#15 伝授
「それでは全体集会を始めまーす!皆さん中央の方へお集まりください!」
さっきまで受付業務をこなしていた柚子さんの声が、天井のない芝生の広場なのに、よく響き渡った。よく通るなぁ。
そんな関心をしながら、僕たちも中央へ歩いていく。
ある程度集まった頃、前の方にいたお母さんが話し始めた。
「本日はお集まり頂きありがとうございます。いつも挨拶しているので、今日はこれくらいにしておきます。それでは!」
すると広場のみんなが一斉に笑った。
何が面白いの?とちーちゃんの方に顔を向けて、視線で問いかけてみると、察してくれたようでニコッと笑ってから教えてくれた。
「あのね……、これが裕子さんのいつもの挨拶なの……。毎月講習会の度にこれだから……。」
なるほど……。
「ところで、これからどうするの?」
「えーっとね……、皆が色んな魔法を見せてくれるから……、色々見に行ってみるよ……。皆さん優しいから……、使いたい魔法があったら……、聞いてみたら教えてくれるよ……。」
「へー!」
と話しているうちに、早くも何やら声を掛け合っている人達がいる。見ていると外国人のような女の人がもう一人の日本人(だと思う)の女の人の手に魔法を使い始めた。すると、その人の手にあった火傷のような跡が綺麗に消えていった。
「すごい!」
僕は思わず声に出してしまった。
「じゃあ……、聞きに行ってみよう……!」
そう言って、ちーちゃんが僕の手を引いてその人の元へ走る。
「お姉さん……、こんにちは……!あっ……、日本語で大丈夫ですか……?」
「こんにちは。大丈夫よ。名前はユリアっていうの。ドイツ人だけど、日本語も話せるよ。よろしくね。」
「よろしくお願いします……!千尋といいます……!あの……、今の魔法は……?」
「今の魔法はね、治癒魔法の系統なんだけど、従来の魔法よりも魔法力の消費が少なくて、それでいて効果は少しだけだけど大きくなっているの。自分自身に対しては使えないんだけれど、他人なら火傷や切り傷程度なら一瞬で跡形もなく治せるわ。」
「へー!そんな魔法があるんですね……!」
「確かイギリスだったかな……、の魔女が先月作り出したって聞いて、教えてもらったの。」
「私にも使えますか……?」
「うん、あなたは多分大丈夫だと思う。そちらの子は……どうだろう……?」
少し難しそうな顔をしてこちらを見る。
「ぼk、わっ、私はいいので、ちーちゃんに教えてあげてください!」
「そう?それじゃあ、使うわね?」
深呼吸をして息を整えてから、言葉を唱える。
「自然よ、私に力をお貸しください。」
そう言ってちーちゃんの傷一つない綺麗な腕に魔法をかける。当然だけど、何も変化は無かった。
「どう?わかった?」
「何となく……わかったような気がします……。」
「コツはね、治そうと思わずに、ただ治った状態を想像するの。」
「やってみます……。奏ちゃん……、腕を借りてもいい……?」
「うっ、うん。」
1年ほど前に転けた時にできた擦り傷の痕を見せる。
「自然よ……、力をお貸しください……。」
すると少し色が濃くなっていた傷跡が、跡形もなく消えていった。
「おお、一発で決めるとは、あなたなかなか良い腕してるわね。」
「わぁ……!ありがとうございます……!」
「いえいえ、また何かあったら声を掛けてね。」
「はい……!」
ちーちゃんは丁寧にお辞儀すると、その人は別の人の方へ歩いていった。
「こんな感じで……魔法を教えてもらうの……。」
「やっぱり他の人と話すのはまだ怖いなぁ。」
「ふふっ……、そうだね……。しばらくは私が代わりに聞いてあげるよ……。」
そんなこんなで、その後2、3人に声を掛けてちーちゃんはいろんな魔法を教えてもらっていた。
そしてそのうちの2つは僕も使うことができた。1つは石の温度を上げることができるというもので、そんな魔法を使う日があるのかよくわからないけど、ただ使える魔法が増えたという事だけでもとても嬉しかった。
もう1つはまた別の機会に……。
時刻はあっという間にお昼になり、人がまばらになってきた頃に解散となった。
「じゃあ……そろそろ帰ろっか……。」
「うん!」
そう言って、お母さんの方へ行こうとした時のことだった。
「君!ハンカチ落としてるよ!」
振り向くと、そこに受付の時に前に並んでいた女の子がハンカチに指を差して立っていた。
「あっ!ありがとうございます!」
「いいよ。」
そう言って、彼女はそのまま近くにいた彼女のお母さんの元へ走って行ってしまった。少しも笑いもせず、まるで人形のようだった。不思議な子だな……。
「さぁ……!改めて……、帰ろっか……!」
「うん!」
※追記※
魔法の伝授について、#12の冒頭に書いていますので、何だったっけ……?という方はご確認ください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます