第25話 ウギの小太刀の威力!

 ウギが部屋から逃げ出す様に去ってった後、俺は椅子に座りながらも気持ちよさげに寝入っているマギと二人っきりでマギの部屋に残っていた。

 いくら気持ちよさそうにしているからと言っても椅子に座ったままではいつ転げ落ちるとも言えないので彼女を抱き上げてベッドに寝かせておくことにした。

 俺は椅子から立ち上がってマギの傍らに赴き、そして彼女を胸の前にかかえる様に背中と両膝の裏に手を回してゆっくりと持ち上げた。その仕草に呼応する様にマギは俺の胸元に顔を寄せながら両手を首に回してきた。

 マギの吐息が耳元に静かに掛かってきて少しくすぐったかったが其れに気を取られたら彼女を落としてしまいそうになる。気を引き締め直してマギを抱え直した。

 テーブルからベットまで十歩ほどだったがマギの整った相貌と艶やかな栗色の髪の毛に見とれて足が止まっていた。そんな事をしているとマギの唇が耳元に近づいてきた。

「ね~ぇラリーっ……このまま二人で一緒にベットに入る?」

「……っ!」

 起きたのか? マギっ!

 俺はおもわず顔をよじってマギの顔をまじまじと見つめた。其処にはにこやかに微笑んでいるマギの顔があった。

「お姫様抱っこって――される方は雲の上に乗っているみたいなのよ、ふわふわして気持ちいいしラリーの匂いが安心感をもたらしてくれるのね」

 そう言いながらマギはギュッとその腕を引き締めて俺の首筋に更に強くしがみついてきた。

「うふふっ――抱っこして貰った数ではサギやウギに勝っているわよね、わたし!」

 そう言うと更ににこやかに微笑みを返してくる。まさに花が咲き誇った様な美しさに魅了された俺がそこに唯々突っ立っていた。

 そういう時間がどれだけ過ぎただろう――ハッと我に返ってマギに笑いかけながら俺は答えた。

「マギ、悪いなぁ――まだ俺は君に酔いしれるわけにはいかないんでな」

「あ~ぁ、まだわたしの魅力が足りないのかしら――本当にラリーはいけずなお人やわぁ」

 マギが頬をプクッと膨らましながら半眼で俺の事をにらんでくる。しかしマギさんその言葉は何処の人?

 そのままベットまで歩いてマギをそおっと降ろした。が、マギは俺の首に回した手を離そうとはしなかった。ベットの上でマギの顔の真上に俺は覆い被さる様な格好で止まったままの時間が過ぎていく。

「マギさん、そろそろ離してくれませんか――俺も腹筋が痛いんで」

「我慢しなくても良いのよ、そのままわたしにし掛かってくれても」

「おいっ!」

 マギのひたいを指で軽く小突こづいて俺は彼女の腕から逃れた。マギはあ~ぁってな顔をしてペロッと舌を出した。そんな様子もなかなか愛らしく名残惜しかったが。

 ベットに横になった状態でマギはまたうつらうつらし始める、よほど魔力を消費したと見える。

 マギの耳元で彼女におやすみを言ってその場を俺は離れた。


 取り敢えずウギの目的は達した。あとはその小太刀こたちに魔力を入れ込むだけだったがその後ウギはどうしただろう?

 俺はマギの部屋を出てウギの部屋へと急いだ、しかしウギは其処にはいなかったようだ。ウギの部屋の扉をノックしても返事が無かった、部屋の中にもウギの『気』は感じ取れない。そうすると後はサギを頼ったか? それともヴァルと出かけたか? どっちだろう?

 俺はサギの『気』を城内に探してみた、すると中庭にその痕跡を感じた。ひとまず中庭に出向いてみることにした。

 中庭におもむく途中でサギの傍にウギの『気』も同時に感じることが出来た、しかもいつもの魔力とは少し異質に思えた。その『気』の発生量がみるみるうちに増大していく――なんだなんか変だぞ?

 俺は異変を感じて駆けだしていた。でも、ウギの魔力気の膨張は止まる気配を見せなかった。

「ちょっとこれは……」

 うなる様に俺の口から不安が漏れ出る。


 中庭に通じる通路を抜けると其処に大きな扉が二つあった、そのひとつを駆け抜けてきた勢いに任せて俺は押し開けた。と、俺の目に飛び込んできたのは全身びしょ濡れで呆然ぼうぜんとしていたサギとウギの二人の姿であった。サギは目を見開いた状態で唖然あぜんとした顔をして俺の方を振り返ってきた。

「ラリー、すごいのっ」

 脈絡の無いサギの言葉が耳に入ってきたが……何が? と、問うまでも無く直ぐに何が起きたか解った。

 中庭には此処ここの豊富な地下水脈を利用して大きな池と噴水が設置されて並々とした水を湛えながらその美しい景色をいろどっていたはずだが――その池が完全に干上がっていた。しかも、中庭に這入り込んだ瞬間からむわ~っとした湿気がねっとりと身体にまとわり付いてきて、まるでサウナに入ったような感覚におちいっていた。

 サギの目の前でウギが小太刀こたちを抜刀したままの状態で固まっていた。ウギの手の中の小太刀こたちの刃の先はちょうど噴水のある池の方を向いてきた。そしてその小太刀こたちは真紅に染め上がっている、まるで血潮にまみれたやいばの如く。

 俺が這入ってきたことにウギも気付いて俺の方に視線だけを向けながら口を開いた。

「何だかわからないがのぅ――わらわの身体の中から熱いものがたぎってそのまま刀に流れていったのじゃ、このさやに入ったままで、で……サギに小太刀こたちの刃を見せようとしてさやから抜いたら何故なぜかこうなったのじゃ――刃先から真っ赤な魔気が爆発するように出て行ったんじゃがのぅ、池の方にそのまま飛び出していったの――そこでバンーッてなったの」

 ウギの言葉が――だんだん幼児化していった。どんだけビックリしたんだか、まったく! 思わず俺は苦笑していたよ。

「あっ、ひど~ぃんだラリー、いま笑ったでしょう」

 サギがプクッと頬を膨らませて文句を言ってきた。

「わるい、安心して気が抜けた――でもなあ、ウギその『気』がサギの方を向いていたらどうなっていたか――反省はしているよな?」

「うん、わかっておるのじゃ」

 ウギが項垂れながらそう言って首を縦に振っていた。


 中庭で起こったことはなんて言うことはない、所謂いわゆる水蒸気爆発みたいなものだろう。

 ウギの発した魔力の熱気の塊が池の水にぶつかって一気に水を沸騰させたことにより蒸気圧の上昇で水をすべて吹き飛ばした、そしてその蒸気がむっとした湿気をもたらしたんだ。

 事情は飲み込めたがなんでそういうことになったのか其れを突き詰めなければ同じ事が起きるそして今度も無事に済むとは限らない。

 俺はウギに此処で起こったことについてもう一度おさらいの為に最初から話しをしてくれる様に求めた。その問いに彼女は素直に頷いて話を始める。

わらわがラリーと別れて部屋を出て行った所から話すぞのぅ。マギに呪術をこの小太刀こたちに掛けて貰ってから……そうラリーにたずねられたのぅ、どう感じたかって」

「ああぁ、確かにそう言った覚えがあるよ」

「それでわらわは、身体の芯からじんじんと熱くなるのを感じてだのぅ――ラリーに……ラリーの膝の上に座って後ろからギュッとして貰ったのじゃが」

「えっ! ウギっ? なにそれ?」

 ここでサギが口を尖らかせて口を挟んでくる。是は話しが違う所に行くかもと……仕方なしに俺はサギをそばに呼んだ。

「サギっ、ちょっと――こっちへ」

 そう言いつつ手招きで貴女を近くに寄らせるとサギの後ろからその艶めかしい肢体をそっと抱き締めながら貴女の耳元でそっとささやいた。

「サギ、悪いが少し温和おとなしくしていてくれ」

「あっ~ん、うん」

 サギは躰を預ける様に少し後ろりになって俺の肩口に貴女の頭をゆだねながらそっと目を閉じていく、その姿勢のままサギの顔の横からウギの方を見て彼女に話しを続ける様に目で促した。

「あっ――いいのぅサギは、そうじゃ話しの続きであるのぉ、何処まで話しをしたかのぉ? わらわは?」

「ウギ、マギの部屋を出て行った後からでいいから」

 そうウギに話しの流れを示唆したが……。

「そうそうラリーに……ラリーの膝の上に座って後ろからギュッとして――」

「ウギっ! もう其処はいいから飛ばして!」

 なんてことは無い、しっかり覚えているじゃ無いかと、半眼でウギを睨んだ。

「うっ――わかったのじゃ。小太刀こたちを握りしめてマギの部屋を飛び出していったのじゃが身体の火照ほてりは一向に収まらなかったのじゃぞ、て言うかどんどん増していったのじゃ。仕舞いに小太刀こたちを握りしめた右手から刀に魔気が流れていくのがわかってきた。そうしていると小太刀こたちさやが元の色からどんどん色味を帯びて真紅に変わっていたのじゃが――のぅ」

「んっ、其れでどうなった」

 ひとまずウギの話しの流れに合いの手を入れる。

「そうなんじゃ、真っ赤に染まったさやを持ったまま此処ここに来たのじゃ――此処ここの景色を眺めれば少しは心が落ち着くかのぅと思うたのじゃが、わらわの思いとは裏腹に刀がどんどん魔気を求めていってのぅ、際限が無いのじゃぞ此奴こやつは――『小徹こてつ』って名を付けたぞ、ちなみに太刀たちの方は『真徹まてつ』じゃ」

 ウギは話しを脱線しながらも自慢げに名付けの事を話し出したので、話しを戻す様に促した。

「――名のことは後でもいいのじゃが……『小徹』を持ったままわらわの魔力が切れかかって此処ここで途方に暮れている所にちょうどサギが来たのじゃ、助かったと思ったのじゃよのぅ」

「それでサギに魔力を分けて貰ったという訳か?」

「うん、そうなのじゃ、其れでやっと『小徹』の魔欲も収まったのかわらわからの『気』の流れも止まったのじゃ――そこでサギと此処ここで一息ついてからサギと『刀剣神楽』のお店でのことを話しをしていて折角だから『小徹』のやいばを見せてあげようと――」

 そう言いながらウギはさっき抜刀した姿勢のままで彼女が固まっていた場所をチラッと見た。

「そこの池の端の方でさやから抜いて見せたと言う事か」

「うん、そうなのじゃ――で、この様になったのじゃがのぅ」

 まあ、その話からすると単純に『小徹』に溜めた魔力の量が通常ウギが扱っていた魔力量と格段に違う為上手く制御出来なかったと言う事らしい。

 溜めることは出来たが溜まった力の使い方を練習しないとな、そう俺は思った。


 俺の腕の中でうっとりとしたままでいたサギにそっと声を掛けた。

「サギ、濡れたままの衣服では風邪を引くから着替えておいで――其れにその状態は俺に取っては目に毒だよ」

 サギの服装は薄手の絹地で出来たシースドレスだったので濡れた状態で貴女の躰にピッタリと張り付いてその妖艶な肢体をまざまざと見せつける形になっていたため俺は貴女を直視出来なかった。

「うん、わかったわそうする」

 サギは俺の言葉に素直に応じると腕の中からスルーっと抜け出す様に立ち去って部屋に戻っていった。

「ウギもだ――着替えたら外に行こう、此処ここで『小徹』の訓練はお城を壊すことになりかねないからな」

 その言葉にウギも素直に頷いて部屋に戻っていった。

 最後に魔気が隠れていたヴァルに魔力念波で声を掛けた。

 “ヴァル、有り難うな。結界を張って置いてくれたんだ、お陰で中庭が壊れなくて助かったよ”

 “あら、ラリー気付いていたの? まったく隠れていたかいが無いわね、もう! 気が付いているならさっさと呼んでよ”

 俺はおもむろに後ろを振り返ると其処そこに生け垣に隠れていたヴァルが姿を見せた。

 “あれだけの魔力量だ。中庭が無事で済むわけが無いだろう普通!”

 “そうね、まあ――無くなった水は暫くすれば元通りに戻るしね。リアーナお嬢様には迷惑かけれないものね”

 まあ、そう言うことだ。俺はヴァルと一緒にその場を後にしてマギの部屋に戻ることにした。


 俺はウギの部屋に戻るヴァルと別れてマギの部屋を再び訪れた。

 マギの部屋の扉を軽くノックして返事を待った。

「マギ、ラリーだ」

「はい、どうぞ開いているわよ」

 マギの返事はまだ何となくだるそうな響きを持っていた。

 俺は扉をゆるりと開けて中に這入っていった。部屋の中でマギはまだベットの中でうとうとしていた様だった。

「あっ、悪かった。まだ、寝ていたね」

「ううん、いいのよちょうど起きたところだから――ねぇ~っ、ラリーちょっと来て!」

 面映おもはゆそうに毛布の中で身を捩りながらマギが鼻に掛かった甘い声で俺を呼んだ。

 俺もいぶかることも無くマギが横になっているベットのかたわらに腰を降ろして座ったと、そのタイミングでマギが勢いよく毛布を剥いで俺の上にのし掛かってきた――で、毛布の下の彼女の身体は生まれたままの姿で……ようは素っ裸だったよ、え~っ!

「なっ! マギっ! こらっ!」

 俺はいつものことながら無防備だった事を恥じたが、それ以上にマギは恥ずかしくないのか?

「いいでしょ~う、ちょっとくらい、ねぇ~っラリーってば」

 咄嗟とっさのことに対処出来ないまま、俺は仰向けの状態でマギに組み伏せられていた、俺の胸の上に顔を載せる様にしてマギはその裸体を重ねて二人の躰すっぽりと覆う様に毛布を羽織ってくる。

「おねがい――暫くこのままでいいから、あっ! 違うわよラリーが私を抱きたいのならそれは凄く嬉しいことだから遠慮はしないでいいからね」

 そんな事をマギは言ってくる。

 遠慮ってさ~ぁ、マギさんこのの状態でサギとウギが来たらまずいでしょう。心の中でそう俺は思っていたが……。

「あぁそうね、お二人さんのことが気に掛かるのなら大丈夫だからね――扉に魔力鍵と結界を掛けておいたわ、暫くは二人でこうしていても大丈夫だからねぇ――ラリー? いいわよ? それともやっぱり私に……魅力が足りないの? 魔族は嫌っ? 年上はダメ? それとも……」

 マギの言葉が絶え間なく問いかけてくるのを止めたいがため、俺はマギの頭を抱きかかえてその唇を素早く奪った。

「ん~っ」

 鼻に掛かった甘い吐息がマギの口から漏れ出してくる、その吐息ごと俺は彼女を熱い接吻で封じた。

 暫く二人の唇が重なりあい、お互いの舌がむさぼる様にそれぞれ口の中を行き交った。其れだけでもう俺の頭の中は真っ白になっていく――このままマギの匂い立つような色香に溺れていくのも悪くないと思い始めていたが――。

「あ~っはん! いいっ」

 と、マギの濡れた吐息が聞こえた瞬間に俺は我に返った。

「――わるい――決してマギに魅力が無いなんて事は無いよ、でも――今の俺ではまだなんだ」

「――んっ! ラリーはいっつも『わるい』って謝るのよね――まあ、まだって言う事は期待していてもいいわけよね、それじゃぁ今はいいわよ許してあげるわ是くらいでね、私の魅力もそこそこってわかったから……私の大切のところにあなたの堅い……当たっているからねっ」

「う――っ!」

 それはそうでしょ俺だって男の端くれでは有るのだから――そう言いたい言葉を我慢して飲み込む。

「でも、まだ暫くこのままでいてくれる? 私はまだ魔力が足りないの、こうしているだけでもラリーから漏れ出る魔力を貰えているのよ。本当は殿方に抱いて貰う方が直接的なんだけどねっ――わかるでしょ~ぅ」

 そんな風に俺の胸に吸い付く様に唇を付けながら喋ってくるものだから少しくすぐったい。

「くすぐったいぐらいがちょうど良いのよ」

 そう言うマギの栗色の髪の毛を左手で撫でながら俺は魔力の急速回復においての女性への対処方法の極技を思い出した、セット婆さんから其れを聞いた時は、ちょっと『ぇろい』っと思っていたが……マギなら大丈夫だろう。そう考えながら空いた右手で彼女の左脇から臀裂でんれつにかけて肌理きめの細かい肌の感触を味わう様にでながらそれを探した。そうして見つけたマギの躰に刻まれた魔力スポットはさっきの二人の熱い接吻の後で既に開ききっているのが感じられた、こうなったらやってみるしかないなと俺は覚悟を決めて其処に直接純度の高い魔気を一気に流し込んだ。

「えっ、あっ~ん、な……何をいいっ」

 今まで経験したことの無い様な強烈な魔気の流れを突如受けてマギは躰を大きく反らせたまま白目を・いてその意識を手放す――と俺の胸の上にそのまま倒れ込む様にして気を失った。

「ごめんねマギさん――俺もこのまま暫く裸の君を抱いていて気を確かに持っている自信が無いんだよ、魔力注入はちょっと強引だったけど許して下さい」

 そう気を失って寝込んでいるマギに耳元でそっとささやくように謝った俺はそそくさとベッドを抜け出す。

 部屋の扉の魔力鍵も結界もマギが気を失っていることから既に霧散していた。部屋を後にする前にマギに謝罪の一文と相談したかったウギの件を書き置く。確かにウギの件でマギにお願いする事も魔力を消費する内容なので今のままではマギにお願いする事ははばかられた。俺の魔力を嬌声注入もとい強制注入したので満タンの魔気でマギが復活するのを待つことにしよう。

 それにしても自分で言うのも何だが――俺の魔力供給源の限界は何処にあるんだろう? 自分の事だが未だにわかっていなかったのが少し怖かった。まあ、この事はいつかはわかるだろうから今悩むことは止めておいた。

 そっと扉を開けて俺はマギの部屋を後にしてサギとウギを呼びに出向くことにする。

 と、最初にウギの部屋を訪れてみたが其処には既にサギも一緒に居て俺が来るのをふたりいやヴァルを入れて三人で待っていた様だった。


 ウギの部屋の前で扉をノックして声を掛けた。

「ウギ、俺だラリーだ。準備は出来たのか?」

わらわは終わったのじゃぞ――其れより這入ってこぬのかのぉラリー」

 マギの部屋での出来事が尾を引いておいそれと彼女達の部屋に這入る事がはばかられる様に感じていた。

 それはそれで勘ぐられる要素になるので此処ここは素直にお招きに従う事とする。

「わかった、這入るぞ」

 扉をそっと開けて中をのぞきみる、特に変わったところは無いようだった。しかし、俺は何かおどおどしてないかな? 自分自身でおのれの行動が酷く卑屈に思えて死にたくなったよ。くっそうマギの所為せいだぞ、心の中でマギに呪いの言葉を浴びせていたのは言うまでも無い事だった。

「何をしているのラリー? 何か恐れる事でもあるのかしら?」

 と、サギの声が聞こえてきた事でビックリして身体がピキーンと硬直してしまった。 サギが既に此処ここいるのは想定外だった、て言うか先に魔気を探っていれば良かったよ――完全に俺、地に足が付いていないぞ。

「何よ私が声を掛けたのをそんなに驚く事はないじゃない? なんか変よ」

 サギが俺の行動に疑いの目を向けてきた。そらそうだわな、俺だってそう思うよ逆の立場だったら。

 しかし、何で俺はこんなに緊張していなければならないんだろう?

「サギが居るとは思っていなかっただけだよ――別に何もやましい事なんて無いんだからさ」

 俺は何か自分自身でさっきから墓穴を掘っていないか?

 そんな事を考えながら二人の目を気にしてずと部屋に這入っていった。

 俺の挙動不審は今に始まった事では無いが今回は輪を掛けて酷いようだった。そんな俺を不思議そうに見ているサギとウギだったが、サギが先に動き出した。おもむろに俺に近寄ると俺の首筋に両腕を巻き付けて抱きついてきたしかも貴女の装いはまるで天女のように軽やかなシースドレスでその女性的なラインは目眩めまいがしてしまいそうなほど艶めかしかった。

 そんなサギが俺にその身体をゆだねるようにしてきた。しかも鼻先で俺の首筋の匂いをすんすんと嗅ぎ廻している。

「なあ、サギ――俺って何か匂うのか?」

 ちょっとは苛立ち紛れにサギに抗議するが早々に却下される。

「何か雌の匂いがするのよラリーから……ふふん~マギね、さては」

 サギさん鋭すぎるよ――此処ここは何としても誤魔化しきらなければならぬ。そう覚悟を決めてサギに相対あいたいした――んだが……。

 んっ?

「いいわよマギがラリーのお相手ならば仕方ないわ」

 と、サギが俺から悲しげにそっと離れていって元の場所に戻った。

「えっ! いいのかサギっ?」

「いいもわるいもマギじゃしょうがないじゃないの――ふん、ラリーのバカっ!」

 サギはそう投げやりに言いつつ、ぷぅと膨れてそっぽを向いた。

「むっ? やはりそうなのかのぅ、サギ! ラリーの童貞はマギに奪われてしまったのかのぅ?」

 は~ぁ、何処どこでそう言う話になっているのやらマギさんほらっ、こうなってしまうでしょう! 天井を仰いで俺は此処ここには居ないマギに心の中で悪態をいていた。

「ふたりとも、いいですか。俺はまだ正真正銘――童貞のラリーです」

 自信を持って声高に童貞宣言する俺も如何なものかと思うが……ふたりの疑いが其処ならば正直言って俺に非はない。

「確かにマギの部屋から来ましたから……彼女の……う、移り香が残っていても可笑しくは無いでしょう……で、でもふたりが思っている様なことは無かったですから――言っておきますけど」

 しどろもどろながら俺はそう言いきってサギの目の前にあった椅子に腰を掛けた。

「ふ~ん、そうなんだ」

 サギが俺の眼を見つめながらそう言ってきたが、その眼はまだまだ疑いを持っている様に感じられた。

「ラリーはまだ童貞なんじゃな、ならば良いでは無いかのぅ。わらわもまだだぞ」

 ウギはいつもの如く場の空気とは無縁のマイペースな発言をしてくる。

「まあ、いいわ――ラリーの言葉を信じるしか無いもんね。後でマギに聞いて於くから――ところでこれからどうするの?」

 取り敢えずサギの機嫌も直ったし? これからの事を話して置くことにする。

 中庭で起こったウギの小太刀こたちの力の使い方修行について話しをし始めた。

「ウギの小太刀こたちの件だ、サギも目にした様に魔力を蓄えることが出来る剣をウギは手に入れたが、其れをまだ使いこなせていない為あんな事が起きた。そうだねウギ?」

「うん、そうなんじゃわらわにはまだ荷が重いんじゃよの『小徹』はのぅ」

「そこで中庭ではなくふたりが以前に魔気の修行をした様に城壁の外で『小徹』の修行をしてみようと思うんだがどうかな」

「そうね~ぇ、ウギが早く太刀を使い切れないとこれからの足かせになるわね」

 サギがそう言いながら大きく頷いた。その隣でウギも目をキラキラさせて首を上下に激しく振るのがみえた。

「――で、具体的に何をするの? その修行って?」

 早々にサギが本題に切り込んでくる。

 とは言われても具体的な方法は俺自身まだ掴みかねていたところだ。

「……え~っと、三人で――だな」

 サギにそう質問されても明瞭に答えを言える考えまでは無かった。その所為せいでサギの質問に対しての返事に遅れの間があったのをサギは見逃さなかったよ。

「あら、ラリーにしては珍しくノーアイデアって言うことかしら?」

 サギの追撃はいつにもまして手厳しい今日だった。

「えっ……アイデアと言うほどのものでは無いんだよ――まだ」

「ふ~ん、そうなの? じゃさあ私にちょっとした考えがあるんだけどいいかな?」

「サギの考え? って、何っ?」

「――ん~っ、やっぱり――まだ内緒っ!」

 そう言いながらサギは人差し指を軽く当てた目をウインクしながら凄艶な微笑みを返してくる。その瞳の奥には何か得体の知れない妖艶な魔物が住み着いているかの様な錯覚さえ覚え、俺の背筋に冷ややかな感触を残した。


 その場はひとまず解散と言う事で各々の部屋に戻ることにした。サギの提案では行動は夜がいいらしい、その時点で俺はサギの考えの奥を読んでおけば良かったと後で後悔することになるが……。 

 俺は自分の部屋に戻るとベットに腰掛けてひとまずウギの小太刀こたちについて考えを巡らした。特にウギが言っていた身体が熱くなる事だ、魔力を小太刀こたちに吸い取られたら逆に身体の方は冷えていくはずだ其れなのになぜ熱くなったんだろう、しかも魔力切れを起こす手前まで吸い取られてもウギの体調はそんなに悪くはなっていない状態だったという、サギから魔力を分けて貰う場合でもウギの小太刀こたちの握りの上から手を添えてすんなり出来たらしい。そんな風に大量の魔力を分け合うことなど普通は出来ないはずだ、だから俺がマギに行った様な特殊な方法が必要になるのが一般的なやり方だが。

 やはり此処ここ小太刀こたちへ直接呪術をほどこしたマギにその呪術の内容を詳しく教えて貰うしか無いかな――そう考えてマギの部屋を再びおとずれる事を考えたがなにせあの後だ、単純にマギのところに行くのは少しはばかられた。どうしたものかと悩んでいると部屋の扉をノックする音が聞こえてビクっとなったよ。

「ラリー、わ・た・しマギよ、這入ってもいい?」

「ああ、どうぞ」

 以心伝心か? これほど都合良くマギの方からたずねてくれるとは――助かったと心の中で思わずガッツポーズを決めていた。

 扉を開けてマギが這入ってきた。

「ラリー、そろそろウギの件でいろいろ聞きたいことが私にあるだろうと思ってね」

「ああ、まさにその通りなんだ、此方こちらから行こうと思っていた所だったよ」

「あら、あんな事を私がラリーにしたのに? 逆にま・た・して欲しいの?」

 妖艶な笑みを浮かべながらマギは俺にそう言ってきた。

「マギさん、あの後サギに勘ぐられて大変だったんですよ――もう勘弁して下さいよ」

「あ~ぁその件なら早速サギが私のところへも来たわよ――『ラリーに何したの』って凄い剣幕だったわよ」

「えっ、もうですか――勿論もちろん正直に話したんですよねマギっ?」

「『ご想像にお任せしますわ』ってね」

「あぁ~ぁ、そう言いますか普通!」

「でもね~ぇ、私を昇天させたのは事実ですからねラリーっ! 凄かったわよ! あれ! 癖になりそうよ、もう~っ」

 そう言いながらマギは俺の横に座ってきて俺の肩に撓垂しなだれ掛かかってきた。

「マギっ! 其れはもうよして下さい――まあ、魔力の注入の件は時と場合に寄りますが」

 そう返しながらマギの身体から少し逃げる様に脇にずれた、俺が身体をひねってけたことで支えを無くしたマギの身体が俺の背中越しでベッドに倒れた。

 と、いつもの如くマギの方が一枚上手だった、マギはベッドに倒れ込みながら俺の服を後ろから引っ張って俺の事も倒してくる、俺の倒れた先はマギの片腿かたももの上に俺の頭が乗る様な体勢だった。

「あら、ラリーっん! このままでいいかしら話しの続きは?」

 ベットの上で横になりながら片肘で頬杖をつく様な姿勢を取ってマギが俺の事をとらえた。

「冗談は止めて下さい――とっ痛っ」

 俺がその姿勢から起き上がろうとすると空いた片腿かたももを俺の頭の上に乗せて起き上がるのを阻止してくる。そう、俺の頭がマギの股間に挟まれた形になる、しかも顔の方がマギの股間こかんを覗き見る様な姿勢になった、で今のマギの服装はミニスカートなのでそのままビキニショーツが俺の目の前に迫ってくる。今日の下着はマギにしては珍しく『白』だった。

「あ~ら、ご免なさいね私とした事がはしたないわね」

 舌を出しながら悪戯が過ぎた子供の様な表情で俺の方を見ながらマギがそう言ってくる。

「マギっ! コラッ! 離せっ!」

 マギの両腿りょうももに挟まれたまま大声でマギに抗議するが……。「あっ、ラリーヤダっそこでそんな風にされたら……感じちゃうから」

 だそうだ。俺は如何どうすれば良いのか?

「だから~ぁん、このままお話しようよ、良いでしょう?」

 そう言ってマギは俺の頭に乗っていた片腿を軽く持ち上げて足を伸ばした。しかし、その脚線美は――まあ、此処ここで褒めるのは止めておこう。

 俺が観念したのを察してマギがそのままの視線で二人の格好を眺め見てくる。と、顔を真っ赤にしてミニスカートの前側を引き延ばしながら俺に聞いてきた。

「あっ、ラリー見たでしょう――私の下着を……」

 今更遅いでしょう、と言ってもしょうが無いのでひと言。

「白っ!」

「何~でぇ、もっと色っぽいのを穿いておけば良かったのに~ぃ――ラリー最初からやり直しても良いかな?」

「……ダメ!」

 よょとマギはその場で泣き崩れるようにベットに項垂うなだていった。

 しかし、マギの忸怩じくじたる気持ちはそっちなのか――と、俺の頬に触れるマギの片腿の絹のような肌の感触を楽しみながらも俺はそんな事を思った。

 そんな事をいつまでやっていても埒が明かないのでこの場はマギのご要望に合わせこのままの状態で話を続けることにする。

「ところでマギ、小太刀こたちにかけた呪術の中身を教えてもらえないか? ウギの魔力をほぼ全部抜き取るほどの力を持っているし、それとつかから伝搬していく魔力の流れでウギの身体が熱くなるらしい、魔力を抜かれると普通は冷える方だろう? 何故なぜに逆の現象が起きるのか皆目見当が付かないんだよ。」

「そうね、何処どこから話せばいいかな? あっと、いつものショーツは黒か赤で凄いセクシーなのを穿いているのよ、今日はちょっとね――次に期待していてね。」

「期待してますから、話の筋を戻してもらってもいいですか」

「あら、ラリーったら軽いのね――まあいいわ。で、小太刀こたちへの呪術の事だけれど別段不思議なことではないのよ、ウギの血をやいばにラリーのをつかにそれぞれ塗り付けたのを覚えているかしら? 其れが今回の要因ね解るかしら?」

「んっ、それは血の件は覚えているが其れが要因とはどういうことだ?」

 俺はマギの問いに即座に答える事が出来ないでいた。

「話せば長くなるのだけれど簡単に言うと小太刀こたちとウギの間の魔力の交換は一方通行ではないのよ、ウギから刀に魔力が送られているのと同時に刀からウギにも魔力が戻っているの――そうね、例えばウギと刀との間で熱い接吻をかわしている状態とでも言ったら解るかな?」

「は~ぁ、どんな例えですか! まあ、確かにわかりやすいと言えば言えますけれど。それでウギの身体が熱くなるのは?」

「あら~っラリー、私との熱い接吻の時身体も熱くなったでしょう、そうして頭の中も真っ白にならなかった?」

 そう言えばそうだったような気がする。俺は小首をかしげながらその時のことを思い出そうとしてみる。

「え~っ、むっ! 忘れちゃったのかしらもう~っ、ちょっと酷いんじゃないのラリーっ!」

「そう言うわけでは無いんだけれど、なんて言ったらいいのか無我夢中と言うかなんて言うか……」

 しどろもどろで返す言葉が出てこなかった。

「――ふ~ん、そうかそうなんだ。でさ、話しを戻すわよ。ウギの魔力と刀の魔力を取り入れる側のフィルターの様な役割のものの相性を合わせてあるのよ、だからウギの魔力の中からフィルターを通ったものは刀の中にそうで無いものはウギに戻っていくのよ。それと刀の中でも魔力を置換してギュッと圧縮してあるのそうすることで蓄積量を増やすことが出来るのね」

 なんか良く解らないが相当難しい事を仕込んでいるらしいことが解ったよ。

「しかもね、ラリーの血をつかに仕込んだからウギに戻ってくる魔力はラリーの魔気の香りが付くのよね――だからウギの身体が反応するのね、可愛いじゃないの」

 なんだその裏技みたいな呪術は? と、ウギの身体の変化の理由が解ったよ、結局のところマギの悪戯って言うことか?

「あら、それは恋の悪戯って言って貰いたいわよラリー!」

「あのね~ぇマギさん」

 真剣に悩んでいた俺がバカみたいに見えてすっかり肩を落としてがっくりしてしまったよ、まったく!


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