リッチモンド家のヴィエンヌ城にて!

第13話 ヴィエンヌ城での出来事!

 護衛師団の到着の一報は既に城壁前到着と共に届けられていたようだった。一行が着いた時にはお城のエントランスホールの前は人集りの波が押し寄せていた。

 旅の終演を迎えて一同はほっとしていた、今回のヴィエンヌまでの旅程は確かに今までに無い障害があった事は事実だ。其れを何とか乗り越えて最小限の被害で終われた事に皆、感慨を持っている。

 エントランスホールの前ではリッチモンド伯爵が自ら出迎えに出てきて、ニコラス師団長らのその労をねぎらっている所だった。

 俺達もしんがりのお役目から解放され、やっと気持ちを楽にする事が出来た。とは言っても俺は両手をそれぞれサギとウギに握られたままだが。そんな俺達の所へ近寄ってくる影があった、リアーナお嬢様だ。

「ラリー様、よくぞご無事で何よりでした。サギもウギもご苦労をかけました。ありがとう」

 そう言いながら、御令嬢自ら深々と頭を下げてきた。

「リアーナお嬢様、頭をお上げ下さい。お嬢様にその様にして頂いては俺達の立つ瀬がありませんから」

 俺はリアーナお嬢様の前に進み出て、膝を突いて一礼をする。サギもウギも俺にならった。

「わかりました、でも私たちの感謝の気持ちは受け取って欲しいのです。さあ、ラリー様達もお立ちになって下さい」

 リアーナお嬢様に促されて俺達は三人揃って立ち上がった。

「今宵は皆さんの労をねぎらってささやかですが晩餐会が催されます。ラリー様も其れまでごゆっくりと疲れを癒やして於いて下さいね。あっそうそう、このお城には地下に温泉施設があるのですよ、如何ですか? 温泉でごゆっくりなされては?」

「そうなんですか! 温泉とは有り難いです、是非!」

「わかりました。メイラー、ラリー様達をお部屋までご案内してあげてね、其れではラリー様ごゆっくりとおくつろぎ下さい」

 そう言うとリアーナお嬢様は俺達の手を取って順番に挨拶をして行かれた、サギ、ウギ、俺に。

 俺の時には去り際に耳元でそっと『晩餐会を楽しみしてますわ、ラリー様』なんて言い残して行かれる始末で……。ほらっ、気配を察知してサギ達が半眼で俺を睨んでいるし――ょ。

 まあ、最後にはヴァルを抱き締めてほおずりしているお嬢様の後ろ姿は特段に心優しい御令嬢に見えるんだが……。

「ラリーっ、鼻の下延ばしてるぞ~ぅ」

 ウギが俺の横っ腹に肘鉄を食らわしてくる、何気に強力でおもわず咳き込んでしまう。

「ぐっほ――っ、痛てっ……ウギっ!」

 その反対側では今度はサギの憤怒が真紅に立ち上がっているのがわかる。恐る恐るサギを見やるとその瞳は真紅の色に染まっている。此はやばいモードだ!

「ラリーっ! ふんっ!」

「サギっ! なにっ! わっ! ごめん! あっ、やめっ……て?」

 次の瞬間に電撃魔術が俺を襲っていた。

「ぐわっ――ぁぁ!」

 俺が悪いのか――ぁ! そんな空しい呻きは誰の耳にも届かなかった。


 エントランスホールの前では未だに人集りが絶えず、喧噪が続いていたがリアーナお嬢様の話にあった地下の温泉施設の言葉に皆、心を奪われていた。俺も大浴場の湯船につかり旅の疲れを早く落としたい気持ちが先立った。メイラーさんの案内で城の中の今宵の泊まるそれぞれの部屋へと移動することにした。

 俺はサギの電撃を食らって全身の痺れが取れないままよたよたしながらも、メイラーさんの案内に付いて行った。サギも流石にやり過ぎたと思ったのか俺に肩を貸してくれている。

「ラリー、御免なさいね、私やり過ぎました」

「サギ~っ」

「ごめんなさ~い」

 サギは申し訳なさそうに俯き加減で肩を竦めるが、そんなサギに肩を貸して貰っているため見目麗しい顔は俺の顔の直ぐ傍にある状態だ。傍から見れば頬と頬をくっつけているように見えるだろう。

 自分のしでかした事に反省至極のサギは俺の方をまともに見れないでいるので、その仕草は何気に可愛らしかった。俺は左に顔を向けてサギの右頬に軽く口づけをしてみた。

「えっ~、なに~」

 びっくりした顔で俺の方に顔を向けてきた、そのタイミングを待っていた。今度はそのプルンとした愛くるしい唇に俺の唇を軽く重ねる。

「んっ――ん」

 サギはその大きな目を丸くして俺を見つめて凝視していたが次の瞬間には柔らかな微笑みに変わってサギの方から重ねた唇をさらに押しつけてきた。

「ふわ~ぁ~ん」

 俺の気持ちが伝わったのか口づけの後にサギは甘ったるい呟きを俺の耳に残していった。

「サギ、もういいよ俺も隙があったしな、でも此からはあんな電撃は勘弁してくれ」

「……うん」

 素直に頷くサギの頬は少し赤くなっていた。

 メイラーさんは二階の奥の方にある三つの部屋へと俺達を案内してくれた。

「ラリー様、サギ様、ウギ様こちらが本日の宿泊部屋となります、ヴァル様はウギ様と同室になりますが宜しかったでしょうか?」

「ヴァルは妾と一緒の部屋とな、問題無しじゃ――よかったな~ヴァル」

 ウギがメイラーさんの質問に答え、ヴァルに抱きついて嬉しさを身体で表現した。

「それで早速ですがメイラーさん、温泉にはどのように行けばいいのですか?」

 早々に昨日今日の身体に纏わり付いた汗を洗い流したい俺は待ちきれぬとばかりに身を乗り出して質問した。

「温泉はそこの階段を下って地下の大ホールにありますので降りていけば直ぐにわかります」

 メイラーさんが指をさした方向に大きめの階段があるのがわかった。

「メイラーさん、大ホールの浴場施設って……もしかして――」

 サギはそのあと何かメイラーさんに小声で聞いている、それに対してメイラーさんはサギに耳打ちをして答えている? 二人とも俺の方をちらちら見ながらひそひそ話をしているが……まあ、特に何かあったら教えてくれるはずだし……と俺の方はもう心が温泉の湯船の中だっ! 俺は階段の場所を再確認する事にした。

「メイラーさん、あの階段ですね?」

「そうですラリー様、では晩餐会の仕度が調いましたらお迎えに上がりますので其れまでごゆっくりお寛ぎ下さいませ」

 メイラーさんはそう言って丁寧に一礼をした後、今来た方向へと戻っていった。

「じゃ、サギ、ウギまた後でなっ」

「うん、ラリーは早速温泉なのね~っ」

「ああ、そうするつもりだ」

「妾も温泉に行くのじゃ」

「そっか、みんな行くのね――それではまた後で温・泉・でね……うふっ!」

「ああ、それじゃな」

 俺達は案内されたそれぞれの部屋へと入っていった。俺はサギの最後の『うふっ!』の意味をすぐこの後で知る事となるのだか。


 俺は部屋に入ってからベットの上に身を投げる様にして横たわった。仰向けに寝転びながら天井を見上げると小さな蜘蛛が糸を垂らしながら降りてくるところだった。蜘蛛は丁度俺の鼻の先まで降りて来たのでおもわず『ふぅーっと』息を吹きかけてみる。案の定、蜘蛛の奴は自分の糸を辿って一目散で登っていった。それでも俺の身の丈ほど登ると立ち止まって此方の様子を見ている風である。そのまま暫くするとまた糸を垂らして降りてくる、今度もそれを息を吹いて押し戻してやる。何回かそんな事を繰り返していると部屋の戸をノックする音がした。

「ラリー、まだ部屋に居るの? 温泉は? 如何したの?」

 サギが声を掛けてくれた様だ、おもわず時間を忘れて蜘蛛と戯れすぎていた様だ。

「ああ、いま行く」

 急いで、着替えやらなんやらをかき集めて支度を調え部屋を出た。

「サギ、ありがとうな、すっかり時間を忘れていたよ――っ」

「ラリーったら、部屋に入ってから物音ひとつさせないんだから……てっきり先に行っていると思っていたのにね~ぇ」

 サギはそう言いながら話の先をウギに振っていた。

「そうなのじゃ、全くお主は部屋で何をしていたのじゃ?」

「何ってわけのもんじゃ無いが……ちょっとね」

 此処は簡単に『蜘蛛と戯れていました』って言い難いしなぁ~。

「『ふ~っん』」いつもながらこう言う時は妙に息が合っているんだから二人とも。

 まあ、あの蜘蛛が降りてきていたらベットの上になるので部屋に戻って寝る前にはベットの上を気をつけて見ておこう、小さな命を潰さない様に……。

 三人並んでメイラーさんが教えてくれた階段を降りていった。

「ああ、ウギそう言えばヴァルは~?」

「部屋に置いてきた。風呂は余り好きでは無いのじゃのぅ、ヴァルは」

「そっかぁ」

 そんな感じで階段を地下まで降りていくとほんとに大浴場がそこにはあった。しかも、一昨日の温泉宿よりデカそうに思える。まあ、温泉の出入り口は男女別の扉しか無いが扉の上が吹き抜けでそこから天井までの高さはかなりある。その天井が延々続いているように見えるのだからもし其れが温泉の大きさそのものであるなら相当な広さを持っていると言える。

「これって、この地下ホール全部がお風呂なのか?」

 おもわず、天井を見上げながらその大きさに驚いて呟いた。

「そうらしいですわよ、ラリー湯船で泳げるらしいわ」

「ほ~ぅ、それは楽しみじゃぞ~ぅ。わらわの泳ぎを見たいかのぅラリーっ?」

 いやいや、それは流石に温泉では……ウギは泳ぎが自慢らしいが、男女別の温泉ではなぁ~またの機会としておこう。

「じゃ、ラリー後でねっ……うふっ!」

 サギが女湯の入り口を開けて入っていった。それにウギも続く。

「ああ、後でな」

 サギの言葉に続いて俺は答えてから、男湯の扉を開けて脱衣所に入っていった。

 男湯の脱衣所はこじんまりしてたが脱衣所なんかは何処もそんなもんだろう、特に気にもとめず服を脱いで湯船の案内に従って扉を開けた。

「……うわぉ」

 そんな声しか出なかった。目の前に広がる唯々広すぎる湯船の大きさに度肝を抜かれてた。

「確かに、十分に泳げるだけの広さはあるわ~ぁ」

 湯気で奥の方までは見渡せない程の奥行きのある湯船だった。しかも、色々な形や大きさの異なる石の組み合わせだったり、木の浴槽の部分もあったりと感触も様々で其れだけでも十分に楽しませてくれそうだった。

 俺は洗い場で身体を流してから湯船に入っていった。折角だから奥の方まで進んでいってみた。すると洞窟風の嗜好で作られている場所が見えた。

「洞窟温泉か?」

 その方に進んでいくと確かに奥まった所が行き止まりになって洞穴に入っていくような錯覚に陥る。

「此は此で狭さが何か落ち着くなぁ」

 そんな事を想いながら、湯船に深々とつかってゆったりとくつろいでみる。ふっとその時洞窟の岩場に目にとまる輝きがあった。なんだと思いながらその輝きの元にゆっくりと近づいてみる。其れは丁度握り拳より少し大きい程度の翡翠のような丸い石の塊だった。温泉の湯船の中でそんな深くは無い場所の岩の中に半球だけ出ている形だった。その輝きは俺に取っては何か優しい呟きを奏でているかのような錯覚をもたらしていた。

「――ふ~っあ~ぅ~」

 口からそんな溜息がおもわず漏れ出ていく。目を瞑ってゆるりとした時間を過ごしていた。


 ガラガラガラ――!

 俺の入ってきた扉とは離れた所の扉の開く音が聞こえてきた。

「んっ、誰か来たみたいだな」

 特に俺は気にもせずにいた、根っからの貧乏性からかこんなに広い湯船にひとりで入っている事に何となくだが罪悪感すら沸いてきてしまうので、少しでも他の人が入っていてくれた方が気持ちも楽になるって事だ。なので人が此方の方に近づいてくる事にすらなんの戸惑いも感じずにいた。

 人が近づいてくるに従って、お湯をかき分ける音が複数の人である事がわかった。

「ふたりか?」

 そんな事をおもいながらも誰が入ってきたかなんか特に気にもとめなかった。そう、この時点では!


「そこにいるのはラリー?」

 俺の耳に入ってきた声はいつも聞き慣れた人の声だった。

「ああ、俺だよ」

「よかったぁ~、他の人だったらどうしようと思っていたわ」

「そっか、それは良かったなサギ……?」

 んっ、俺はまだ目を瞑ったまま湯船に深々とつかってゆったりとくつろいでいたが――っ。

「――――サギ――っ、えっ――――っっっ!?」

 なんで~ぇ!

 俺はおもわず絶叫しながら立ち上がってしまった。

 目の前にいたのは確かにサギとウギのふたりであった。彼女等の美しい裸体を俺はいま目の前にしていた。


「あら、ラリー……たくましいわね……」

 湯船から立ち上がってしまった為、俺の全身も彼女等の眼前に全てをさらけ出していた。俺はおもわず股間を手で隠しながら湯船につかり直した。

 それにしてもサギもウギも目を奪われてしまう美しさがあって俺はおもわず彼女等を凝視していたというよりは視線を離す事が出来ないでいた。

「ラリー……あんまりそんな風にじろじろ見られると……恥ずかしいわ」

 サギはその長い金髪を後ろでアップにまとめていて、肩のラインから全身にわたる柔らかな曲線が芸術品的な美しさを醸し出して何とも言われぬ妖艶さを漂わせていた。

 貴女は右腕で豊かな胸の辺りを隠し左掌で内股うちももを隠しながら此方の方に近づいてきて、俺の左側に寄り添うように腰掛けた。

 ウギの方は自慢の胸のラインを惜しげも無く見せつけながらも少し恥じらうかのように掌で内股うちももは隠して、小首を傾げるように俺を覗き込みながら問いかけてくる。

「どうじゃ――わらわ達の裸を目にして、んっ!」

 そう言いながら、俺の右手に絡みつくようにして湯船に腰をかけた。

「――――お前等なんでここに~?」

「あらっ~? だって温泉でしょ、裸は当たり前でしょ~ねぇ」

「いやいや、そんな事を言っているのでは無いよ……男湯に何で二人して入ってきているのか?」

「お主は知らなかったのか? ここは混浴じゃぞ! わらわ達も男湯に忍び込む程、破廉恥ではないぞな――なぁ、サギ」

「そうよ、ラリーねぇ~その言い方は酷くない!」

 えっ~! この時に初めて二人が揃って此処に来たのかを悟った。混浴だって? 聞いてないぞ!

 言葉にならない叫びが二人の耳に届いたのか、ウギが教えてくれた。

「だってメイラーさんが言っていたのじゃぞ『ホール全部がお風呂……』ってそれは室内のホールって言えば、“混浴風呂”の事だろうにのぅ? 知らなかったのか? ラリー」

 知っていれば一緒には入って来ないだろう、普通ぅ!

「――入り口は男湯と女湯に分かれていただろうが? で、別々に入ってきていたよな!」

「はいはい、脱衣所は別々に決まっているじゃ無いの~ぅ、それともラリーは服を脱ぐ所からまじまじと私たちの身体を眺めていたかったのかしら? そうならそうと言ってくれればねぇ~」

「サギ――っ、そういうことでは無いよ~」

 俺の叫びもだんだん涙声になってきていた。

「あらっ、ラリー……今更知らなかったでこの場を過ごす気かしら~?」

 そんな事をいいながらサギはその豊かな胸を此方の方にさらに押しつけてきながら、俺の方に顔を向けてくる。ウギはウギで絡め取った俺の右腕をその身体に押しつけてきた。

 おいおい、二人ともそんなにくっつくなって言うの! 左右を絡め取られていて、しかも目のやり場に困って俺の眼は行く当てもなく彷徨うしか無かった。

「ラリーっ! 私の事をしっかり見て下さい」

 サギが俺の顔を両手で押さえながら、サギの方をみさせようとする、無論、恥ずかしがって下を向くとそこにはサギの豊かな乳房が目に入ってしまう為、上を見るしか無くなる。と、サギと目と目が合って羞恥心が沸騰しそうになってくる。

「ねえ、ラリーっ? 私達ってどういう風に見えているの?」

「それは……綺麗だし、色っぽいし……目のやり場に困るよ。それはサギもウギも異性に裸を見られるのは嫌だろうし。それに混浴って言う事は俺達以外の人も入ってくるんだろう?」

 普通に思うだろう事を口にして言ってみると其れは其れで違和感があるが、彼女達はそうでは無かった。

「『ラリーは良いの、特別なの! 私達の全てを見られても――ぅ』」

 そこだけ、いつものように二人して綺麗にハモっているし、俺だけ特別って……いいのかなぁ?

「あ~っ、ラリーっ! いま、いやらしい事思ったでしょ~ぅ」

「あっ、いや、そんな事は無い……と……思う、――ご免なさい、少し想像しました」

 ここは速攻で素直に謝っておいた方が良さそうだと心の奥で警笛が鳴っていた。

「『かわいい~ぃ、う~もぅ』」そんな二人のハモる叫び声をホール全体に木魂させながら、二人してさらに俺に抱きつき絡みついてくるのだった。


 二人の美女に挟まれながら湯船につかっている今の状況をなんと表現していいのやら、唯々羞恥心の塊とかしている俺と違って二人の美女は至極ご満悦の状況だった。

「ラリーったら、ほんと恥ずかしがっていて~、ねえウギ」

「そうなのじゃ、ほれ、B88,W59,H86 Fカップじゃぞ――もっと、見てもいいのじゃぞ」

 ウギはそう言いながら、俺の右腕に絡みついていたその肢体を俺の目の前にさらけ出すように立ち上がった。

「うっ……」

 確かにウギのスタイルはパーフェクトボディーと言うしか無いような肢体を俺の眼前に披露していた。

「あっ、ウギったら狡い――じゃ、私もっ!」

 ウギの挑発に乗ってサギも俺の目の前でその妖艶な肢体を惜しげも無く晒してくる。

 もう、目のやり場に困り果てている俺の事などお構いなく二人して魅惑の裸身をここぞとばかりにつきだしてきた。

「――たのむ、二人して~俺の事も考えてくれ~ぇ」

 余りの色気の円舞に俺の自制心もほころび始めている。

「あらっ、ラリーも少しは興奮してしてきているのかしら? 効果有りっ?」

「そうじゃのぅ、もう少しかのぅ……どうじゃお主、わらわ達に欲情しないか~?」

「してますって、してますから~っ……二人とも!」

 サギとウギは目を合わせてクスッと笑いながら、その場は俺の申し出を受け入れてくれたようでおとなしく湯船に身を隠してくれた。

「でも~、ラリーも少しは免疫が出来たのかしら?」

「んっ、免疫ってなんの?」

「それは、決まっているじゃろう……おなごの身体じゃよ」

「ほらっ、私達の裸体を見ても触れても倒れなくなったでしょ! ねぇ、其れは其れで少し寂しいけど」

 そう言えばそうかも、以前なら鼻血を吹いて倒れていたな、俺は!

「ね~ぇ、ラリーあれだったら触ってみる? 私達の事を……」

 サギが頬を赤らめて俯きながらそう言いってきた、そんな様子がむちゃくちゃ可愛らしかった。

「……いや、其れは……それにそろそろお湯に浸かりすぎてのぼせそうだよ」

「そうね……じゃ、上がって身体を洗いましょうか」

「そうじゃのぅ、今宵のメインイベントか~のぅ」

 そんな言葉を残して二人は早々に洗い場の方に向かっていった。その二人の後ろ姿はまた何とも言いようが無い妖艶な後ろ姿だったことは言うまでも無かった。

 しかし? メインイベントって何のことだ?


 二人して洗い場に先に上がってそれぞれの身体を洗っているようだが、二人とも全身を泡まみれにしていた。其れは其れで何かそそるものがあるが、今は其れには触れておかないで於こうと思った。

 そうこうしていると、二人から呼びかけられた。

「ラリーっ! 準備出来たから来て~っん。」

 なんか今サギの声が裏返っていなかったか? しかし、来てってなんで?

 いろいろ疑問は残るが言われる通りに彼女等の待つ洗い場の方に出向いていく。

「ほらっ、ラリーはそこに座るの! そこっ!」

 サギの指の差す方向に座椅子がひとつあった。

「此処に座ってどうするんだ?」

「いいの~ぅ」

「ハイハイ」

「ハイは一回でいいの、わかった?」

「はい」

「宜しい、では始めます~ぅ」

 サギの号令に呼応して俺を挟んで二人が後ろと前に膝立ちで並んだ。サギが後ろでウギが俺の前にいる。二人とも全身を泡まみれにしていて不思議な様相になっていた。目の前のウギに至っては泡の中から見え隠れするその肢体が異様に想像力をかき立ててくるので、さっきの裸体よりさらに妖艶に見える。

 ウギが両手を広げて俺に抱きついてきた、と同時に背後ではサギが同じように抱きついてくる。お互いの身体を押し付け合いながら俺の身体に彼女等の豊満な乳房を惜しげも無く押しつけてきた。

「ちょっと待って、ウギもサギも――ま、待って!」

「無理よっ! もう始めちゃったからね~っ、ラリーは最後までそのままでいてね」

 サギはそう言いながら貴女の乳房を俺の背中に押しつけながら其れで円を描く様に石鹸の泡を捏ねくり回している。乳房のえも言われぬ柔らかさと先端の堅い乳首の感触が背中成れども敏感に感じ取られてきておもわず声が出てくる。

「んっぅ――ふう」

「『あんっ――ラリー~んっ』」二人の嬌声がハモりながら響き渡る。

 サギもウギも顔を真っ赤に染めながら必死に何かを堪えている様だった。ウギの方はと言えば、眼前にそのFカップの乳房を晒しているので其の視覚効果も相まって直視することすらはばかられた、と言うか眼を逸らそうとしているが……吸い込まれる様に目線がウギの胸元から離れられなくなっていた。

 そんな中でもサギの背中での円運動がさらに強くなっていく。

「ラリーっ、どう? 気持ちいい? ――んっ、あん」

 気持ちが良いなんて言うもんじゃ無いよ、拙いって!

 俺はおもわず股間を押さえながら立ち上がって叫んだ!

「二人共っ! やめんかい! 我慢できなくなるって言うの!」

 矢も楯もたまらず勢いよく俺は立ち上がったものだから、その拍子に俺はウギの眼前におのれの股間を晒していたし、サギの方は俺の背中に乗っかっていたのでそのまま俺におぶさる形になっていた。

 ウギは立ち膝のまま後ろ手で身体を支えて仰け反っている、俺の股間がウギの目の前に突き出された形になるのでそれはやむ得ないが……ウギの眼が点になって俺の股間の一点を凝視していた。

 サギの方は立ち上がった際に背におぶさる状態のまま態勢を維持しようとしているが、何せ石鹸の泡まみれで身体がつるつる滑る。仕舞いには俺の背中から落ちそうになるのでおもわず俺は両手を後ろ手に回してサギのお尻を支えた、が……なんか柔らかで温かいぬくもりに指が包み込まれた感触がする。

「『きゃ~っ――いやっ~ぁん!』」

 彼女等の悲鳴とも嬌声とも取れぬ叫びが浴室に木魂した。


 俺の目の前には今サギとウギが申し訳なさそうな顔をして項垂うなだれたままちょこんと正座をしていた、無論俺も含めて三人共素っ裸のままである。

 二人の前に俺は仁王立ちしながら今回の顛末を収束させようとしていた。

「さて、サギっ!」

「あっ、はい」

「これはサギがひとりで考えたとは思えないのだが……誰の入れ知恵だ~ぁ?」

「……」

 サギは顔を真っ赤にしたまま視線を逸らしている項垂うなだれている、しかも目が泳いでいて落ち着きが無い状態だ。それでも、何か言いたそうなそぶりで口をパクパクさせている。

「……ラリー……あの~ぅ、そのね……小股の……ねぇ……うっ」

「あっ――っ」

 俺は仁王立ちしていた事で、俺の股間を二人に突きつけている形になっている事に今更ながら気が付いた。おもわず股間を手で隠しながらその場を後にして脱衣所に走った。

 脱衣所で手頃な大きさの布きれを探す、俺の腰回りをまとえる長さの物と彼女等の上半身以下を包み隠せる大きさの布きれを見つけた。其れを携えて二人の元に戻っていった。

「サギもウギも、此で身体を隠してくれ」

 二人から視線を逸らして、そう言いながら俺は脱衣所から持ってきた大きめの布きれを二人に渡した。

「『ありがとう』」

 サギもウギも項垂うなだれながらも俺の差し出した布を胸の上に巻き付ける形で一枚の薄切れの布地を綺麗に着こなした。其れは其れでまた彼女等の身体のラインを綺麗に見せる美しさがあった。

 そんな二人の姿に見惚れているとウギが声を掛けてきた。

「ラリー? どうしたのじゃ?」

「あっ――いや、何でも無い」

 俺は二人の前に腰を降ろして座った。そして、彼女等と目線の高さを合わせた状態で先程の問いかけの内容の仕切り直しを始める事とした。

「なあ、サギ、もう一度問うぞ。――誰の入れ知恵があった?」

「うっ――」

 サギは上目遣いに碧眼の瞳に涙を溜めて俺を見ていた。

「ラリーは嫌だったの? 気持ちよくなかったの?」

 サギの涙がいよいよ決壊しそうだった。此は流石に怒りすぎたか、サギもよかれと思っての事だったろう。

「ふ――ぅ」

 俺は大きく溜息をつきながら二人の顔をまじまじと見て言った。

「あのな~ぁ、俺だって男だぞあんな事されて堪えろというのが酷だろう」

「……? 堪える? って? ラリーが?」

 サギとウギの頭の中では『?』マークが飛び交っているようだ。

「おまえら~っ、俺をなんだと思っているんだ?」

「お主はラリーであろうが、何を今更解いているのじゃ? わらわ達が行うお主のおなご修行の一環じゃぞ、さっきのは!」

「は――ぁ? なんじゃそりゃ?」

「お主はいっつもわらわ達の色香に惑わされて倒れているであろうが、そうじゃろう?」

 まあ、ウギの言う事は尤もだった。俺は反論する事すら出来なかった。

「うっん、まあそうだな、それは否定出来ないな」

「そうじゃろう、お主の力はとても強大でお主に勝てるやからなぞまずおらんじゃらろうて」

「そうよ、ラリーあなたには今たったひとつの弱点が女性のお色気なのよ、わかって?」

 サギも顔を上げてここぞとばかりに参戦してきた。

「其れは確かにその様だが……俺の意気地無しは仕方ないだろう……そんな経験無かったんだから……」

 俺の旗色がどんどん悪くなってきているようだった。

「でしょ~う、だから経験させてあげるの――私達が! いいっ!」

 時を得たりとサギの意気が上がってきた。

「いや~っ、でもなぁ、俺の気持ちって言うのもあるし……」

「なに~っ、私達では役不足ですか? それとも……リアーナお嬢様がいいのかしら? ふんっ」

 おいおいなんで此処でリアーナお嬢様が出てくるんだ。

「そうじゃのぅ~、御令嬢にはお主鼻の下を伸ばしていたからのぅ、わらわ達の身体では燃えんかのぉ」

 いやいや、二人の肢体の色香が凄艶せいえん過ぎて経験と言う度を既に超していると思うのだけれど……。それは、今、口にして言える事では無かった。

「あらっ、今、私の事をお呼びになりまして?」

 その声に驚いて三人して声の主の方向を振り返った。湯煙の向こうに二人の影が陽炎のように映っていた。

 そこにいたのは誰であろう、サギの台詞にも出てきたリアーナお嬢様その人であった。

 後ろには此処への行き方を案内してくれたメイラーさんが控えている。

 まあ、お二人が此処に居る訳を問う前に、そのお二人のお姿である。温泉なので無論湯に浸かる為に入ってこられたであろう事は重々承知をしているが、真っ白な薄手の湯浴み着一枚の姿であった。

 腰の辺りで帯締めをしている事から、腰のラインが綺麗に浮き出てそれは裸身よりも扇情的な色香を漂わすには十二分であった。

「なっ、なんでリアーナお嬢様が……」

「あらっ、サギ――その質問は如何かとおもいます事よ、そもそも此処は私たちの居城ですから」

「其れはそうですが……此処は混浴の浴室のはずですから、御令嬢の伺う場所では無いのでは?」

「其れは違いますよ、サギ。此処は領主専用の浴室ですから、まあ混浴と言うよりは家族風呂でしょうかね」

「『え――――っ』」三人の驚きの声が綺麗にハモった。

「ですから、ラリー様、他の殿方は入ってきませんから貴方あなたの大切なお姫様方のご肢体を覗きに来る不届き者は入れませんからご安心ください。……唯一の不届き者のお父上は今お母様の監視下にありますからサギを目当てで侵入してはこれません事よ」

「それにしてもサギもウギ様も……ラリー様を目の前にしてなかなか大胆な装いですこと」

「えっ、あっ、リアーナお嬢様ったらっ!」

「あら、ご免なさいね、もしかしてメイラーが言い忘れまして? 女湯の脱衣所に女子用の湯浴み着が用意してありましてよ――メイラー!」

「はい、お嬢様」

「サギとウギ様の湯浴み着を」

「はっ、此処ここに用意してございます」

 メイラーさんはその言葉に即座に反応して、既に用意してきていた二着の湯浴み着を二人に差し出した。さて用意が良すぎるな、二人が湯浴み着を知らなかったと言う事は此処まではメイラーさんの策略か、とするとさっきまでのサギの行動もメイラーさんの入れ知恵だな。俺は何となくそう理解した。

 サギとウギはうやうやしくもメイラーさんから湯浴み着を受け取ると直ぐさまそれを着衣した。

 二人の湯浴み着姿は既に濡れそぼった身体へ純白の生地がその肢体に纏わり付くように密着し二人の今までの裸体よりも凄艶せいえんに見させてますます直視出来なくなっていた。

 まあ、此は此で今までの騒動は一段落したかに見えたが……。

「それでは、ラリー様、差し出がましいようですが私たちもご一緒しても宜しいでしょうか? ねえ、メイラー」

「はい、ラリー様とのご一緒の湯浴みは光栄ですから」

 え~っ? リアーナお嬢様とメイラーさんまでっ! 俺の中で再び羞恥心が警笛を鳴らし始めていた。

 しかも、メイラーさんは今までメイド服の姿しか見た事が無かったが、着やせするタイプらしい。今の乾ききっている湯浴み着姿でも想像出来る程悩ましいラインが浮かび上がっている。

「ラリー、お主また鼻の下が伸びてるぞ~ぅ、意気地無しのくせにおなご好きなのじゃのぅ~」

 ウギが半眼で俺を睨んでくる。

「ほんと、むっつりスケベなくせに変な所でお堅いんだから、も~ぅ」

 サギも呆れかえりながら俺の横腹をつねってきた。

「――痛っ――てっ、サギっ」

「ふんっ」

 まあ、サギのそんな膨れっ面が其れは其れですごく可愛いんだけれどね。

 俺達がそんな事をやり取りしている間に、リアーナお嬢様とメイラーさんは湯浴み着の上から掛け湯をして身体を軽く流した後に湯船に浸かって俺達を待っていた。二人が掛け湯をして身体に張り付く湯浴み着姿をライブで見なくて良かったと思った。そんなのを直視したら俺はまた鼻血を吹いて倒れるのは確実だと思っていた。

「ラリー様もサギもウギ様もどうぞ此方にいらして下さい」

 湯船にゆったりと浸かっているリアーナお嬢様が痺れを切らして俺達を呼んできた。

「あっ、直ぐに参ります」

 俺達は身体に付いた石鹸の泡を洗い流してから湯船に入っていった。無論、サギ達の掛け湯姿なんぞ余りに妖艶すぎて直視出来る状況じゃない事は言うまでも無かった。


「ラリー様、如何ですか温泉の湯加減は?」

 湯船に浸かってきた俺に向かってリアーナお嬢様が訊ねてきた。そんな俺達と言えばいつものようにサギとウギが俺の両側でそれぞれ絡みついている、しかも前よりもしっかりと俺を離さないように密着してくる始末だし二人の身体の特に柔らかい部分が俺の身体の其処此処そこここに纏わり付くような接触感を伝えてきて居心地がいいのか悪いのかわからない状況だった。そんな中でリアーナお嬢様とメイラーさんはその俺の真向かいでお湯に身を浸している。

「湯加減は申し分ないですよ、ほんとにいい温泉ですね、毎日でも入りたいくらいですよ」

「あら、そんな簡単な事ありませんよ、ラリー様ならこの居城にずっといらして居てもいいのですから」

 俺なんか墓穴を掘ったか? 終いには両側の二人して俺を睨み付けてくるし。

「いやいや、そんな恐れ多い事ですよ伯爵様のお屋敷に居続けるなんて、俺にはとてもとても……」

「そんな事は無いですから、私達の命の恩人で英雄様を無碍むげになぞしたら末代までの恥となりましょう」

「リアーナお嬢様、俺の事を買い被りすぎですよ今回は護衛師団皆で伯爵様をお守りしたのですから、俺達の働きはその中のほんの一部に過ぎません」

「あらっ、ラリー様は本当に欲の無い殿方なのですね、サギが本当に羨ましいわ、ねっメイラー」

「その様でございます、お嬢様」

 俺はサギの顔を覗き込むと当のサギは顔を赤らめながらうつむき加減でぶつぶつ呟いている。話しの流れを変えないとサギの怒りの矛先が俺に向けられそうだ。

「ところでリアーナお嬢様、この家族風呂ですか? この様な大きな湯船と言うか地下のホールの温泉施設なぞ初めて見ました。伯爵様のご意向で作られたのですか?」

「いえ、この居城そのものは私達の祖先から引き継いだ物なのです。この地下温泉もそのひとつですよ。我が家系の言い伝えではその昔此処は魔王族の居城だったらしいですわ」

「えっ、此処が元魔王族の居城?」

 俺はその言葉にある戦慄を覚えていた。

 俺の顔色の変化に敏感に反応したのはサギだった、魔王族というキーワードを貴女に教えた事は無い、でもサギは瞬間に俺の心の抑揚を感じ取ったらしく俺の左腕をさらに強く抱き締めてきた。

 そして、俺の顔を覗き込みながら耳元で囁いてきた。

「ラリー、大丈夫? 何か心配ごと?」

「――あっ、悪い……何でも無いよ、大丈夫だ」

「……そう、ならいいの」

 サギは俺から目を逸らしながら天を仰いでいた。サギはやっぱり感のいいだ、無用な心配はさせまい。そう心の中で呟きながらリアーナお嬢様に問いかけてみる事にした。

「お嬢様、ここが元魔王族の居城と言う何か確証でも残っているのですか?」

「ええ、居城の中ではそれらしき遺跡は余り残っていないのですが、この温泉ホールはその昔のままらしいのです、ですから此処は領主専用の浴室として他の方を入れる事は今まで無かったのですよ」

「それでは何故、俺達が此処に入る事を許されたのですか?」

「許すも何も、此処へはラリー様が普通に来られたのです。許すと言う事であれば此処の空間がラリー様を導いたのでしょう」

「申し訳ありません、お嬢様のお話がよく見えませんが?」

「解りにくかったですね、此処は領主専用の浴室と言っても此処に来るまで警護も衛兵もいなかったでしょう? それは誰も此処へ辿り着けないからです、其れこそが鉄壁の警護なのですよ」

「……」

「……」

「……」

 俺達は三人とも黙り込んでしまった。そんな空気を打ち破ったのはウギだった。

「何か、じゃこの地下温泉ホールへの階段を三人して降りてきて此処に来たけれど、他の人たちは何処に行けるのじゃ?」

「普通はメイラーが教えた階段を下っていくと外の露天風呂に出ます、此処程広くは無いですがそこそこ大きな湯船を二つ構えていて、皆そこで寛いでいると思いますよ、多分今時分は」

 確かにそうだろう、皆一緒にこの城まで来た事だし晩餐会までの時間を温泉でひと汗を流したいと思う事は皆同じだろう。

「何か、わらわ達が此方に来るとリアーナお嬢様は読んでおったのかのぅ?」

「いえ、其れは解りませんでした、もしかしたらと最初に温泉を地下温泉と紹介させて頂いたのは私のほんの気まぐれでした、まさか本当に此方に来れる殿方であったとはラリー様はやはり私達にとっては特別なお方なのですね」

 そう言いながらリアーナお嬢様はにっこりとした微笑みを俺に投げかけてきた。

「じゃもう一度聞くがのぅ、わらわがラリーとは別々にあの階段を降りてきていたらわらわは露天風呂の混浴で皆の者にわらわの裸体をさらけ出していた事になるのかのぅ」

「ウギ様、それは大丈夫ですから、先程も申しましたように外の露天風呂の湯船は二つあると申しました、それは男湯用と女湯用ですからウギ様のその美しいお体をラリー以外にお見せになる事はありませんよ、混浴は此処だけですからご心配なく」

 リアーナお嬢様のお世辞にのせられてすっかりウギはご満悦至極になっていた。

「じゃ、何故俺は此処に……この元魔王族の遺跡の地下温泉に来れたのだろう?」

「其れは、私にも解りかねますがただひとつ言える事は、ラリー様も此処のゆかりの方である事と言う事です、私達と同じように……」

 さっき感じた戦慄のひとつが開眼された時だった。


「ねえ、ラリーっ、私はラリーの事を信じているからね、ラリーは何があってもラリーでしか無いから私の知っているラリーは優しくてとても強いけど其れをひけらかす事をよしとしないとっても素敵な男の子なの、でもね女性にはすごく弱くて意気地無しなの」

 サギがそんな事を言ってきた。其れは貴女の俺に対する精一杯の愛情が溢れている言葉だった。

「サギっ、其れって褒めているの? けなしているの?」

 そんなサギの気遣いを感じて思いっ切り軽口で返す事とした。

「ん~、両方かなっ!」

「はぁ~、慰めになってないっ!」

「あらっ、ラリーったら慰めて欲しかったの? なん~だ、だったらね~っ」

 サギが俺の方をチラッと見ながら素知らぬ顔をして顔を正面に向き直した。

 なんだぁ~! サギの思惑がよくわからない俺はサギの方に向き直った、その瞬間サギが俺の方に振り向いてきて唇を重ねてきた。

「んっ――うん」

 短い接吻だったが俺の心のもやもやをサギがまさに吸い取ってくれたようだった。

「おいっ!」

「てへぇ……」

 サギは悪さを見つかった子供のような笑顔で照れ笑いをしてくる、その笑顔で俺は一気に心が癒やされていく感じを得ていた。

「あらっ、サギったらいい所を持って行きましたわね」

 リアーナお嬢様がいかにも悔しそうにサギに食いついてきた。

「はいっ、ラリーは渡しませんから――っ」

 そう言ってサギは俺に思いっ切りしがみついてくる。薄い湯浴み着なんぞ無いもののようにサギの豊満な乳房ちぶさが此でもかと言わんばかりに俺の身体に押しつけられていやがおうでもその柔らかさを感じずにはいられなかった。今の貴女あなたの格好を考えてくれサギっ!

「今のところは此くらいにして於きましょう、ではラリー様、晩餐会を楽しみしてますわ」

 そう言いながらリアーナお嬢様が湯船から立ち上がった、そして後ろに控えていたメイラーさんも……。

 俺の目の前に湯浴み着が濡れて完全に透き通って見える状態となった二人の肢体が晒されている。

 サギやウギの凄艶せんえいな色香とはまた違った艶麗えんれいで扇情的なリアーナお嬢様とメイラーさんの姿は俺の羞恥心を否応なく直撃してきた。

 サギ達の女体免疫作戦の効果も空しく俺は鼻血を出しながら気を失って倒れ込んだ。

「『あっ、ラリーっ』」

 これもいつものように仲よく二人のハモる声を聞きながら、俺の心は天に昇っていった。

「ラリーって……なんで~ぇ――馬鹿っ」

 サギの悔しそうな呟きだけが耳に残った。

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