第19話 ヴィエンヌ城下の巡回警備!
結局のところ新生チームラリーの初仕事は俺とマギと二人だけでヴィエンヌ城下の巡回警備の方に赴く事になった。サギとウギは朝から行く先知れずだ! マギには何か有ったらヴァルから連絡があるから大丈夫って言われて俺は渋々承知した形となったが。本当にサギとウギの二人は――ぁ、ってヴァルを入れて三人は何をしているんだ?
そんな俺の思いとは裏腹にマギはさっさと
黒で
「マギさん、その格好はいくらなんでも街中の界隈を
「んっ! あらっ、にぶちんのラリーにしては反応が早いですね~ぇ、まあ、君にはじっくりと見て貰っても良いわ~よん! どぉ~う」
いやいやそんなんで出向いたら普通の男たちが全員痴漢行為に走りそうで単に犯罪を助長する巡回になるって。それはダメでしょ!
「あらっ、ラリーったら私だってこのまんまでは出かけません事よ」
と、言ってマギは
“バシッ――っ”その音は紛れもなく鞭の音だった。わぉーっ、やっぱり持っているんかい!
俺はマギのショータイムを終わらして早々にヴィエンヌ城下の巡回警備に向かう事とした。途中でリアーナお嬢様を迎えに行かなければならなかったし。
二人でヴィエンヌ城の正門前に赴むく事にした。其処にはリッチモンド伯爵家の
俺達は正門に行く前にメイラーさんを通じてリアーナお嬢様のお迎えにあがっていた。お嬢様はいつもの様相のままの麗しきドレス姿で俺達の事を待っていた様だった。
「おはようございます、ラリー様」
リアーナお嬢様が先に俺の方に歩み寄りながら挨拶をしてきた。先手を取られた感じだった。
「おはようございます、リアーナお嬢様。今日も見目麗しきお姿ですね」
「あらっ、ラリー様ったらお上手ですこと」
「いえ、心からの気持ちを表したまでの事ですから」
そういうことをリアーナお嬢様とやり取りしていると傍でマギが
「馬鹿っ」
おい、聞こえたぞマギっ! って、思わずマギの事を
「あらっ、今日はサギとウギはいらっしゃらないのかしら? 其れとその隣のお方はどなたですか? 初めてですわね、あなた? 多分? えっ、何処かでお会いしてましたか?」
リアーナお嬢様がマギを見て不思議そうな顔をしている。そらそうだわ、夢枕の中では散々出会っているはずだからな。其れは其れとして置いといて現実での初対面だから挨拶をさせなければと……。
「リアーナお嬢様、こちらのお方はマギル・ビンチ嬢でございます。私達のチームの一員として今回の巡回警備に同行いたします。どうぞお見知り置き下さい」
そう俺がマギを紹介すると、マギはリアーナお嬢様に一礼しながら自己紹介を始めた。
「ご紹介にあずかりました私、ラリー一家の長姉としてこの度お仕えする事になりましたマギル・ビンチと言う魔導師上がりの若輩者でございます。今後ともどうかよろしくお願いします。マギとお呼びつけ下さい」
「マギ様ですわね、此方こそ宜しくお願いいたしますわ……でも、マギ様は初対面って言う気がしないのですわ? 何故かしら?」
リアーナお嬢様は本当に不思議がっていたわ。
しかしマギは――姉さんって言ったね! しかも若輩者ってお前幾つだっけ? 俺はおもわずマギの顔をまじまじと見て取った、多分俺の
「くっ――っ、痛っ!」
思わず痛みに顔が強ばった。
「あら、ラリー様、
そんな俺の様子を見てリアーナお嬢様が
「あっ、いえっ、何でもありませんから」
俺は少し引き
そのあとでマギの方を振り向きながら彼女に小声で愚痴った。
「マギっ! 後でなっ!」
「あらっ、後でなのわかったわ! じゃあ私は湯浴みをして身ぎれいにしてからあなたの事を裸で待っているからね~っ! あ・と・で・ね! あっそうそう優しくしなくてもいいわ~よん、激しいのを期待してるから~っ、ら・り・ぃ!」
マギはハートマークが出てくる様なウインクを交えて俺に答えを返してくる――ダメだこりゃ! 勝てる見込みも無いわ。俺は早々に退散を決め込んだ。
リアーナお嬢様を連れて正面門の所に着くとリッチモンド伯爵家の
そんな様子をご令嬢がひと言、
「皆さん、おはようございます。今日の私は単なるおまけの付き添いなのでそのように
そんな優しい投げかけに
「はぁ~ん、なかなかのものですわ~ねぇ」
マギがご令嬢の振る舞いを見ながら感心した様に
まあ、こんな集団がいきなり繁華街で警邏を始めて治安のレベル確認も無いだろうと本音で思っていても口にする事は無い。と、
「大勢で大挙して押し掛けて治安のレベル確認って言う事ですか……馬鹿ですか皆さんは?」
マギが頭に後ろ手の格好で少し
「マギっ! 本音がだだ漏れっ!」
「だって本当の事でしょう、誰も真実を進言する
だいたいこの巡回警備自体が形式的なものなんだから、
「ふごふご――っがっ!」マギが俺の腕の中でジタバタしながらもまだ何か言っている。しょうが無いからそのまま耳元で小声で話しかける。
「マギっ、頼むよ少しは俺の立場も考えてくれないか? 自重してくれ」
ふっとマギが
「むっ、ラリーの為とあれば致し方ないですね」
「マギ、解ってくれるか?」
「ん、わかりませんが――取り敢えず
確かにマギの言う通り
「やっぱり、つまらないです~ねぇ」
さすがに我慢が出来ずにマギが愚痴を言い始めた。
その時、一行の真ん中にある御令嬢の乗る馬車が止まった。車窓からリアーナお嬢様が顔を出している。そのお嬢様が事も有ろうかマギを呼んでいるのだった。
あ~ぁ、マギよ、お小言を貰うかも知れないぞっと。俺は冷や汗をかきながらもマギと一緒にリアーナお嬢様のところに駆けていった。
「マギ様、ちょっと相談があるのですが――こちらに乗っていただけませんか?」
「あっ、私がですか? ラリーは?」
「マギ様おひとりでお願いいたしますわ」
「……ふ~ん、わかりましたわ」
そう言うとマギは馬車のドアを開けて中に這入っていった。おい、大丈夫か? サギがいないのがこんな風に困る事になるとは……そんな状況が俺の心の不安をさらにかき立てていった。
「んっ、マギ? どうした?」
「……」
マギは無言のままその場に立ちすくんでいた、其れも俺の腕に彼女の腕を絡めたままで。
そんな俺達の事にはお構いなしに
しばしそんな状態で
そう、其処にいたのはマギでは無かった。
「なっ! えっ! リアーナお嬢様っ!」
俺は思わず自分の口を押さえて漏れ出す声を隠そうとしたのだった。
“相変わらずにぶちんですわね~ぇ、ラリーは”
マギの魔力念波が聞こえてきた。マギいるのか?
“
“マギっ!
「あっ、ラリー様? もしかしてマギ様をお探しですか?」
リアーナお嬢様が俺の挙動から察してくれたのかマギの居場所を教えてくれた。其れはまたいつもの場所だった!
「マギっ! お前な~ぁ!」
蜘蛛の姿のマギが居た場所は――お嬢様のドレスから
確かに此処でマギが蜘蛛からいきなり人間に姿を戻した日には街の界隈で噂になってしまうのは必至だからな。俺はリアーナお嬢様の手を引いて路地裏へと人目を避ける場所を探すことにした。
街並みから少し離れると
「あそこに行きましょう」
俺はリアーナお嬢様をその廃墟の中へと導いた。廃墟の中は誰も居なかった、まあ当たり前と言えば当たり前だが――誰も居ないから廃墟になっているのだし。俺は念のため周辺に結界を掛けて置いた。
マギは早速、蜘蛛の姿を戻す魔法を掛けて人間の姿へと戻った。其れをずっと見ていたリアーナお嬢様は感慨深げにマギの事を慕う眼をしてきた。
「マギ様も英雄様なんですね」
リアーナお嬢様は深々と一礼をしながらマギに手を差し出してきた。
「マギ様どうか私達をお守り下さい」
そう言ってマギの手を取ったまま膝をついて拝礼までしてくる。
「え~っ! 私は単なる一塊の魔導師ですわよ、お嬢様っ! さあ、お立ち下さい。其れでは私が困りますから――それと、コートを返して下さらないでしょうか、この格好ではラリーの目の毒ですからっ~ねっ」
リアーナお嬢様も結構天然である事が解った。だって、マギは今、真っ裸でお嬢様の前に立っているのだから。俺は目を逸らしたままマギの事を見る事が出来ないでいた。
マギもさすがに毎回変身するたびに人間に戻る時は真っ裸って言う事に自虐を感じていたらしい。廃墟の物陰で服を
「毎回裸体を
だから着衣魔術を詠唱してから変身しろって言うの、まさにそれじゃ変身でなくて変態だろうが……。
大魔法が使える程の魔女である訳だが生活魔術程度の小技は結構不得意らしい、マギのそんなところを知って少し親しみを感じている自分がいた。
そんな事を考えているとコートを羽織って露出を抑えた服装になってからマギは俺の前に立ち戻ってきた。
「ラリーっ! お待たせっ!」
そう言ってマギはちょっとは照れた様子で俺の傍に立つとリアーナお嬢様に相対して話しを始めた。
「リアーナお嬢様のそのドレス姿は街中では目立ちすぎますわね」
その言葉をマギっ! そのまま君に返して上げたいわ! 俺は! あなたはどっちがどれ程目立つ格好だって思っているんだか、わかっていますか? 俺はそう思っているのだけれどマギは違うらしい。そんな俺の思いとは裏腹に話しを続けていった。
「まずはお嬢様の服装をランクダウンさせないと街中には出られませんわね」
マギはそう言って人差し指を
「そうですわ、まずはお嬢様にはそのドレスを脱いでいただきましょうか」
「えっ!
「無論いまですわよ、私とラリーしかいないじゃ無いですか? 何か不都合でも?」
いやいやラリーって俺の事だろう、俺の前でリアーナお嬢様が服を脱ぐってなぁ~、其れが問題だろう。
「おいマギ待て待てっ! 俺がいるから
「あら、ラリーはお嬢様のお着替えを事細かく見れるチャンスじゃ無いですか? はて? 何故に反対されるのですか? ラリーには感謝されても文句を言われる筋合いは無いと思いますが?」
済みませんマギさん、何か俺の事を大きく勘違いされていませんか? 其れは俺も男の端くれですから女性には興味はありますけど……。
「あのね、マギっ! 俺は――」
速攻でマギが俺の話しに言葉を被せてきた。
「あ~ぁ、そうですねラリーには私を含めて三人も姫御前がおりますものね――今更お嬢様の下着姿なんかには興味は無いと――そうおっしゃいますか」
「なっ――そんな事は――っ」
「――無いと言えますか? ラリーっ」
そういいながらマギは俺の方にウインクをして合図を送ってくる。何かを企んでいる様だ。
リアーナお嬢様はマギの話しに最初は戸惑いを見せていたがサギ達の話題が出たとたんに目つきが変わってきた。
「マギ様、わかりました。いま
そう言うが早いかリアーナお嬢様は俺に後ろ向きになってドレスを脱ぐ手伝いをお願いしてきたのだった。
「ラリー様、ドレスの後ろの
リアーナお嬢様は少し照れながら俺から目を逸らして話している、其れがやけに可愛らしく思えた。
「あっ、嫌という事は無いですが――俺がですか?」
「はい、ラリー様にお願いいたしたいのです」
俺はマギの方を見てみたがマギは俺から視線を逸らしてあらぬ方角を見ている、しかしその顔はしてやったという様な表情をしていた。俺はマギに完全に謀られている事を知った、が……他に手は無かった。
俺はリアーナお嬢様の後ろに回りドレスの背中の編み上げ紐をほどいていった。俺がお嬢様のドレスの紐をほどき終わるとお嬢様はくるっと俺の方に向き直って肩口からドレスをゆっくりと脱いでいった、其れも俺にまるで見せつけるかの様な仕草で……。
「さっ、ラリー様、私をとくと見て下さいませ。サギには負けておりません事よ」
なっ! 何でサギの名前が出てくるのかな? 俺に対して皆何を競っているのですか?
「ねえ、ラリー様、私の躰は
「何を
俺は視線を宙に迷わせながらお嬢様から少し離れた。其れを
「あら、ラリー様其れは少し
そう言いながらお嬢様は下着姿で俺にしがみついてきた。
「なっ! お嬢様っ! 何をなさいますか?」
「私だって恥ずかしいのですよ、其れを
俺の胸の中に飛び込んできたお嬢様はその頬を朱に染めながらはにかむ様にそう言ってくる。その表情が無性に可愛らしく思えた。俺はリアーナお嬢様を両腕で抱き締めながらお嬢様の耳元にそっと
「リアーナお嬢様、申し訳ありません。あなたのお姿が余りにも
俺の言葉とは思えない台詞が口を
「あらっ、もうばれましたかしら? 腹話魔術ですわよ、ラリーったら折角お嬢様があなたにせまっているのにニブチンなんですものここは
「――マギっ!」
俺は全身の力を込めてマギの呪縛を解いた。
「あらま~ぁ、そんな簡単に解呪してしまうとは……折角でしたのに、こんなシチュエーションまで用意してましてよ、ラリーの為と思いまして――ダメでした?
「ダ・メ・です!」
俺はマギにリアーナお嬢様の代わりの服の用意を頼んだところあっさりと出てきて逆に驚いてしまった、しかも
「さっ、お嬢様前座はこれくらいにしてメイラーさんの服に着替えて下さい。終わったら街中に出かけますわよ」
お前たちはグルかよっ! さっきまでの事は何か~っ、前座って芝居か?
「あらっ、ラリーどうしまして?」
「最初から仕組んでいた事なのか? だったら馬車の中で先にお嬢様のドレスをメイラーさんの服と取り替えてきたら済んだ事だろう」
「まあ、其れではラリーのドギマギしたところを見られないでしょ、お嬢様もラリーに見て貰いたいのよ、
「マギ様――その話は~っ、秘密の約束ですわよ!」
俺の横でリアーナお嬢様が真っ赤な顔をしてマギに食って掛かってきた。えっ! なにっ! 何のこと? 俺の頭の中では“???”が飛び交っていた。
「ほらっ、お嬢様! ラリーにはこれくらいの事をしても――っ、ねっ!」
「うっ! 本当のようですわね、ラリー様の
リアーナお嬢様も俺の事を
俺はまた何か失敗したのか? 二人の呆れた顔を見ながら俺は背筋に冷や汗をかいていた。
リアーナお嬢様はもともと巡回警備で
「マギそうは言ってもだよ、お嬢様に何か合ったらどうするつもりだった? 俺とマギの二人だけだぞ、護衛についているのは」
「あら、ラリーともあろうお人が何をそんな気弱なっ! 今の私達に勝る護衛がいて?」
マギが冷たい目で俺の事を見てくる。まぁね、確かにマギの実力は得がたいものではあるがサギもウギもいないんだぞっ! そう言う風に自信過剰な
「マギ、二人の集中が切れた時が危ない時だろう。其れが無いって言えるのか?」
「ない!!」
あらま~ぁ、速攻で返してくるわ、この
「まあ、お嬢様が女子専用の場所に行く時があるから、私がいる必要がありますけどそれ以外ならラリーひとりでも十分でしょ、ヴィエンヌ城下ですしね」
「そうなのかな~ぁ、確実って事は無いと思うがな~ぁ」
俺は手を頭の後ろに回して天を見上げながら口癖の様に呟いた。
「ラリーっ! 護衛はバランスなのよ、大勢いれば言い訳では無いわ。人だよりにして隙も生まれやすくなるし他人に依存する気持ちが多くなればなるほど烏合の衆になるのよ、人間って言うものは」
「そうかな、そう言うものか」
「そういうこと」
マギの言う事も一理あると思った。俺は少し自分の考えを思い直そうとしたマギは思ったより考え深い様である。
「其れにラリーが女性の弱みを守らないわけが無いでしょ、そんな男をサギやウギがあれ程まで恋い焦がれる事は無いと思うわ」
そう言いながらマギは俺の顔を覗き込む様にして目配せしてきた。なっ、なんてことを口走るんですか。サギがウギが――そんな事は無いでしょ。
「ああっ、二人が其れを聞いたら地団駄を踏んで
俺とマギの雑談の間にリアーナお嬢様が着替えを済ませて二人の前に姿を現した。
「お二方、お待たせしました」
お嬢様はマギが持ってきたメイラーさんの町娘風の服装に着替えていた。そんな貧相な服に着替えても醸し出しているお嬢様オーラは完全には防ぎ切れてはいなかったね。雰囲気が完全に上品すぎている。
「――んっ、やっぱり服装を変えただけでは足りなかったですわね」
マギも思ったよりリアーナお嬢様の気品のオーラが強い事を考慮に入れてなかった様だった。
「仕方が無いですわね、サギには悪いけどラリーの左手を借りますか――ラリー手を貸して」
そう言いながらマギは俺の左手を取るとリアーナお嬢様の右手を其処に添えてきた。
「『あっ、え~っ』」俺とお嬢様の声がハモった。
「あら、お嬢様? お嫌でしたか? 手……離しても良いですわよ」
「えっ! 嫌なわけ無いじゃ無いですか――ラリー様に手を取っていただいて嬉しいですわ、いきなりだったので心の準備が……」
リアーナお嬢様はまた頬を朱に染め俯き加減でそう
その瞬間、お嬢様オーラが少し和らいで町娘の様相になじんでいた。
「良しっと、これなら問題無いですわね。さっ、出かけましょうか」
マギがしれっとそう言って廃墟の出口の方にささっと向かっていった。おい、繋いだこの手はどうしてくれるんだ。俺はマギの後を追いかける様に一歩前に足を進めたが繋いだ手は俺を引き戻してきた。
「ラリー様は私と手を繋ぐのがお嫌ですか?」
リアーナお嬢様が少し潤んだ目で俺にそう問いかけてきた、これはやばいモードだ。俺は反射的に首を左右にブルブルと振って其れを否定した。
「リアーナお嬢様、俺もお嬢様と手を繋げて嬉しいです」
「まあ~っ、本当ですか」
お嬢様は満面の笑みを浮かべてまるで
「あら~らっ、そんなに心を移し込んでいるとサギに言いふらしちゃいますよ」
マギが俺の傍までいつの間にか戻ってきて、耳元で悪魔の如くそっと
「マギさん其れは勘弁して下さい」
俺は少し涙目になっていたと思う。
「ラリーっ! じゃぁ、貸しひとつと言う事で良いですわ」
マギは俺にウインクをしてきながらそう宣言してきたのだった。
俺とリアーナお嬢様は手を繋いだまま街中を歩いていた。その周りをくるくると歩き回りながらマギが付いてきていた。そんな変なトリオが街を意気揚々と歩いているのは傍から見ても浮いていたと思う。俺はこれでは何の為にお嬢様にこんな変装まがいの事までさせたのかと思っていたが……。
リアーナお嬢様は俺に寄り添う様に歩きながら街の中の目に付いたあらゆる物事を質問してきた。
「ねえっ、ラリー様あれはなんですか?」
お嬢様の指さす方向を見定めて質問の意図を探った。あれって――ん、あれか?
其れは路上に置かれた屋台であった。リアーナお嬢様の見つけた屋台は串焼き屋の屋台で香ばしい肉汁の焼ける
『――くるぐる~っきゅっ――っ』
お嬢様のお
「嫌ですわっ、もうっ! ラリー様耳を
そう言うとお嬢様は両手で顔を隠してその場にしゃがみ込んでしまった。そんな仕草がとても可愛らしく思えた。俺は串焼き屋の屋台へと足を向けた。
「オヤジさん、串焼きを三本下さい」
「ハイよ、まいどあり! そこの可愛いお嬢さん達に少しサービスしておいたよ」
「ありがとう、お代は
「ああ、また来てくれよな、あんちゃん!」
そんなやり取りを店のオヤジさんと交わして串焼きを彼女等に持って行った。
「ラリー様、これが串焼きなる物ですか? で、テーブルは?」
「えっ! ああ、お嬢様これは道すがら歩きながら食べるんですよ、まあテーブルがあれば座っても良いですが、屋台だと普通は立ち食いですから」
「まあ、そんなはしたない事を――良いのですか?」
リアーナお嬢様は目をパチクリしながら俺に食い入る様に聞いてきた。その横でマギはもう串に食らい付いている。
「美味しいです! 御令嬢は
マギがそう言ってお嬢様を
「マギ様――いいえ、
そう言ってリアーナお嬢様は串に
「う――っ、美味しいっ!」
破顔一笑、旨い物は人を笑顔にするね。リアーナお嬢様はその後言葉を発する事無く夢中で串焼きと格闘していたわ、ほんとニコニコしながら。
そんな風に巡回警備とは名ばかりの単なる昼下がりのお散歩の様相で街中を練り歩いく三人のデート? の時間が過ぎていった。
「さて、そろそろ
マギが時間を見てそう言う風に
「うん、そうだね。戻るとしようか」
「え~っ、もう終わりなのですか? 私はもう少しこうしていたいですわ」
リアーナお嬢様は俺の腕に
「リアーナお嬢様っ!
「うっ! わかりました」
お嬢様は俯き加減で
戻り方は抜け出した方法の逆をなぞる様に行うだけだった。まあ、マギの裸っ変態……もとい変身がちょっとネックとなったがまあ結果オーライであった。
お城に戻って馬車から降りてきたお嬢様の満面の笑顔は警邏隊の皆を魅了するだけの可愛らしさが漂っていた事は今回の成果と言えた。
城に戻ってリアーナお嬢様と別れた俺はサギとウギを探す事とした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます