#16 ほのぼの食卓

魔法講習会から2週間ほどが経ち、11月ももうすぐ終わりを迎えようとしていた。

まだ16時半頃なのに、もう日は沈みかけていて、部屋の中にいても少し肌寒く感じる。


「千尋ちゃん!かなでちゃん!夕食できたわよ!」


「「はーい」」


隣の部屋にいるちーちゃんと偶然にも声が重なった。

ちーちゃんは中学校の期末試験が近いらしく、最近は部屋に籠りがちだ。来年から中学3年生になり、高校の進学にも成績が関わってくるようになる、ということで今から気合を入れているそうだ。

最近あまり話せておらず正直寂しいけれど、だからといってちーちゃんの邪魔はできない。


部屋を出ると、ちょうどちーちゃんも隣の部屋から出てきた所だった。

ちーちゃんはこちらを見て微笑んでから、凝っていたのか肩をぐるぐると回しながら階段を降りていく。

僕はその後ろから肩を軽く揉んで、叩いてあげた。


「ふわぁ~……、気持ちいい……。ありがとう……!」




1階へ降りると、もうお父さんも帰ってきていて、2人ともテーブルについていた。


「さぁ、食べましょう!」


「「「「いただきまーす」」」」


と、ここで今日はお赤飯であることに気づいた。


「何で今日はお赤飯なの?」


かなでちゃん……、今日は奏ちゃんが初めて魔法を使った日からちょうど1ヶ月の日なんだよ……!」


「そうよ。忘れてたの?もう……。でも、おめでとう!」


「かっ、かなで、おめでとう、な。」


お母さんにはさも当たり前であるかのように、お父さんは少し恥ずかしそうにお祝いしてくれた。


かなで、何か記念にしたいことはないのか?」


「あら、お父さんが珍しく何かしてくれるのかしら。」


「いっ、いや、そんな……、無茶苦茶なことはダメだぞ。」


そうだなぁ。

最近欲しい物はほとんど買ってもらったし(女の子用の服とかウィッグとか……)、どこか出掛けるにしても今の時期は寒いしなぁ。


「んー、特に今はないかな。」


「そうなの?折角お父さんが言ってくれてるのに。」


かなでちゃん……、前に講習会で教えてもらった魔法を使ってみるのはどう……?」


そうだった。

2週間ほど前、魔法講習会で魔法を2つ教えてもらっていたんだった。

一つは石の温度をあげる魔法、そしてもう一つは……


「「魚の声が聞こえる魔法?」」


お父さんとお母さんが綺麗にハモった。


「うん……。」


「そんな魔法があるの?初めて聞いたわね……。」


お母さんでも知らないことがあるのか。

そう思っていたら、次の言葉でそんな事は頭から飛んでいってしまった。


「水族館になら連れて行ってやれるぞ。」


「本当に!?お父さん、ありがとう!」


嬉しくて、もう少しでお箸が宙を舞いそうだったところを何とか留める。

ふと横を見ると、ちーちゃんが少し俯いて指を折っていた。

そうだ、テストが近いんだった。


「ちーちゃんはテストはいつからいつまでなの?」


「んーっと……、まだしばらく先まであるから……、でも魔法も気になるから、明日……なら大丈夫かな。」


「明日は何曜日?」


「日曜日よ。お父さんもお仕事お休みなんじゃない?」


「ああ、うん。」


そうして明日、近所にある水族館に行くことになった。


魚の声……。

水族館の魚、というのが少し怖いのだけれど、大丈夫なのかな……?

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