第3話改稿 貴女達が跪いて俺に何故か?直臣を誓いました!

 とりあえず事なきを得て三人のパーティが復活したようだった。

 回復魔術後、彼女達は彼の前にひざまずきそれぞれ自己紹介をし始める。 

「ご主人様、あらためてご挨拶させて頂きます。私、元魔術師『サギ』ことサギーナ・ノーリと申します、以後お見知りおきを!」

わらわは『ウギ』ことウギ・シャットン、元聖剣士にあるぞ! よろしくな!」

 ――相変わらずウギは軽いな……まあ、そこが良いとこであるような……たぶん、気がする!

「ありがとう! ウギさん、サギさん! っで俺は……!」

「……やっぱわからん……俺は誰?」

 その問いにサギが応えてくれる。

「あなた様はラリー・M・ウッド様、元勇者殿ですよ、ご主人様」

「なので私達めは貴方様あなたさまの直臣のウギとサギです、この後は呼び捨てにお願い致します」

「いやいや呼び捨てったって貴女あなた達のおかげでこうやって戻れたのだから、そう簡単に呼び捨て出来ませんよ。ウギさんにサギさん、しかもひざまずかれたら、こっちがドギマギしてしまいますから、お願いですから頭を上げてください。しかも元勇者って言われたって、まったく思い出せないし力なんて全然感じませんから……」

貴女あなた達の力の方が何倍も大きい様に思いますよ……」

 ひざまずくふたりにラリーは及び腰になりながらも片膝をついて彼女達の手を取る。そして立ち上がらせようとしたところ……自然に目がそこにいった。

 まあ中腰で彼女等の手を取ろうとする、そうすると否が応でも彼女達の胸元の谷間がよく見える位置に彼が立つことになる。普通でも目のやり場に困るほどのスタイルと美貌の持ち主であるふたりを目の前にして、さらに胸元に視線が釘付けとなる状況では顔を赤らめながら横を向くしか方法が無いことを悟ったようだった。

「「くすっ……!」」

 そんな、ラリーの姿を間近に見てふたりの吹き出した笑いが重なる……。と、ふたりとも突然花が咲いたような満面の笑顔でお互い見つめ合い目配せすると同時に立ち上がってラリーに飛びかかるように抱きついてきた。

「ラリー…よかった! よぁっかった! ぐすっ…よかった!」

 サギが『ご主人様』からいきなり『ラリー』に呼びかけを変えてさらに泣き出し始めた。その横でウギも涙目になっている。

「えっ……何? どうしたのふたりとも……サギにウギ…あっ!」

 ちょうどラリーが片膝をついた中腰状態のところに、ふたり同時に勢いよく抱きついたものだから、彼はその勢いに押されるかたちで後ろに倒れ込んだ。ふたり共そのまま彼にしがみついた状態で一緒に倒れ込み、ちょうどラリーを押し倒すような勢いでふたりの身体が彼の身体にさらに密着する。特にラリーの顔のあたりにちょうどふたりの豊満な胸が押しつけられていて、サギは薄着だしマギは露出が多いしそんな状態で押しつけられたら……彼もしんぼうたまらん状態でありましたよ、羨ましい。


 ――グラビアアイドルみたいなスタイルのふたりだからその密着感は極楽状態で、ふあふあのむにむに! しかも甘い香りが鼻腔をくすぐる……この感じ思い出したよ! そうだ! おまえら! わかった!


「思い出したか……ラリー、おぬしの真名を! 今、ウギと呼んだの…百年ぶりじゃよ! ほれほれ! どうじゃ、久方の感触は……んっ」

「私達に抱きつかれて、やっと思い出すなんてラリーはやっぱりラリーですね……まあ、百年前もしょっちゅう抱きつかれては顔を真っ赤にしてほうほう々の体で逃げ回ってたものね! この、むっつりスケベ!」

 サギは泣き笑いながらも文句を言ってきた。

 確かにサギ・ウギの身体からだの感触をラリーは身体からだで覚えていた……もとい、ふたりの肌の触感を彼の肌が覚えている、と言うか懐かしさがこみ上げてきていた。

 彼の右には常にウギがいたはずだ、そして左にはサギがいた、そうだそんな旅を彼等はしていた。ラリー達は世界を旅していた……いつだったろう。

 ――百年前だって……その間はどうしてた!

 それと、なんとなくだがもうひとり足りない様な気がしている。なんか抜けている気がする……なんだろう、この喪失感は?


                 § § §


 泣き笑いで抱きついてきた二人がやっとのことでラリーから離れた。それでようやく三人揃ってなんとか立ち上り、さっきまでサギが横になっていた寝台に横に並んで腰をかけ直した。

 ここまでは特にトラブルも無く順調に事が運んだ、しかしこれから先は誰にも当てが無い。とは言え、魔力を使って体力も消耗したところでみんなお腹が空いてきたことは確かのようだった。

「神殿の中にどこか食料庫があったはずです、探しましょう?」

「おう、そうじゃの、腹が減ってはいくさは出来ぬと申すモノ、まずは腹ごしらえからじゃな!」

 今の神殿の状況では特に危険がなさそうだしラリーの事はこの際置いておいて、彼以外のお二方は何気に強いとにらんで三人手分けをして神殿の中を探索し始めた。

 神殿内部には色々な部屋があって、武器や衣服や食料も見つかった。

 どこも次元結界の中なので食料も取れたてのまま保存されていたし、武器や衣類も全くもって劣化していなかった。なんて便利な空間なのだろう、次元結界というものは!

 三人ともそれぞれ戦利品を持ち寄って最上階の小部屋に集合する、小部屋の端にはちょうど台所の代わりの場所があり、持ち帰った食料を調理するのも全く問題は無かった。

 調理当番はサギである、昔から旅先の野宿でも料理の腕を見込まれて、みんなの胃袋の管理はサギの役目であった。まあウギは剣士ならではで、包丁さばきは見事だがすべての食材が全部細切れになってしまう為、ハンバーグしか作れないことが判明した。結果、月に一回だけの当番となっていた、何事も加減というものが必要である。

 パンに肉、野菜そしてワインと一連の食物は豊富にあった。このまま一年間、籠城出来るのでは……と言うほどの量であった。

 サギは百年分ため込んでいた料理のレシピをまるで今日一日で一気いっきに作るかのような勢いで進め、食卓にはずらーっと大量の料理が並ぶことと相成ったわけで……。

「どうすんだ、この量は……サギ!」

「うっ……、次元結界の中ですから余ってもどうせ腐りませんから、明日も明後日も食べられますし、少ないよりはいいでしょ! ……まあ、作りすぎは認めますけど……」

「ラリーも許してあげるのじゃの、なんせサギは……もう、うきうきして、鼻歌まじりに魔術料理までしてしまったのだからな! うれしいんじゃよ! みんなにまた会えて!」

 ――んっ、まあそうだな、久しぶりだし文句を言ってしまったサギには悪いことをしたな。

 そうラリーは思うと思わずサギの頭に手を置いてワシャワシャと頭をでながら謝った。さらさらとした金色の髪の毛の心地よい手触りが彼の手に残った。

「サギ、わりーぃ言い過ぎた、ごめんな!」

「ラリー、悪いと思うなら、もっと頭をでてください……もっともっと、百年分たまってますから……!」

 ――また、こいつ涙目で笑いながら抱きついてくるんだよな、うるうるした碧眼へきがんの瞳で上目遣いに見つめられるだけでこっちは既に敗者だよ、まったく!

わらわも後で、でてもらいたいモノだの……頭以外をっん!」

 ――ってまた、「ほれほれ!」とウギは自慢の胸を突き出しながら俺に、にじり寄ってくるし。やっぱり楽しいなこいつら!

「さあ、じゃ――食べるか!」

「「はい!」」ふたりの弾むような返事が部屋に木霊した。


 大量の料理を胃袋に押し込めながら、みんなで和気藹わきあいあい々とサギの作ってくれた料理に舌鼓をうつ。うまい料理とおいしいワイン! これさえあれば、後は昔話に花が咲くと言うモノだった。

 大昔のことを昨日のように思い出し始めたラリーに、サギとウギはいろいろと話しを初めてくれた。


                 § § §


 百年前にちょうど此処ここでこの場所、この神殿で魔女王と対決した。

 何の因果だったんだろう、べつだん彼は国を背負って戦う様な立場では無かったし、ましてや魔女王なんぞに刃向はむかう義理も無かったはず。単なる冒険者で、まあ人並み以上の強さは持っていたことから魔物や野獣の狩人としてやとわれることも少なからず有ったことは確かのようだったが。

 貴族の位や役人の暴利で支配される王国や公国の矛盾とは立ち離れた生き方を求め、自分自身の力と自分の信じる者達のことを唯一のり所として生きる場所を求めて旅していた単なる冴えない一人の青年でしか無かったはずだった。


「ラリー……ってば、ねってば、お・さ・け……お替わり頂~戴!」

「サギよ、ちっと飲み過ぎではないか? おまえは酒乱だからの、控えたほうがもうよかろうに!」

「……い・や!! サギはまだ酔ってないもん!」

「………!」酔どれサギの応答にウギも流石に白旗を揚げたようだ。


 ワインをがぶ飲みして、すっかり出来上がったサギにラリーとウギが絡まれる状況になっていた。

 ――まったく、昔から酒に弱いくせにワイン好きなのは変わらないな~! こいつ! へべれけ状態でまぁ……あれだね、胸元が非常に無防備な状況なんですけど、足下も衣服が太腿ふとももまでめくれ上がって非常に眼に良い……もとい、眼の毒なんですが! サギさん!

 と、心の中でそっとラリーは呟いていた。

 みんな未成年のはずだが、まあこの国の法律では飲酒年齢制限法みたいなものは無いから、後は道徳観念だけなのだが、其処は元冒険者達のことお酒で和む気持ちもわからんでも無い。。


 ウギもほろ酔いでほほなんか薄らと紅潮して、やけに艶っぽい表情になってきてる、こっちも大丈夫なのだろうか?

「なぁ…ラリーよ、わらわはさみしかったぞ、ほんと、ぐすっ! ずっと待っておったのじゃぞ! ぐすっ…うぅぅ……!」

 ――ああ~っ、ウギは泣き上戸かよ! 二人まとめての介抱はキツいな、まったく。

「もう、二人とも、もういい加減に飲むのやめんか!」

「……い・や・だ・もん!」「……い・や・じゃ!」

 ――こんなところでハモるな~! っつうの!

「サギ~! 長かったの~! こいつの守り役! 話しかけたって、何も反ってこぬしの~! うぃっ!」

「ウ―ギーっ! そう―よ―ね! ほん―と長かったね~! 今日のワインは本当に美味しいね~!」

「おい! ラリー、妾達わらわたちしゃくでは飲めぬと申すか? もっと飲まんか! たわけが!」

「そうよ! ね~っ! こんな綺麗どころが揃っているのにねぇ~、手も出さない奴なんて意気地無しよ…どう…うふっん! ほらっ、隣に来てよぉ! ねぇってばぁ!」

「おい、サギそれじゃ胸の谷間もろ見えだし…ウギもそこで脱ぐな~!」

「だって暑いのじゃぞ! 上はこれ一枚だし、脱ぐしかないじゃろう。んっ、それとも二人っきりがよいのか? ラリー?」

「ウギさん、脱ぐのだけはやめてください、お願いします」

 ――おいおい、ウギまで絡み酒になってきたな、これは参ったな~! まあ、こいつらのお陰で今が有ることだし、今日くらいはいいか…!

「くそっ、こうなったらやけ酒だ! 俺も、もっと飲むぞ……!」

 明日からはこいつらには酒なんぞもう飲ませない、とラリーがひとり心に決めた一夜となったのであった。


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