新生チームラリー

第17話 新生チームラリーの初仕事の朝!

 マギが加わった新生チームラリーの初仕事はヴィエンヌ城下の巡回警備だった。まあ、その前にマギの参加による新生チームラリーについては聖都テポルトリでの今後の事も考えてニコラス師団長には話しを通しておいた、先日のウギの件と合わせて宮廷魔術師団への入隊申請のお願いである。まあ、マギの魔族の件は話しが面倒になりそうなので伏せておいてマギにはニコラス師団長との面通しの際、銀眼色の眼の色を魔術で一時的に変えて貰った。結果から言うとそんな事をしなくても師団長とはいえマギのサキュバスの色魔効果ですっかり骨抜きにされていた様だが――ニコラス師団長から後で俺は散々マギを近衛師団に是非欲しいとか、師団長の秘書官にどうだと言われて辟易へきえきした事は師団長の名誉の為に皆には内緒にしておいた。後はヴィエンヌ城滞在中の対処の依頼であったが其れについてはマギが自分で何とかするからって――翌日にはメイラーさんが部屋をちゃんと用意してくれていたのにはビックリした……が、マギの奴はリアーナお嬢様の夢に仕掛けたなと密かに俺は納得していた。

 もうひとつ、ヴァルの魔力念波が何故にマギに聞こえていたのかを解明しなければならなかったが、れも結構呆気なく解明してしまった。マギが説明してくれたところに拠るとヴァルの魔力念波が魔王族にのみ反応していたのは魔王とエンマ王女の知感念波が似通っているところに合ったからだという事だった。マギはその知感念波を自由に換える事が出来るらしい。要は声と同じでボイストレーニングならぬ念波トレーニングで需要帯域をある程度コントロールできる様になるとの理論説明であった。魔法が理論から入るというのは俺にとっても目から鱗であった。

 そんな訳でヴァルと会話が出来るのは俺の他にマギもっと言う事になった。将来的にはサギやウギにも教えられるかも知れないという事だったが其れは本人達の魔術の上達状況に拠るところであろう。

 俺達はマギが現れた翌日にニコラス師団長以下の先発部隊の帰還を見送った後、怪我人等の養生ついででヴィエンヌ城にとどまる事になった。無論俺達は怪我人では無いので皆の者が回復して帰還の途につく日まで護衛部隊班としての任務を遂行する事になった。其の最初の栄えある任務がヴィエンヌ城下の巡回警備と言う事だった。しかも、リアーナお嬢様がその巡回に参加するというおまけまで付いていた。

「ねえっラリー、ヴィエンヌ城下の巡回警備は良いとして何でご令嬢まで一緒にいなければならないのかしら? 何かおかしくありませんか」

 サギが早々に憤慨しながらこの任務に疑問符を投げかけてきた。と言うよりもっともな疑問であると俺も思っている。

「其れがなぁ、伯爵様から直々の依頼って言う事らしい」

 俺はお城の管理部門からの依頼の内容をそのまま皆に受け渡した。

「其れって単にリアーナお嬢様が裏で手を回しているだけじゃ無いかしら?」

 サギはそんな事を惜しげも無く言い切っている。まあ、正解だと思うが。あっ、そうそう先日のサギの告白劇からサギの態度と発言骨子は一皮剥けたというか軽快になったというかまあ頼もしくなったって事だった。

「そうね、サギの言う事はもっともだと思うわ。でもね、こう考えたら。この街にとっては私達は余所者よそものよね、そんな私達がいくら巡回したって街の人の協力なんて得る事は出来ないじゃ無いけど御令嬢が一緒だと街の人の態度が変わると思うわよ。そう捉えたらまあ良いんじゃないのってなるでしょう」

 マギが姉さんの発言をしてくれている。

「……そうですけど――でも、絶対にリアーナお嬢様はラリー目当てですから」

 サギもそう簡単には引き下がらなかった。

「サギ? あなたラリーを信じ切れないのかしら?」

「そ、そんな事は無いですけれど……でもっ」

「じゃ良いじゃない――ねっ、ラリーもそうでしょう」

 マギは俺を巻き込んで話しをつけるつもりらしい。此処はマギに載ってやるのが得策か。

「――ん、俺か……俺もマギの言う通りだと思うよ。俺達は任務を遂行するだけだ」

「ほら~ねぇ、サギはもう少し自分に自信を持ったら」

 マギの押しにはサギもうなづくしか無かった様だ。そこでウギが駄目押しをしてくる。

わらわはラリーと一緒に街を散歩するぞ、そんな仕事なのだろうのぅ。街の人への対応はリアーナお嬢様に任せておけば良いのじゃろう? だったらわらわ達にとっても良い事なのじゃ」

「あ~ぁ、ウギって単純で良いわね~っ」

 サギもウギの言い分にいささか道理を感じた様で口を尖らかせてはいるもののそれ以上の反論はしてこなかった。

「サギは真面目すぎるのじゃぞ、いざとなったらラリーを抱えて逃げるが勝ちじゃ」

「おっ、ウギそれは良いわね~っ、その意見に載ったわ――その時はヴァルがラリーを乗せて先に行っちゃって、れで良い?」

 サギがウギの発案に同意してきてさらに落ちまで用意し始めた。おいおい、俺達の任務は警邏けいらだって言うのに敵前逃亡してどうするの。

「お前ら~ねぇ……」

「『ラリー! うるさい!』」

 皆、揃って俺をハブってきた。負けそう~っ! って言うか完全に俺、負けてるわ。

 サギとウギが顔を突き合わせて相談を始めた。ああだのこうだの傍から見てるとなんか楽しそうにやっている。

 マギが俺の傍らにきて二人のやり取りを揶揄やゆしながら俺にそっとつぶやいた。

「二人ともこう言うことだと息ピッタリなのね」

 俺もマギの顔を見ながら二人して苦笑していた。


 そんなこんなで迎えた巡回警備当日の朝の事。

 サギはウギと二人で既にヴィエンヌ城から出立しゅったつしていた。

 俺はマギに二人の行き先を知っているか尋ねにマギの部屋に出向いた。

「マギっ? サギとウギは? 今日は巡回警備の日だろう。何処に行ったか知ってるか?」

「あら、二人とも既に出かけましてよ。日も昇らぬうちに二人でいそいそと城を後にしていきましたわ、何処どこに行くのって聞いたんですけど『内緒っ!』って言われましたの」

「あっ、そうなの?」

 マギの回答に俺は少し驚いていた。こんなに早く二人とも何処に行ったんだ? マギにも内緒って? 其の問いの答えはもう少し後で知る事になる。

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