一路ヴィエンヌ城へ!
第10話 さっ、お仕事です!
護衛師団の流れは宿を後にして田舎道の畑の間を抜ける街道沿いに歩みを進めて行った。
俺はウギと共に一団の先頭を進んでいた、今日の旅程ではこのまま
何度目かの休憩時にサギが馬車から降りてきて俺達が休んでいた木立の中へ入ってきた。
「ラリーさ……ラリー」
「サギさ……あっと,サギ――なんだ~?」
やっぱりまだ呼び慣れていないな俺達。
「んっ、あの~ねぇ……一緒にいてもいいかな?」
「ああ、
「んっ、でも~ねぇ……」
サギは心なしか顔を赤らめながら
「お主ら、いい加減にせんかのぅ」
ウギが膨れっ面になりながら、文句を言ってきた。
「あら、ウギっ! そんなことを言ってるならあなたの弱点を攻めさせて頂くわよ!」
「おおっ、
「……頭を剃られたお爺さま、連れてきて上げましょうか」
「うっ……」
此は、サギに一本取られましたかな。ウギは苦虫を潰した様な顔をして
「嫌いなだけじゃぞ、ヨル爺の事は……別に弱点では無いぞのぉ」
「あら、そうだったのね、ご免なさいね……そっかぁヨル爺って言うんだ」
「うっ……」
こりゃ、今回は完全にサギの優勢勝ちかな。まあ、そろそろ仲裁に入らないと拙そうだな。
「こらこら、二人ともいい加減にやめなさい」
「『は~ぃ』」二人して仲良くハモってくれたね。まあ、仲が良いんだか、悪いんだか?
俺達が居た場所は木立の中でぽっかりと空いた空間のような所だったがなんかすごく居心地のいい場所だった。丁度、倒れた大木が座り心地のいい高さで横たわっていたので三人揃ってそこに腰を降ろした、俺を真ん中に右にウギそして左にサギが座った、ヴァルはウギの前におとなしく伏せっている。
「サギ、所でなんか用があったのではないかな?」
「うんんっ、用って言うほどのことでもないの……何となく一緒に居たいなって、ラリーと……」
そんなことを言いながら吸い込まれそうな微笑みで此方の方を覗いてきた。木立の中の木漏れ日と共に其処だけ花が咲いたような錯視に一瞬捕らわれる。
「ウギはずっとラリーと一緒でしょ、羨ましいなって思ったら居ても立ってもいられなくて、お嬢様にちょっと時間を貰ったの……迷惑だった?」
「迷惑だなんて、そんなことは無いよ、相変わらず気の使いすぎですねサギは……」
「そうじゃぞう、サギ。
ウギはそう言いながら俺の右腕に彼女の両腕を絡めてきた、まあそうすると否が応でもウギの豊満な胸が腕に押しつけられるわけでその柔らかな感触が腕を通じて俺の脳神経を刺激してくる。
「うっ、ウギっ――お前な~っ――わっ、むね……がっ……うっ」
顔を赤らめながら、腕を振り解こうと藻掻くがそうすればそうする程よりウギは腕をきつく捉えて放そうとしない。
「ウギっ、
今度はサギが俺の左腕に
「『あっ、ラリーっ』」
仲よく二人のハモる声を聞きながら、俺の心は天に昇っていった。
“相変わらず……坊やだこと”
最後にヴァルの魔力念波が俺の意識の隅を横切っていった。
気が付いたところはリアーナお嬢様の馬車の中だった。俺はひとり座の長いすに寝かせられていてサギが付いていてくれたようだ。
「っん~」
「ラリーっ、気が付きましたか。大丈夫ですか?」
サギが俺の顔を覗き込むようにして訊ねてきた。
「……此処は? 何処ですか?」
まだ、覚醒しきらない頭の回転でひとまず状況把握をしていた。
「お目覚めになられました? ラリー様。お体の具合は如何ですか?」
俺の向かい側に座っていたリアーナお嬢様が訊ねてきた。
寝たままでは失礼になるのでゆっくりとした動作ではあるが俺は起き上がり椅子に座り直した。
「お嬢様、ありがとうございます。無様な姿をお見せしてしまいましたね、申し訳ありません」
俺は深々と頭を下げて、お嬢様に非礼のお詫びを口にしていた。
「あっ、ラリーが悪いわけではありませんから……私の不徳のいたすところですから、ごめんなさいい」
サギが顔を真っ赤にしながら俺に謝ってきた。やり過ぎたと思っているのだろう、肩をすぼめてシュンとした顔つきで恥じている様子だった。
「サギ……っ」
「本当にごめんなさい」
まあ、
「あら、笑ったりしてごめんなさいね。でも、ラリー様って……ふふっ」
リアーナお嬢様はつぼに嵌まったのか笑いを抑えられない様子だった。まあ、笑われても仕方が無いなと俺は天を仰いで大きく溜息を付いた。
ガタンッ! その時、馬車がいきなり大きく揺れた!
「きゃっ……!」「いやっん!」と馬車の中は悲鳴がこだました。
何が起こっているかはすぐに把握出来た。俺は扉を開けて走っている馬車から勢いよく飛び降りる。開けっ放しの馬車の扉にウギが飛びついて、身を乗り出しながら俺に叫んだ。
「ラリー!」
悲痛な叫び声が森の中に響き渡った。
「サギ! 扉を閉めて! リアーナお嬢様を頼む!」
サギはその呼びかけに呼応して大きく頷くと扉を閉めて馬車の中にその身を戻した。
俺はサギに其れだけ伝えると馬車の前に回り込むように走り出していた。
馬車の先頭は既に護衛師団のメンバーが抜刀した状態で臨戦態勢に入っていた。無論、その中にはウギとヴァルの姿もあった。俺はとにかくウギの傍まで走り続けていた。
「ウギっ! 種類は? 数は?」
「キメイラ! 三十体程、
「わかった!」
ウギの返答は即座だった、その言葉に応じて俺は左側の魔獣達を見やった。
ライオンとも山羊ともつかない魔獣キメイラ、人の丈程ある大きさで強靱な肉体と吐きだす火炎を武器に一団に襲いかかってきていた。
既に一部では騎士とキメイラの闘いが佳境に入っているところもあった。何人かは大怪我をして早々に戦線離脱に追いやられている。
「キメイラか、しかし数が多いな、これだけの数がいきなり出現とは?」
何か違和感を感じながらも兎に角、討伐に専念することにした。
護衛師団のメンバーの中で騎士がキメイラと相対するには一頭に対して三人から五人程必要になる、依って二十人の護衛師団では圧倒的に数で不利な状況って訳だ。
「ちっ! やるしか無いか――」
ウギの方はヴァルと組んで二対三の取り合わせで三匹のキメイラを徐々に追い詰めていた、ウギの切っ先はキメイラ如きには一寸の迷いも無く確実に優勢を保てている。それでも、数で押してくる魔獣キメイラにウギの剣技も圧倒的な力の差を見せつけるまでは至っていなかった。そんな状況で時間の猶予をこれ以上与えていては護衛師団がいずれジリ貧に陥ることは火を見るより明らかであった。
「ラリーっ!」
「なっ! サギ、お嬢様の護衛は!」
あっ、サギなんで来るかな~っ、って言っても仕方ないか。と、そんな俺の心配を払拭するようにサギはしっかりとした戦略を考えていたようだった。
「リッチモンド伯爵様達はひとつの馬車に集まって貰いました、そうすれば他の宮廷魔術師が集まって一緒に護衛出来ますから――私はラリーに加勢します」
「なるほど、その方法は旨いな――流石だサギ」
そんなサギの知略にほとほと感心していると少し離れた場所から護衛師団メンバーの悲鳴が鳴り響いてきた。
サギは先程悲鳴を上げた護衛師団メンバーの方に早々に防御魔術の魔方陣を構成していた。これであっちの方は暫くは持ちこたえられるはずだ。とは言っても此の状態では焼け石に水だ。しかも、今度はその分サギがキメイラのターゲットになっていく、複数体のキメイラが相手では一体を相手をしていると直ぐに他のキメイラに背後を取られる状況になっていく。
忍び足で背後を取ったキメイラがサギに襲いかかった。
「あっ、きゃ―っ!」
サギの悲鳴に俺は光の如く反応していた。瞬間移動でサギとキメイラの間に入り込むと飛びかかってきたキメイラの鼻先に剣を叩き入れた、鼻っ柱を叩かれたキメイラは仰け反りながらも致命傷を避けて元の位置に戻った。
俺は注意を此方に引きつける為キメイラを睨み付けたまま、サギの方を見ないで問いかけた。
「サギ! 怪我は無いか?」
サギは寸前の状況に恐怖心から冷めきらなかったのか、一拍遅れて返事があった。
「……ラリーありがとう、大丈夫よ、助かったわ」
よかった、心からサギの無事を喜んだがそうそう運良く事が進むとは限らない。
「もう、時間が無いな……くっ」
おもわず
「……もう少し彼女等と一緒にいたかったな……でも、まあ仕方が無いか」
俺は早々に腹を決めた。
目の前の三十体程のキメイラの位置を補足すると
「えっ! ラリーっ……わっ! 『覇気』! えっ――な、なっ!」
傍にいたサギが俺のオーラの色変わりを初めて見て、その可愛らしい碧眼の瞳を大きく見開いたまま
さらに俺の発するオーラが銀白色の大きな光となって一団全体を包み込むほど巨大化していく。眩い光に皆、自分の手をかざして目を覆っている一瞬全ての動きが止まった。異変に気づいた魔獣キメイラの群れはその覇気に恐れをなして逃げだそうとしている。
「もう、遅い!」
俺はキメイラ達にそう最後通告をすると一気に全キメイラ目掛けて覇気を解放した。
光がさらに明るさを増して全ての生き物はその眩しさに耐えられず目を
『バシュッ――』全域に響き渡る雷鳴にも似た異次元的な音が全てを包みこむ。
眩い光がゆっくりと収束していき、皆が次に目を開けた時には魔獣キメイラの姿はもう何処にも見当たらなかった。
そう、俺は全てのキメイラに異次元空間移動魔術を放ったのだった。
残存している『覇気』が俺の周囲を銀色に輝かせている。無論、危険な魔獣達が居なくなった今の状況では余分な魔力気でしか無いがそう簡単に元には戻せない。『覇気』から漏れ出る尋常では無い殺気にあてられて周囲の人々が顔面蒼白の表情で俺を見ているのが解る。
「……やはり、こうなるよな……」
大きすぎる力を目の前に見て、持つ者と持たざる者そして結果、得てしてそんな状況は人の心に影を落とす。
そんな静寂を破るかのように無邪気な声が森の中に響き渡った。
「『ラリー!』」仲よくハモる二人のよく聞き慣れた声だった。
「流石じゃのぅ、其れでこそ
「んもうっ、『覇気』が使えるなんて羨ましいですわよラリー」
二人の天使が俺の身体を暖かく抱き締めてくれる、其れだけで殺気で凍えた俺の心を溶かしてくれた。こんな体験は初めてだった。いつも『覇気』を使った後は後悔の念しか沸いてこなかったのに。
「……ふたりとも、俺が怖くは無いのか? こんな殺気で充満した俺を見て……」
右腕に抱きついているウギと左腕に抱きついているサギの両方に交互に目を向けながら問うてみる。
「あらっ、ラリーのことを誰がそんな風に思うのかしら? だって、皆を助ける為に力をつかったんでしょ、だったらねぇ……誇ることはあっても恥じることは無いのよ」
「……いや、でも……俺の殺気は……普通恐れるだろう?」
確かに恐れなんぞ皆無で無邪気に抱きついてくるふたりに戸惑いながらも、もう一度訊ねた。
「あらっ、ラリー気付いていないのかしら? とうに貴方の殺気なんて綺麗に無くなっているわよ。ねえっ、ウギ」
「そうじゃぞ、お主の『覇気』も、もうとっくに霧散しておろうがのぅ」
えっ、そうなのかいつもなら半日ぐらいは『覇気』も殺気も纏わり付いたまま剥がれないのに……。
「……いつ? 殺気が抜けたんだ? サギっ」
「ん~、そうね。――ウギとふたりで貴方に抱きついた瞬間かな~? うふっ、嬉しい?」
そう言いながらもふたりとも俺の腕を放そうとはしてくれない。と言うか、ふたりとも破顔一笑でますます密着してくるから……ねぇ。
「おっ、今度はお主も少しは慣れたようじゃのぅ、んっで、どうじゃ~ご褒美じゃぞ、ほれほれっ!」
「ウギっ、また自分だけ
「うっ、ふたりとも~っ――わっ、むね……がっ……うっ」
正常な精神状態になった俺には先程のトラウマの状況が蘇ってくる、両腕に触れている彼女等からの柔らかな感触に気付いてしまったことでまたもや一気に羞恥心がピークに達した、再び俺は鼻血を出しながら気を失って倒れ込んだ。
「『あっ、ラリーっ』」
ここでも仲よく二人のハモる声を聞きながら、俺の心は再び天に昇っていった。
(今度は俺! ほんと死んだ!)
“まったく坊やは……
またもや最後にヴァルの魔力念波が俺の意識の隅を横切っていった。
気が付いたところはまたもやリアーナお嬢様の馬車の中だった。
「っん~」
「あっラリーっ、気が付きましたか?」
サギが俺の顔を覗き込むようにして訊ねてきた。
「……此処は? またリアーナお嬢様の馬車の中?」
今回は覚醒しきらない頭の回転でも経験で解った。
「お目覚めになられましたねラリー様。しかし、本当に面白いお方ですね貴方様は。あれだけの魔獣達を一瞬で相殺された英雄様ともあろうお方がね……ふふっ」
俺の向かい側に座っていたリアーナお嬢様がまたもやつぼに嵌まって笑いを抑えられないらしい。
しかし、皆、俺に対して以前と変わらない微笑みを投げかけてくれている。あんな事があっても俺が怖くないらしい、其れは俺に取って新鮮な出来事だった。
俺はゆっくりと起き上がりリアーナお嬢様に向かい合って座り直した。
「リアーナお嬢様は……俺が怖くは無いのですか? あんな力を……」
さっき、サギたちに投げた質問をリアーナお嬢様にも問いかけてみたが、言い終わる前に言葉を被せてきた。
「あら、変な質問ですねラリー様。私は貴方様を信じておりますわよ、なにせ私の大親友のサギの思い人なんですから」
「えっ?! なっ、何を仰っているんですか! お嬢様っ!」
左隣に座っていたサギが慌てて言葉を挟み込んできた。恥じらいの頂点に達したような真っ赤な顔で。
「あらサギ、私の思い違いだったかしら? そうなら、ご免なさいね、でも其れだったらラリー様は私が貰っても宜しいのですね?」
そう言って、リアーナお嬢様は立ち上がり俺の右隣に座り直した。俺を挟んで前屈みにサギの顔を苦笑しながら意味深めに覗き込んでくる、俺の右腕に両腕を絡めながら。
「なっ! お嬢様っ! あっ、何をなさっておられるのですか!」
困惑の表情を浮かべながらも口を尖らかせて文句を言ってくるサギの様子は傍から見ても微笑ましく可愛らしかった。そんな状況でもお嬢様はさらにたたみ掛けてくる、何故か余裕を持って。
「そうかしら、愛しい殿方にこうやって態度を示すのは悪い事かしら?」
「えっ、いや其れは……」
お嬢様に押されて、サギは今度は黙り込んでしまった。俺の顔を睨み付けながら――。
(俺が悪いのか? んっ、そうかもな!)
何となくその場の雰囲気がそうさせたのか、俺はお嬢様の両腕をやんわりは押し戻して絡めてきた腕を外す。そして、お嬢様に向き合いながら話しかけた。
「リアーナ伯爵御令嬢ともあるお方が、そんなお戯れをおっしゃるとは、
おもむろに俺は立ち上がるとリアーナお嬢様の前に
「まあ、ラリー様そんな、お立ち下さいませ。一団を救って下さった英雄様にその様な振る舞いをされては、リッチモンド家末代までの恥となりましょう。お願いですからお立ちになって」
そんなことをしていると、サギが同じく立ち上がり俺の後ろに控えて同様に
「お嬢様、先程の非礼をお詫びいたします、私の失礼な発言を
二人して
「まあ、お二人とも――解りましたわ。但しサギ、あなたにはひとつお願いがあります。」
「はい、どのようなご命令でも――承ります」
「そうね、それじゃ……ウギさんには負けないで下さいね」
「『えっ!』」思わぬ言葉に俺とサギの声がハモった。
と、発信者の当人と言えば肩を
サギはリアーナお嬢様の言葉の意味を噛みしめるように暫く俯いていたが、すっーと顔を上げて高らかに宣言した。
「はい、お嬢様――お約束いたしますわ、負けません! 私……絶対に!」
俺はお嬢様に
「お~ぃ、なんだこの状況は?」
おもわず呻くような呟きが口から次いで出た。でもそんな風に見とれている俺にサギはその吸い込まれそうな碧眼の瞳のウインクを投げて寄越したんだった。
リアーナお嬢様の馬車の中で起きたサギの色恋宣言の後、俺は
でもまあ、魔獣達との闘いに『覇気』を使った後でその後悔が無い状態と言うのは初めてのことだったしサギにしろウギにしろ、ましてやリアーナお嬢様まで俺に対する扱いが変わらないという事実が本当に嬉しかった。しかしそんな風に見てくれる人ばかりでは無い事も解っていたし、だからこそたったひとりでも俺を色眼鏡で見ずに真剣に相対してくれる友人が出来たことが何よりも嬉しかった。畏怖の念を抱かれ無いように
そんな
「なんじゃラリー……その顔は? 馬鹿丸出しでは無いか? なかで何があったのじゃ? んっ?」
「……いや、なん~にもなかったよ~っ」
「あっ、そうかのぅ……」
「……ん、何か言いたそうだねウギ」
俺の様子から何かを察したのだろう、ウギの俺を見る表情は
「ラリー……っ、きっ……キスマークが付いてるよ」
「えっ……!」
俺は思わず左頬を手で押さえてしまった。
「……ふ~ん、ほっぺたか、まあ其処ならまだ許すかのぅ」
「うっ……と」
押さえたままの手で思わず頬を
「なっ、ラリーのぅ。サギとの逢い引きは構わぬが……サギにしたことは
鼻先が触れてしまう程近くでプクッと膨れて怒っているがもともと可愛い顔なので、それでも十二分に愛らしかった。思わずその愛らしい唇に口づけしたい衝動に駆られたよ。まったく!
「わかった! わかったからウギっ! 少し落ち着け! くっつくぞ……口がっ!」
「……まっ、あっ!」
そんな意識が無かったのか、俺のひと言で我に返ってウギは顔を真っ赤に染めながら俺の顔を離してくれた。大胆なくせにホント純朴な奴だよウギも。
「……しても良かったのじゃがのぅ……口づけを……」
と、ウギは俯いたまま、ぼそっと呻いた。
“あんたらね~ぇ、いつまで痴話話しを続けているんだか……みんな先にもう行ってるよ”
俺はヴァルの魔力念波の指摘で我に返ったよ。やはり、持つべき者はヴァルなりと改めて思った。
先の魔獣達の襲来を受けて、護衛師団のメンバーにも少なからず被害が出た。重傷の騎士も数多くそのままの旅程の消化はちょっと無理だった。魔術師総出で回復魔術の施術は行っていたが何せ人数が多い。無論、サギも介護に専念する魔術師のひとりであった。
もう、夕暮れも近くこのまま旅程を強行するかそれともこの場で野宿の為、野営の準備をするかの判断の瀬戸際だった。
「ラリー君、ちょっといいかな」
「あっ、ニコラス師団長またあらたまって何でしょうか?」
護衛師団のメンバーがそれぞれの持ち場で今後の一団の行動について指示が出るのを待っていた。無論、一団の一塊のメンバーである俺もご多分に漏れず指示待ち状態である。そんな所に一団の最上位責任者であるニコラス・ハミルトン宮廷近衛師団長が訪れてきたのだから皆も“おやっ”とした顔で俺達を見つめていた。
「いや、他でも無いこれからのことを君の知見を入れて考えてみたいと思ってね、それとも、お邪魔だったかな」
「いや、別段することも無くダラダラ過ごしていただけですから何の問題も無いですよ」
ニコラス師団長が俺の元を訪れた時にはウギとのんびり無駄話をしていた時だったので何か気を遣われてしまった。まあ、当のウギは話の途中で横やりが入った形になったので余りいい気持ちでは無さそうだったが、其処は後でフォローしてあげますからとの俺の言葉でからっと機嫌を直してくれた。
「まずは、先程の魔獣撃退の功労をお礼せねばならぬ、貴殿のお陰で皆が助かった感謝する」
そう言ってニコラス師団長は俺に深々と頭を下げた。
「そんな、
「ありがとう、では失礼して本題に入らせて貰うぞ」
「ええ、どうぞ、どのようなご相談でしょうか?」
「うむ、今皆の者はこれからの対応指示を待っている状態であるが、このままリッチモンド伯爵家の城下町ヴィエンヌに向かうには一行の怪我人も多く時間も押し迫っている上、危険だと思っておるのだが。そうは言っても、野営にしては山の中ゆえ危険度も高い」
「そうですね、師団長の仰るとおりと思いますよ」
俺はそう言って相づちを打った。
「そこでだ、ラリー君の力をお借りしたい――どうだろう」
いや、どうだろうって言われても何を頼みたいのか、肝心の用件に触れていないでは無いだろうか?
「師団長……すみません、中身が見えないのですが?」
「んっ、おうそうじゃ、すまん。話しを端折りすぎたようだ」
端折りすぎたと言うよりも、まったく話していないのですが……師団長も、もしかして天然?
「大所帯で移動するには時間が掛かる、なので一行を二手に分けてリッチモンド伯爵様達だけ先に城下町ヴィエンヌに送り届けようと思っておるところだ」
成る程、それも妙案ではありそうだなと思っていると最後に師団長自身は取って付けたような要望のつもりだっただろうが俺はこっちの方が衝撃的だった。
「分団はラリー君のパーティーにお願いしたい、つまりラリー・M・ウッド 殿とサギーナ・ノーリ嬢、ウギ・シャットン嬢にじゃ、そして君には副師団長として伯爵様一行を無事にお城まで送り届けて頂きたい」
「えっ、俺のパーティーですか? サギさんもですか? 本人は其れでいいのですか?」
副師団長の
其れは近衛師団公認のパーティーとして今後登録されると言うことになり、以後の任務も常に一緒であることを前提として指示が来ることになる。
「この話は既にサギーナ・ノーリ嬢には伝えておる、本人の了解済みの内容であるぞ。ウギ・シャットン嬢は元々ラリー君の紹介での入団であるからそこは貴殿にお任せする」
俺のパーティーが正式に発足した瞬間だった。
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