第2話改稿 ウギさん、サギさんお身体はどこですか?

 この部屋は特別に次元結界なるものが張られているとサギが教えてくれた。


「次元結界……?」

「そうです、ご主人様、百年間もの間、身体が風化しなかったのも蘇生に問題が無かったのもすべて次元結界の中にいられたからです。」

 と、サギが説明してくれた、さらに。

端的たんてき言うなれば、ここの場所は時間がほぼ無い状態なので何も変化が無いのです。ただし、結界の外は通常の時間軸になるため、外に出たところで大きく身体に負荷がかかります、しばらくは慣れるために時限の結界を張って身体を慣れさせる必要があります」

「ふ~ん、それって所謂いわゆる「浦島太郎効果」ってやつか?」

「ご主人様、浦島太郎様ってどちらの殿方とのがたですか……?」

 ――あれ、地雷踏んだか? っていうか、浦島太郎ってなんで浮かんだ? やはりどこか他の世界からの転生記憶があるのか? やはり自分がまだ良くわからないなこれは……。

「サギさん申し訳ない。今の言葉は気にしないでください」

 ――それにしても次元結界に時限の結界……? はてさて何なんだろうね?


「やはりご主人様は現世での転生では無く異世界転生をされたようですね。あの時の解除魔術は効果があったようです。かったですわ、ねえ、ウギさん」

「おう! そうじゃの、妾達わらわたち二人分の接吻効果ぁか!」

 ――えっと、なんか聞き捨てならない、お言葉をウギがおっしゃりませんでしか? 接吻とかなんとか? 二人分って……誰と誰?聞きたい……。

 そんな事を心の中で呟く今の彼は目を爛々と光らせて、まるでお伽噺とぎばなしに興味津々の幼子おさなごの様な目をしていた。

 ――彼女達の姿は無いから顔色とかわからないけど、どんな表情でしゃべっているんだろう? って、完全に野次馬状態だろう自分は……。

 と、彼の脳裡のうり妄想は留まるところを知らない様だったが、そんな彼の心の内を知ってか知らずかウギとサギの二人がこそこそと忍び言を始めた。

「ウギさん、それは内緒ですよ……、まだ……」

「おおっ……そうじゃった、そうじゃった。すまんことをした」

「今のは確信犯でしょ、ご主人様の気を先に引こうたって、そうは問屋がおろしません事よ。おわかり……ウギさん」

「まあ、まあ、サギ殿そんなに熱くならんでもよかろうに。ほんの戯れ言よ! 軽く聞き流してくださらんか!」

 ――また左右の雲行きが怪しくなってきたぞ! なんか気持ち的にこそばゆいが、自分にとってはとても晴れやかな事なんだよな? もしかして彼女達と……。

「ウギさん、そんなことを言って今の状態で前世の呪術を刺激する事をしゃべると、それこそ私達が蘇生できなくなりますよ。気をつけてください!」

「おおっ……、そうじゃった、そうじゃった。気をつけようぞ」

 ――しかし、ウギの言葉は、なんか年寄りくさい気がするけど……でも、なんか馴染なじむなこれ……。

「おぬし、今、不埒ふらちな事を思わなかったか? ……言葉で伝える訳ではなく魂のリンクによって伝え合う方法は、わば魔術のたぐいであるからな、わらわの不得意な分野でサギほどうまくは使えないのじゃ。わらわは剣を振り回す方がしょうに合っている。その点は割り引いて評価を願いたいものじゃな! まあ、よいがの…ふふっ……」

 ――ほほ~ん! ウギが言い訳まがいの台詞せりふいているよ。

あるじよ、まあ結界の中では時間がほぼ無いとはいえ、実際の生身は少しは成長はするからの、じゃからおぬしの身長も少しは伸びているようだの……わらわは刀剣と間合いで勝負する立場だからの、距離感というか長さ感覚というか、そういうモノは絶対感覚があるからの……なんとなくだがわかるのよ」

 ――なるほどウギは剣士なんだ、まあ聖剣士というところかな、と言うことはサギは魔術師か?

 そんなことを思っていると案の定、魂のリンクに依る念波は相手に伝わった様で、サギがその通りでございますと答えてくれていた。

 ある意味便利だなこの魔術、だってこっちの言葉はわからないはずなの会話が成立すると言うことは、まず最初のコミュニケーションの問題は完全クリアじゃん! とか思っているお気軽な彼の事は取り敢えずこの場は置いとくこととする。


「ところでサギさん、ウギさん、貴女あなた達の身体はどこにあるかわかりますか? その身体に戻る方法は?」

 彼が核心の質問を彼女等に投げかけた。

「ご主人様、私達の身体からだもこの神殿のどこかに安置されているはずです、そしてその身体からだに戻るにはご主人様の力が必要なのです。まずは私達の身体からだの捜索をいたしますから、しばしお待ちいただけますか?」

 サギがそう言うと、謎の言葉を交えながら詠唱えいしょうを始めた。

「□□□□□……、わらわの魂と身体からだを結びつけよ、なんじの心の糧に…」


「お主、左手を伸ばして掌を開いてくれるか。」

「ウギさん、左手か?」

「ああ、そうじゃ……左手じゃよ。腕をまっすぐ伸ばしてみてくれぬか、その状態で掌を上に向けて開いたまま待っててくれ」

「わかった、やってみる」

 ウギが言った通りの事をすると、彼の左手の掌から光の玉が浮き上がってきた、まるで蛍の光のように淡く青白い光を放ちながら、掌から浮き上がってふわふわっと宙に舞い上がっていくのが見える。

「なんだ、これは?」

「ご主人様、その光の玉が道案内をしてくれます、私達の身体からだの場所まで。ついて行っていただけますか」


 サギがこの光の導くままに従ってついて行けと言っている。これも魔術なのか? と、彼はびっくりしながらも言われた通りに光の玉について行き、彼が横たわっていたその部屋をあとにした。

 光の玉は薄暗い部屋の内部を照らす松明たいまつのような光を発し始めるとさらにゆるりと速度をあげて浮遊していく。部屋の出入り口は二カ所あったが、その一つの出入り口の方へと光の玉が飛んで行った。そのうしろを彼が追いかけていくことになるのだが、光の玉は彼を確実に導くよう、その歩みに合わせて浮遊速度を調整してくれているようであった。

「……どこにいくのだろう? この出口の先は階段か?」

 光の玉に導かれながらも、まだ心許ない足下に注意してゆっくりとついて行った。導かれた出口のその先は登りの石段で作られた階段のようであった。

 階段の幅はほぼ大人が三人横に並べる程度の幅で高さは吹き抜けの様に高い、上階の様子は暗くて見えにくいが、かなり上までありそうだった。

「ご主人様、足下にお気をつけてください、この先はさらに上に向かいます、上に登るにしたがって階段の幅も狭くなりますから……」

「わかった、サギさんありがとう」

 結構傾斜がきつい階段だったのでみ上がり? と言うか蘇生あけの彼の身体には難行苦行の範疇はんちゅうになるであろうと思われた。


 足がつりそうになり心臓もバクバクと激しく鼓動を早めるまでに体力を使って、やっと上階うえへと登ってきた。だがまだ案内する光の玉はふわふわと彼の目の前を浮遊していて更にその上の階へと導こうとしている。階段の途中は折れ曲がりながら、螺旋の様に上へと伸びているがまだその先は見えない。しかも先ほどサギが言ったように上に登るにつれて階段の幅は狭くなって来ており、いまではちょうど大人ひとりが通れる幅しか残っていないかった。

「サギさん……っは・は・はっ……まだまだ、上に登るのかな?」

 彼の疲労は結構きているようだった。流石に息が切れて辛そうなのが顔に出ている。

「ご主人様、もう少しですから……はっきりと私達の身体からだの残留気が見えてきましたから……がんばってください」

「……きっつぅ…は・は・はっ・は……」

「おぬしもまあ、だいぶ身体がなまっている様だの……まあ、蘇生間際だからやむ得ないがの……」

「ウギさん、後でしっかり私達が鍛え直してあげなければいけませんね! 楽しみですね、うっふふ……」

 ――おいおい、うっふふでは無いだろうにサギ達だってこれから生身の身体からだの方を蘇生させる立場なんだから今に同じ思いになるぞっ……。

 と、少し憤慨しならがら彼は心の中でそう思っていた。まあこの思いはそのまま伝わるのだけれど……。

「あらご主人様ったら、ご機嫌を害されました? そんなつもりで言ったわけでは無いのですが。申し訳ありません」

「サギ殿、まあよいでは無いか、妾達わらわたちも蘇生にて身体の調整が必要になるとて、今のあるじよりもまだましなレベルかもしれないぞ……まあ、其方そのほうには回復魔術があるからの……その点有利ではあるが、わらわにもお願い出来るかの?」

 ――回復魔術?? 何それ……ずるくね…っていうか、なんで今、自分に処置してくれないの? 

 と、彼は半分べそをかきながら訴え始めていた。

「申し訳ありません、ご主人様、身体からだを取り戻さないとそこまでの魔術はまだ処置出来ないのです……、後でご主人様の身体からだにも対処しますから今しばしお待ちください」


 ――なるほど、そういうことならしょうがない……と思うしか無いな!

 そんなこんなで彼が彼女達との脳内会話でそんな風にたわむれていると、いつの間にやら最上階へと着いたようだった。

「この先は、また部屋の様だな?」

 光の玉は目先の折れた道筋をたどりながら、階段の終わりにつながっている部屋へとまたふわふわと浮遊して入っていった。光の玉に続いてその部屋に入ると下層の部屋とは多少違っていた。部屋の大きさ自身も少々小さく思える。

 部屋の造りの様相は下層の部屋と同様に石を積み重ねて造られているが、ひと枡の石の大きさがやや小ぶりとなっていた。明かり取りの穴がやはり数カ所あいているが、薄暗さは下の階よりも解消されやや明るめになってきている。このことから外に近い部屋に感じられた。

 ほかにも燭台を備えるテーブルのような箇所やら椅子やら、端の方には台所とおぼしき場所もあるようだ。そうそう何故か水瓶もあった。下の階の大部屋と違ってここは生活空間の様な場所と思える。


「ご主人様、ここの結界も先ほどの部屋の結界とつながっております。ここの方が結界の外側に近い場所となりますが、まだ、次元結界の中です。この中での魔術は外へは漏れませんので、この中で蘇生魔術をお願いします」

 ――っん…サギさんなんか今、変なことを言わなかったか? 蘇生魔術? お願いします? 誰に? 誰が? ……俺か?? …魔術って??

 大量の疑問符が彼の頭の中をギガ単位で往復していた。まさか彼がサギから魔術をお願いされるとは思ってもいなかったようで、全くの想定範疇外の投げかけであったろうと思う。

「えっと、サギさん……魔術をお願いしますって、今、……自分に向けておっしゃいましたか?」

「はい、ご主人様。ご主人様の蘇生魔術で私達を反魂していただけますようにお願いしたのでございます」

 ――いったいどないせぇっちゅうねん!


                 §§§


 ――なんか凄い事をさらりと頼まれたような気がする。

 サギに頼み込まれて彼自身、混乱の極みの中に行き成り叩き込まれた感じだった。確かに異世界転生物語なんかで魔術なんかは定番であろうが。彼もさっき見せてくれたサギの魔術に驚きはしたが、結界とか蘇生とか当たり前に言ってくれるものの、あくまでも彼女達が行っていることだから、なんとなく当たり前に受け入れていただけであった。其れを彼自身が使うなんぞ、全くもって想像だにしていない。焦点の合わない眼で己の手を見つめながら愚痴を溢すのも頷ける。

 ――どうやって……っていうか魔術なんて自分が使えるものなのか?

 ――どうも、彼女達の言動からすると自分の過去はそれなりに能力があった強者つわものなのか? 


 彼の素朴なそんな呟きもなんのそのサギがさらに不安をかき立てる事を言ってきた。

「ご主人様の魔術能力はたぶん残っていると思うんですけと……思い出せませんか?」

「思い出せって言ったって、自分が誰かもわかっていないんですよ! 俺の過去なんか全く思い出せないし、ましてや魔術を思考しこうするなんてわからないですよ!」

「お主、今なんて言った?」

「だから、魔術を思考しこうするなんて……」

「それじゃよ! ……魔術は思考するもので、イメージを合わせれば魔力が合わせてくれるものだ、それがわかるだけでもすごいことだぞ!」

「……へっ、そうなの? でも、蘇生のイメージなんて……わからないし、イメージをどうやって魔術で抽出するのさ??」

「ご主人様、その点は私達が伝達でフォロー出来ますから、ご心配には及びませんことよ。それよりも、魔術を呼び起こす魔力そのもののエネルギーを蓄えないと途中で魔力切れをおこされては蘇生の途中で死に至りますから、その点を注意しなければなりません」

「そんなこと言われても、魔力なんて俺にあるとは思えないですけど……どうやって実証するのですか?」

「まずは、そこから始めましょうか……ご主人様!」

「そうじゃの、まあ、あまり心配してはおらぬがの、おぬしの力は絶大じゃったからの」

 ウギの無責任な発言はさらに不安を募らせるだけで、全くもって自信なさげな彼の気持ちを埋めるものではなかった……と思う。


 サギの魔術教室はなんてことは無い、サギが彼の身体を乗っ取ってそのままの魔力放出をして見せることだった。が、其れは其れで彼にとって自らの身体から魔術が現れ出でるそのものを直接体感する事となり、教え方としても最も直接的で合理的な方法であることが彼の習得の早さから確かめられたのであった。


「へ~っ、こんな風にするんだ、わかるわかる! っで、俺の魔力量はどうなのかなサギさん?」

「ご主人様の魔力量は……、うわっ……計りきれませんっていうか、底なしですね……相変わらず! すごっつ!」

「へ~っ、そうなのか……ふんふん、それ――っ、雷鳴!」

「おぬしこらこらそんなに、はしゃいで魔力放出するでない! いくら結界の中だからとは言え神殿に被害が出るぞ! って妾達わらわたちの身体が壊れるやもしれん、やめんか!」

「あっと、ごめん! 調子に乗っちゃった!」

 そのなこんなでひと通りの魔術を臨時サギ師範に伝授して貰い、ついに蘇生魔術そのものを教わることになった。

「ご主人様、蘇生魔術と言ったって特別なことはありません。蘇生する身体に触れて、よみがえるそのイメージを触れた手のひらから相手に流し込むのです」

「そうじゃ、慈愛を込めての……愛じゃな愛! な主殿あるじどの……」

「ウギさんの愛は邪心になりますからやめてください」

「サギ殿、その言いぐさは何かな? 嫉妬か? やめおけ!」

「うっき~! ウギさん、何ですか! 嫉妬とは!」

 ――おいおい、また始まったぞ、ほっといたらどんどん悪くなりそうだなこの関係。早いこと彼女達を元の身体からだに戻さないとやばくなりそうだ。っていうか、彼女達の身体からだはどこだ?

 そんな事を心の中で思いながらも溜息をひとつ大きく吐き出して、彼はあらためてさっき入ったきた部屋の内部をぐるっと見渡してみた。


                 §§§


 身体探索用でサギが作った光の玉はまだ、部屋の隅の方で青白い光を放ったまま浮遊していた。ちょうど彼が入った入り口と反対側にはさらに小さな出入り口があり、その前で彼をご主人様として待つ従者の様に、ふわりふわりとその場で浮遊しながら光っている。

 彼は光の玉のところまで歩いて行くと、その入り口から隣の部屋の内部を覗き見て彼女達の身体からだを其処に見つけた。

 下層の部屋で彼が横たわっていたのと同じような寝台が二つ並んで置かれていて、その上に彼女達であろうと思われる人物の身体からだが仰向けで横たえてあった。まるでお伽噺とぎばなしの眠れる森の美女の様に……。

 絶句するほど美しい、ひとりは金色に輝く腰まである長い髪の毛が特徴の目鼻立ちのくっきりした顔立ちの美少女だった。女性特有の丸みを帯びた身体のラインをはっきりと出す、天女の羽衣のような透明に近い薄桃色の絹地の服を着ていて、眠っていても艶めかしい雰囲気をかもし出していた。

 もうひとりの彼女も、つややかな銀色の髪を肩のとこですっきり切り上げる、いわゆるショートカットの髪型で出で立ちはボーイッシュであるが、小顔の顔立ちは愛らしくまさしく、女のっていうたとえがぴったりの美少女だった。しかも金髪の彼女に勝るとも劣らないスタイルは、これも身体のラインにぴったりとした革生地かわきじのタンクトップとホットパンツ風の戦闘衣をまとって露出が多い分、彼も目のやり場に困る状況であった。

「おや、おぬし、発情しておるの……!」

「サギさん、純粋なご主人様をいたぶるのはおよしなさい! 蘇生魔術の際に動揺したらこまるでしょ!」

「おおっ、そうであった、そうであった。主殿あるじどの、では後での……」

「だから、それがだめだって言っているでしょうが! コラッ……ウギさん!」


「いやいや……、マジにウギさんもサギさんも、すごい美人なんですね……びっくりしましたよ、こんな美しい方々とは……」


主殿あるじどの…」

「ご主人様…」


 彼女達の寝姿に心を奪われて見蕩れて続けていた彼が、ハッと我に返ったのはそれからしばらくしてからのことであった。流石にそれだけ見惚れていれば……彼自身の女好きを指摘したウギにも今後、反論は出来ない事をあらためて認識したであろうと思う。


「さあ、ご主人様、始めましょうか! 蘇生魔術! お願いします」

 心なしかサギの声色がとても嬉しそうに聞こえる。気のせいでは無いであろうが彼もここで集中力を切らすわけにはいかないことを十分に感じ、返答もうわずり気味になっていた。

「はっ、はい! では、始めますから……フォローをよろしくお願いしますね!」

「大丈夫ですよ、ご主人様! 自信をもってください」


 まずはウギからの蘇生を始めることにした。彼女等、いわくサギが直接フォローをするためにも彼と同化した魂の型の方がやりやすいとの事で、サギの方を後回しにする判断である。

 銀髪ショートの髪型のがウギらしく、彼女の額に彼の右の掌を当てた状態で蘇生魔術を念じ始める。

 蘇りの意識をイメージして掌からウギの額に彼の魔力を注入する。

 右の掌がまばゆく青白い光を放ち始めると、彼女の額の周辺が赤く輝いてきた。そうしてウギの身体全体にその赤い光がまわり始めると更に輝きは強くなって、今度は彼とウギのふたりの身体全体が黄金色に輝き始める。

 やがて光が緩やかになってくると共に輝きは収束していき、最初の頃の様にウギの額の部分だけに赤色光を残していた。その状態で暫くすると息づかいと共にタンクトップ風の上着姿のウギの胸のあたりが上下に動き始め、彼女がゆっくりと呼吸を始めたのがわかった。


 ――しかしこの、巨乳……! Fカップはあるかな!

 若干だが彼も魔術中に余裕が出てきたのか僅かに邪念が漏れ始めたようである。上下に揺れる彼女の撓な胸の谷間に目を奪われ我を忘れて呟いてしまったようだ、むろん心の中でだが。

 そのとたん彼女の眼がパッと見開き、そのかわいらしい口元が動いた。

「おぬし、スケベだな! まあ、それはそれとして嫌いじゃ無いがの! 触っても良いぞ! ほれほれ!」

 と、ウギはいきなり胸を突き出して軽く揺さぶりながら胸の大きさを誇示しようとした、そうしたところ……呻きながら身体を縮ませる。

「あっつ……うっうっつ…痛っ! 痛ぃいいっ!」

 ――ああ、やっぱり!

「ほら、痛いでしょ! 蘇生間際でいきなり動くのは身体に毒ですよ、ウギさん」

 ほらねと脳裡をよぎった思いとそんな彼とまだ同化しているサギのあきれた様子の唸り声が念波として彼の頭の中に響き渡った。


 そんなこんなでウギの蘇生魔術式は事無く終わった。ただ、回復魔術はサギが蘇生してからの作業となるので、ウギには寝台に横たわったままでいてもらう。

 サギの蘇生魔術式は彼としても二度目の術式となるので、特に気になることも無く、順調に終わった、流石である。まあサギのなまめかしい色気に負けぬ集中力を維持する為、彼自身が邪念を払う事に使った気力は半端なレベルではなかったと言う事実は今は伏せておくとしよう。

 サギが目覚めた後は三人ともサギに回復魔術をかけてもらい、蘇生後の身体の調整を早めてもらうことも忘れなかった。

 しかしこの回復魔術のすごいところは、かけて貰った直後に一気に身体が軽くなったのがわかったし、まず動きが格段に早くなった。筋力も増した感じだったし、なんだか強くなった気もするらしい。たぶん気のせいだと思うが……。

 彼もこの魔術が気に入った様で教わりたい……と、サギに回復魔術の伝授をお願いしたところ、「ご主人様、後でね!」と軽くいなされて終わってしまっていた。彼には断られる理由が何故だか分からなかった様だったが……。

「おぬし、馬鹿か? 回復魔術を覚えたら底なしだろ……! △欲!」

「はあっ! ……あっ! えっ!!」

「ご主人様は純粋ですね! って、純粋と書いてウブって読みますが……そこが、かわいいところでありますねぇ……!」

「いやいや、そんな事は全く思っていませんでしたよ、本当に……」と言い訳をしようとして……気が付いてやめたようです。蘇生した彼女達を間近に見てサギの艶気とウギのグラマラスボディに彼の貞操観念が崩壊し掛かって自信を持てずに……眼をそらしていましたから。

 ――確かに、スケベですから俺! もう勘弁して下さい。

 との彼の魂の呟きは蘇生し終わった彼女等のこころにはもう届かなかったようです。

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