第12話 取り敢えず護衛師団に合流します!

 俺が目覚めた場所はまたまた馬車の中だった。俺が倒れたあとの事はサギから聞いた話しになる。今の俺は馬車の中でサギの膝枕に全てを忘れてただ横たわっていたかった。そんな中でもウギが操る馬車は走り続けている。

 俺が倒れた後、メイラーさんがお嬢様の言づてを持って訪れてきたらしい。今宵のリッチモンド伯爵の晩餐会への招待であった。サギはそれを丁重にお断りし代わりに戻るときのために馬車を借りる手筈てはずを整えておいてもらったとの事だった。確かにニコラス師団長等の到着が未だの状況では俺たちにとっては晩餐会なぞに興じている余裕は無いはずだった。その代わり、護衛師団一行が到着次第リアーナお嬢様には改めてご挨拶にラリーを伺わせますとの約束をしてきたようだった。

 そこ辺りの処置の仕方は流石はサギと感心したが、お嬢様に改めてご挨拶に伺うのが何故、俺なのかは問いつめておきたかった。

「なあ~っ、サギ。護衛師団と共にヴィエンヌに到着したら挨拶に行くのがなんで俺名義なんだ?」

「あらっ、だってラリーのパーティーなんだからリーダーのラリーの名前で良くなくって? だってそうでしょ、ねっウギっ」

 サギはそう言って御者台の上のウギに話しを振った。

「そうじゃ、わらわも同感じゃ!」

 ふ~ん、そう言うものか? まあ、此は此でまあいいか。

「……で、と俺は何でサギの膝枕で寝ているんだ?」

「あらっ、私の膝枕では……お嫌でした? ラリーさ・ま・っ、お嬢様が宜しかったですか~ぁ?」

 あっと、このサギの口調は危険信号だ、まずい!

「滅相もない、サギの膝枕が――いちっ・ば――サギかウギのが一番いいです」

 危なかった、ウギには未だ膝枕をしてもらったことが無かったのでウギの名を言い忘れるところだったよ、一瞬、ウギが背中越しに殺気を放ったのが判った事で言い換えが間に合った。

 でもなあ、俺が聞きたかったことはそういうことでは無いのだが。

「……ちょっと待った、サギっ! 誰の膝枕が良いかって言う事じゃなくてだな、何で俺は膝枕をしてもらっているかって言うことなんだが?」

「だってぇ、ラリーが倒れたら膝枕で介抱してあげるのが鉄板でなくて?」

 おい、俺の介抱は膝枕付きが標準装備かい! サギの言い訳には何か含みが有りそうで怖いわ。でも、まあ俺としては嬉しい限りだが……良いのか其れで。

「前に倒れたときは別段膝枕はなかった筈だが? なあ、サギっ」

「だってあれはお嬢様の前ですもの、流石に其れは私でも躊躇ちゅうちょしましてよ、あっ、あれですね、あの時、逆に膝枕でラリーとのいちゃつきを見せつけておけば良かったのかしら? 失敗しましたわね私としたことが無思慮むしりょでしたわ」

 おいおい、サギさん何か最近キャラ替わってきてませんか? 俺は口に出しては聞けない言葉を飲み込んだ。

 いつまでもこんな風に楽してはいられない、おもむろに俺はサギの膝枕から起き出して御者台へと移った。

「あ~んっ、ラリーてばっ!」

 後ろでサギが名残惜しそうな表情でひと言、唸っていた。

 御者台に上がってウギの左側に座った。

「ウギ、手綱替わろう」

 今乗っている馬車は応接馬車のような大きさは無い。と言うより三人だけの移動で有り護衛師団との合流後の使い勝手も鑑みて小型で軽量な速度重視の馬車を借りてきていた。お陰で馬車内の客室と御者台の間には出入り口が設けてあり自由に往来が出来る。

「んっ、具合はもう良いのかラリー? わらわの事なら気遣いはいらぬぞ、もそっとサギの膝枕で休んでいれば良いものを――(わらわもぉぉっ膝枕してあげたいぞぉ……)」

 ウギは唇を尖らかせてぼやくように言った。自分の行動が原因で俺が鼻血を出して倒れた為その責任を感じて膝枕をサギに譲って御者役を引き受けたのだろう。そんな心根の可愛らしさに俺はわしゃわしゃとウギのつややかな銀色の髪の毛をなで回した。

「んっ、んっ」

 頭をなで回されているのが気持ちよさそうにウギは唸っていた。

 ウギから手綱を引き取ると俺は速度を上げる為に馬にむちを入れた。時間的にも余りゆっくりはしていられなかった。そんな事をしているとサギも客室から御者台に上がってきた。

「あ~ぁ、ラリーを折角独り占めできるとおもっていたのですよ~」

 そんな風にぼやきながらサギは俺の左側の御者台に座る。ヴィエンヌを目指していた時と同じように三人が揃って御者台に座ることになった。

「そうそう、メイラーさんから伝言っていうか、即ちリアーナお嬢様からの伝言なんですけれど――はい、これっ!」

 サギはそんな風に言いながら一通の手紙を俺に手渡した。

「ちゃんと渡しましたからねラリーっ、お嬢様に後で疑われては私が困りますから……ちゃんと読んでおいて下さいね」

「何なんだ、この手紙は?」

「そんなのっ……私が知る訳ないでしょ――ふんっ」

 サギのえらい剣幕に押されて俺はたじたじになった。

「……恋文かのぅ……」

 ぼそっとウギが呟いたよ。その一言は地雷ですからっ!

 それから暫くは三人とも無言で過ごす事となった。速度を上げた馬車の風を切る音だけが空しく闇夜に響いた。


 来た道を戻る時ほど距離感覚が短く感じる事は無い。馬車も換えて貰って早馬になっていた訳だが護衛師団の一行と合流したのは予想していた時間より遙かに早かった。

 俺達がリッチモンド伯爵一行を先に城下町ヴィエンヌに送り届ける為に出発した後、護衛師団は山間を抜けて平地の見晴らしの良い場所までゆっくりとだが移動をしていたらしい。怪我人も多く自力で移動する事が出来ないほどの重傷者もいたので流石に今までと同じような移動速度は取れなかったらしい。それでも、その後の魔獣の襲来も無く順調とは言い難いが今夜の野営に適した場所の確保は出来ていた様であった。

 俺達はニコラス師団長に帰任報告と共にリッチモンド伯爵一行の無事を伝えた。俺の任務の成功報告は護衛師団全体の成果である事から皆が喜んでくれて、特にリッチモンド家の使用人の方々は伯爵様一行の無事を聞き俺達をもみくちゃにしながら大喜びしてくれていた。その喜び具合とヴィエンヌの街とお城での伯爵様やリアーナお嬢様への歓迎モードからも領民から慕われるいい領主様であることは確かな事が感じられた。

 兎に角、今日は疲れた。野営と言う事も有り今夜は焚き火の周りで車座になりながらそれぞれ眠りにつく事になった。俺達四人?(三人と一匹と言うとヴァルの機嫌を損ねる) は寝具を手に小さな焚き火のひとつを確保して貰えたので、その周りにそれぞれ個々の寝床を作って満天の星空にいだかれるように眠りにつくことにした。


 今宵の星空はとても美しかった。何がとか何処がとか言われても表現のしようが無いから困ってしまう。ただ単に俺のボキャブラリーが乏しいだけなのだがそこはご容赦願いたいものである。

 寝具にくるまり仰向けで夜空を見上げながら今日一日の出来事を思い浮かべてみた。

 何と言っても魔獣達の襲来である、そこで俺は自分に持していた制限を解放せざる得ない状況に追い込まれていた。結局、『覇気』の解放を行う事となってしまった。此処までの魔力気を操る人間などそういない、いないと言うよりもその時点で人間では無いと言った方が正しいかも知れない。こうなればもう魔族と呼ばれてもおかしくは無いかも知れない。まあ、人型の魔族が少ない事からも見た目には違和感が色々出てくると思うが、要は畏怖の念である。

 人は自分と違うものに対して異常に拒否反応を起こす事がある、知らないもの知らない事、理解を超えたもの理解できないものへの恐怖心だ。今日、俺はそんな状況を周囲に与えてしまうまでに追い込まれた。全ての繋がりを捨てる覚悟をしたし、また孤独から始める覚悟をした。がどうだろう、今、俺の傍にサギがそしてウギが気持ちよさそうに寝息を立てている。彼女等が恐怖心で俺から離れていかなかった事だけでも不思議に思うのに、離れるどころかより親密になってきた感さえある。俺は彼女等に救われたと思っている。


「……ねぇ、ラリー? 眠れないの?」

 もう寝てしまったと思っていたサギが声を掛けてきた。

「あっ、悪かった起こしてしまったか?」

「ううん、私も寝付けなかったの……少しお話ししてもいいかしら?」

「ああ、俺もそうしてくれると有り難いかな、なんか色々考えてたら眠むれなくなってね……」

 そんな会話の後、俺達はお互いの顔を見合わせる為にサギは右を向いて俺は左を向いた。

 星の淡い光に照らされたサギの顔立ちは其れは美しかった。特に瞳の輝きは宝石の如くきらめきを放っていた。思わず見惚れてしまってしばし言葉を発するのを忘れてしまった。

「……ラリー? どうしたの?」

「……あっ、ごめん……サギの――っ」

「な~にっ?」

「……ああ、見惚れていました・す・まん・」

「えっ……まっ――っ」

 サギの表情が夜の闇の中でも解ってしまうほど頬が真っ赤になり、よほど驚いたのか眼も居心地悪そうに泳いでいる。もっとも、そう言った俺の方が恥ずかしくてその後の言葉が続いてこなかった。

「……あっ、ありがとう」

 サギは照れながらも小声で弱々しくも応えてくれた。

「……いきなりで悪かった」

「ううん……そんな事無いよ、嬉しい」

 ちょっと、はにかみながらもサギは破顔一笑で喜びを返してくれた。まあ、確かに俺も唐突すぎたと反省至極だ。

「ねえ、今日の事なんだけどあれって普通に出来る事なの? ラリーは?」

 一瞬、サギの質問の意味がわからなかったがサギの目を見ていたら何となく聞きたい事がわかった。

「ああ、『覇気』の事か? 十五の頃に覚えてしまってたかな、覚えたと言うよりは覚醒したって感じだったな。無論、今とは違って最初の頃は旨く制御出来ずに周りにみにくい事をした時もあったよ」

「そうなの? あんなオーラは初めて見たわ」

「……怖がらせたよな、あれでは人間には思えないもんな」

 俺は思い出して自虐的になってしまった。

「ううん、びっくりしただけ! 怖くなんか無かったわ、だってラリーは何があってもラリーだもん。あれもラリーの単なる一面でしょ、だってラリーはいつだって優しいし……それに女のには意気地無しだしね」

 何じゃそれは、って思ったが確かに……鼻血を吹いて倒れてばっかりだしな。意気地無しって言われてもしょうが無いか。

「なんかしょうもない奴みたいだな、俺っ」

「あっ……違うの……決してそんな意味で言ったんじゃ無いから~っ」

「いいよ、解ってるから、やっぱり男としては情け無いからな~っ」

「違う違う! そんなラリーが私はいいのっ! あっ……」

 サギは思いっ切りそう叫ぶと、しまったというような顔をして真っ赤になっていた。

「えっ、意気地無しでも良いのか?」

「それは、もう少しは……(積極的になっては欲しいけど)」

「…………」

 俺は黙るしか無かったよ――っ。

「『ごめん』」

 ふたりの言葉がハモった、しかしふたりとも何に対して謝っているのだろうか? 得てして会話の流れがおかしな方向に向かう時はこんなものかも知れないな。


「あっ、今、星が流れたよ、ねえ、見た見たラリーっ?」

 さっきまでの会話で、ちょっとふたりとも照れあって気まずい空気になったので、仰向けで星空を見ていた時にサギが叫ぶように言った。

「ああ、見えたよ。赤い尾びれがすっと残ったね」

「うん」

「俺も星空をこんな風に見上げながら、流れ星を待っているなんて無かったなぁ」

 俺は今まさに本心で思った事をしみじみと話しかけ直した。

「私もずっと夜空なんか見上げる事は無かったわ、ラリーと同じで」

「そうだよなぁ~、なんだかんだで生きるのに精一杯って感じだったしなぁ」

「……十五の頃に、あっ、前にも話した事があったねぇ、ニネット爺さんの事、修行って言えば聞こえが良いがあれはほとんど虐待に近かったな、ほんと。毎日が魔力量の限界まで出し入れさせられてたよ限界状態が魔力気の増幅には効果的なんだって。で、爺さんの事だからいい加減でさ、俺に対して手加減を誤ったのかな、ほぼ俺は瀕死の状態になって爺さんと勝負をした時だったんだけど、俺は最後の方は記憶が無いんだ。でも、『覇気』に近い魔力気放出の痕跡は残っていたらしく、それからそんなイメージを再現させる為に毎日繰り返していたよ、同じ魔力気を作り出せるように繰り返し繰り返しってね、其れが今じゃあれだから……ほぼ魔人だよね、あははぁ」

 話をしていて、最後は乾いた笑いが込み上げてきてしまった。

「ラリー、そんな風に言わないで私はそうは思わないから、ラリーは人間以外の何物でも無いから、そう言う言葉は私は嫌っ、ねっラリーっ」

 サギはそう言いながら俺の顔の上に覆い被さってきたんだ、そして貴女の唇を俺の唇の上にそっと優しく重ねた。途轍とてつもない柔らかさと温かな想いが伝わってきて、心が解け出してしまったように感じた。貴女の放つ薫りがとても心地よくてそのまま、ずっと口吻くちづけていたかった。


 昨日の夜の事は夢のように思えていた。サギとの長い接吻の余韻は次の流れ星を見つけるまで続いていたような気がする。その後はお互いに照れくささもあってか、そのままふたりともお互いの背を向けて黙ってしまった。俺もなんて言葉を掛けていいか解らなくて、でもそんな空気感も心地よくって――そんな感じでいたらいつの間にか寝付いていたようだった、ふたりとも……。


 小鳥のさえずりと共に眩しいばかりの朝のきらめきが俺を起こした。目を覚ましたが俺は起き上がれなかった、どこかを痛めていたわけでは無い。ただ俺の胸の辺りには金銀の眩いばかり輝く髪筋かみすじがあったんだ。右胸にはウギの髪筋かみすじが、左胸にはサギの髪筋かみすじが……そう、ふたりとも俺に抱きつくようにしてすやすやと眠っていて俺は起き上がる事が出来ないでいた。

「……まいったなぁ~」

 重いわけでは無いが、無闇に動いて彼女等を起こしてしまうのもはばかられた。

 そうこうしていると、先にウギの方が起き出してきた。

「――――んっ? あ~れ~っ? わらわは……あはっ、ラリーっおはようっじゃ」

 ウギは俺の胸の上で軽く頭を上げて俺の方を見ていた。ウギの寝起きの顔はまあ、可愛いなんてもんじゃ無かったよ、柔らかな日の光が天使の目覚めを照らすような光景を俺は目にしていた。

「おはようウギ、よく眠れたかい?」

 俺はドギマギする気持ちを悟られないように平静を装って挨拶をしていたよ。

「んんっ、寝た寝たっ! ラリーの胸枕は寝付きが良いのじゃ」

「そっか、其れは良かった。で、そろそろ離れてくれないかな~ぁウギ」

「あっ、ごめんじゃ」

 ウギは俺の胸の上から起き上がるようにして身体を入れ替えようとしたんだが――?

「ふにゃ~っ」

 変な擬音を発しながら俺の顔の上に乗っかかってきた……ウギの顔が、てっ、言うか……ウギの唇が! 次の瞬間、俺はウギと口づけをしていたよ? えっ?

「んっ……」

 ウギの方はそのまま俺との接吻を続けていて、押し殺すような甘い吐息を漏らしていた。

 そして、ウギは俺から唇を離した後ぼそっと呟やいたんだよ。

「――昨夜はサギに譲ったからのぅ、いいじゃろ、今は……」

「うっ……!」

 ウギの奴、昨夜の事を見ていたのか、てっきり寝付いたとばかり思っていたのに。俺は自分の浅はかさを自分でなじっていた。


 ウギが起き上がった後、サギも目覚めたようだったが……。俺の胸枕で眠っていた事に気付いたとたん顔を真っ赤にして、はにかんだような笑顔をしていたよ。その微笑みは忘れられない程、美しかった。

「あんっ、ラリー、あんまりこっちを見ないでね」

 そう言いながら、自分の両手でサギは顔を隠すようにしてうつむいた。

 

 護衛師団の一行も個々の焚き火の周りでそれぞれ野営をしていたようだったが、朝の到来と共にぼちぼち起き出してきた者も出てきた。ウギとサギは二人揃って近くの小川まで顔を洗いに出かけていった。ひとり残った俺はもうひとり居残った相棒に問いかけてみた。

“ヴァル、俺っていつから色男になったんだ?”

“そうね、あなたに合った女のに今まで出会ってなかっただけでしょ”

 そう言うもんかな~ぁ? 俺はあごに指をあてながら小首を傾げていたが、ヴァルがすくっと立ち上がって俺の方に向かってくるから何かと思って思案していた。次の瞬間、ヴァルが顔の届く所まで近寄ってきていて、おもむろに俺の唇をヴァルがその舌でペロッと舐めたんだ。

「あっ、え――っ!」

 余りに自然に舐められたので、舐められた事にすら暫くは気付かなかった。

“ラリーっ、ちなみに私もあ・な・た・が好きだからね、覚えておく・よ・う・に!”

 俺を棒立ちにさせたままそんな魔力念波を残してヴァルもウギ達の後を追っていった。

 最後にひとり取り残された俺はただただ々、惚けているしかなかったよ。


 日も昇りそれぞれの身支度を整えている間に朝食が配給されてきた。リッチモンド家の使用人の方々が炊き出しの当番をかって出てくれている。使用人の中には当然料理人のプロもいるので料理のレベルは高かった。俺達のチームにもご多分に漏れず優雅な朝食が回ってきた。

「ラリー、ウギ、ヴァル――朝ご飯よ!」

 サギが皆の分を持ってきてくれた。消し炭になった焚き火跡を車座になりながらサギが持ってきてくれた朝食を頬張ほおばった。

「今日はヴィエンヌの街に戻るんでしょ、私たちはどれを護衛すれば良いのかしら?」

 昨日まではリッチモンド伯爵がいらっしゃったから任務が明確になっていたが、今日は伯爵家御一行様は既にヴィエンヌにお着きになっていらしゃるので何を護衛していくのかが曖昧になってる。

「確かにそうだね、今日は護衛任務と言うよりは移動日の一部かな? 多分」

 俺はサギの質問に曖昧なままだがそんな風に応えて於いた。

「じゃ直ぐにヴィエンヌに着いちゃうね」

「そうだな、昨日の移動から考えると確かに――そうなるな」

 俺は昨日の出来事を思い出しながら道順を考えてた。そんな時、ウギが問うてきた。

「昨日で思い出したのじゃが……ラリーにサギが渡した御令嬢からの手紙には何が書いてあったのじゃ?」

 ウギっ、そんな唐突に……ほらっサギの顔色が曇ってきたじゃ無いか~っ! と心の中で俺は悲鳴を上げていたがそんな呻き声が届くわけも無かった。

 おもむろに胸元の内側の衣嚢いのうから手紙を取り出してウギに渡した。

「ほらっ、特に何って無かったよ――お礼の手紙だ」

 ウギは俺の手から其れを引ったくるように掴むと手紙を開いて読み出した。サギもさっと近寄って行って覗き込んでいる。二人して手紙を食い入るように読み終わると、半眼で睨んできた。

「――『……今日の晩餐会を楽しみにしております。』ってあるわね~っ、何があるのかしら~?」

「いや其れは、社交辞令だろう、普通ぅ」

「ふん~、ただのご挨拶ょて言う訳ね~っ、じゃさぁ……私たちが一緒に行ってもいい訳ね?」

「……それはぁ」

「い・い・わ・よね!」

「……はいっ」

 まあ、逆らえるわけは無かったと言うよりは……俺は静かに従った。


 サギが疑問を呈したように今日の護衛の対象は特になくなった為、護衛師団の行動は皆、好き勝手だった。そうすると案の定サギとウギの所には今とばかりに人集ひとだかりが出来ていた。

 まあ、戦乙女ワルキューレ四十八人衆-非公式ファンクラブでトップ人気のサギは優に及ばず、初見のウギでさえサギに劣らぬ容姿の持ち主であるし何せそのグラマラスなスタイルは可愛らしさの顔立ちに相反して男心をそそるらしかった。まあ、余りに酷い奴らはヴァルが一掃してくれていたから心配は無かったが、それでも出発を控えて仕度時間をないがしろにし始めていたのが、ニコラス近衛師団長の逆鱗に触れた。

「――お前達は、護衛師団の誇りも騎士の尊厳も無くしたのか! 馬鹿者ども!」

 ニコラス近衛師団長の一喝でサギとウギの周りにいた集団は蜘蛛の子を散らすように去っていった。

 

 残った俺達はお互いの顔を見合わせながら、大きく溜め息をついた。

「『ふう~ぅ』」

 三人同時の溜め息も、まあ其れは綺麗に和音を奏でていたね、傍から見れば見事なハーモニーに聞こえただろう。

「サギもご苦労様、まあ有名税と思って諦めないとね」

 そんな風にねぎらいの言葉を掛けたつもりだったがサギにとっては気休めにも成らなかったらしい。

「ラリーっ! そんな言葉は言って欲しくは無いですわ。私はたったひとりの人……だけに見ていて貰いたいのよっ!」

「あっぅ――――悪かった思慮を欠いた言葉だったね、すまない」

 何にご立腹なのかさっぱり解らないでいる俺はサギの剣幕にたじたじになっていたが、サギもそのうち冷静になってきたようで、自分の言葉が単なる八つ当たりであると後悔して素直に謝ってきてくれた。

「……ご免なさい、私の方こそ言い過ぎました……ラリーに八つ当たりしてたみたいですわ」

わらわは特に何にも感じ何のじゃがのぅ~、まあ、今日は皆、暇なんじゃろうて」

 ウギは人集ひとだかりに関しては我知らずでいられる性格であるらしい。まあ、ヴァルが傍にいてくれれば無闇に近づくやからはいないからな。

「そうは言ってもだよ……ウギも注意はしておいた方が良いぞ、ほらねぇ」

 俺の言葉に何か感じ取ったらしく、咄嗟とっさにウギは後ろを振り向いた。そこには案の定いつの間にかヨル爺が今にもウギのお尻を触らんとしている態勢で両手のひらをお尻に向けて近寄っているところだった。

「――で、何をしようとしているのじゃ! おい爺!」

「へっ――ぁ」

 おいたをしようとして叶わずに見つかってしまった悪ガキの如く、ヨル爺は踵を介して逃げ出した。

「こらっ~! ま~てぇ! 爺! 逃がさんのじゃ!」

 顔を真っ赤にして怒ったウギが腰の刀を抜き出しながらヨル爺を追いかけていった。まあ、これも今この時が平和な証拠か~。

 しかし、ひとつ疑問があった。ヴァルの奴はとっくにヨル爺に気付いていたはずだろうに? 此は直接聞いてみるしかないかな? 俺は魔力念波でヴァルに語りかけてみた。

“ヴァル、お前なんでウギに先にヨル爺の接近を教えなかったんだ?”

“あらっ~、あれはあれでお互い楽しんでいるのよ、お嬢も。ラリーにはわからないわよね~ぇ”

“ん~っ――――全然、わからん”

 そんなものなのか? 俺にはまだまだ修行が足りないらしいと今日は思っておく事にした。


 今日は残りの道中ヴィエンヌまで怪我人を含めゆっくりと進めば良かった。朝方のドタバタもそんな余裕から生まれた産物だったんだろう。リッチモンド家の使用人の方々が朝食の後片付けをしている間に護衛師団一行は身支度を調えてそれぞれ今日の護衛の任務割りを確認していた。


「俺達は最後尾だ、しんがりをつとめる事となった」

 俺達の任務内容をサギとウギそしてヴァルに伝える。

「最後尾か~、ほほうじゃのぅ」

「何か不満かウギ?」

 ウギの反応がいつもと違っていて何か引っかかった、俺は即座に聞き返す。

「んっ、不満ていう事じゃないじゃのぅ~ただなんだのぅ、最後尾って『お尻』って事だろうにのぉ」

「おまえ『お尻』ってな~ぁ、確かにそうなんだが何か嫌な言い方だな」

「そうじゃろう、お尻じゃぞ……お・し・り」

 いやいや、おしりをそんな風に強調されてもね。単なる言葉のあやじゃ無いか。

「確かにね、お・し・りって言うとね……あれねぇ~」

 おいおいサギまで何を言い出し始めているんだか、しかも恥ずかしいのか頬を赤らめながら言う事か? おいっ!

「だってさぁラリーっ、さっきもウギはヨル爺におしりを触られそうになっていたのよね?」

「そうじゃぞ、あの爺、わらわのおしりを狙って追ったのじゃ~、そんなにわらわのおしりは――かのぅ~? ラリーっちょっと触ってみてくれぬか~?」

 ウギはその露出の多い装備礼装の格好でおしりの方を俺に向けてチョンと突きだしてきた。ウギの服装はホットパンツ風の装備礼装でしかも身体の線がきっちり出るようにピタッとおしりに張り付いて情欲をかき立てる艶っぽさを醸し出している。実に目の毒だ。

 一瞬、目のやり場に困って俺は咄嗟に後ろを向いた。

「えっ! ウギ! コラッどさくさに紛れて何を言い出してるのかしらっ!」

「あっ、触られるのはわらわの方じゃぞ、触るのはラリーじゃ、別段問題無いであろうにのぅ」

「うんっ、そう言われればそうかもね、ねっ私もいいかな~」

「いいんじゃないかのぅ、二人しておしりを触って貰おうかのぅ」

「……っ」

 さっきのウギの行動で彼女のおしりを直視出来ずに咄嗟にウギに背を向けたので、俺はウギとサギの顔色をうかがい知る事は出来ないでいた、だが二人とも笑いを堪え切れず、くすくすと吹き出し始めているのはわかる。絶対に俺をもて遊んでいるな彼女等は……、そうわかっていても俺には何にも出来ないでいた。残りの手段は無視する事だ、この場は彼女等の勝ちでいい! 気を取り直して俺は号令を掛ける。

「――――さっ、行くぞ」

「うん、『おしりへねぇ』」

 二人の綺麗にハモる言葉に思わず俺はすっころびそうになりながらも何とか態勢を立て直して持ち場の位置へと歩んでいった。


 俺達は今、護衛師団のしんがりを勤めている。まあ、ウギに言わせれば『お尻持ち』とでも言うのか、兎に角『おしり』が気に入ったようである。俺の右側で口笛でも吹くかのように爽やかな声で歌っている。

「……おし~り、お~しり、おおしっり……」

 おぃ、いい加減にこっちが恥ずかしいわ。

「なあ、ウギっ、いい加減に恥ずかしいからその唄、止めてくれないか」

「んっ、『おしり~』をかのぅ~?」

「そう、『おしり~』を!」

 その言葉にウギはむっとした顔でおもむろに俺の方を睨んでくる、そんなに怒るような事を言ったか? ウギの感情の基準に時々疑問符がつく事が有るが、今日はいつも以上だなと思う。

「ウギ、俺そんなに酷い事言ったか?」

わらわは恥ずかしくないのじゃ、誰に対して恥じているのじゃラリー、そもそもお主自身の心の持ちようじゃろうが」

「……まあ、其れはそうだが、でもな~ぁ『おしり~』って乙女が叫び続けて良いものか?」

「んっ、乙女って……わらわの事かのぅ~?」

「他にいるのか? この話の流れで~ぇ、なあ、ウギ」

わらわが乙女に見えるのかラリーは? 本気か?」

「本気も何もウギは乙女だろう、さっきの人集りもそう言う見方を皆がしているからだろう。まあ、喋らなければだがなぁ」

「そっか、わらわはラリーにとっても乙女に見えるのか~ぁ。わかった『おしり~』はもう言わぬぞ」

 ウギはそんな言葉で今度はニコニコと満面の笑みで俺の顔を見てくる。いきなり替わる娘だよな、まったく。そう思っていると今度は歌詞が替わって歌い始めてきた。

「……乙女~っ、お~と~めぇ~ぇ、おとめごこーろ……わからぬラリーっ……」

「……?」

 まあ、いっかぁ~。


 しんがりと言っても敵の領域から撤退するような状況でも無いので今のところは魔力も精神的負担もさほどでは無い。とは言っても昨日の魔獣の大量出現も尋常な状態とは言えなかったので用心の為に『おしり~』の位置づけを利用して一団を隠匿する結界を掛けておく。この結界魔術は昨日サギに教えたものと同質な為、魔術式の魔力気を放出した瞬間にサギはそれに気が付いた。

「ラリー、それって昨日のあれと一緒なの? でも、もっと魔力気の純度が高いように感じるけど? 違って?」

「ああ、そうだね。サギに教えたのはこっちの魔力を隠匿する魔術で、これは全ての『気』を隠す魔術だからより魔力気の純度の高さが必要だな」

「ふ~ん、え――っですわね、まったく。ラリーったら簡単に言ってくれてますけどそれってすごい事なんですよね? そんな純度の魔力気をず――っと放出し続けていたら私だったら死んじゃいますわ」

「サギの『闘気』も純度で言えば十分高いと思うよ」

「でも、そんなに続ける程は魔力量がないですわ」

 そう言いながらも俺を見るサギの目は好奇心に満ち溢れている。俺はおもむろにサギの右手を取って、俺の魔力気をサギの『闘気』の固有値に合わせ直して放出してみる。無論、他人の魔力気に近寄せる事など簡単な事では無い、と言うのも以前サギが落とした日記に掛けていた罰則呪術付きの本人承認鍵なぞはこの個々の魔力気の固有値が認証の鍵となるわけだから、これを合わせる事が出来ると言う事は成りすましが可能と言う事になるわけだ。

「なぁ――――うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 サギが目を白黒させてうめく、最初は自分自身の魔力気と同じものが外部から流入するわけだから身体が一瞬拒絶反応を起こす、その為、感覚的に吐き気を催すような嫌悪感に犯される。が、サギの魔力気レベルであればそれもほんの一瞬の事だ。

「んっ、あっん――んっ、わっあっつい! 火照ってるの手が――っ!」

 サギはつなぎ合わせた手をジッと見つめている。握りしめたお互いの手から真紅の輝きが発して、結界魔術が増幅していた。

「ラリー、何々? どうなってるの? 私どうしたの?」

 サギが矢継ぎ早に質問を投げかけてきている、混乱するのも無理も無い。連携魔術なんぞそんじょそこいらじゃお目にかかれる代物では無いはず。俺だって此をやるのは数えるしか無い、魔力気の固有値に合わせるとは言っても実際は臓器移植みたいなところが有るから、おおざっぱな型が合う以上に正直やってみなければ合わない相性というものがある。しかし、サギとの相性は完全と言うほか無かった。

 俺の魔力気は今はほぼサギへの魔力供給源としか機能していないはずだ、結界魔術自身はサギの魔術が発している状況だ。それでも、さっきまでの俺ひとりの結界魔術の数倍の力で広域に出ているのはわかる。サギも認識しているだろう。

「ねぇ、ラリーっこれって、私の魔術なの?」

「そうさ、サギが起点になった魔術に置き換わっている、俺はサギにとって単なる魔力供給源でしかないよ、今は」

「うん、わかるの其れが……すごいね! 魔力切れなんか全く無さそうに思えるの」

 俺達はこの結界を維持しながら、護衛師団の最後尾を歩いていた。


 暫くサギと手を繋ぎながら歩いていた。何度か途中休憩をして休息を取りながらヴィエンヌを目指す。広域結界魔術の為とは言え二人とも手を繋いでいる事に最初は恥じらいがあったがだんだん其れも気にならない程お互いになじんできた。

「ラリーねぇ、こうやって手を繋いでいると周りからどう見えるのかしら? 恋人同士にみえるかなぁ?」

「ああ、そうかもな、前の集団からの俺に対する視線が既に其れを物語っているようだよ、視線と言うより……殺気だな此はもう」

 俺は冷や汗をかきながらこの状態に耐えるしかなかったが、まあサギの人気を知る俺としては其れもしょうが無い事と諦めていた。それに見合うだけの役得である事は紛れもない事実であるから。

「そっかぁ……うふっ」

 なんかサギは特別にご満悦みたいだな、終始ニコニコしているわ。でもまあ、この連携魔術は規模の割に負荷が滅茶苦茶低いわ、俺も楽になれるし。

 まあ、もう暫くはこのままでも良いかって俺ひとり思っていたよ。


 ヴィエンヌまでのそれからの道すがらは若干の野獣とかとの遭遇は会ったが総じて平和な道中となった。サギとの二人羽織のような結界魔術での護衛効果も功を奏した。

 しかしながら怪我人の搬送も有り護衛師団の進みは速いとは言いがたかった。貴族がたの警護無しでの移動としては牛の歩みと言えるだろうが、それでも皆なんとかがんばって早くこの旅を終わりたいと思っているようだった。

 そんな行程を歩みながら俺達はしんがりの責任を最後まで果たすべく最後尾からの監視には余念が無かった。まあ、サギと手を繋ぎながらの道中は傍から見れば何の警戒心も無いバカカップルの散歩にしか思えなかっただろうと思うが……。

 そんな中、サギの表情は朗らかで終始機嫌が良い様子である。時々、俺の方をちらっと見るが俺と目が合うと少し照れた様子で目線をずらしながら俯いてしまうが、その分握った手をぎゅっと握り替えしてくる。そんな調子でまるで鼻歌でも歌っているかの様な表情を見せてくれて、ある意味新鮮な気づきを教えてくれた。サギの笑顔にはほんの少しだがえくぼが出来るようだった、それがまた普段の美しさと違ってとても可愛らしい表情を作るのに気が付いた。

「サギって笑うとえくぼが出来るんだね、始めて気が付いたよ」

「え~っ、私そんな事言われたの初めてですわ? 本当に?」

「ああ、ほら、今まさに――これ!」

 俺はサギのえくぼで出来た可愛らしいへこみを指でつついてみせた。

「えっ――!」

 触られた頬の辺りをサギが自分の指でなぞってみる。

「あっ、ほんとですね、ちょっと有るみたい」

「何でですかね~ぇ? ラリーと一緒だからかな~ぁ? ルームメイトのロミにも気付かれた事は無かったですよ、今まで……」

 そっか、俺が初めて見たのかな? それはそれでとても得した気分だ。

「と言う事は、サギのえくぼを見た最初の人って言う事かな? 大変名誉な事だね、俺に取っては!」

 まあ、俺といる時の笑顔の表情がいつもよりもさらに自然な笑顔って言う事かな――そう思う事にしておいた。

 そんな風にサギのえくぼを堪能していたく――じぃ~っと見つめたと言う事になるが……。

「……ラリー……、そんなに見つめられると、恥ずかしいですわ」

「ああ、ごめん、すごく可愛いから、ついっ」

「は~ぁん」

 サギはそんなうめきを発しながら、“ボムッ” と音でもしそうな感じで顔を一気に真っ赤にしていた。

 まあ、そんな事をしていると右隣のウギの表情は普通は険悪になってくるのだが……。

「……乙女~っ、お~と~めぇ~ぇ、おとめごこーろ……」

 まだ、ニコニコと機嫌良く歌い続けいたよ――よくわからんわ?


 護衛師団の一行は歩みの遅い行軍でも何とかヴィエンヌの城壁がまだ遠くではあるがうっすらと見える所にまで辿り着いていた。最後の気力を振り絞ってラストスパートをかける。

 ここまで来れば最後尾からの警護としても結界魔術までの擁護はいらないようだった。そろそろサギの手を離すタイミングを意識し始めている。

 そんな俺の考えを察してか、サギは余計に貴女の手の握る力を強めてきた。

「なあ、サギ。そろそろ手を離しても良いんじゃ無いかな?」

「――いやっ!」

 ほんと明快なお言葉で……。

「でもさ、ほらっ城壁の門番の所へ先回りしないとさ……ねぇ」

「手を繋いだままでもいいじゃ無いですか、それともラリーは私と手を繋ぐのはお嫌いでしょうか?」

「嫌いなわけ無いでしょう、サギっ、そんな風に言わないで下さいよ」

「だったらいいじゃ無いですか、このままで――ねぇ」

 そんな風に言われたら何も言い返せないじゃ無いですか……俺は先程の発言を撤回するしかなかった。

 そのままの状況で護衛師団は城壁の門の所まで来ていた、無論先頭はニコラス師団長なので門番の方は既に最敬礼で迎えには余念が無かった。そのまま師団長の顔パスで一行はヴィエンヌの街並の中へと入っていく。

 まだ夕刻には時間があって日も高く、俺達が昨日の夜に訪れた時の数倍の活気が街全体に行き渡っているのが十分にわかった。

 護衛師団の一行はそのまま、お城を目指して高台を進んでいく。

 

「なあ、ウギっ、何でお前まで手を繋いでいるのだ?」

「だって、サギばかりは狡いと思わぬか、わらわの番がいつくるかと思っていたのじゃが、とうとうこなかったのじゃぞ! だったらわらわから手を繋ぎに行くしか無かろうが」

「まあ、それは悪いと思っているが、サギの場合は……そうほれ、結界魔術の連携の為だから」

「それは最初の時だけじゃろうが、もうずっと前に術式は解いているのじゃろう、それでもまだお主らは手を繋いでおろうが」

 確かに道中の途中からは結界魔術は解除してある、でもサギが手を離すのを拒んだ。その為まだ手を繋ぎっぱなしだ。だから、ウギの言い分には確かに理があるが、そうは言っても両側に綺麗に咲いている大輪の花たちと手を繋いだままでヴィエンヌの街並を闊歩するのにはすごい抵抗があるのは理解して欲しいところだ。まあ、そんな俺の恥じらいなんぞは“意気地無し”のひと言で一蹴されてしまうだろうが。

 そうこうしているうちに一行は高台を上り詰めヴィエンヌ城へと着いたのであった。

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