第20話 サギーナの日記編(魔獣相手の修行)!

 皆さん今回は早めの再会ですね、サギーナ・ノーリの乙女日記で~す。 わたくしサギの独り言にまたまたお付き合い頂ければと思いましてよ。

 昨日の朝の事でしたわ、ラリーとマギがリアーナお嬢様のお供でヴィエンヌ城下の巡回警備に赴いたのは。マギが私達と一緒に行動する事になって初めてのチームラリーの仕事でしたのに私とウギは別行動を取らせて貰いましたわ。

 

 朝も日が昇る前から私とウギはお城をあとにしましたの、お城の外に出た所で流石さすがに辺りはまだ薄暗くて二人の行き先も暗闇に沈む中ぼんやりとした月明かりが残る街並みの中を目指す場所に向かって歩いて行ったの。何処にって――ヴィエンヌの街を取り囲む城壁の外の魔獣の徘徊する原野に――二人で決めたマギに追いつく為の魔術の訓練にね。

 マギとの出会いは私の人生の中で一番衝撃的でしたわ、あっ、勿論もちろんラリーとの出会いは別の意味で忘れられない人生の懐慕かいぼとなっていますけど。

 圧倒的な魔力、言葉を呑みこむ程の魔法の力を目の前にして私の魔術なんぞは飯事ままごとみたいに思えたの。ウギもそうだったみたい、ウギは直接は魔法を放つところを目にしてはいない訳だけどマギと相対した時の背筋が凍る程の彼女のオーラを感じて気付く所があったみたい。

 そんな訳でウギと相談した結果、今のままの私達ではラリーの足手まといにしかならない現実を直視してもっとおのれの魔術の腕を磨く事にしたの、そう魔力気のランクアップをね。

 ウギはもともとヴァルと出会うまでは魔獣相手の武者修行での鍛錬を重ねてきた訳だからそこのところは先輩として話しを聞いたの。で、最後にマギに相談してみたわ、そうしたらやはり魔獣相手の実戦訓練が一番の近道だって事になったのね、まあ、マギにはその時に行う魔術の内容まで事細かに指示を授かったわ、その鍛錬の中身も聞いた時にはウギと二人して青ざめる程の内訳うちわけでしたわ。そんな訳で魔獣との遭遇を求めてヴィエンヌ城壁の外まで足を延ばす事にしたの。無論、ラリーには内緒の話しですわ。

「サギ~っ、ヴィエンヌ城壁はまだまだなのかの~ぅ、わらわは既に足が棒じゃ!」

 ウギがはやばや々と弱音を吐き始めたわ、早すぎるって言うの!

「何言っているのかしらウギ、まだお城を出てきたばかりでしょ、そんな簡単に弱音を吐いていてはラリーの役に立つ魔術師にはほど遠いですわよ」

「うっっ! 其れを言われると我慢せざる得ないの~ぅ、サギっお主は華奢きゃしゃな割にはタフよのぉ」

 華奢――って、どうせどうせ胸の事よね、悪かったわね其れはウギの方が胸は大きいし……其れとこれとは別よ! なんか変な所で意地っ張りになっている私もやっぱり疲れている様だったわ。始まる前から~っ!

「ふん、ここが我慢のしどころなのですわ」

「――わかったのじゃ」

 そう言いながらも二人は歩みの速度を今以上に上げていったの。

 なんとか日が昇る前に城壁の門に辿り着いたわ。顔なじみになった門番には特にとがめられる事も無くすんなりと通して貰ったの、別れ際には『お大事に!』と挨拶までしっかりと貰っていたのね。

 門を抜けたとたんに鬱蒼うっそうとした森林の方に歩みを進めて行くの。だいぶ時間もたったおかげで日も昇ってきて森の中でも光の密度が大きく違う所がわかってくる様になったわ。

 なんとなくだが探知魔術で魔獣の居場所がつかめるようになってきたのよ、先日と同じキメイラの集団の魔力気だったわ。

「ウギっ!」

「解ったのじゃ、五体ほどいるのぅ」

 じゃぁ行きますわよ! ウギと目配せをして進む方向を確認すると私は詠唱を始めたわ。

 あっそうそうヴァルは一緒にいるけど(いつもウギとワンセットだから)今回はお目付役ね、魔獣相手の闘いには参加しないで後ろで覧ているだけにして貰ったわ、まあウギの危機には駆けつけるでしょうが……。


 ウギが腰から剣を抜きだした状態で足早に魔獣キメイラの方に向かって駆けていったわ、まさに前衛で剣技を中心にして魔法剣士の真骨頂を発揮するタイプなのね。私は後衛で電撃魔術の攻撃の準備を進める連携をとるのよ。

 ウギの動きはまさに俊敏の極みだったわ、キメイラが束でウギに襲いかかるのをまるでダンスをしている様な動きでさばいていったわ。ウギがキメイラに向かっていって其れを迎え撃つかの様に進んでキメイラが牙を剝くとすんでの所で身をひるがえしてかわすの、そして逆にキメイラが引くとウギが容赦なく剣を薙ぎ入れるのね。傍から見ても美しい舞いに見えるの思わず見入っちゃった。

「サギっ! おのれの仕事を忘れるでは無い!」

 ウギに叱責されて我に返ったわ。まったく私とした事が!

 詠唱を続けて準備が整った所でウギに合図をするのよ、電撃魔術の魔道上にウギがいたら巻き込んじゃうからね、でも、ウギもタイミングを計って後退するチャンスを見いださないとキメイラの攻撃をまともに受けちゃうから其れが難しいのよ。

 一回目はちょっと危なかったわ、ウギの離脱タイミングが旨く合わなくて私の魔力が漏れ出し始めたのね、ちょうどいかずちが一本ウギの身体をかすめて飛んでいったの。

「サギっ! わらわごと吹き飛ばす気なのか! 勘弁じゃぞ!」

「御免なさい――ウギっ」

「まあ、最初であるからの~ぅ――ほれ、離脱したぞ! あと頼む!」

「任せて!」

 その後に電撃魔術の本体を放ったわ、其れこそ雷撃の束で!

 キメイラはほぼそれでやっつけて終わったのよ、一部まだ動きが残っているキメイラはウギが引導を渡して終了! ちょっとしくじりがあったけどまあまあだったわね。六十五点かな。

 その後も魔獣を探知して駆除ついでの魔術修行を続けて行ったわ、二回目からはもっと旨くタイミングを合わせられる様になっていたのね。

 そんな風にウギとの連携魔術の鍛錬を魔獣相手に続けていったの、日が暮れるまで……、日が落ちる頃にはヴィエンヌ城壁の門をくぐってお城への帰路についていたわ。

 お城に戻ってからはまずは地下温泉に入って身体をほぐす事にしたわウギも疲れ切っていて流石に二人とも無口だったわよ、あっそうそうラリーが居ないからメイラーさんにお願いして地下温泉に案内して貰ったのね、お嬢様のあの宝石が引力を持っているみたいだったわ。

 地下温泉の湯船の中のあの魔石の傍に居ると身体中の疲労がほぐれてきたのまさに魔力の注入がされてくる様に感じたわ。

 ウギもね、其れを感じていたみたい魔石にまつわるマギの解呪の件を話してあげたらびっくりしていたわよ。

「ほ~ぉ、此の石がのぅ――魔石かのぉ……まあ、席になるわのぅ」

 ですって、興味津々で魔石の上に座ったりさすったりしていたわよ、何にも起こらなかったのは言うまでも無いですけど。

 それから、夕食を軽く済ませてさっさと寝床に入ったわ、さすがに心身ともに疲れ切っていて直ぐに寝ちゃったみたい、でもね夢の中でラリーと出会えたのちょっとだけだけどラリーは私に『おやすみ』って言って……その後は内緒っ! 

 あとで聞いた話しだけど丁度寝てる時にラリーが訊ねてきてドアをノックしたみたいなのに全然気付かなかったわ。熟睡していたのね私っ! ラリーには悪い事をしたわ、ごめんねラリーっ!


 次の日その次の日も朝日が昇る前から私とウギはお城をあとにしましたの、そんな日々を一週間程過ごしましたわ、毎日毎日、初日と同じように行動しましたわ。まあ、其れも日々帰ってからの地下温泉と十分な睡眠でしっかり翌日は復活してましたのね二人とも!

 そんな風に過ごしてきたから顔見知りを越えて家族の見送りみたいになった城壁の門番さんは今日も『くれぐれもお大事に!』と挨拶をしてくれましたわ。

 そう今日はもう少し奥の方まで足を延ばす事にしたの、だって昨日までの一週間で結構な魔獣退治をしてしまっていたのね、城壁近くにはもう魔獣の魔力気を全く感じなかったのよ、そんなにがんばったつもりは無かったんだけどしっかりやっつけていたみたいだったわ。あとでリアーナお嬢様には進言しておこうかしら、私達二人の功績としてね。

 そんなこんなで暫く歩くと鬱蒼うっそうとした森を抜けて広い原野みたいな場所に着いたわ。

「此処は? まるで自然の闘技場みたいな場所だわね」

「そうよのぅ、サギ向こうに何か居るぞ! 大きな魔力気であるぞ」

「うん、私も感じるわ」

 二人してその魔力気を感じる方向を見ていたわ、まだずっと遠いけど確実に其れは居たわ。

「今までの魔力気と質が違うわね、ちょっとまずいかしら?」

「そうよのぅ、まあ最後はヴァルもおるしのぅ、なんとかなるだろうて」

 ウギは後ろ手に回した腕で頭を抱える様にしながら私の方を見てニコニコしながらそんな風に応えてくる。

 まったくいつも楽観的なんだからウギは! そんなんで良いのですか? 私は心の中でそっと呟いていたわ。

 まあ、修行の相手としては申し分ない実力の持ち主みたいだから私達もあえてお手合わせして貰う事に異論は無かったわ。正直、私はちょっとはブルっていたけど、其れは内緒ね! 

 彼方に見える砂埃が魔獣の位置を教えてくれてたわ、でも何だかおかしいのよ? 砂埃が風に流されているのだけれどいっこうに場所が移動してこないの、向こうにも私達の魔力気は感知出来ているぐらいの距離だからあっちから向かってくると思っていたのね、其れがそう言う気配も無いのよ?

「サギっ、何かおかしいのぅ。彼奴あやつめはわらわ達を見つけていてもおかしくは無いのにの~ぉ、何故に向かってこないのじゃ?」

「そうね、でも砂埃は治まる気配は無いみたいだわ、行ってみる?」

「そうじゃのぅ、此処で待っていても無駄じゃろう、なら此方から出向くのも一考だのぉ」

 そう言って私達の意見はまとまったわ。直ぐに目的の方に移動を始めたのね。


 そこに見えた光景はまるで怪獣大戦争だったのよ! 身の毛がよだったわ!

「おいおい、是はまさに悪魔の権化だのぅ」

 なにその無感情な表現は? ウギには恐怖という感情が無いのかしら?

 私はその場で足の震えが止まらなかったわ、怖さを越えて戦慄するとでも言うのかしら?

 そこには巨大な二体の魔獣が対立していたの、一体はレッドグリズリーで全身が真っ赤に染まっていて眼も真紅だったのそうしてもう一体はブルーグリズリーだったわ、こっちは全身真っ青なの。

 二体はまさに全身全霊で相手に対峙していたのね、私達の事なんか眼中に無かったみたい。此の系統の魔獣はキメイラのように真性魔獣では無いの、野獣の進化型というか野獣が桁違いに長らく生きていた事により呪術に掛かって魔力化したのね、めったに会う事は無いのによりにも依って二体同時の遭遇って運が良いのか悪いのか? 

 そんなに怯える程の事なのって? どうしてって? 其れはあなた野獣の魔獣化は十万分の一いや百万分の一ぐらいのあり得ない事だからその強さは半端じゃないのよ。大厄災と言っても良いレベルよ。ヴァルの全身の毛も逆立っていたからその事だけでも凶事と言う事がわかるでしょ。

如何どうするのじゃ、二体の戦いが決着着くまで待つかのぅ? それとも第三の勢力として参戦するかのぉ? まあ、わらわはどっちもどっちという気がするがのぅ」

「ウギっ! あなたは怖くは無いの? 厄災相手よ其れも大厄災レベルなのよ! 私は正直逃げ出したいくらいなのに~っ――も~ぅ」

「うん、わらわも同感じゃぞ――ほれっ!」

 そう言いながらウギは彼女の手を私の手の上に置いてきたわ。そう、ウギの手から小刻みに震えが伝わってきたの――っ。彼女も震えが止まらないほど恐怖を感じていたみたい。其れすら私には解らないほど私も動揺していたのね。

「でものぅ、マギに追いつきたいと始めた事なのじゃ、こんなことで逃げ出していては到底そんな領域に辿り着く事は不可能じゃろうのぅ」

 そうね、ウギの言う通りだわ。逆にこんなチャンスはまたとないわね。そう頭では解って入るのだけれど――そんな簡単には気持ちは割り切れないのよね。

「行くわよいい? どっちにしろどっちかとは、やり合う必要があるのだから――だったら最初から二体と対峙した方が良くない事? 今のところあの二体が協力してこっちに向かってくる事は無さそうだわね」

 そう言いながら私は詠唱を始めたのね。どうせやるなら先制攻撃に勝る物なしと行きたいわね。


 それからの闘いは今までの魔獣退治とは次元が違っていたわ、ウギが先制して時間を稼ぐ前衛攻撃中に私が後衛で攻撃魔術の詠唱を唱える戦術だったけれどそんな時間稼ぎなんか出来なかったわ、ウギも攻撃中に防御の余裕なんか無いから打ち込んだ剣の脇の甘さにグリズリー達が即座に反応するのよ、私も攻撃魔術を唱えるよりウギに追加の防御魔術を即座に付加してあげる事に注意を集中するしか無かったのよ、だってそうでもしないとウギが危ないのよ。

まずいのぅ、是では押し込まれる一方であるぞ――つぅ」

 ウギの表情にはじんわりと苦悩の呻きが現れていたのを私は見逃さなかったわ。

「ウギっ! ひとまず下がってょ! いったん引くわよ、わかって!」

「う~っ、仕方が無いかのぅ」

 ウギも今のままでは劣勢が否めない事がわかっているが引くにも二体の巨体が相互におそってくる状況ではそのタイミングもつかめなかった。

 そうこうしているとウギに絡んでいた二体の内、レッドグリズリーが私の方に向き直ってきたのよ。

「えっ! なっ!」

 そんな言葉が口から自然と出てきたわ、今の私はウギへの防御付加魔法の詠唱中でそんな自分の守りをする余裕なんか無かったから、次の魔術の為に詠唱を切り替えるには時間が無かったのよ、おのれの状況の不利さを感じて恐怖に心臓が凍りつく感覚を覚えていたわ。

「サギっ! わらわの事はもう良い、自分の事を早く――く~っ、ヴァル頼んだのじゃ!」

 ウギの悲鳴にも似た叫びが聞こえたのね、ごめんねウギ。


 レッドグリズリーが私の目の前に既に迫ってきていて、その魔力で真っ赤に染まった右腕が私の身体を横殴りに張り倒そうとしてきたの、私自身への防御魔術の切り替えは既に始めていたけどこの魔獣の魔力に耐えられる対防御魔術を発動する為の詠唱の時間は到底無かったの、もう無理かなって思ったわ。そうね、人は死を目の前にする時に走馬燈の様に過去を振り返るって聞いていたけど、私の頭の中はラリーの顔しか出てこなかったのね、おかしいでしょだってまだ出会ってほんの少しの時間しかたっていないのにね、ラリーの恥じらいの可愛い顔つきとか、真剣に私に話しかけてくる時の眼差しとか……ああっ、最後にもう一度会っておきたかったな~っ、なんてね! その時なの私の頭の中のラリーがいきなり私の意識を鷲づかみにしてきたの、えっ? ラリーっ? って思ったわ。

「サギっ! 聞こえるかっ! いいかそのまま詠唱の先の最後のイメージだけを思え! 其れだけをただ其れだけを――思え!!」

 私はただそう言われるままラリーの顔も消えて何もかも真っ白になって唯々防御魔術のイメージの効果とついでに反撃魔術を織り交ぜてあのデカぶつを叩きのめすイメージを頭に描いていたの、まあ次の瞬間に叩きのめされているのは私の方のはずだけれどね、うぇ~ん!

 レッドグリズリーの右腕の魔力気が私の身体に触れてきたのがわかったわ、ああ、是で終わりなのねって思いそうになった時、またラリーの声が聞こえてきた様に感じたわ。

「サギっ! さっきのイメージの力を魔獣の魔力気に当てることを思えっ! そして銀色を考えろっ!!」

 えっ! ラリーっ! またぁ! 銀色って? 良く解らなかったけど最後にラリーの顔が浮かんできたから嬉しかったわね。しかし銀色って――あっそうだラリーの『覇気』の色だわね。

 そう解ったの、輝く様な銀色の力をイメージしてあのデカぶつを睨み付けてやったわ! その時レッドグリズリーの真っ赤な眼が戦慄の眼差しに変わっていったのが見えたわ。まあ、あのデカぶつが肝を冷やしている顔ね、ちょっと笑っちゃったわよ。

 

 私の目の前にはレッドグリズリーの巨体が見事に横たわっていたわ? えっ? 私まだ生きているの――何があったのかしら? 誰が助けてくれたの? あっ……ラリーは!

 私は訳もわからずその場にしゃがみこんでいたみたい、そんな私の顔をヴァルが思いっ切りなめ回してくるのよ、珍しい事に! 私、ヴァルに舐められた事が今まで無かったから凄くくすぐったいけど滅茶苦茶気持ちいいのよ、これが! 癖になりそうだったわよウギが羨ましく思えたわ、いっつも舐めて貰っていたからね、彼女は。

「サギっ! 大丈夫じゃろうか? 怪我は無いのかのぅ?」

 ウギが蒼白な顔をして私のところに駆け込んできて抱きついてきたの~っ、それでねぇ――しゃがみこんでいるから私、ウギの胸が丁度私の頬に当たるってくるの、でねっ其れがね凄く柔らかくてねっ……私何を話しているのかしら?

「――大丈夫……みたいね……わたし? なの?」

「なんなのじゃ、その疑問符が付いた様な返しは? お主の事だろうにのぅ」

 そう言いながら私の返しがいつもの私なので安心したのか、ウギは膨れっ面をしながら反論してきたの。

「――だって生きているの? わたし?」

「は~ぁ! 何をのたもうておるのじゃ『覇気』を発しておいて――お主もしかして覚えておらぬのか? サギっ!」

「――うん!」

「あら、ま~ぁなのじゃ」

 私の頭の中はまだ朦朧もうろうとしていたわ、ついさっきの事は何も思い出せないのよ。私がまるで私でない様な感覚を持っていたのね。それで、ウギに教えて貰ったのよいったい何が起こったのかって言う事を――その内容は私には即座に受け入れる事が出来なかったわ。

 レッドグリズリーの右腕が横殴りに払われた時に、そう私の身体をまさに両断する間際に私の身体の発するオーラが銀白色に輝いて周りを一瞬光銀色に染めたらしいの、その後はレッドグリズリーが血反吐を吐きながら崩れる様に倒れたって事らしいわ。確かに今まさに目の前にはその巨大な死体が横たわっているから嘘では無い事ぐらいは解るけど――『覇気』の銀白色のオーラを私が発したって? まさか~ねぇ。

「だからじゃよ、お主の『覇気』が此奴こやつほうむったのじゃぞ、やったではないかの~ぅサギっ!」

「う~ん、でも何かこう実感湧かないし其れにねどうやってそうなったか覚えてないのよ、それって結局もう一回やってって言っても出来ないじゃ無いの――それってどうかな~ぁ」

「其れは其れで良いではないか、兎に角、わらわ達は大厄災の魔獣に勝ったのじゃ、お主のお陰で死に体までおい込められたわらわ達の逆転劇をお主が起こしたのじゃぞ! それほどの力はいずれまた起こせるに相違ない何しろ身体は覚えているのじゃぞ――あとは何とかなると思うぞ」

 そう言ってウギが私の事を褒めてくれるのも何かこそばゆかったし、私は話題を変えるとこにした。

「ウギ? そう言えばもう一体のブルーグリズリーは? 何処どこ?」

「おう、あれかあれもお主が片付けたと言ってもいいの~ぅ、最後にわらわも覚醒出来てひと太刀報いたがのぉ」

「えっ! どういうこと?」

 ウギいわく、私の『覇気』を感じた瞬間に魔獣は恐れをなして逃げる態勢に変わったらしい、その時ウギもまったく歯が立たなかったそのブルーグリズリーの身体にひと太刀入れる事が出来てその右腕を奪っておいたとの事だった。その腕がいまウギの手元にあるの――毛むくじゃらの魔獣の腕が……。

「歯が立たなかったってその剣では皮膚に傷を入れる程度だったじゃ無いの其れが腕を切り落としたってどうやって?」

 そう質問した私に対して、満面の笑顔になってウギはこう言ったの。

わらわも『闘気』が出来たのじゃ!」

 私の『覇気』にウギの『闘気』! 取り敢えず目標のランクアップ完成って、思わず立ち上がってウギと抱き合って大喜びした事は言うまでも無いわね。


 ふたりで抱き合いながら大喜びのあとは現実に戻って二人で悩んだわ、だってその目の前に横たわっている大厄災の魔獣の死体の処理が残っていたのね、大仕事として!

「このまま置いておく訳にはいかないからのぅ、厄災魔獣だからのぉ、取り敢えず皮を剥いで血抜きをするかのぅ」

 真性の魔獣ならまだしも、厄災の魔獣はもともとは野獣であったわけで何らかの呪術がその厄災に結びつくからその死体を普通の野獣が食べたりしたらそれこそ、そこら中に呪術が広がってしまう訳なの、だから厄災の魔獣の死体はきっちりと解呪の処理とその身体処理をしておかないといけないのよ、まあ、身体の各パーツは其れこそ魔力を持った材料としてとても貴重な物だから高値で取引されるような物なのね、だからこそ放ってはおけないけど。

 さすがにウギの手さばきは手慣れたものだったわよ。首を狩って血抜きをしてから身体を綺麗に解体し始めたわ、私にはまだ無理な仕事ね、だってバラしかた全然解らなかったわ、是も後で勉強が必要だと認識したのね。

 帰りにそれらをヴァルに引きずって貰う事にしたので台車になる様な物が必要だったわ、私はそばの林に這入って木片を集めたわ、そうそう持ちきれない身体部分は燃やす必要もあったしね。

 身体の半分くらいの長さの木片を蔓草つるくさしばって組み立てたのヴァルが引っ張りやすい様に蔓草を編んで太紐ふとひもにしてたわ、そうしたらヴァルとウギが近寄ってきて私の手元をじっと見ているのよ。

「それは魔術か? 何故に細い蔓草つるくさがそんな太い紐になるのじゃ?」

「えっ! これは単に編み込み紐の応用よ、魔術なんかじゃ無いわよウギにも後で教えてあげるわね」

「おう、其れは有り難いのじゃ――ほほう、なかなか丈夫な紐になるのじゃのぅ、これは便利じゃ」

 そう言ってウギは私の作った太紐ふとひもの一部を使ってヴァルと綱引きをしているのよ、まったくウギったらもう!

「本当に丈夫じゃぞ、此の紐は――サギどうじゃこれで商売が出来そうじゃがのぅ」

「えっ! そうなのかな~ぁ、普通に編み込みをしただけだけど?」

「いやいや、これ程の物はわらわは見た事が無いぞ――売れると思うぞ、サギは凄いのぅ」

「ええ~ぇ、まあ……そ、そそうなのかな~ぁ、えへっ」

 ウギに褒められると何かこう……こそばゆいのよね、なんでだろう?

 ウギの方はひとまずは解体作業が終わったみたい、さすがに早かったのね。血抜きの血は革の器を即席で作って其れに溜め込んだの。

「ヴァル、おやつだぞ」

 ウギがそう言うとその器の中の魔獣の血をヴァルは美味しそうに飲み出したわ、私も何だか欲しくなっちゃったわね、だってヴァルがあまりにも美味しそうに飲んでいるのよ。

「おいサギ、その血はお主は飲まぬ方が良いぞ――魔獣のヴァルだから影響が無いというかのぅ、それこそ魔獣の魔力をヴァルのものに出来るがわらわ達人間には毒だと思うぞ」

「えっ! あっ、ウギなんでわかったの私の気持ち?」

「馬鹿いえ、気持ちなんか解るかのぅ――ほれ、口元をこれで拭いておけ……よだれが出ているでのぅ」

 そう言ってウギは私に綺麗な布切れを渡してくれたの。

 …………わたしなに……よだれっ? えっっ! 一気に顔が真っ赤になったのが自分でもわかる程顔が熱くなったわ――恥ずかしいって言ったらありゃしないわ。

「わからんでもないがの~ぅ、ヴァルが本当に美味しそうに血をすするからのぉ」

「ウオーン」

 ヴァルがそれに応えるかの様に吠えたわ!

「『ぷっ! あははっ』」そのやり取りに思わず二人で笑い合ったのね、まさに今、生きている実感が湧いてきたわ。


 私の組み立てたそりの台車に大厄災の魔獣すなわちレッドグリズリーの解体された身体の部分を載せて落ちない様に縛り付けておいたの、載せきれなかったところはひと所に集めて余った木片ともに燃やしておいたわ、丁度供養になる様にって二人揃って手を合わせて念じながら弔っておいたのね。まあ、そうしていると丁度お昼ぐらいになったのでその焚き火を利用して食事を作ったわ――勿論もちろんレッドグリズリーの肉の串焼きになるわよ、今日のメインディッシュは!

「美味しいっ! なに此の肉の軟らかくて濃厚な味は~っ、芳醇な薫りと味にほっぺたが落ちそう」

 私の第一声の感想ですね、そこのあなた今ちょっと引いたでしょ! だってそれくらい美味びみなお肉でしたわよ。

「旨い! 旨いの~ぅ、ヴァルどうじゃ」

「ウオ~ン」

 ウギもその味には感動していたみたいね。確かにこれからレッドグリズリー狩りが癖になる程の美味おいしさですわよ、ラリーにも食べさせてあげようっと。

 思いのほかというか期待を裏切って美味しかった串焼きを三人? で目一杯堪能した後、これからどうするかを相談したの。

「帰りの戦利品も満杯だしのぅ、ヴァルに引いて貰うにもこれが限度であろうぞ」

「そうね、取り敢えず目的は達したしね~ぇ、戻りましょうかまだ日が高いけど」

 二人とも今日の第一戦で魔力と体力を使い果たした感もあって今日はもういいかって気持ちだったのね。まあ、それなりの成果が既に目の前にあったしラリーにも久しぶりに会いたかった事もあるのよ。

 だってここのところすれ違いばかりで逢っていないのよ、寂しい気持ちがあったのは確かよ、わかるでしょ~ねぇ。

 ウギが先頭を歩いてその後ろをヴァルが橇台車そりだいしゃを引いていくの私は最後尾ね。そんな陣容でヴィエンヌ城壁まで戻った行ったわ、帰りは特にこれと行った障害も無くてねスムーズに戻れたの、台車を引いてくれるヴァルの事が気になったけどあれだけの量を載せているのにヴァルったら全く気にならない様に力強く引いてくれるのよ、さすがにその体力には驚いたわ。

 ヴィエンヌ城壁の門番さんも私達の顔を見つけると嬉しそうにしてくれたわ『今日はお早いお帰りですね、ご無事で何よりです』ってね、私も気軽に応えたのよ。

「ええ、今日は十分な成果が既に出来たので帰って休む事にしたの」って、そうしてヴァルが引いていた台車を指さして見せたの大厄災の魔獣レッドグリズリーのなれの果てを……。

「あっ! えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 其れを見た門番さんの絶叫が周辺に木魂こだましたわ。

 えっ! なにっ! 私達何かしでかしたのかしら? 瞬間、私とウギは顔を見合わせてお互いの知識の範囲で間違いを犯しているかを考えたけどお互いの認識では解らなかったのね、後は事の成り行きを見守るしか無かったわ。

 その後のヴィエンヌ城壁門の周りは凄い事になったの、大勢の人が押し寄せてきて私達に感謝の言葉を述べていくのよ、中には号泣の余り卒倒している人も居たわ。何が何だか?

 そうしていたらお城からお迎えの人が来たみたい、門番さんがお城に早馬を出して事の成り行きを伝えたのね、仕事にそつがないわね門番さんたらっ。

 お迎えのひとの中にメイラーさんが居たので私達は安心出来たみたい。メイラーさんに聞いてみたのよ、何が起こっているのって?

「サギ様もウギ様もこの街の英雄としてこれからはお持て成しさせていただきます――私を含めリッチモンド伯爵家一同いや城下町ヴィエンヌの全住民の悲願でした大厄災魔獣レッドグリズリーの討伐のご成功おめでとうございます。感謝の意を表して今日は街を挙げての大晩餐会を催させていただく事になりました。勿論むろん、主賓はサギ様とウギ様そしてヴァル様でございます」

「『えっ! えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』」

 ウギと私の二人の声がハモったわ、門番さんの絶叫の意味が今、わかったのね。


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