第22話 サギとウギ達の凱旋帰城!

 俺はリアーナお嬢様の膝枕の中で気持ちよさそうに眠っていたらしい。しかし、毎回倒れるたびに誰か彼かの膝枕の中で夢見心地から目覚めるなんぞついぞ数ヶ月前の俺からしたら想像だに出来ない。人生のモテ期を使い切った感がある。そのうち刺されるぞっ~と言うちまたの声が聞こえてくるよ。

「あっ、ラリー様お目覚めになられましたか?」

 その第一声はリアーナお嬢様か?

 俺は膝枕の感触を覚えながら俺を覗く顔を真上に感じていた。ゆっくりと目を開けると確かにリアーナお嬢様のお顔がそこにあった。

「お嬢様、俺は?」

「あら、ラリー様は突然マギ様の腕の中で意識をなくされて倒れられたのですよ、しかも黄金色の輝きを発しながらっ! あれは何だったのですか?」

 なるほどマギはリアーナお嬢様には何も教えてなかった様だ、それならそれで誤魔化しきった方が良いだろう。俺はお嬢様の膝枕からゆっくりと起き上がりながらその場を取りつくろう言い訳を考えていた。

「へ~ぇ、お嬢様そんな事があったんですか? 多分其れはマギの回復魔術か何かですよ、お陰でほらこの通りもうピンピンしてますから」

 差し障りの無い言い訳を考えたつもりだったけれどマギには不評だったようだ。隣であからさまに嫌な顔をしている。

“ラリーさ~ん……誤魔化すにも私に無茶振りするのは余りに酷くないですか!”

 その場でしっかり魔力念波でマギからお叱りを受けました。

「ラリー様、そうでしたかマギ様の魔術が……なるほど――っ、マギ様流石でございますわ」

 そう言ってリアーナお嬢様はマギの手を取って大いに喜んでいたが、当のマギは困惑した表情で俺の顔をにらんでいた。

「ところでラリー、どうなった?」

 マギが心配ごとの核心の質問を投げてきた。それはそうだマギが受け取ったヴァルのSOSから始まった事だったからマギはその後のヴァルの魔力念波で概略安心材料を貰っているとは思うが、俺がマギの思念波を奪い取った時の詳しい事を聞きたいらしい。

 俺はリアーナお嬢様の膝枕からゆっくりと起き上がってマギに相対した。

「ああ、何とか最悪の瞬間には間に合ったよ、二人とも無事だ」

 そうマギには言い渡しておくと俺はリアーナお嬢様の方を向いて倒れた俺を介抱して貰ったお礼をした。

「リアーナお嬢様、俺如きに膝枕までお貸し頂き感激至極です。ありがとうございました」

「そんな、ラリー様、私の膝枕など宜しければいつでも言って下さいませ」

 なんか嬉しそうに頬を朱に染めたリアーナお嬢様のお顔はいつにもまして可愛らしさが漂っていて思わずぼ~っと惚けた顔で見つめていると横っ腹に唐突に肘鉄を食らった。

「痛っ!」

 気が付くとマギが睨み付ける様にして俺の真横に寄り添っていたんだ。何か背筋に冷たいものを感じて早々に話題を変えることにした。マジでマギが怒っていた様だった、理由は解らないけど?

「ところでマギっ! 俺達はお嬢様が早めに馬車に戻れるように警邏隊けいらたいと直ぐに合流しよう」

「ん! 何故ですか?」

 その言葉に先に反応したのは当のお嬢様の方だった。

 それは多分すぐに解ると思いますよ。そう言いつつ俺は俺達の行く先のそのまた向こうに見える通りの方に目をやる。それに合わせるかの様にリアーナお嬢様とマギが俺の視線の先に方に目をやった。

 遙か先に見える通りの向こう側は丁度人がごった返している状況だった。そんな中を大声を張り上げながら此方の方に駆けてくる人が見えた。

「大変だ~ぁ! 大厄災魔獣のレッドグリズリーが退治されたぞ~ぉ! それもお城の客人のお嬢様達に~ぃ! 念願の大厄災退治が終わったんだ~ぁ! みんな聞いてくれ~ぇ!」

 そう大声で周りの住民達に叫びながら大通りを駆け抜けていった。


「サギ達の持ち帰った成果が大事を呼び起こしたみたいだよ」

 俺はマギとお嬢様にそう言うと先に立って歩き出した。

 人集ひとだかりの中に警邏隊けいらたいの一団も見えた。警邏隊けいらたいのメンバーはこの混乱の収拾の為に忙しそうに動き回っていた。丁度、その向こうにお嬢様が乗っていた馬車も見えていた。

「マギっ! 今ならリアーナお嬢様を馬車の中に戻すのに都合が良いだろう」

「そうね、この混乱紛れて入り込むのね、わかったわ」

 そう言うとマギはリアーナお嬢様の手を取って人混みの中に紛れ込んでいった。

 人集りの渦は少しづつ大きくなりながら人々の高揚感をさらに盛り上げていった。

「今日はサギ達は大変なことに巻き込まれそうだな、まあそれも一興いっきょうか」

 そんな風に俺はつぶやきながら人混みをかき分ける様に流れに逆らって前に進んでいった。


 暫くしてマギがひとりで戻ってきた。

「リアーナお嬢様は無事に戻りましたわ、丁度良かったみたいですメイラーさんがね……」

「んっ!」

「メイラーさんがお嬢様の影武者役だったんですけど――さすがに此の状況では何があるか解らないのでハラハラしていたみたい。お嬢様のお顔を見て安堵したのか腰を抜かしていましたわ……あとそれと、ラリーにありがとうって、助かりましたってね」

「そうか、よかった」

 俺はマギの話を聞いて思惑通りに事が運んだことを喜んでいた。

「さてと、次はサギの方だな――何処どこにいるのやら?」

 街の中は今回の騒動でごった返していて、人混みの中でサギ達を目視で探すことはほぼ無理な状態だった。

「サギの魔力気を追う?」

 マギが俺の顔を覗き込みながらそう聞いてきた。

 まあ、それが一番早そうだがそんなに急ぐ必要も無かろうと俺は首を横に振った。

「いや、自然の流れに任せておこう。そのうち会えるだろうよ」

「それもそうね」

 マギも納得したかの様に胸の前で腕を組んで頷いていた。

 しかし、ヴィエンヌ城下町の人々がこれ程喜んでいる状況をあたりにして是からマギ達の身に起こる騒動を予想すると少し可哀想な気がしてきた。

 そんな事をサギ達は元々望んでいた訳では無いのだから――ねっ。

 きっと今頃は担ぎ上げられた御輿みこしの上で目を白黒させながら周りの下界の騒ぎを見ている状況だろうと俺は苦笑いをかみ殺しながら人々の喧噪を眺めていた。そんな俺を見てマギが話しかけてくる。

「なに、ラリーそんないやらしい笑いなんかして」

「いやなにね~ぇ、サギ達――きっとあたふたしていると思う……その状況を想像するとね~ぇ」

「んっ、まあそう~ね」

 マギまで“うふふふっ”と含み笑いをしてきた。

 そして、見つめ合うとふたりとも忍び笑いから大笑いへと変わっていった。


 人混みの中で行き先を考えあぐねる状況なのでマギと一緒に取り敢えず警邏隊けいらたいに合流することにした、リアーナお嬢様の近くにいた方が何かとサギ達の情報が入ってくるだろうとの思惑があった事とお城の方からの指示も直接解るのでその後の対処に有利だろうと思ったからだった。

「マギ、リアーナお嬢様のそばに行こう、その方が状況把握が出来そうだ」

「そうね、その方が良いみたいだわね――じゃぁこっちよ」

 マギも同様に思っていたらしい、速攻で同意を得たと同時に俺はマギに連れられて移動を始めた。

 警邏隊けいらたいは城門のそばに臨時の詰め所を開設していた。

 その奥にリアーナお嬢様の馬車が見えた。

 警邏隊けいらたいのメンバーには顔パスで詰め所の中に通して貰った。マギのことは初日の夕食会以降ほとんど隊のマスコット的扱いになっていて男性隊員は皆にこやかにマギを迎えてくれる様になっていた。

「あっ、マギさんいかがなされましたか?」

 隊員のひとりがマギを見つけると近寄ってきて話しかけてきた。

「あら、この間のお兄さ~んじゃないの――そうそう、お嬢様のところに案内して下さらない?」

「そうでしたか御令嬢にご用があるのですね、わかりました此方こちらにどうぞ」

 そう言って隊員はマギを案内してくれた、無論俺はその後に付いていった。

「サギ様とウギ様のご活躍でもう話題が持ちきりですよ。今日は街あげてのうたげになるそうですよ」

 案内がてらマギがこの状況についての話題を振ると隊員はその様に話してくれた。

「あら~っ、そうなの――今日はお城だけで無く街全体でお祭りになるのね」

「そうですよ、その為お城の方は今、大忙しらしいですから……あっと御令嬢はこの部屋にいらっしゃいますので――では私は是で失礼させて頂きます」

 部屋の前まで隊員は案内をしてくれた上でそう言うとマギと俺に一礼をして彼はその場を後にした。

 残された俺は案内された部屋の扉をノックしてみる。

「はい、どなたかしら?」

 部屋の中から優しい女性の声が聞こえてきた。

「俺です、ラリーです」

 そう答えるとゆっくりと扉が開いてリアーナお嬢様の代わりにメイラーさんが出きて俺の応対をしてくれた。

「ラリー様申し訳ありませんがお嬢様は今、丁度お着替え中なのでしばらくお待ち頂けますか」

「此方こそいきなり押し掛けてしまったわけですから、わかりました此処でお待ちいたします――と言うかメイラーさんに聞いても良いですか?」

 そう答えてあげるとメイラーさんはニッコリと微笑みながらコックリとうなずいてくれた。

「サギ達のことで聞きたかったんです、彼女等は今どこにいるか解りますか?」

「やはりそのことですね――えぇ、サギ様とウギ様とヴァル様には先程私がお会い致しました、城下町ヴィエンヌの全住民の悲願でした大厄災魔獣レッドグリズリーの討伐のご成功のお礼として今宵は街を挙げての大晩餐会となりましたので、その立役者であられるお三方には既にお城の方へとご準備の為に移動して頂いております。ラリー様達もいずれご一緒されると思いましたのであちらの方に移動用の馬車を準備させて頂いてますので、お嬢様とご一緒にお城にお戻り頂けますでしょうか」

 ああ、なるほどそういうことですか。俺はメイラーさんの説明で是からの出来事をおおよそ予測出来た。

「わかりました。サギ達は既にお城の方に行っているわけですね」

「はい、今宵の主賓のお二方にはさらに綺麗に着飾って頂きたいとのリッチモンド伯爵様からのご要望もありまして、ご準備にはかなりお時間が必要かと――その為、先にお城の方に向かって貰いました、ラリー様には先に相談無く此方で勝手に進めさせて頂いたことを主人に成り代わってお詫び致します」

 そう言うとメイラーさんは俺達に深々と頭を下げてくれたのだった。

「メイラーさん、そんな頭をお上げ下さい。その様な事でしたら俺になんぞ断る必要は無いですし、それに俺達もサギの為にそんなにして頂いて逆に恐縮する限りですから」

 そう言ってメイラーさんの頭を上げさせようと彼女の手を取った――っ。

「きゅぅん」

 その瞬間、メイラーさんが茹で上がったかの様に俯きながらも顔を真っ赤にしてそんな声を発した。

「えっ」

 俺は最初何の声かわからずに唯々ビックリしていたがメイラーさんがドギマギしながら謝ってくるのでその声の主がメイラーさんであると気付いた。

「あ~ぁ、またひとりハートを打ち抜いちゃったみたいですねラリーは――天然の女たらしですわね~ぇ」

 そう、マギが傍らで溜息を付きながら俺に言葉を掛けてくる。俺か~? 何で~ぇ?

 そんな中でメイラーさんは『お待ち下さい』とひと言残して顔を赤らげたままでバタバタと扉を押し開いて部屋に戻っていった。そんな仕草がちょっと可愛らしかったが……。

「また~ぁ、そうやって――っ、この~ぉ」

 そうしてメイラーさんの後ろ姿に見とれているとマギの肘鉄が俺の横っ腹に綺麗に入った。

「う――っ、痛っ――ぅ」

 涙目になりながらも痛みに耐えぬく――女ったらしって言われたって? マギと俺は何なんだろう? 

 そんな事を思いながら痛む脇腹を押さえて前屈みの姿勢でマギを見ると鬼夜叉の表情で俺を睨み付けていた。

「マギっ! 何で急に俺にそんな態度を取る様になったんだ? 前はそんなんじゃ無かったよね――サギと一緒になったよ!」

「……そ、そうよサギの代わりだもん、ら、ラリーのお目付役としてだからね――決してわたしの気持ちじゃ無いから――わ、わかった」

「……」

「し、嫉妬じゃないもん――ラリーが……悪いんだからね!」

 勢いでそう言いきるとマギは後ろ向きになって俺から目を逸らしていたよ。なんだなんだ?

「マギさん……これからは手加減をお願いします」

 そう言うと俺は痛みに耐えきれずその場に膝を突いて崩れ落ちた。

「あっ! ラリーっ! う――そぉ!」


 暫くしてメイラーさんがお嬢様のお着替えが終わったとのことで扉を開けて俺達を部屋の中に通してくれた。

 まあ、その前に部屋の前のったんだでマギの鉄拳で一度床に沈められていたのだが……その後はマギが焦って回復魔術を大量に俺に掛けたのでそれもあって身体中に活力みなぎりすぎてオーバーフローのエネルギーを急いで消費する必要があった――廊下で俺は腕立て伏せをひとり黙々とこなしていたんだ。そんな所をメイラーさんが扉を開けた瞬間に俺はしていたものだから……。

「ラリー様……いったい何をなさっておいでですか?」

「あっ! いや何ね時間があるのでちょっとトレーニングをね――そうだよねぇマギっ!」

「そうそう、ラリーったら身体がなまるって言うのよね~ぇ」

 そう言うマギは俺の背中に乗って腕立て伏せの負荷を上げる手伝いをしてくれていたのだが傍から見れば――どう見えていたのだろう? これもそれもマギっ! お前のせいだからな~ぁ、ほんと小技でドジるのは中々度にいってきましたよ、マギさん。

 なんだかな~ぁ俺達っ!

「そうなんですか、さすがですね皆さん」

 と、メイラーさんは関心至極で俺達の事を見ているが――それって純粋すぎるだろうって。

「あっ、ラリー様もマギ様も御待たせ致しました、どうぞお入り下さい」

 メイラーさんにうながされて俺達は部屋へと入っていった。


 部屋の中には晩餐会用に綺麗にドレスアップしていたリアーナお嬢様が凜とした姿で俺達を迎えてくれた。

「お二人とも御待たせ致しました。さあ、お城に戻りましょうか」

 そう言って俺達を促しながら先だって歩き出したお嬢様に俺は声を掛けた。

「リアーナお嬢様、サギ達が退治した大厄災魔獣とは一体どのようなわざわいをこのヴィエンヌの街にもたらしていたのですか?」

 お嬢様はその問いには答えずに背を向けたまま歩みを進めていた。

「お嬢様っ?」

 その後ろ姿には何故だか悲壮感が漂っていて俺はおもわず声を掛け直した、と今度は歩みを止めて振り向いてくれた。するとその眼には既に涙が溢れるばかりになっていたんだ。

「ラリー様――リッチモンド家の祖先は皆あの大厄災魔獣討伐で戦死したのです、曾おじいさまもおじいさまも……お父様はその為討伐を諦めていて強固な城壁を立てて街を守ることを選択したのです。我が家の祖先ばかりでは無く討伐隊加わった全ての住人が皆、二度とこの街に帰ってくることは無かったのですよ、特にメイラーの家族はメイラーが幼い時にみんな……それで……引き取って」

 お嬢様の言葉はそれ以上は続かなかった。大粒の涙が頬を伝って落ちていった。

 そのかたわらでメイラーさんも項垂うなだれながら泣いていた。

「えっ!」

 俺はリアーナお嬢様達の涙の重さをその物語で初めて知った。しかし、お嬢様は涙を拭うと笑顔を見せながら気丈にも話しを続けたんだ。

「そんな大厄災魔獣討伐を果たして頂いたのですから――サギ様とウギ様はそして多分ラリー様もあの時に彼女等の支援に行かれていたのですよね、これでリッチモンド家……いや、ヴィエンヌの街の憑きものが落ちたのですよ、ありがとうございました」

 そう言ってニッコリと笑うお嬢様の笑顔には全てのやくが降りた様な安堵感を湛えていた。

 俺もそんな微笑みに笑いかけながら頷いた。


 俺達はリアーナお嬢様の後に従ってお城に向かう馬車に乗っていた。お嬢様達も先程までの涙はもうとっくに止まっていて皆が笑顔の和気藹々とした雰囲気の中だった。その中でメイラーさんは特に明るかった。

「ラリー様、本当にわたしは今日という日が嬉しく思えて――こんな日が来るとは思っていませんでした、父も母も天国できっと喜んでいてくれてると思います」

 そう言うと俺に深々と頭を下げてお礼してくるメイラーさんを俺は恐縮至極で押し戻していた。

「メイラーさん俺にお礼をされても――それはサギ達に――って、まあそれ以上にメイラーさんにはいろいろとお世話になっていましたから、ほんの少しですがお返しが出来て此方こちらとしても嬉しいと思いますよ」

「いや、ラリー様あってのチームラリーですよね、そう思いませんお嬢様」

 そんな話し方をメイラーさんがお嬢様にしているのを初めて見た。よほど気持ちが高揚しているのだろう。

「あらあら、メイラーったら――そうね、そう思うわよ、わたしも」

 リアーナお嬢様までそんな風に気軽に応対をしている。そんな雰囲気の中、馬車はお城へと着いたのだった。


 馬車がお城のエントランスホールに着くと既にお城の中ではリッチモンド伯爵家の衛兵やら使用人達でごった返していてそこに御令嬢の馬車が乗り付けたものだから混乱に拍車を掛けた様にざわめきが巻き起こった。

「皆さんあせる必要は無いですよ。それぞれの持ち場で各々自分のべきことを冷静になって考えて下さい。大厄災魔獣は討ち果たされたのです、もう慌てることは無いのですよ。さあ皆さん喜びを高らかにリッチモンド伯爵家の一員として誇るべき行動を――お願いします」

 そんな中にリアーナお嬢様は馬車から即座に降りると凜とした声で全ての人々に聞こえる様に叫んだ。そして、後から降りてきた俺達を指さして次の言葉を繋いだんだ。

「此処におられるラリー様とマギ様そして先にお帰り頂いたサギ様とウギ様が私達の英雄なのです。さあ、祝いましょう。今宵はすべて無礼講ですよ」

『お――っ』

 エントランスホールに居たすべての人々が高らかに歓声を上げて俺達を迎入れてくれる。俺に取ってもマギにとっても初めての経験でどこか落ち着かなかった。でも、さっきのリアーナお嬢様の演説には感動を覚えたよ、さすがは御令嬢と関心至極だった。


 リアーナお嬢様を先頭に俺達とお城の中へと通された。

「ラリー様では、後ほど晩餐会で」

 そう言うとリアーナお嬢様はお城の奥へと姿を消していった。

 残った俺とマギにメイラーさんが応対をしてくれる。

「ラリー様はお部屋の方に本日の晩餐会の時に着て頂きたい服を用意させておりますので――お部屋でおくつろぎ下さい、後でお迎えに参りますから。それとマギ様は私どもがお清めとお着替えを手伝いますのでご一緒して頂けますか」

 そう言ってメイラーさんはマギを連れて別部屋の方に向かっていった。

「それじゃと、俺は部屋でひと休みでもと――っ」

 兎に角、今夜は寝れそうも無いからな。そうつぶやくとひとり部屋へと戻ることにした。


 俺はひとり部屋に戻って鏡に向かって立ってそこに映る自分を凝視していた。

 今日はいろいろな事がありすぎて思考と気持ちの整理が付いていなかった。今此処いまここでゆっくりとした時間を有意義に使おう。

 サギ達の危機を俺自身が関知できていなかった、マギがヴァルとの魔力念波を受け取っていなかったら俺は重大な失態を犯していた事になる。というよりも大切な人を失うところだった。

 その事が今更ながら現実的に俺の心を覆っていた。本当にあの場面にサギの『覇気』の開眼が間に合わなかったら俺は死んでも死にきれない後悔を抱えて此から生きていく事になっていた筈だ。

 今回は運が良かっただけかも知れない。二度とこんなことが起きない様にする為には俺自身の能力も上げないとそう思うと――苦虫を噛んだ様な表情で俺は鏡を見ていた。

「俺は何をしなければいけないのか――俺の生きる道は、俺に慕って付いてきてくれている彼女等を守り抜く事だ、其れを俺は今日完全には出来なかった」

 鏡に向かって拳を振り上げて鏡の中の俺の顔を殴りつけた。

 鏡が割れて俺の手の甲から血がにじんでくる。

「くそ――っ、何が英雄だっ! 俺はまだまだ半人前だった」

 そう言って俺自身を罵倒し続けた。

 その時、部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。

「ラリーっ! 如何どうしたのいるんでしょ?」

 久しぶりに聞くサギの肉声だった。俺は思わず叫んだ。

「サギっ!」

 その叫び声に驚いたのか、扉が勢いよく開いてサギが飛び込んできた。

「ラリーっ! 何っ? 何があったの?」

 俺は飛び込んできたサギを見ておもわずつぶやいた。

「サギっ……綺麗だっ」

 サギの装いは今夜の主賓に相応ふさわしくそれはそれは美しく着飾ったお姫様だった、そんなサギの姿に見惚れたまま立ち尽くしている俺が其処に居た。

「ラリーっ! 会いたかったわ」

 そう言うとサギは破顔一笑で俺の胸へと飛び込んできた。

 そんなサギをいとおしくて即座に抱き締めようとして自分の手が血だらけになっているのに気がついた。

「サギ、ごめんそのドレスに俺の手の血が付いてしまう」

「あっ、如何どうしたのその手は……かして!」

 サギはそう言うが早いか俺の手を彼女の両手で覆いながら回復魔法を掛けてきた。掌が銀色に輝くと即座に手の傷は元通りになっていく。

「『覇気』が出来るようになったんだね、頑張ったなサギっ!」

 俺はそう言うと傷を治して貰ったその手でサギの頭を撫でた。

「ううん、ラリーのお陰よ――来てくれたんだよねあの時に私、ラリーを感じたわ――心で」

 そう言うとサギは俺の胸の中にその顔を埋めてきた。

「嬉しかったの、ラリーに守って貰っているって――だから頑張れたのよありがとう、ラリーっ!」

 サギが俺の胸の中から其の美しく整った相貌そうぼうで俺を上目遣いに見つめてきた、其れだけで俺のしんの臓は早鐘の様にその鼓動を打ち続けていた。そんな心の乱れに気付かれるのを恥ずかしく思いおもわず目を逸らす。するとサギはしなやかなその両手で俺の顔を優しく貴女の方に向け直して即座に唇を重ねてきた。柔らかく温かいその唇の感触が俺の心の闇を癒やしていくのがわかった。そのまま俺は貴女の身体を強く両腕で抱き締めながらその唇をむさぼる様に吸い尽くした、長い接吻だった。

「んっ――うふん」

 サギの嬌声に我に返り俺は貴女を離した。

「あっ、ごめん」

「ううん、謝っちゃ……いやっ!」

 そう言いながらサギが少し拗ねたように俺の胸板をつついた。

 そう言えば前もこんなことがあったな~ぁ、思わずそんな思いだし笑いをしてしまった。

「な~ぁにぃ、いや~ねラリーったら思いだし笑いなんかして」

 そんな俺の仕草にちょっとほほを膨らまして怒った顔をするサギを俺は嬉しそうに見つめていた。

「ほら~っ、何で笑うのよ~ぉ」

 サギの頬がますます膨れていった、そんな様子を俺は見惚れる様にじーっと見つめる。

「なっ、なにぉぅ――私の顔に何か付いているの?」

 余りに俺がサギを見つめ続けるものだからしまいにサギがそんな事を言い始めた。それもまた何か可愛く見えてサギからますます目が離せなくなった。

「んもぅ、ラリーったら何か言ってよ~ぅ」

「……」

 其れでも無言で見続ける俺の視線にサギは耐えきれずに目を逸らして俺の胸の中に隠れる様に顔を埋める。俺もそろそろ潮時かと口を開いた。

「わり~っ、サギ! あまりに綺麗すぎて見惚れていました」

「えっ! あっ! ほわーっ」

 思わず俺の口からそんな台詞がこぼれ落ちて“ボンッ”と音でもするかの様にサギの顔が真っ赤に染まった。

「ばかっ」

 俺の腕の中で嬉しそうに微笑みながらそうサギはつぶやいた。


 そんな時にサギが勢い込んで這入ってきて閉め忘れていた扉の板戸を叩く音がして声を掛けるものが居た。

「お取り込みのところ悪いが、わらわもそろそろ這入っても良いかのぅ」

 ハッとして二人で振り向いた扉口にウギがこれまた見たことも無い美しい装いの姫子として立っていたんだった。

「先に正妻に権限を譲ったはいいがのぅ――てんで呼んでくれぬのだからわらわは痺れを切らしてもうたぞのぉ、サギよ」

「んもぅ、ウギったら正妻言わないっ! んでね、ごめんなさい」

 俺の方はサギとのやり取りをすべて見られていたと言う恥ずかしい気持ちよりもサギが謝るより先にノリツッコミなんて此処のところ会わなかった間にウギとの呼吸がツーカーになっていると感心していた。と言う感想を置いておいてもウギの装いもまた見惚れるように美しく可愛らしかった。

 特にウギの場合は日頃の服装が服装だけに着飾るという言葉がまさに初お目見えで目から鱗が落ちるとはこの事だと思う程変わっていた。

「何じゃラリーっ? わらわの姿には感想は無いのかのぅ、寂しいぞ――サギの事はあれ程褒めちぎっていたのにのぅ」

「あっ……ごめん! ウギっ! いや~ぁ、あまりの美しく清楚な変わり様に言葉を無くした!」

「なっ――はぅ!」

 ウギも俺のその言葉に頬を朱に染めてうつむきながら暫し立ち尽くしていた。が、意を決した様に顔を上げると床をって身体ごと体当たりするかの様に抱きついてきた。

「うえ~ん、大厄災魔獣だぞっわらわは死ぬかと思ったんだぞ~ぅ、怖かったんだよぅ――ラリーっ!」

 そう言うとウギは俺の胸に額を押しつけながらむしゃぶるように泣きついてきた。そんなウギの頭を俺は優しく撫でながら気持ちを落ち着かせようとしていた。

「ウギ、よく頑張ったなぁ凄いよ、自慢の妹分だ!」

 そばでサギももらい泣きをしていたね。


 一頻ひとしきり泣きあかすといつもの笑顔のウギに戻っていた。

 サギの可憐な装いの美しさも人目を引きつけるものだがドレスアップしたウギもそのグラマラスな身体のラインを惜しげも無く磨き尽くす装いで目が釘付けになってしまうものだった。

 特に胸元のドレスのラインは大きくカットされていてウギの豊かな胸をさらに艶麗に見せていた、そんな肢体に惑乱されて俺も少しドギマギしていた。

「ラリーどうじゃ? わらわの装いは? 少しは興奮するかのぅ? ほれほれっ!」

 そう言いながら俺の腕にその豊かな胸を押しつける様に絡めてくる。

「こらっ! ウギっ! む、胸が当たっているって――わ、やめんか~ぁ」

「当たっているでは無いぞ――当てているのじゃ~ぁ、久しぶりなのじゃから甘えてもいいじゃろう」

 そう言ってすりあがる様にさらに俺ににじり寄ってきた。

「あ~っ、ウギったらずるい! それじゃ、私もっ!」

 左側ではサギがウギに触発されて両手を俺の腰に巻き付ける様に抱きついてきた。

「なっ! サギもこらっ!」

「いいじゃない、ラリーにれていたいのっ!」

 二人してじゃれ合う様に俺にしっかりと絡み付いて離れない。二人の身体から漂う甘く匂い立つ薫りが鼻腔を刺激し、しかもしがみつく腕にその肌理きめ細かな胸元の肌の感触が直接伝わってきて完全に俺の頭に血が上ってくる感覚を感じていた、やばいまた鼻血でも噴いて倒れてしまそうだった。

 その瞬間、すーっと二人が俺から離れてくれた。

「……んっ」

 冷静に戻った俺は左右の二人の顔を交互に見る。

 二人ともニコニコしながら俺の手を握って俺を見つめていた。

「ラリーも、少しはおなごの色香への耐性が増えてきたようだの~ぅ」

 ウギがそう言いながら俺の顔を下から見上げる様に覗き込んできた。

「そうね、今日のところはこれくらいにしてあげましょうか、倒れられても困るしね」

 サギが俺の左肩に頭をかしがせて上目遣いで俺を見ていた。

「は~ぁ、二人とも……勘弁して下さいよ~ぉ」

 俺は溜息交じりで天井を見上げながら大きく息をついたんだった。そして、ふっと笑いが漏れた。

「あはははっ」

 サギとウギもつられる様に薄笑いをし始める。

「うふふふっ……」「くすくすっ」

 終いに三人の笑いが重なり合って部屋に大きく木魂し始めた。

「『あははっ――ハハハハッ』」


 そんな魅惑的な二人に取り囲まれて男冥利に尽きるとはこの事を言うのだろう。

 兎に角、俺達は此の一週間のそれぞれの出来事を笑いを交えながらお互いに話しだしていた。

 そうして一頻ひとしきり話が尽きると二人が同時に立ち上がって俺に相対あいたいした、と膝を付いてこうべれながら二人ともハモる様に言葉を発した。

「『ラリー様、二人してチームラリーへの依頼仕事をすっぽかし勝手な行動を取ってチームの和を乱したことは免れない離反行為です、この身をラリー様に預けたものとして罰を受ける所存です。何卒なにとぞ的確な御処分をご命じ下さい』」

「なっ、なに言ってんだ二人とも? はあっ?」

 俺は思わずそんな台詞を吐いてしまった。

「だって私達が勝手に行動したから、ラリーに心配かけてしまったし、さっきだってラリーが心を乱していたのはそういうことでしょう」

 サギが俺の眼を見つめながらそう言う風に言ってきた。そうか、さっきの俺の行動が――もう、またやっちまったか!

「大丈夫だ、二人とも俺の大事な姫子なんだよ、仲間を守れなくてリーダーも無いだろうただそういうことだ。二人みたいにもっと強くならなきゃと言う思いを俺は忘れていたと言うことだ、その為の修行が足りないって気付いたのさ、だから二人にはありがとうって感謝する気持ちがあるだけだよ」

「ううん、それじゃ私達の気が済まないの、迷惑を掛けたんだから――罰は受けます」

 サギもウギも引かないなこれは――さてとどうしようか?

「わかった、それじゃ罰として――えっ~と」

「んっ――罰としてっ? なにっ? ラリーっ!」

 サギも言葉の先を手に汗を握りしめたまま聞き漏らすまいとしていた。

「明日からマギも入れて四人で修行な! 手抜きはしないから覚悟しておく様に」

「『あっ――はい』」二人とも満面の笑みで答えていた。


 そうしていると時間になったのかメイラーさんが晩餐会の用意が調いましたと伝えに来てくれた。

 俺は両腕に眉目麗しい女性陣をエスコートしながら会場へと向かうことにした。

 ウギにヴァルの事を聞いたら珍しく湯浴みをしてからブラッシングまでして貰っているらしい。

 ヴァルの変わりようも楽しみになった。

「あっ、ラリーっ? そう言えばマギは?」

 サギが俺に聞いてくる。

「マギも二人の様に晩餐会用に着飾る為、メイラーさんが別室に連れて行ったよ」

「ふ~ん、マギが――そうなんだ」

 なんだ、サギが心配そうに俺の顔を見ていた。

「なんか問題でもっ?」

 サギにそう問うてみる。

「ううん、問題は無いんだけど――ねっ、単に……かなっ!」

「おおっ、そうじゃの~ぅ、日頃の装いから想像出来ないから――着飾った姉御ならよほど妖艶に変わりそうだからのぉ」

 ふたりともそんな事を言い始めた。まあ、日頃は確かに服を着てるか着てないか解らない様な格好で全身色香の塊だし、しかもサキュバスの血を引いているから心しておかないと……と天井を見上げながらひとり思った。

「『ラリーっ! 鼻の下伸ばすなっ!』」

 俺の様子を見て両脇の二人してハモりながら――揃って脇腹に肘鉄がきた。

「痛っ――はいっ、すみません」

 俺はこれからどうなるんだろう、一抹の不安がよぎったよ。


 俺は両腕に大輪の花と咲き誇ったサギとウギとをエスコートしながらで晩餐会の会場へと向かった。ヴィエンヌ城の廊下ですれ違う人たちは皆、サギとウギの艶麗えんれいな容姿に心を奪われたかの様に立ち止まって見惚れていた。まあその際、俺自身に突き刺さるような敵愾心は余計な産物であったがこの二人を両脇につれて歩いていては其れも仕方の無い事と諦めていた。

 そうこうしていると晩餐会場の大広間に辿り着く。

 大広間を大勢の人たちが既に埋め尽くしていた。その場に足を踏み入れた途端、人々の視線が一気に此方こちらに集まってくるのを感じた。

「『うわっ!』」視線の重圧感に三人とも一瞬、すくみ上がった。

「ラリー様、サギ様、ウギ様――どうぞ此方こちらに」

 緊張感で立ち尽くしていた俺達にメイラーさんが静かに近寄り先立って席へと案内をしてくれた。

「間もなくリッチモンド伯爵様が参られますので……お席でご歓談を」

 そう言ってメイラーさんはその場を後にする。その場に残された俺達は席に座って一先ず周りを見渡した。

 俺達の席は長いテーブルの上座に設けられていて、そこからず~と遠くまでテーブルを挟んで両側に人が並んでいた。下座の人の姿などハッキリ言ってよく見えなかった。

「『うわっ……!』」

 再び、三人の驚きの声が重なる。

「ラリー、ねぇ――なんか緊張するわよね」

「そう、わらわなんか足の震えが止まらないぞのぅ」

 そう言って俺の両脇に座る二人の顔はちょっと青ざめていた。その二人の隣の席がひとつずつ空いていた。と言うかウギの隣は椅子では無く台座になっていた事から其処がヴァルの席と思われた、さすればサギの隣の席はマギの席か?

 そう考えているとヴァルと一人の女性がメイラーさんに案内されてやって来た。

「おおっヴァルっ! 毛並みが艶々してる~のぅ」

 そう言いながら隣に来たヴァルに抱きついてその美しく輝く銀白色の毛並みの中に顔を埋めるウギ。その仕草に見入っていた俺達に声を掛けて来るもう一人の女性にその後目を奪われる事になった。


「あら、ラリー早いわね」

 そう言ってサギの隣に立つ目眩がするほど艶めかしくも美しく着飾ったその女性に俺達は三人とも唯々見とれていた。

「『……』」

「あれっ、みんなどうしたの?」

 いろめいた笑みを浮かべつつその女性は俺達に話しかけてきた。

「あの~っ、済みません、そこは私達の連れのマギの席だと思うのですが……」

 とサギが会話の口火を切った。

「サギっ? で、だから私の席で良いでしょ?」

「……えっ? あなたマギ――っなの?」

「『え――ぇっ! マギっ!』」俺達の驚きの声がハモった。

「みんな、ちょっと失礼じゃ無いっ! その台詞せりふっ」

 マギらしいその人が少し拗ねた様に俺達を睨んできた。

 いやいや、マギか? ほんとに? 言われてみれば体躯はマギと一緒に思えるが……それにしてもこうまで変わりますか。いつもの官能路線から一転、清楚な姫君が其処に居た。清楚で有りながらもその内に秘めた凄艶せんえんな色香がにじみ出ていた。

「ねぇ~っ、ラリー……如何どうかしら私っ?」

 そう俺にマギが聞いてくる。どうってねぇ――サギも眼が点になったまま固まっているし。なんて応えたら良いのか思案してしまった。

「……似合わないかしら――ねぇ」

 マギが悄気しょげるような仕草でうつむいた。

「ごめん、違うよビックリしただけだ――凄く似合っているよマギ」

 俺は慌ててそう返す。

「そ~ぅ、だったら嬉しいなっ!」

 と満面の笑顔でマギが笑いかけてくる、その瞬間まるで一面、華が咲いた様にあでやかな雰囲気に包まれた。

 予想以上のマギの変わり様に俺達も驚きを隠せなかった、サギはずっと目を見開いたまま固まっているしウギでさえ口をポカンと開けたまま動かなくなっていた。

 そんな状況を変えたのはマギ自身であった。

「二人ともなにその態度は? 私が清楚な装いだとそんなにおかしくに見えるのかしらサギにウギっ、んっ!」

 そう言って両手の甲を腰に当てて軽く首を傾げながら二人のことを睨み付ける様に仁王立ちしていた。そしてひらりと後ろを向きになって顔だけ此方に向ける姿勢で背中を見せつけた。

「うっ――お~っ!」

 俺はおもわず口を押さえながらも叫びが漏れ出ていた。

 なんとマギのドレスの後ろ、すなわち背中側は――布の部分がほとんど無かったんだ。背中からお尻の半分くらいまでバッカリと空いていた、終いにはお尻の割れ目まで見えている。

「どう~ぉう、是なら私らしいって言ってくれます?」

 そう言いながら、俺達にその艶美な後ろ姿の肢体を見せつけてきた。

「マギっ……なんて格好をしてるんですか!」

「あらっ! ラリーの好みでは無かったかしら? それは残念だったわ」

 その時やっとサギとウギが口を開いた。

「マギらしくて――綺麗ですわ」

「おうっ! そうじゃ――まさしく艶美であるのぉ、マギにしか出来ない格好じゃぞ」

 サギもウギもそこのところはいいらしい。それで良いのか?

 俺だけか――文句をつけるのは? 女性のファッションって言うものは奥が深いのか――っ。

「ところでマギっ、そのドレスって下着は着けてるのかしら?」

 サギがマギの耳元でそっとつぶやく様に聞いていた。

「もちろん――付けてませんから……安心して下さい」

 とマギが真顔で答えていた。

 バカな、それこそ安心出来ないでしょうが――ぁ、と突っ込む所だが……周りの視線が痛くなってきたので止めておいた。

 そんな事をやり取りしながらマギもサギの隣の席に腰を降ろした。


 晩餐会の準備が整ったようで、開催宣言の前に伯爵様を迎える一声が会場に響き渡る。

「リッチモンド伯爵様がお越しに成られます」

 その言葉と共に会場のいる全ての人たちが立って伯爵様一行を迎える準備をした。そうして銅鑼どらが響き渡ると正面口の扉が開いて伯爵様が奥方様とご令嬢を引き連れて部屋に這入ってきた。

 そのまま伯爵様は長テーブルの上座にある玉座に腰をろす。続いて這入ってこられた奥方様とリアーナお嬢様は丁度、俺達の真向まむかえに腰を下ろした。

「ラリー様、お待たせ致しました。お三方も美しくあられますわね、皆がラリー様を羨ましく思っておいでですよ、きっと」

 其処そこなんですよ、お嬢様。何せサギにウギそしてマギの美しき相貌と装いはこの晩餐会場でも際だっていた、依って彼女等を連れている俺のことをうらやむ視線と言うか殺気を一手に受けているように感じている。

 その居心地の悪さと言ったらたとえる物が無い。まあ、これも仕方のないことと諦めていたが――と、ウギが袖を引っ張ってきた。

「なんだ、ウギ」

わらわは此処にいて良いのかのぅ」

「何を言っているんだ、二人であの魔獣を退治してきたんじゃ無いか、ウギも功労者なんだよ」

「でものぅ、わらわはブルーグリズリーを仕留め切れなんだ」

 そう言って少し悄気しょげ返って下を向いていた。

「……ウギ」

 ウギの気持ちを考えると掛ける言葉が見つからなかった。どんな言葉を掛けたとしてもウギに取っては其れは所詮言い訳に過ぎないと思えた。それなら、ウギの気持ちを晴らす事を考えてやらなければそう思うとひとつ妙案を思いついた。


 ウギの剣術は既に奥義の極地に位置付いていると言える、そんなウギでさえ大厄災魔獣の魔力をまとった皮膚には剣のやいばを立てることすら困難だったのだ、それは剣術の技量と言うよりも魔剣技における剣先への魔力供給の問題だった。

「ウギの剣は魔獣の身体に傷すら付けられなかったのだろう、『白気』の時は」

「うん、そうだったのじゃ全く歯が立たなかったのじゃぞぅ、『闘気』をまとってからやっとだったのじゃ」

「其れは魔獣の魔力に剣が負けていたからだ、『闘気』で其れを補ったことからやっと勝負になったと言うことだよ」

「やはりわらわの力がまだまだと言うことだのぅ」

 そう言うと益々俯うつむいて身体を小さくしていった。

「其れもあるが魔剣技の技は『気』のレベルだけでは無いんだよ、より高い魔力に対抗するには剣そのものの耐魔力性が必要になる、そこでだウギっ、耐魔力性の強い剣を作ろう。はからずも素晴らしい材料が手に入ったんだから」

 その言葉にハッと弾かれた様にウギが顔を上げると期待に満ちた目で俺を見てきた。

「そうなのか? 何じゃそれは」

 俺はウインクを投げかけながらウギの頭を撫でて妙案を教えた。

「大厄災魔獣の骨を剣にするのさ」

「あっ! それは魔力の宝庫であるのぅ」

「そうだろう、まあ其れは明日からの仕事だ――じゃまずは今からは腹ごしらえだ」

「解ったのじゃ――腹が減っては戦にならぬからの~ぉ」

「そういうことだ、な~ぁウギ」

 その言葉にウギは笑顔を取り戻していつもの天真爛漫な彼女へと戻っていった。まあ、ウギの機嫌も直ったことだし明日からは武具作りの職人を探さないとな、それも超一流のな。

 と、俺も気分を変えた所で眼前にえられた料理の香りに腹の虫がなり始めるのを押さえられなくなっていた。


 晩餐会の方は開催宣言をリッチモンド伯爵が行い、その際に今回の立役者であるサギとウギの功労が紹介された。レッドグリズリーの大厄災魔獣の退治を悲願にしていたヴィエンヌの人々の喝采の嵐は暫く止まなかったのは言うまでも無い、そんな形で晩餐会が始まった。

 ウギはさっきまで悄気返っていたことを忘れたかの様にすっかり調子を取り戻して、ヴァル競う様に目の前に並べられた料理に舌鼓を打っている。

 マギは料理の給仕の男の子達が彼女の妖艶な裸体の後ろ姿を見にこぞって訪れる為にすっかりご満悦になっていて、給仕に来るたびに会話で相手をからかいがてら茶目っけたっぷりに色香を振りまいていた、そんな事をしているものだからマギの前には人一倍の量の料理が並べられることとなっていた。

 そして、サギの元へは晩餐会の司会の方が何か相談に来ていた。

「え~っ! えぇぇっ! わ、私が此処で挨拶するの~ぉ?」

 そんな悲鳴にも似たサギの叫びで俺達は司会の人の目的が解った。

 その相談内容とはサギが功労者代表として皆の前で挨拶をする事だったらしい。まぁ、これはこれでこの場の雰囲気からも断れるものでは無かったね。

「お~っ、サギの演説か其れは楽しみですわね」

 そう言って隣のマギがサギの事を茶化しに掛かった。

「そう言ってマギは人ごとだと思ってから――どうしようね~ぇ、ラリーっ」

 サギが涙目になりながら俺の方に助けを求めにきたが、さすがに是は俺には荷が重すぎた。

「どうしようって言ってもな~ぁ、サギの思いのたけを言えば?」

「何其れ、ラリーまで――ふ~ん、どうなっても知らないからね」

 俺は何気に答え方を間違えたらしい、サギが不貞腐ふてくされる様にそっぽを向いてしまった。是は早々に謝っておいた方だ良さそうだ。

「ごめんサギ、俺だってこんな経験が無いから相談されても――あっ、そうだマギとの出会いでサギが修行をする決意に至ったことを話したら?」

 そういう事をサギに提言してみる。

 その話しに興味が湧いたのかサギが思案顔で此方こちらに向き直って喋りだしてきた。

「マギとの出会いの時の気持ちって――どういうこと?」

「そうだね、サギがもっと強くなりたいって思ったことだよ、それは多分此処にいる人もそう思う時が何処どこかであってでもなりきれなくて諦めた事だと思うよ。サギが何で諦めなかったかを知れば――また自分に照らして頑張ろうする人が出てくるんじゃないかな」

「そっか――考えてみる」

 そう言って、サギは目の前にあったワイングラスを手に取って一気に飲み干すと難しい顔をしていた。

 おい、サギっ今のはワインだよ。っと、注意する間もなくサギは傍にいた給仕の人にワインのお替わりを頼んでいたよ、それも二杯も。その眼はちょっと座っていたかな? おいおい大丈夫だよな――きっと!

 そう言う状況で俺は周り見渡してみる。

 料理が載せられたお皿はこれでもかって言う程次々とテーブルに出されては皆の食欲を満たしてあっという間に空になっていった。

「さすがに凄いな――ぁ! 料理の量がぁ!」

 感嘆符とも付かない溜息を付きながらその奥を見ていると移動テーブルの鉄板の上で肉を焼いているのが見えた、丁度ワインを掛けてフランベをしている様で青い炎が上がっていた。

 何となくその様子に興味が湧いたので俺はそちらの方に出向くことにした。サギに話しかけようとしたがさっきの事でまだ難しい顔をしていたのでウギにその旨、告げて席を立った。


 席を立ってマギの後ろを通り抜ける、その背中をチラッと見るとやはり心臓に悪い、マギの衣装は前から見ると清楚なデザインだったが後ろ姿はその裸体のセクシーにくびれた腰つきからお尻までその素肌のきめ細やかさから滲み出る美しく妖艶に満ちた後ろ姿が丸見えになる様にパッカリと空いていてに其れに目が釘付けになるのも解らなく無かった。そんな俺の視線に気付いたのかマギが舌をペロッと出しながら俺の方をいぶかしげに見ていた。ここで捕まったらマギの思う壺だと感じて俺はそそくさとその場を後にした。

 目に付いたフランベの料理をしていた場所に着く。

 その料理をしていたのは可愛らしい女性だった、年の頃ならウギぐらいか? 焼き掛かった肉汁とワインの香ばしい香りが混じりあって何とも言われぬ匂いがよけいに食欲をそそってくる。

「ラリー様、如何いかがですか? おひと口、ちょうど焼け頃ですから」

 そう言ってその女性は俺に焼いた肉を皿に盛ってくれた。

「あっ、ありがとう。 てっ、俺の名前を何故っ?」

「あの、ラリー様のお顔とお名前を知らぬものは此のヴィエンヌ城ではモグリですよ、お噂通りのお方ですね。まあ、私の場合はメイラーからラリー様の事を良く聞かされていますのでお噂以上ですが、あっ、申し遅れました私シェフのライラ―と申しますメイラーの従姉妹いとこに当たるので……くすっ」

 ライラ―さんは起こし金のへらを持った手を口元に当てて笑いを隠しながらそんな風に話しかけてきた。

 そっかメイラーさんの従姉妹いとこかなるほど何となく面影が似ている様に見えた。そんなライラ―さんに軽く会釈をして俺は差し出されたお皿を受け取った。と、受け取った皿の上の焼き肉の香りに誘われてしまって思わず鼻面を肉に近づけてその香りを思いっ切り楽しんだ。

「ん~ぅ! 良い香りですね、では頂き~ます」

 俺は焼き肉の一欠片を口に放り込んだ。その瞬間、肉汁の甘さとワインの蒸した芳醇な香りが口の中に拡がって思わず笑みが溢れてくる。

「これは~っ――何とも言いようが無い――唯々美味うまい!」

 と、止まらず残りの肉片もかぶり付く様に次々に頬張った。

「ライラ―さん、此の肉は何の肉ですか?」

「サギ様の狩ったレッドグリズリーのもも肉ですわ、勿論もちろん、魔力抜きはしてありますからご安心を」

 ニッコリと笑みを投げかけながら次の肉を焼く手番に入っていくライラ―さんは実に手際が良かった。その動作をずっと見つめているとかたわらに寄ってくる人影に気付いた。

 メイラーさんだった。

「ラリー様、如何でしたかサギ様の狩った魔獣の肉とライラ―の料理の腕のお味の程は?」

 そう言ってメイラーさんが少し俯き加減で俺に尋ねてきた。

 俺はメイラーさんに向き直ってその目を見ながら熱く語った。

「凄いですよ此の味は! 今まで味わったことの無い美味うまさです」

 そう言ってライラ―さんの焼き手番の手際の良さと肉の味について話題に途切れること無くメイラーさん俺は話していた。しかし、俺がメイラーさんに向き合っている間中メイラーさんは頬を朱に染めて下を向いて話しを聞いている様子だった。

 メイラーさんのそんな様子にハタと気づいて俺は頭を下げた。

「メイラーさん、済みません一人で喋ってしまいました。つまらなかったですよね、お忙しい中……んっ」

 俺の言葉の途中からメイラーさんは顔を上げて俺を見つめると首を左右にブルブルと振りながら俺の手を握ってきたんだった。

「そんな、つまらないなんて思ってもいませんラリー様」

 メイラーさんのつぶらな瞳がキラキラと輝いていた。

 そんな俺に焼き肉を載せた新しい皿をライラ―さんが差し出してくるとともに耳元でささやくように俺にお願いをしてきた。

「そのお肉の一欠片をメイラーに『あ~っん』して食べさてくれませんか? 彼女の一生の思い出になるので――お願いします」

 そんなお願いだったら造作も無いことと二つ返事で引き受けた。

 俺は皿をライラ―さんから受け取るとその中の肉片をひとつ取ってメイラーさんの口元に差し出した。

 メイラーさんは俺の動作を見て一瞬身体を強ばらせて固まっていたが、顔を真っ赤にしながら目をゆっくりと閉じて口を開けてくれた、メイラーさんの小さな口の中に可愛らしくチロチロと動く舌が見えたその舌の上に肉片を載せた、ちまたの呪文と一緒に。

「はい、あ~っん」

 メイラーさんはパクッと肉を頬張ったかと思うと満面の笑みと『ばふっーん』と音でも出るかの様な赤ら顔になってその場に崩れ落ちた。

「あらあら~っメイラーったら、もう昇天っ!」

 ライラ―さんは苦笑いとも呆れ顔とも付かない顔をしながらメイラーさんを介抱する様に抱きかかえる。

「あっ、ライラ―さん俺がメイラーさんを抱っこして連れて行きますから」

 そう提案するとライラ―さんが丁重にお断りをしてきた。

「まあ、ラリー様ったら――ほんと……ですね、そんな事をしたらメイラーが本当に昇天してしまいますから、大丈夫です私が連れて行きますので――あと、二皿分焼き終えてお皿に盛ってありますから温かい内にお食べ下さい」

 そう言ってライラ―さんは一礼するとその場を後にしていた。

 残された俺はメイラーさんが倒れた理由も解らずその場に立ち尽くしていたよ。

「やっぱり、俺のせいなのか?」



 メイラーさんを抱きかかえてその場を後にしたライラ―さんの後ろ姿を見送る俺の傍にすっと近づいてくる影があった。フッと振り返るとマギが其処にいた。

「ラリー、メイラーさんに色目使いはダメよ」

 俺の傍らに寄り添う様に立ったマギが俺の顔を上目遣いで見上げてきていた。

「何を言っているんだマギっ」

「あらあら、ニブチンなのかしらそれとも……図星っ?」

「……?」

「前者みたいね――ふ~ぅ」

 マギは大きく溜息を付くと俺の肩に手を置きながら彼女の額を胸に押し当ててきた。

「ラリーはね~っ――天然の女ったらしなのよ、少しは自重したら?」

 そんな風にマギは俺に言ってきたが何処がどう女ったらしなのか――俺にはわからなかった。

「俺が……? いつからそんな色男になったんだか?」

「自意識無さそうね、あ・な・たは――ほら、そう言うあなたの一の姫の演説が始まるわよ」

 そう言ってマギは後ろを振り向いて晩餐会会場の中央に目をやった。

 其処には既にサギが凄く緊張したおもむきで立っていた。そして、司会の人がサギの紹介を始める。

「本日の会の主賓であられるサギーナ・ノーリ嬢です。彼女が私達の悲願であった大厄災魔獣の退治を遂行された立役者です、皆様盛大なる拍手でお迎え下さい」

 司会の方からそう言う風に紹介されサギが一歩前に進んだ、と共に会場が拍手喝采の嵐に包まれた。

「あーっ、たっ、ただいまご紹介にいただきましたサギーナ・ノーリです。この度は私と其処におられるウギ・シャットンの為にこの様な盛大な祝宴を開いて頂きピエール・リッチモンド伯爵様並びにリッチモンド伯爵家の皆様やヴィエンヌ城下の方々には感謝致します。改めましてありがとうございます」

 そう言ってサギは深々と頭を下げた。

「私、サギーナ・ノーリとウギ・シャットンは其処にいるラリー・M・ウッド の率いるチームの一員としてベッレルモ公国の宮廷から派遣されて今こうしてリッチモンド伯爵様のところで御世話になっております。そんなわたくし達とここヴィエンヌ城で今ちょうどラリーの隣にいる魔導師のマギル・ビンチと出会うことが出来ました」

 そう言ってサギは俺とマギの方を指さしながらにこやかに微笑んだ。

「そう、彼女マギル・ビンチが今回の大厄災魔獣の退治を私とウギに促したと言っていい存在なのです――ねっマギっ!」

 その言葉にマギはびっくりした顔で惚けた様につぶやいた。

「えっ! わたし?」

 そんなマギの顔を見てサギは嬉しそうに話しを続けた。

「マギは私にとって目標になりました。今の彼女の様相からは皆さん想像出来ないかも知れませんが彼女、そうマギはとてつもない魔導師です。その力を見せつけられた私とウギはラリーのチームの中で只の足手まといの魔術師にしかないと気付かされました。其れが切っ掛けでした、ウギと二人してどうにか魔術の力を上げる為に修行の日々を送る事を決意しここ数日間を過ごしてきました。そんな日々の中で今回の大厄災魔獣との遭遇がありました。そう、皆様には私達二人で退治したと喜んで頂いていますが私達が勝ち得たのも――ヴィエンヌ城および城下の皆さんの日々の温かい助けと私の魔術と心の師匠でもあるラリーの影の支援があったからです、だから私達二人だけの成果では無いと皆さんに言わせて頂きます。ただ単に私達は強くならなければ……もっと強くなりたいとの思いを持っていたにすぎません、そんな私達の支えを皆様にして頂いていたのです。ですから、今回の事は此処におられる、いえこのヴィエンヌ城下のすべての人達の支援と共にあります。ありがとうございました、そして是からもよろしくお願い致します」

 そう言い終わるとサギは再び深々と頭を垂れて会場の人々にお礼をしていた。そんな貴女の言葉に皆立ち上がって拍手を送ることを惜しまなかった。

 会場の大歓声と拍手の渦は暫く治まらなかった。皆、サギの元に赴いて握手を求めている、そんなサギを俺とウギは温かい目で見つめていた。

 サギが大役を終えてホッとした顔つきで俺達のところに駆けてきたのはそれからだいぶ経ってからだった。人波に揉みくちゃにされて疲れ切った様子でサギはやって来た。

「ラリーっ! どうだった、わたし?」

「ああ、素晴らしい演説だったよサギっ!」

「あ~ぁ、サギったら私まで巻き込んでくれたわよね――もう、まったく!」

 となりでマギが膨れっ面をしながらもサギの事を嬉しそうに睨んでいる。

「ごめんなさいマギ、だってね~ぇ――本当の事を言ったまでだもん」

 そう悪びれず言い返すとサギはペロッと舌を出してマギに軽く頭を下げてきた。

「まあ、しょうが無いけどね、もう言っちゃったものは――でも、今回だけだからね」

 マギも悪い気ではないようでそう言って話しを変えてきた。

「でもさ~ぁ、これからが大変よねサギは――英雄様になったんだから」

「違うわよ――マギまでそう言うの~っ、もう止めてよね」

 そう言って二人は仲良くお互いの顔を見つめて笑い合っていた。


 晩餐会の方は益々活況を呈してきていつ終わるとも知れない歓声に包まれていった。俺達もそんな参加者の人々の笑顔の中で今まさに生きている実感を味わっていた。

 明日のことは明日考えよう、そう割り切って美味しい料理と美しく艶やかな彼女等が今の俺を支えてくれている事に感謝して俺は思いっ切りその場の雰囲気を満喫することにした。

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