#19 手紙

次の日、僕は学校に行かなかった。行けなかった。


昨日、学校を早退したあと、事情をお母さんに話すと、学校はしばらく休めばいい、と言ってくれた。ちーちゃんにはテストが終わるまでは何も伝えない事にした。


そして今は男の子用のパジャマを着ている。何となく女の子用のパジャマは着れなかった。この服装も何だか懐かしく感じる。


あれだけ女の子の服が着れて嬉しかったのに。

いや、元はといえば、僕は女の子の服が着たかったんじゃなかった。ただ魔法を使いたかった、それだけで女装をしていた。

でも最近は女の子の服を着れること、それ自体が楽しく、嬉しかった。


「僕にとって女の子の服って何なんだろう……?」


分かった。きっと僕はもう普通の男の子じゃないのかもしれない。


そう思った時、さっきまで何となく嫌だった女の子用のパジャマに着替えたくなり、逆に男の子用のパジャマを早く脱ぎ捨てたくなった。そしてそうした。




そのままお昼が過ぎ、何時間か経った頃、家のインターホンが鳴った。窓から玄関の方を覗き込むと、1人の男の子が立っていた。彼は仲井なかい春人はると、クラスメートだ。しばらくするとお母さんが階段を上がってきた。


「奏、春人くんがプリント持ってきてくれたよ。置いておくね。」


そう言ってお母さんは机にプリントを置いて、そのまま部屋から出て階段を降りていった。


算数、理科、社会に学級通信。そしてその間に1枚の封筒……。


開けてみると、春人からの手紙が入っていた。何度も消して書き直したのか、紙はぐちゃぐちゃでかなり読みづらかったけど、読み進めるとその内容に思わず手で口を塞いでしまった。




奏くんへ


僕は奏くんに謝らなければならないと思ったので、この手紙を書きました。本当は直接会って話したかったけど、この手紙を読んでるってことはそれはできなかったのだと思います。ごめんね。

実は昨日、僕と歩は水族館に行っていました。そこで女装をしていた奏くんっぽい人を見つけました。本当はそれは歩と秘密にしておくべきだったのだと思うけれど、歩が今朝、本当に奏くんだったのか確かめないままクラス中に広めてしまいました。そしてクラス中のみんなが本当か気になってしまったのです。止めれなくて本当にごめんなさい。

それで、どうしても伝えたい事があります。あの時の奏くんの反応を見ると本当だったのだろうと思うのだけど、実は僕も男の子として生活しているのが嫌です。本当は女の子の服を着て学校に行ったり、出かけたりしたいんです。でも今まで誰にも言えませんでした。

良かったら、少しだけでいいので、話をしてくれませんか?

明日の放課後、河川敷の公園で待ってます。


春人

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る