら即回収作業者を下がらせる判断をしなければならない。

基本的にこの作業はツーマンセルで行う、自分の相方は班長であり長い間組んでいるのでお互いに連携しやすい。

周りにはスケルトンやらオークやら様々な生き物の死体が散乱していた、回収作業において新人とベテランの差は、回収速度の差と言っても過言ではない。例えばスケルトン系なら楽に作業が出来るが、オーク系などは重いためそれ相応の時間が掛かる。要は如何にして無駄なく効率良く動けるかである。

「回収進捗度は大体60%」

自分は相方の班長に進捗度を報告する。こういう細かい報告が監視作業者には有りがたいのだ。

「了解~!あ、3番く~ん50度の方角から殺気がするよ~。あと正面からわんちゃんが来るよ~約30秒で接敵かな?どうする?下がるかい?」

わんちゃん…コボルトかなんかか?まあいい、迎え撃ってやる。

「了解、問題無い作業を続ける。」

とりあえず50度方角に射撃し当たればラッキー程度の牽制をする。ギリギリまで回収し敵が接敵するのを待つ。敵を目視した瞬間銃剣をコボルトと思わしき獣に突き立てる。銃剣を食らった獣は動きが鈍くなる、その隙に腹部へ再度銃剣を突き立てる。引き抜く際は手首を左に返し次いでに蹴りを入れるその反動で引き抜くのだ。また手首を返す事で傷口をより複雑化にし致命傷を負わせられる。

キャイーンと鳴いて手負いの獣は逃走していく、あの出血量なら長くは持たないだろう。

「お見事。若いっていいねぇ~僕には白兵戦なんてむりだよ~。じゃあ作業を交代しようか」

班長の回収速度は自分よりも速く、1回の回収で今日のノルマは達成された。

自分達の作業に余裕が有るなら、他の作業員のヘルプに入らなくては成らない。給料は出来高制でも、チームとして行動しなければ成らないのだから。新人達が苦戦しているようだからヘルプに入ってやった。

パン!パン!

突然後ろから手をたたく音がした、皆一斉に音の方へ振り向くとそこには団体客が着ていた。

「お疲れ様です。皆さんお昼休憩ですよ!」

どうやら弁当屋が着たらしい。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る