ヴィエンヌでの日常生活!

第27話 ヴィエンヌでの日常生活?!

 俺達の体験したお化け事件から数日後の事だった。穏やかな日差しの中ヴィエンヌ城の中庭で俺、サギ、ウギ、ヴァルそしてマギがのほほ~んとした休みをおくっていた。別段サボっていたわけでは無い、単に毎日のヴィエンヌ街における警護業務の日課の中でチームラリーにたまたまの休みが当てられた日だったわけで、日がな皆やることも無くそれぞれが何となく仲間のところに顔を出してそうして是も何となく中庭に全員が集まってきただけだった。

 そんな中で俺はウギの二刀流の剣の練習相手をしていたが其処にサギがひと言ぼそっとつぶやいたことが切っ掛けだったわけだ。

「ね~ぇラリーっ! なんかこうドキドキすること無いかしら?」

「は~ぁ、そんな事をいきなり言ったってねぇ――マギなんかあてがないかい?」

「へ~ぇ私に聞くのか? 其れを?」

 そう言うマギが何をしていたかと言えば中庭のパーゴラの日陰の中で読書をしていたんだった。

「ね~ぇ、マギっ――何を読んでいるのょ? ぇろい奴っ?」

 サギが何か変な聞き方をしてくる?

「サギ、あのね~ぇ私だって真面目な時はあるのよ――て言うか、ぇろいのはたまにでしょ! んもう」

「なんだ、ウギの本はエロ本では無いのじゃな。わらわもマギならその方面の知識を真面目な顔をして読んでいると思うたぞ」

「あのね~ぇ、あなたたち私を思う存分誤解していませんか! 酷すぎますわ」

 そうマギが膨れっ面をしながらサギとウギに大いに抗議をしている。と、マギが読んでいた本の表紙を皆に突きだした。

「ほら、『魔界の淑女のあり方――基本編』 って書いてあるでしょ! 良く見なさいよ」

 確かに、其処には表紙に金色の文字色できらびびやかに光る題名がしるされていた。

「あっ、ほんとだ――でも魔界の淑女ってどういうことなの?」

 サギがここぞとばかりに食いついてくる。

「ん~っ、まだ読み始めた所だからそんなにわかっていないんだけど、まあ言うなれば男性の興味を引く為のしとやかさと気品のある振る舞いの仕方かな」

「マギっ! やっぱりもてる為じゃないの――(ラリーのニブチン対応に効果ある?)」

 最後の方に何か聞き捨てならない事を小声で言っていた気がするが――はて?

「(らりーの女性対応は言い得て骨董品レベルだからね)――参考にはならないわね」

 こちらも何か小声で俺の事を馬鹿にしているように思えたが……。

 そんなやり取りをしているとウギがハタとひらめいたかのように左手でポンと手を打った。

「サギにマギ、どうじゃ是からラリーを如何いか蠱惑的こわくてきたらし込むかで勝負といかぬかのぉ」

 おいおいウギ、当人の目の前で其れを言うのはどうかと思うが……やるのか? 本当に! しかもたらし込むって言葉は――ね~ぇ。

「それっ、面白そうっ! やろう!」

 速攻でサギが身を乗り出しながら参加表明してくる。

「ラリーはどうなの~?」

「どうって言われてもな~ぁ」

「じゃあ、良いわよね――やろっ!」

 そうマギもその気で俺を引き込んできた。

「じゃあ、決まりだの。 一時後ひとときごにそれぞれ用意して街にくりだそうぞ」

「ルールはどうするの?」

 ウギの開会宣言の後サギが実質的な段取りの調整に入ったところでマギから提案が出た。

「ひとりひとりラリーとデートして誰が一番心に残ったアプローチをしたか選んで貰うの――どうかしら?」

「『それいい!』」

 残りの二人の意見が一致してルールが決まったようだが――結局、お鉢は俺に回ることになるのか~ぁ。

 項垂れるようにその場にしゃがみこんでしまったよ、俺は!


 その後、それぞれ街の中で待ち合わせ場所を俺とだけ決めて各々部屋に戻って、身支度の時間を取るようだった。俺としても下手な格好では出られなくなった為、部屋に戻って着替えることにした。

 “みんな、脳天気なのかしら?”

 ヴァルの魔力念波のつぶやきは誰の耳にも届かなかった。


 最初は言い出しっぺのウギからだった。ウギとはヴィエンヌ城下の賑やかな通りでの待ち合わせと相成った。

「お待たせなのじゃのぅ、ラリー」

「おおぅ――その格好は! えっ!」

 まさにウギの服装はメイラーさん仕様のメイド服だった。しかもウギのB88,W59,H86体型にピッタリと合わせて短めのスカートから覗く脚線美と大胆にカットしてある胸元の白き素肌が眩しかった。

「いつの間にそんな服をこしらえたんだ?」

「んっ、メイラーさんと仲良くなっていろいろと話しをしてたらメイド服がわらわに似合うかのぅと言う話になってじゃ――その時作って貰ったのじゃ。まあ、スカート丈はわらわの要望で短めで動きやすくして貰ったのじゃが、その~ぅどうじゃ似合うかのぉ?」

「ああ、ばっちり似合うよ。可愛いし――その脚線美が何とも言えず綺麗だよ」

「えへへへ――っ」

 ウギは咲きこぼれる様な満面の微笑みを浮べながら俺の右手に絡みつく様にその身体をあずけてきた。Fカップ(昨今Gカップ化してたか?)の胸元が俺の腕に当たってそのたわわで柔らかな感触に頭の中が沸騰しそうになる。

「ほう、ラリーもわらわの乳房に触れられる耐性が少しは出来てきているようじゃのぅ、良い事じゃ」

 そう言うとウギはボ~ッとしていた俺を無理矢理引っ張って街並みに沿って歩き出した。

 その後は他愛たわいも無い話しをしながら出店で一本の串焼きを買って二人で交互に食べさせながら歩いたり広場で大きな木の下でウギの膝枕で寝かせて貰ったりと何だか普通のふんわりしたデートを楽しんで別れた。

「じゃ、ラリーっ! また後でなのじゃ」

 ウギはそう言いながら足早にヴィエンヌの城に戻っていった。俺は幸せな時間過ごさせていくれたウギのその後ろ姿にただ見惚れていた。


 サギ、ウギ、マギらひとりひとりラリーとデートして誰が一番心に残ったアプローチをしたかを競い合うなどと何故にそう言う状況に陥ることになったのかはまったく俺の思惑をかんがみない三人の勝手な行動のたまものだったが、ウギとのデートは俺としても楽しい時間を過ごしたことは間違いなかった。そんな気持ちを残してウギとのふんわりデートの時間は終わりを迎えた。

 次に待ち合わせをしたのはマギだった。待ち合わせ場所は酒場で言うなればショットバー的な店の中だった。彼女は既にその場所のカウンターでひとり、グラスワインを片手にほろ酔いで俺の事を待っていた。

「あらラリー、ウギとのデートはどうだった?」

 マギはドレッシーな服装でその栗色の髪もアップで決めて、うなじの色気がその場の男性の注目を一身に集めていた。なので俺がウギの隣に席を取るとあきらめともつかぬ深い溜息とどんよりとした空気がその場を包んだ。

「まあ、そのことは後での感想になるよ。で、あっ――俺もグラスワインをひとつ」

 カウンター越しにバーテンダーのおじさんに酒の注文をしておく。

 周りを見渡すとお昼過ぎのまだ日も高く早い時間だったのでお客の数はまばらだった。それでも男同士の席からは俺の方をうらやましげに見つめる視線に刺さるような殺気が乗っかってそれがやけに痛かった。

 俺の前にもグラスワインひとつ置かれ其れを手に取ってマギのグラスと軽く突き合わせて乾杯をする。

「じゃ、ひとまず今日のデートの合図として……」

 そう言うとマギがちょっと引き攣った顔をして文句を言ってきた。

「もうちょっと気の利いた台詞は無いのかしら? まあ、ラリーに其れを求めるのは酷かな!」

「ぐふっ!」

 マギのその一言に俺はワインを喉に詰まらせてせ返した。

 マギは俺の背中をさすりながらにんまりと笑いそしてこう返してきた。

「外で二人っきりで過ごすのは初めてだね――優しくしてね」

 そう言っていろめいた笑みを浮かべながら俺の肩にその頭をゆだねるように載せてくる。フワッとした髪が俺の頬を柔らかく撫でてくると共に匂い立つ香りが俺の鼻腔をくすぐる。

「マギっ、食事にでも行かないか?」

 ちょうどお昼の時間は少し過ぎていたが軽く食事をしながら会話でも楽しもうと提案する。

「んっ! そうねいいわよ」

 マギの了解があって俺はグラスを一気に飲み干すと会計を済ませにいった。


「ウギには悪いけど右腕をかりるわね」

 店の外に出るとそう言ってマギが俺の腕に絡み付くようにその身を寄せてくる。俺の腕はマギの胸の間に抱きすくめられたまま抜き取ることもままならず、そのまま二人で食事をする為に次の店へと歩き出した。

「うふふっ、こうやって二人で歩くのも初めてだわね――何か新鮮!」

 目眩がするほど艶めかしい笑みを浮かべてマギが俺に微笑む。

「そ、そっか……いつものことのように思えるがなぁ~」

 マギを直視出来ずに顔を背けながらそんな風に応えた。

「あら、私の記憶には無いからそれはサギかウギとって事ね――ふ~ん」

 まさに言質を取ったとでも言わんばかりのしたり顔で更に俺の腕に絡み付いてくる。押しつけられたマギの胸の柔肌の肉感が右腕に更に強く伝わってきて俺の理性が惑乱し掛かかったころに目的のお店の前に辿り着いた。

 扉を開けてマギをエスコートする。食堂の中はちょうどお昼時の忙しい時間を通り越したので此方の店もほぼ俺達の貸し切り状態のように空いていた。

 二人での来店を確認した店の人が窓際の見晴らしの良い席へと案内をしてくれた。

 先程の酒場でもワインを飲んでいたので、食前酒としても再びワインを注文しておく、後はお店のおすすめに従って食事を頼んだ。マギのグラスにワインを注ぎながらたわいも無い話しを進めて行く。二人で談笑しながら暫く待っていると食欲をそそる香りを撒き散らしながら食事が運ばれてきた。

「美味しそうだな。此の店は初めてだからどんな料理が出てくるのか楽しみだ」

 運ばれてきた料理に目を奪われながらもマギの目を見つめてそんな台詞を吐いた。するとマギはその言葉にに驚いたように俺に聞いてきた。

「サギとも来たことが無いの? 此のお店に?」

「無いよ――さっきも言ったろ、初めてだって」

「ふふ~ん、初めてなのね」

 ぼそっとマギが呟きながらニッコリと笑ってきた。

「んっ!」

「ううん、何でも無いわ」

 そう言うと目の前に並べられた料理を口に運び始める。

「ほんと、美味しいわ」

「そっか、其れは良かった――じゃ、俺も頂くとしよう」

 そう言いながら二人して料理に舌鼓を打つこととした。

 美食を前に二人の会話は更に弾んだ。にこやかな雰囲気の中マギの妖艶さも甘美なスパイスとなって楽しい時間を此処でも過ごすことが出来た。

 満足感たっぷりの食事のあと二人でお茶をたしなみながら今までの出来事の中からお互いに心に残る事柄を思い出すかのように喋り会った。

「俺はマギとの最初の出会いがやはり印象に一番残るよ――だって蜘蛛だぜっ」

「其れは何かもう忘れて欲しい黒歴史かな、私にとって」

 そう言いながら片肘で頬杖をつきながらそっぽを向くように窓に方に視線を反らせた。

 その仕草はふて腐れているようにでもあるが懐かしんでいるようでもあった。

「まあ、其れが無かったらラリーともこうやって美食を挟んで会話をする事にもならなかったわね」

 マギの遠くを見る目がちらりと此方を覗き込むのがわかった。

「そう言うことかな――じゃ戻りますか、お城に」

「あら、サギとはお城で待ち合わせなの?」

 そこから先は秘密遵守と言う事で目を逸らしながら答えをはぐらかした。

「ふ~ん、そっか――サギがね~ぇ」

 引き攣る俺の顔を見つめるマギの顔は是はしたりと思ったのかニヤッと笑っていた。


 会計を済ませて店を出ると先に出ていたマギが俺に向かってきっちりと姿勢を正した形から凄艶な空気感をまといながらも綺麗に頭を垂れてお辞儀をしてくる。

「ラリー、ご馳走様でした――また誘って下さる?」

「ああ、何時でも――マギの都合に合わせるよ」

「有り難う、じゃぁ行こう」

 そう言ってマギは再び俺の腕を取ってにこやかな微笑みと共に歩き出した。

 満足したお腹を俺はさすりながらマギに引きずられるようにお城への帰路につくのだった。


 ウギ、マギらひとりひとりとデートをしてそろそろ日も落ちかかってきていた。真っ赤な夕焼けがお城の白い城壁を真紅に染めていく。そんな場所で最後にサギと待ち合わせをしていた。貴女かのじょの指定場所はまさかの場所だった。

 俺はお城の最西端にある塔の中の螺旋階段をゆっくりと上っていた、その塔は火の見櫓みやぐらの役割も担っていた為、お城の中で最も高い建物で有りしかも西側の突端に位置していた事から別名、夕日見櫓ゆうひみやぐらとも呼ばれていた。

 最上階に辿り着いた、サギからは『夕日見櫓の最上階に夕日が落ちる前に来てね』と言われていたが……サギの姿は其処には見当たらなかった。はて? 伝言を聞き間違っていたのだろうか? そう思うと一抹の不安をおぼえる。

 その時、頭上から俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

「ラリー間に合ったみたいね――こっちこっち!」

 やぐらの上を見上げるが其処は天井の壁があってその上は見渡せない、仕方なしにやぐらの周りを囲ってある手摺てすりからは身を乗り出して屋根の方を身体を捻って見上げてみた。

 果たして其処にサギが居たのが見えた。

「サギ其処そこでいったい何してるんだ?」

 素朴な質問を投げかけてみた。

「此処で私、洗濯でもしている様に見えて? ――決まっているわ景色を眺めているのよ、ラリーもくるでしょう」

 そう言うが早いかサギが上から縄梯子なわばしごを垂らしてきた。

 其れに掴まって屋根に登った。

「ほらっ、ラリーのグラスもあるわ。どうぞ!」

 サギはワイングラスを俺に渡すとワインを勧めてくる、サギの前にグラスを差し出すと其れになみなみとワインを注いでくれた。

 やぐらの屋根の上は少し傾斜がキツいが座れない事は無かった。二人並んで腰を下ろし立てたひざを両手で抱える様に座った。そんな俺にサギは左肩を俺の身体にピッタリと付けてくる、貴女かのじょの温かな体温を間近で左腕に感じる程その身体を沿わしてきた。

 二人の持ったグラスを軽く突き合わせると『カーンッ』という乾いた心地よい音が火の見櫓から空に響き渡った。

「夕日が綺麗でしょう」

 そう言うサギはその赤い夕日を全身に浴びて真っ赤に染まりながら、たおやかな風になびくその美しく輝く髪を手で押さえて俺の方に微笑みかけくる。その姿に見惚れながらただサギの問いにうなずくだけだった。

「なんだ、心此処にあらずって顔をしてますわよ――夕日なんて興味なかったかしら?」

「あっ、ごめん……サギの姿に見惚れてました」

「えっ!――馬鹿んっ!」

 と、多分サギは頬を真っ赤に染める様に照れているはずだが、夕日の色に遮られて、この時ばかりは天はサギの味方だったようだ。

「……でも、ありがとう、嬉しいわ」

 抱えた膝の間に顔を埋めてサギがそうつぶやいた。


「『それじゃ乾杯っ!』」

 グラスを片手で持ち上げながらお互いの事を見つめて再度グラスを突き合わせた。

 グラスを口に運びひとくちワインでのどを潤した。

「サギは此処に良く来るのか?」

「ううん、まだ二回目――最初はメイラーさんに連れてきて貰ったの、そうして今日が二回目よ」

「そっか、それにしても良い眺めの所だね」

 高台に位置するヴィエンヌ城において最も高い建物と言われている火の見櫓みやぐら、其れも東西のやぐらで東の出見櫓でみやぐらと西の夕日見櫓ゆうひみやぐらのひとつである。

 そうこうしていると夕日が眼下に落ちる様に地平線に隠れ始めた。其れと入れ替わる様にゆっくりと夜のとばりが落ちてくる。

 宵闇に合わせてサギが俺の肩に貴女かのじょの頭をゆだねる様にしてきた。

「此処は忘れられない場所になりそう。ほんの短い間にいろいろな事が起きて今思うとまるで夢のようね、でもみんな本当に起こった事なのね不思議な事に……ウギやヴァル、そうしてマギに出会ったわ」

「ああ、そうだね」

 少しほろ酔いでそううなずくと俺はサギの方を見た、サギの方も頬を朱に染めて若干お酒の酔いが回っているような表情を浮かべながらも真剣な顔つきで俺のことを見ていた。そうして前を向いてゆっくりと語り始める。

「でも、やっぱり一番はラリーと出会えた事かな、私としてはね。今までも色々な事があったし良いことも悪いこともあったわ、闘いは必要悪として自分の気持ちを切り替えて生きてきたの強くならなきゃって自分に言い聞かせて生きてきたわ、其れはやはり両親が戦争で犠牲になったというつらい経験からかな、そんな中でラリーはひとりで生き抜いてきたのに全くそう言う素振りを見せないじゃ無い」

 サギはそう言いながら俺の方に顔を向けて真剣な眼差しで真正面からまじまじと見つめてくる。

「衝撃的だったのそんな人に今まで会ったことが無かったから、人を恨むことを知らない無垢な心の持ち主があなた、ラリーなのね」

 そう言ってニッコリと微笑みかけてくるサギの目にきらりと光る涙が見えた。

「俺はそんな聖人君子みたいな人間じゃないさ、サギっ! 買い被りすぎだよ」

 サギの頭を左手でくるむように抱き寄せてそっと貴女かのじょの髪の毛をすくう、指の間からサラサラと高原の湧き水の如くこぼれ落ちるその金色の流れは夕日に照らされてキラキラときらめいていた。

「あ~んっ、ラリーそんな風にされたらなんか変な気持ちになっちゃう」

「あっ、ごめん」

 俺はおもわず手を止めて貴女かのじょから離れた。

「あっ――そう言ってまた直ぐに何でも謝るんだからっ、知らないっ」

 俺はまた間違いを犯してしまったようだった。ぷくっと膨れたサギの横顔にそっと口付けをする。

「えっ――そっちですか」

 ビックリした顔つきでそう叫ぶと俺の方を向いてその白魚の様な両手で俺の顔を挟んで動きを固定されてしまう。と、サギの唇が俺の方に急接近してきたかと思うとそのまま唇を重ね合わされてしまった。

 夕日が完全に地平線に落ちて暗闇が二人を包む。お互いの表情が見えない中で長いこと重なった唇だけが相手の気持ちを受け渡す唯一の接点となっていた。

 息が出来ない時間が過ぎて二人とも大きく深呼吸をする為にやっと唇を離し始める。

 深い吐息のあとでどちらとも無く次の言葉が出てくる。

「帰ろうっか」

 取り敢えず誰が一番かなんて絶対に言えないことだけは俺の胸の中に既に出ていた。


 夕日見櫓ゆうひみやぐらからの帰り道、俺はサギと並んで歩いていた無論、サギに腕を組取られているわけで貴女かのじょは終始ニコニコとした笑顔を振りまきながら俺の左腕を両腕でしっかりとその胸の前に抱き締めていた。

「ねえラリー、結局のところ三人のうちで誰が一番心に残るアプローチになったのかな?」

 単刀直入に本題に切り込んできた。

「今、此処で言うのは紳士協定にそむく思われますが……えて聞きますか?」

「だって私、男じゃ無いもん――じゃあ~いいでしょう」

 紳士協定の紳士は性別を意識した表現では無いと思うが……。

「それじゃ淑女協定と訂正しておきますかね」

 淑女協定としておくと誰とは言わないが対象外のメンバーが出てきそうでもあるがあえて此処は突っ込まないことにしておく。

「う~ん――それじゃマギが外れない?」

 あなたが其れを突っ込みますか? と、口をポカーンと開けたままサギの顔を思わず見つめてしまった。

「あっ! 今の無しね! 忘れて下さい!」

 そう言ってサギはペロッと舌を出して肩をぼめてみせる。その反応に俺はおもわず深い嘆息を吐いた。

「あのね、冗談ですよね――サギさん!」

「んっ! 冗談です!」

 今度は即答で帰ってきた。

 そんな掛け合い漫才みたいな会話をしている間もサギは俺の腕をしっかりと抱き寄せて離さなかった。

「そろそろ腕を放して貰っても良いですか」

「え~っ、駄目っ!」

 此も即答。

「ラリーったら、口づけは拒まないのに腕を組んだり抱き寄せて歩いたりする事はしてくれないのよね――其れってどうかと思うんだけど」

「そうですか? まあ、言われてみればそうかも知れないな」

「どうして?」

「う~ん、何か女性の躰に触るって言うのはドキドキしますからね」

「それが良いのよ――で、口づけはドキドキしないの?」

「しますけど、其れって気持ちの持ち方って言うかお腹がいっぱいの時のお菓子は別腹って言うか……」

「んんっ! なんか変っ!」

「変ですか?」

「そう、変っ!」

 完全に変っ! と断言されてしまった。おもわず肩を落として項垂れる様にしてその場に立ちすくんでしまった。

「変だから私が直してあげるの――良いでしょ! まずはこの左腕を私の腰に廻して抱き寄せる様にして歩きましょう」

 そう言うが早いかサギは俺の左腕を貴女かのじょの胸の前から肩越しにくぐる様に廻して腰回りをかかえさせる。その時サギの引き締まった腰のくびれに直に触れて俺はおもわずドキリと赤面した。

「そうそう、そういう風にエスコートして――んんっ、はぁ~ん」

 俺に腰回りをぐぐっと引き寄せられてなのか――サギが甘い吐息を吐いてくる。

「んんっ、や、やれば出来るじゃ無い」

 貴女かのじょ(かのじょ)も頬を朱に染めながら俯き加減でそうつぶやいた。

「こうですか?」

 更に貴女かのじょ(かのじょ)の腰回した手を引き寄せるようにしてサギを抱き寄せた。

「ああぁっ~ん、そう、そ・う・よ」

 取り敢えずお墨付きは頂いたようだったのでその体勢で歩き出した。

 サギは頭を俺の左肩にゆだねるようにして身体を預けてくる。其れを支えるように更にサギを抱き寄せる形になると自然に顔同士が寄り添うように近づいて貴女かのじょ(かのじょ)の吐息が耳元に優しくかかってきてささやくように甘い感触が残った。


 ふたりで寄り添うように歩きながらヴィエンヌ城の外壁沿ってのその周りを歩いていた。夕闇が二人の姿を隠してくれるので人目につくことは無かった。それでも漏れ出る『闘気』と『覇気』を感知して見つけてきたのか二人の行く先には二つの影があった。

「お二人さん、ちょうど時間よ――さてと、ラリー今日一日のご感想は?」

「そうじゃ――わらわとの逢い引きの時間が一番であろうぞのぅ」

 マギとウギは俺の判定結果を聞く為に探しにきていたようだった。

「――其れなんだが……引き分けでいいかな?」

「「『え~ぇ――やっぱりそう言うと思った』」」

 三人が声を揃えて叫けんだ。

「いや~さ、三人ともそれぞれ楽しかったし――そもそも比較しようが無い事ですよね」

「まあ、ラリーのそう言う結論は元から解っていたことだしね――女性がらみは優柔不断だもん」

 サギが白眼視しながらそう言いきってくる。

わらわは楽しかったから別にいいのじゃ――また二人きりでのデートをして欲しいかな」

「そうね、今回はランチだったから次はディナーで――そのまま夜を二人きっりで過ごすのは良いわね……サギ今度は私が“取り“だから――いいでしょう」

 おいおい“取り“とか――俺とのデートは年末国民行事と一緒か? そう心に思っていると三人とも同時に振り向いて声を揃えて叫んだ。

「「『ラリーのこと好きなの!!』」」

 その迫力におもわず後ずさりしてしまった。

「まあ、今回はみんなでドローと言うことで――引き分け罰ゲームはラリーに決定っ!」

「えっ! 罰ゲームって? 聞いてないよ」

「「『だって言って無いもん』」」

 なんか一段と三人仲良くなってないかい? 此処まで揃ってハモるとは。

「じゃあ――汗を流しに地下温泉に行くのじゃ、わらわ達がラリーをしっかり洗ってあげるのじゃぞ」

「「『――お~っ!!――』」」

「おい、罰ゲームって!」

「ラリーは鼻血を出して倒れないように頑張ってね――私達が全身全霊で余念無くサービスしてあげますわよ、ねっ!」

 そのあと皆に腕を組まれて逃げ出すことも叶わないまま地下温泉に連れられていったのは言うまでも無いことだった。

 その後の出来事はご期待にそった結果となったかどうかは……ご想像にお任せします。

 こんな日常をヴィエンヌ城で過ごすことも時にはあって良かろうと最近は思い始めていたよでも、そろそろ聖都テポルトリに帰還する時期を確実に迎えてきているのは皆、認識し始めていた。

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