新しい剣を創りに行こう!
第23話 凱旋帰城の宴が明けて!
いつ終わるとも知れないその夜の晩餐会を抜け出して俺は自分の部屋に戻ってきていた。
サギ達は主賓の
俺が先に帰ってきたのはさすがに疲れていたこともあるが、マギが酔った勢いで余計なお喋りをし始め、何かって言うとお嬢様との巡回警備の時のお忍びの事をあること無いこと尾ひれをつけて言い立て始めた為に俺の立場としてとその場にあまりいたくない状況になったせいでもある。まあそのせいかサギが少し膨れっ面をしていたことが少々気掛かりではあったが……。
なのでマギにはそれ以上、羽目を外しすぎない様にと釘を刺しておくことは忘れなかったが、大丈夫だろうか?
まあそうは言っても今日は無礼講、彼女達には楽しんでいて貰いたかった、色々あった今日一日を思い出しながら俺はベットの中で緩やかな眠りに落ちていった。
次の日の朝の
無論、サギ達はまだそれぞれの部屋のベッドで夢の中の様だった、昨夜は
隠す所は辛うじて隠していたが、何せ昨日のドレスは前は清楚なデザインでありながらも後ろ姿があられも無い程素肌を晒す艶美なデザインだったのでそんな様相で路上に突っ伏していたら――まあ酷いものだった。下着が丸見えって言いたいが――下着を着けていないのは本当だったらしい。
「マギっ! こらっ! なんて格好のままなんだよ!」
俺はそんなマギの肩を揺すって起こそうとしたが。
そんなんで起きるくらいならひとりで部屋に戻っているはずだね、そう言う
“マギはそんなんじゃ起きないよ――悪いけど部屋まで抱きかかえていってくれない?”
ヴァルから魔力念波でそんな依頼をされたよ。ヴァル! ご苦労様っ!
ヴァルのお願いが無くてもマギをこのまま放置していくわけにはいかないので無論連れて帰るつもりだった。思い余った末、服が
そんな状態でもマギは目が覚めない様だったが、寝ぼけたままでも俺の首筋にその両手を回してしっかり抱きつきながらその整った相貌を近づけてくる。
「ラリー~っ、うふん」
嬉しそうに微笑んだその顔に見とれながらも寝言で呼ばれた自分の名前にドキッとする。
寝ているんだよな! ちょっとは疑ってみることを忘れない様に心がけた。
“ラリーっ! 何を見とれているんですか! 早くっ! サギ達が起き出してこんなところを見つかってもいいの?”
ヴァルに
マギの部屋に彼女を連れて帰りベットにそっと下ろした。
「う~ん」
寝言と共に寝返りを打つがそのたびに服が
思わず目を奪われてその場に釘付けになりそうな気持ちを押し込めて俺はマギの部屋を後にした。
“ヴァル、ありがとうな。マギの事”
“造作も無いわ、私もウギの部屋に戻るからね、ラリー”
“ああ、それじゃヴァル”
俺はヴァルとそこで別れて元々の目的に戻った。
「どうぞ――開いてますから」
俺はそう言いながら上半身裸の身体を拭き終えたところで新しい服を着込んだ。
そのタイミングで扉を開けてウギが這入ってきた。
「あっ!
ちょうど着替え掛かっていた時の裸の俺を見てしまったことで少し頬を赤くして
なんだ~? こんなんで恥ずかしがるのか? いつもの言動と行動からしてウギの純朴さが何故か今頃発揮されている様で少しおかしく思えて吹き出してしまった。
「ぷっっ! お前そんな事で恥ずかしがるのか?」
「なっ! お前言うなっ! 笑うでないぞっ、
ウギは自分の言葉を
「まあよいのじゃ――ところでラリー今日は剣を造りに行くのだろう?
「ああ、一緒に行くんだろう元々そのつもりだよ」
そう言って俺の顔色を伺う様に覗き込むウギの肩をおもむろに抱き寄せて小柄な彼女の身体を小脇に抱きかかえるように部屋を出て行った。
「あっ、なっ――ラリー」
突然抱き締められたことでいつものウギらしからぬドキマギした様子で顔を真っ赤に染めて俺の事を見つめてきた。
今回は俺が先手を取ったな。
そう思うとウギがとても可愛く思えて思わず彼女の頬にキスをしてしまった。
「えっ! ラリーっ! ――もっとして良いのじゃぞ――うふっ」
ウギも満面の笑みを浮かべて俺にしがみついてきた。
そうよウギはこうでなくっちゃな――俺自身そんな思いでウギの事を見つめていた。
ウギと新しい剣を創って貰う為に今日は武具職人の元を訪れることにしていた。
昨日の晩餐会の席でウギと約束した事だった。
新剣の素材はサギとウギの倒したレッドグリズリーの骨を使う方法だった。ウギの剣技は既に極地にあるので残りは魔法剣士としての魔力量の蓄えだろう。ウギの今までの剣は剣士と同一の剣だ、依って魔力をその剣自身に保有させる力は無い。ところが大厄災魔獣の骨とならばその保有魔力量は格段に増える、剣の切れ味は魔術で補える程だ。しかもその硬さも並の骨では無いというかウギの剣が全く歯が立たなかったことからも素材では一も二も上回る事になる。
レッドグリズリーの身体を使わせて貰うことはサギには既に話しをしてある、サギもウギの武具になることについては全く異論は無かった。其れと毛皮は防具の素材として最適な為、是を使って二人の装備礼装を創ることにした。あとはそれらの貴重な素材を使いこなせる武具職人を見つけることだったが是はあっけなく見つかった。ちょうどそんな話しをしている時にリアーナお嬢様が話しに入ってきてリッチモンド伯爵家御用達の武具職人を紹介して貰えることになったのだった。
俺達は先にレッドグリズリーの身体の素材の引き取りに城の倉庫の方に出向いた。
其処では既に話しが通っていたのか骨と毛皮が荷車馬車に積まれていていつでも持ち出せる様になっていた。
「さてと是を運んで行くとするか」
「おう! お出かけなのじゃ!」
異様にウギのテンションが高かった。
其処にメイラーさんがライラ―さんを連れて走って来た。
「ラリー様っ! ちょっとお待ち下さい」
俺とウギが乗った御者台のところに二人してしがみついてきた。
「メイラーさん――どうしたんですか?」
俺はメイラーさん達が駆け込んでくる様子にビックリしていたが兎に角、馬が走り出す所だったのでそれを止めるべく慌てて手綱を引き絞った。
「ラリー様? 行き先はご存じですか?」
「はい、昨日リアーナお嬢様に教えて頂いた武具職人の方のところに――あっ!」
そこで俺は行き先の場所について何ら聞いていないことにあらためて気が付いた。
「ほらっ、やっぱりでしょう」
ライラ―さんが腰に両手を添えてふんぞり返るかの様な姿勢になってメイラーさんに腰高に話してくる。
何が? やっぱり? ってライラ―さんそんなに俺の事を知っていないでしょ?
そう俺は言いかけて昨日のやり取りを思い出していた、が……。
「人の話に何にも疑いを掛けない人なんだから――っていうか天然っ?」
ライラ―さんの言葉には俺に対する気遣いや優しさって言うものが感じられないがまあ、当たっているよ――残念だけど。
「確かにそうです――行き先が俺はわかっていませんでした。どうしましょうか?」
俺は我ながら困ってしまってメイラーさんに助けを求めることにした。
「このライラ―が道案内しますから、ご同行させて下さいますか?」
そうメイラーさんが提案してくれた。
そういうことなら全くもってこっちは異論は無いし嬉しい限りである。
「メイラーさん、其れはとても有り難いことですし此方としてもそうして頂けると嬉しいのですが――ライラ―さんは宜しいのですか?」
「私はメイラーのお願いとあらば拒む理由は無いし、其れにちょっとお願いがあるんです」
と、ライラ―さんが突然しおらしくなって話しをし始めた。
「以前から武具職人の人達と魔獣肉の仕込みの際に最適な料理包丁の依頼をしていたんですが、何せ素材の相手が相手ですので包丁の材料に適宜なものが無いと今まで話しが進んでいなかったのです。ラリー様の新剣の素材でその骨を使うとのアイデア――是はと思いました。」
あ~ぁ、なるほどそういうことなら骨の素材としては十二分に有り余っている。
「そういうことでしたら――此方としても協力出来る事ですね」
俺は即座にそう答えた。
「ありがとうございます」
ライラ―さんがそう言って頭を下げてお礼をしてきた。
「いえ、此方こそ――助かりますよライラ―さん」
そう言って俺はライラ―さんに握手を求めると同時に手を握ったままその華奢な身体を御者台の上に引き上げる。
俺の隣にライラ―さんを座らせて再び馬車を走らせることにした。
「メイラーさん、では行って参ります」
そう、メイラーさんに挨拶をして俺は荷馬車を走らせ始めた。
メイラーさんは俺達の後ろ姿が見えなくなるまでその場所で手を振っていてくれてた。
「助かりましたよライラ―さん、剣を創って貰う為の武具職人さんへの依頼の内容ばかりを考えていてすっかり忘れていましたよ――行き先が何処かって言う事に」
そう御者台の上で馬を手綱を捌いて馬を仕切りながら俺はライラ―さんに話しかけた。
「そうですよね――昨日だってメイラーに『はい、あ~んって』事をお願いしたら何のこだわりも無く――ねぇ、やっちゃうんだから。大切な気持ちを忘れることがあるって言うか……」
そっちの話しは――今は深掘りしないで欲しかったが。
「ラリーっ! さっきから一体何の話しなのじゃ『はい、あ~んって』ってのぅ」
右側からウギそう言いながら半眼で俺の事を睨んできているのがそちらの方を見ないでも解った。
いや~ぁ、ウギの冷たい視線が身に染みて背中に冷や汗が出てくる。
「なあにね、ちょっとした事だよ、別に取り立てて言う事でも無いと思うことだしね」
そう言って取り敢えず誤魔化しておいたが……誤魔化しきれることでも無いとは思っていたが。
「まあ、今は不問にしておくのじゃ――後でサギと二人でしかと聞くことにするのじゃ、ラリーっ!」
そう言ってウギは俺の横腹つまんで強く捻ってきた。
「痛っ! はいっウギさん」
そう言って涙目のまま俺は馬をライラ―さんの案内に従って走らせ続けた。
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