英雄たちの回廊(Ⅱ)

松本裕弐

元勇者と仲間達の回想録

俺は誰だ?

第1話改稿 目覚め

 暴風雨の中で無防備に舞い散らされる一遍の木の葉のように、ただ々それはその身の末路を嘆くことも出来ずに巻き込まれていた、運命という嵐の中で。それでも、多少なりとも抗い続け、ついにそのものは目聡く見つけた風の切れ間を我が身の味方とする事が出来た、風は凪いだ。

 フヮ~フヮ~ッと何処に行くとも知れない浮遊感の末に、遠く薄い記憶がスルスルッと落ちてきて、其処にある何かにカチッと収まった、そしてそのような感覚がまさに其処にある何かを支配し始めてくる。その後、現実感の湧かない場所にその何かは、己というひとつの自我が存在している事を緩やかに認識し始めていた。


 其処に在ったと言うよりかは、厳かに置かれていたと言った方が正しいのかも知れない。何故かというと、その身姿は至極丁寧に仰向けに寝かされ、胸の前で両手の指をお互いにしっかりと組まされ、頭部の顔の部分だけを覆う真四角の小さき白い布、しかも何かの文様が画かれている其れが被されていたからである。そして、当の本人たるその何者かも、布編が顔に掛かっているという感触を少しずつ蘇ってきた五感で感じ始めていた。

 湧き水が乾ききった地面に緩やかに染み出すように少しずつだが、決して絶え間なくこん々と漏れ始める。そう、記憶と言う名のそれがその隅にあった知識と言う解に照らし合わせてくれる、是は葬送儀礼そうそうぎれいに備えて身体を横たえていたと言うべきなのだろう。

 混濁こんだくしていた意識も漏れた湧き水に浸されて少しずつ潤うように染み渡ってきた。それでも自らの姿勢すら完全に知覚出来ない状態だったのだから、脳という知覚野の反応作用が戻ってきた感覚を認め始めたとしても、身体を動かすことは脳神経の覚醒完了と言う観点からまだまだ無理な状態のようであった。


 そんな状態でどれ程の時間が経ったのだろうか。それでも徐々に意識のレベルが上がってくることを感じて、彼自身その身の置かれている状況を把握すべく行動を起こす手順を読み興し始めた。まずは、頭部を動かして視界を遮る白布を落とす努力をすることだった。

 意に沿わない身体の動きに苦労しながらも、ゆっくりと顔が傾がっていく、そしてついぞにはらりと落ちた白布が目の前から消え去ると確保された視界に薄暗い部屋の天井が飛び込んできた。いきなり光が満ち溢れた場所で無くて良かったと後から気が付いたが、もう少し慎重を期した方が良いのだろう。

 その部屋はいわゆる霊安室の様な仮置きの手狭な部屋では無く、それはそれは結構大きな部屋のように見受けられた。まだ、手足を動かすまでの覚醒には至っていないので周りを見渡して状況を確認する程度しか出来なかったが。

 でもそんな状況での自己安否判断として、その場が危険な状況かどうかの把握は出来ていたたようだった。


 部屋には彼以外の人なる生体は存在して居ないと漠然とではあるがそう感じていた。単にお一人様であるということだが、それでも何故か、魂魄として彼以外の何者かの存在感覚が其処にはあった。

 こんな状況でも感覚として認知出来るのは魂魄を感じる身体感覚器が生態感覚器からの反応によるものではなく、いわゆる「」を感じると言う、第六感か何かに依存しているからであろうと言う事は何故だか類推できた。

 感じる「気」は二つ、彼を境に右と左に分かれて、それは存在している。というよりは存在しているであろう何かを感じることが出来ていた。それでも、今の彼が生きている存在なのか、それとも霊的な状態での認識なのかはまだわからない状態ではあるのだが。

 そろそろ動かせる部分があるかどうかを確かめる為、無理矢理でも手足に起動信号を送ろうと試みる。

 如何どうにかこうにか、右手の指先に感覚が薄すらと蘇ってきたようだった。


「おぬし、もう右手は動くのか?」

 右の方から感じる「」の何者かが問いかけてくる。

 問いかけてくるとは言え、言葉として脳で認識しているが声として耳から聞こえたものでは無かった。

 直接、頭の中に話しかけているような感覚である。思念か? とも思ったが声の無き声の主はそれに対しても答えをくれた。

「思念と言えばそうかもしれぬな、妾達わらわたちは個では無い、おぬしと同化かされた魂であるから見えねども一緒にいる存在と思うてよろしい」

「単に意識として一緒にいると思うてくれればいい、今は……」


「意識して下されば、その意識の想いがそのまま私達に伝わると思っていただいてよろしいかと……」

 今度は左の方の「」の何者かが答えを返してくる。

 両者の声無き声を聞き分けると、なにやら危害を加える相手という存在ではなさそうに思えた。

 しかも、見えないから本当はわからないが気を発する何者か達は性別でいえば女性っぽかったし、なんとなく若そうな感じが伝わってきた。

「おぬし女子おなご好きか?  まあよい、その方が妾達わらわたちにとっても都合がよいことが多かろう」

「まあ、またウギさんはそんなことを言って、ご主人様に何を期待しているのかしら?」

「サギ殿、そのような戯れ言にたわむれている場合では無かろうに、あるじが目覚めたのであればさらにやるべきことがあるであろう。はよせぬか!」


 ――んっ! 右側の魂は『ウギ』? 左側のそれは『サギ』? 詐欺さぎか?


「ご主人様、私しめを詐欺さぎと掛けるとは余りにひどい戯れ言でございます」

「まあまあ、サギも詐欺さぎも真実をついていると思わぬでもないがの……」

「んっ、ウギさんそんなことを言って私をおとしめる道理はあるのですか? 今回だってウギさんの先走りが招いた結果ですよ」

「…………うっ!」

 ――なにやら左右で雲行きが怪しくなってきたぞ。

 ――まてまて、俺は今どういう状況だ?

 ――何故なぜここにいる、っていうか俺は誰だ?

 ――何者?

 ――人か?

 ――生きているのか?

 彼は覚醒した意識の中で記憶をさかのぼろうとしているがまったく覚えが無い状況から脱することが出来ないでいた。

「ご主人様、まだ無理をして脳内覚醒を早めてはいけません、ゆっくりとでいいのです」

「何せ……百年もの眠りから覚めたところですから!!」

 サギと名乗るその魂の言葉に彼は愕然とした。

「……百年……!!」

 声が出た、確かにのどからの音としてその耳にも伝わってきた、声を出せる、言葉がしゃべれると……驚きと喜びが混ざり合った感情のうねりに彼自身が巻き込まれていた。

 ――いうことは俺はやはり人か?

 やはりと思うのはそれなりにではあるが、何となくではあるが、そうであることが当たり前の認識として感じられていた。

 とにかく動くことから始めなければならないと彼はやっと踏ん切りを付けたようだった。


 それから更に、どれくらいの時間が経過していたのだろうか、時間感覚という物が全くと言っていいほど戻っていないかった。

 サギとウギと名乗った魂の意識を感じつつ、ままならない肉体感覚にさいなまれながらも薄暗がりの中で必死に肉体の尊厳を取り戻すべく、意識と脳と筋肉を神経細胞の反応反復と言う形での繰り返し作業をしていた。 

「本当に百年も寝ていたのか……?」

「嘘だろう……?」

 懸命な肉体蘇生にくたいそせいの作業の中でも別の意識が現状を把握しようと努めている。

 横たわっているその場所は丁度ちょうど、彼の身長にあっているように大きすぎるわけでもなく、そう言っても窮屈きゅうくつなほど小さいと言うわけでも無く、適度な寝台のようなものらしい。

 背中の部分は薄手の敷き皮で仕上がっていて弾力性が特に優れている風でもないが、そうかと言って異様に堅いわけでもない。

 とは言っても、こんな所で百年もただ横たわっていたとは思えない状態であることは認識出来ていた。


「百年とは既存の人間たちの時間感覚であり、妾達わらわたちの空間との認識時間軸とはことなるのだよ。あるじよ」

 そう言うウギの言葉が聞こえる。

「まあ、そうは言ってもなかなか理解は出来ぬであろう、それは致し方ないことだ」

「なあ、サギよ」

「そうですわね、ご主人様の疑惑も当たり前でしょうが、今はそれ以上の詮索は無用かと思われます」

「時間はいかほどでもありますから、私たちから必要な情報を得ていただくには十分であると……」


 彼と左右の魂達との関係性が全く見えてきていないが、そんな焦る状況では無いらしいことは伝わってきた。

 右手の指が意識通りに動くようになってから、右側のウギと言う魂に問いかけてみる。


「ウギさんとやら、ひとついいかな?」

「なんぞや?」

「質問かあるじよ」

「ああ……全くもって何がなんだか解らないがひとまず聞きたいことがある」

「何じゃ?申してみよ!」


「……俺は誰だ?」


何時いつからだろう、自分で人に頼ることを忘れたのは?』

何処どこからだろう、自分の行き先を人に尋ねる事を忘れたのは?』

何故なぜだろう、人の親切を疑うようになったのは?』

『無垢な魂から生まれいで人をうらやみ、人をさげすみ、人をだますようになったのは?』


 百年の眠りと聞いて最初は単純に驚いていた彼だったが流石さすがに疑いの心が芽生えてきたのか、疑心暗鬼ぎしんあんきさいなまれている様にも見えた。

 『自分は誰だ』との問いに対して彼自身の記憶を呼び戻す作業を、脳内で一生懸命行っているようだが、全くもって目覚める前の記憶を呼び起こすことが出来ていない。如何いかに永い眠りとは言え、眠っていただけなら何らかの記憶の断片が見えてきても良いだろうと思う彼の心が疑心を生み出していた。

 彼が何者なのか、何故ここにいるのか、知らなければならない事は多々ある。

 とは言え、この場の雰囲気から彼女たちに対して、それらを問う事も可能であろうと分かり始めていたが、だがその前に自らの記憶である程度の状況を把握することは、最低限の努めだと思い懸命に模索していたのだった。

 そんな彼の心の動きを案じてか、魂である彼女達が声を掛けてきてくれた。


「おぬし、いろいろと思うこともあろうが、今は長い年月の眠りから十分な覚醒レベルに達しているとは言い難い。無理をして不本意な結果を招くことよりも、身体の覚醒を満足に終わらせる方が先ではないか」

「ご主人様、ウギさんが言われることはもっともな事です。こんな状況下でご無理とは存じますが、是非とも私達の事を信じて、今のところは御身の身体の事をねぎらって下さい」

「おぬしの問いには、いずれ答える……」


 ――ともかく、今は彼女達の想いからくる言葉を信じていくしかないか。

 ――まあ、いまいまは身の危険もなさそうだし。

 ――しかしなぁ~! 自分で言うのも何だが、この状況はまるでどっかの異世界転生物語みたいだな。

 ――いや、まさにそのものだし、これで魔王とか勇者とかの話しが出てきたら明らかに夢物語だろう。あれっ? まてまて、異世界転生、魔王、勇者って言う単語は何処から出てきた言葉だ? それはどういう意味だっけ? 此の言葉の記憶が自分に何故に在った?

 そんな唐突な思考と其れに伴う当たり前の疑念が、彼のこころの自我の奥底で沸き起こり始めていた。まさに今、彼自身の心の働きのひとつとして無限ループに陥っていることに彼自身は気づきもしない、まさに無限再帰と言えよう。しかし其れとはまた別の意識というか、思考がフッと思念を形作って、おもわず言葉にならない思いを洩らしていた。


「まさか、こんなんで自分が元勇者でした、なんて落ちでは無いよな……」


「……んっ! おぬし?」

「えっ……! ご主人様…?」


「ん…、ウギさんもサギさんもどうしたの?」

 いまだ、左右の手先と頭部だけしか動かない身体で首を左右に振りながら筋力覚醒を始めた彼に、不可思議な呟きが彼女等から返ってくる。


「ご主人様……勇者様ラリー……もしか……して……」


 もう少し、彼の身体が動くようになっていれば寝台から上体を起こすことも可能であっただろう。そうすればボディランゲージも添えて、色々と突っ込みもあっただろうにと思う。そんなこんなで、驚きの感情が入り交じった左右の彼女達からの呟きに対して、本当なら違和感を覚える事もあったろうが、ただ今は気にとめるほどの事もなく、残念にも完璧にスルーしてしまっていたのであった。鈍感なこと事この上も無かった。


 あれから更に数刻は過ぎたであろう。が、外からの光も少なく薄暗い部屋の状況では、今の時刻を予想することもかなわなかった。まあ、時間と言う概念が此の空間にあるのかも甚だ疑念ではあるのだが。

 まあ、急ぐ状況でも無いとのことから焦る訳でも無く、ただ単に苦痛に耐えるリハビリの先の光明こうみょうを探っている状況であることは確かだった。

 そんなこんなではあるが、何とか脳内からの指示が全身の筋肉へ伝わる状態、すなわち起きれる状況に、彼は幸いにもりつつある。

 まだ、動かされた筋肉からの沈痛なる応えはあったがそれでも耐えることの出来る痛みであり、それも数回ゆっくりと繰り返すことでその痛みも柔らいでくることも彼には解ってきていた。


「しかし薄暗い部屋だよな、いったいここは何処どこなんだろう?」

 その部屋の様相はまるで古代神殿の中のごとく石造りで出来ていて所々に明かり取りの窓のような穴が空いている程度だった、そのため採光が少なく薄暗い。広さは確実に武闘演舞ぶとうえんぶが出来るくらいの大きさがあり、彼が横たわっている寝台部分が部屋のちょうど中央に座位しているのが伺い知れた。


 天井は遠近感が霞む遙か上の方まで吹き抜けており、気持ちが良いほどの空間を成している。

 暑くもなく、そうかといって寒いわけでも無い。まだ身体からだが本調子でない事を加味しても心地良さが身体中をまとってくる感覚がある。彼が身につけている服といえばチュニック風の上着に七分丈程のズボンそしてベルトと腰巻きの様な前掛けであり、それも麻のような生地で出来ていて肌触りはすごく気持ちが良い。他には大きな毛皮のマントも羽織っていた、毛皮と言っても普通の獣の物では無く、何か途方も無く強力な魔獣の其れの様だった。


「……明かり窓の様相からは、夜ではなさそうだな」

 過去の記憶と言う観点からは知識として表現しにくい状況は変わらないが、彼の中では何故なぜか古代時代と思える雰囲気の中に置かれていると思えた。それじゃ、彼はいつの時代からの者かと思うかもしれないが、是と思える確固たる記憶は未だよみがえらず何故なぜか判ると言うような状況でただただ首を傾げるばかりであった。

「ご主人様、記憶の具合はいかがですか?」

 と、サギが問いかけてくる。

「良くわからないですね、なんか俺が今までいた所と大きく違う様であることは何となく認識出来るのですが、それ以上の事は……、まだ、思い出せませんね。すみません、サギさん」

「いいえ、ご主人様、まだ無理をなさらなくても結構ですから」

 サギの言葉の端はしから溢れて伝わってくるいたわりの気持ちが、その言葉丁寧ことばていねいさにつとに現れて彼の心は心底救われていたようだった。

「サギさん、少し起きあがってもいいでしょうか? だいぶ身体も動けるようになってきたようですし」

 彼はサギに許可を求める様に質問を投げかける。

「判りました、それでは起きる動作をお手伝いいたしますね」

 返答と同時に身体からだの中から暖かな「気」が満ちあふれてきて、まるで揺り籠から赤子を起き上がらせるような雰囲気が彼の周り包んでくれているのが判る。なんだかとても気持ちがふわっとしてきた。

「……んっ、なんだ、この感覚は?」

 あまりに驚いた表情をしたのでサギが大慌おおあわてをし始めた。

「ご主人様、あっ……あまりに補助が強すぎましたか? 申し訳ありません、すぐに補助魔術を解除いたしますから……」

 彼の驚き具合に何かを勘違いしたらしく、大慌てのサギの様子が、とても可愛らしく感じられたようだ。

「おいおい、サギよ……全く何を慌ててるのだ?」

「ウギさんは黙っていてください。どうせ私はドジですよ~!」

 なんか、また左右でひと悶着もんちゃくが始まる。

 まあ、今回は特に何が悪いわけでは無くサギに助力してもらうことを感覚としてつかめていなかっただけなのだけれども。

「サギさんも、ウギさんも……俺がたわいも無く焦っただけですから、ご心配には及びません」

 そんなこんなで、寝台から百年ぶりに彼は起き出して行動を始めることとなった。

 目覚めてから、かれこれ半日は過ぎたであろうか。彼の体内時計も身体が動きだすことによって少しずつ蘇ってきたようだった。そんな状況の中、横たわっていた身体をやっとのことで寝台から引き離せた。全くもって要介護病人状態であったと彼は嘆いていただろう。

 ままならない己の身体を半日間、嫌というほど感じながらも彼はその足で床を踏みしめた。

「うむ、なかなか良き状態のようだの、おぬしどうじゃ――おや、背が伸びたか?」

 ウギが彼の今の容姿にひと言、問いかけてきた。

 以前を思い出せない彼自身では背が伸びたかどうかは判断がつかないようだが……まあ、もしも記憶があったとしても自らの背丈の変化を認識でる御仁はそうは居ないとは思うのだが。

 ――ウギは見た目に絶対評価で身長を感じることが出来るのか?

 素朴な彼の質問に答えるものは居なかったのだが、ウギにしてもサギにしても、彼女等はあくまでも魂としての存在だからどうやって彼を見ているのだろう? と、言う疑問は傍らにひとまず置いといて……本当に置いておいても良いであろうか、究極課題だが。


 何となく釈然としないがとりあえず身の置き所を探してみる。寝台に腰を下ろして座ってみるとさらにこの部屋の様子が一望できた。石畳の床は一枡ひとますの石が身の丈ほどの大きさの石で出来ていた。

 そんな石が全部で二~三十個ほどある。かなり大きな部屋と言える。

「ご主人様、如何なされました」

 サギの呼びかけに微笑みながらも素直に応える、とは言っても微笑む相手の事は彼には見えないのだが。

「現実を直視して、これからのことを考えようかと思って……。これからどうしようか? ひとまずは安全みたいだからね」


 他人事みたいな感覚で安全を口にしているが、こんなところに押し込められていることからすれば、人生これからも波瀾万丈であることは紛れもない事実だと思う。でもまあ、そんなことには今は触れたくは無いのだろう。

「おにっし、もとい、おぬしは何がしたい?」

 ――ウギ、いま思いっきりんだでしょう! おにっしって何?

 思わず突っ込みを入れたくなってしまったが、今は我慢のしどころらしい……右手の甲が何故だか寂しがっている。

 ――彼女達が気安く心を開いてくれているようなので思わず立場を忘れてお気楽になりすぎたか。

 彼の立ち位置と彼女達の関係がまだ何もわかっていないこの状態で、気楽すぎるのもいかがなモノかと思うのだが、そんな事は口に出しては言えないのだろう。

「とりあえず、この場所にいても何だから……周りを散策して状況を確認しようかと思う。それと皆さんの様子から、俺と近しい関係と思っているのですがそうでしょうか?」

「特にサギさんは俺を『ご主人』と呼ばれていましたが、主従関係と言うか、それ程近しい関係だったのですか? もしかして婚姻関係を結んでいたとか……」

「……えっと、ご主人様……!」

 ――なんか、サギがどぎまぎしてるぞ! いらぬ想像をしてしまうが、そんな心をさっしてか?

「まてまて、婚姻関係とな……そんな事をわらわは認めておらんぞなぁ……サギよ、其れはそうとて、おぬし、よもや良からぬ事を想像しておるのではないか? それは違うと思うぞ!」

 ウギからのイエローカードが出されたところで、ひとまず彼もよからぬ想像を断ち切る事としたらしい。

「あくまでも今、お話出来るのは決してご主人様を害する存在では私達は無いということだけです。実態が無い状態ですので、なんともいえないですが……。これ以上の事は前世の呪術が絡んでいますので……。もう少し先になってからお話いたしますから、今はご容赦ください」

 なんか、歯切れの悪い言い方をするサギ……ウギもこれには特に口を挟む事も無く、彼としては答えが無いまま待つしか無いようだった。


「……わかりました、貴女あなた達を信じます」

「ありがとうございます、ご主人様!」

「おぬしも気っぷがいい、男ぞな! 惚れ直したぞ」

 ウギにそれどこの言葉ですかと、これもまた突っ込みをしたがる心を抑えて次の話へ移行しようと思う。

「それではサギさんがおっしゃった、実態の無い状態を解決する手段とここから出る方法がわかりますか?」

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