#10 不思議なお水
「さぁ……着いたよ……!」
改札を出ると大きなショッピングセンターの建物が目に飛び込んで来た。
そこにはアリのように沢山の人が歩いている。
バスとモノレールを乗り継いで約40分。
ここまでに(幸運にも)友達やご近所の人に会うようなことも無く、特段大きな問題は起こらなかった。
(途中バスとモノレールの中で少しだけ困ったこともあったけど、その時の話はまた今度……)
「奏くん……、私おなか減っちゃったから……、先にご飯にしても……いい……かな……?」
申し訳なさそうな、恥ずかしそうな顔でこちらを見てきたのだが、むしろ僕の方からまさに今言い出そうとしていた所だったので即答した。
するとちーちゃんはニコッと嬉しそうに笑ってから、少し悩んだ素振りを見せた末に、フードコートの方へ歩き始める。
「何……食べよっか……?」
「んー、僕もお腹減ってるから、沢山食べたいな。」
「ラーメン……とか……?」
「いや、どっちかと言うとご飯系がいいかな。」
そんな話をしながらフードコートまで歩き、結局昼食は僕は石焼ビビンバ、ちーちゃんはハンバーガーとポテトのSサイズのセットにした。
と、そこで僕はちーちゃんが飲み物をつけなかった事に気づいた。
「飲み物は付けなかったの?」
「うん……。実はね……、前に面白い魔法を教えてもらって……、それを今日使ってみようと思ったの……。ちょっと待っててね……。」
そう言ってちーちゃんはどこかへ走って行ってしまった。
なんだろう……?
しばらくして戻ってきた時、ちーちゃんの両手には水の入った紙コップが2つあった。
それらをテーブルに一旦置いてから一旦椅子に座り、片方だけを両手で包み込むように持つ。
そして、周りの人に聞こえないように小さめの声で言葉を唱えた。
「自然よ、
「出来たかな……?えーっと……、奏くん……、今は何が飲みたい……?」
突然の質問に驚いたが、少し考えて、ふと思い浮かんだ飲み物をあげてみる。
「んー、ぶどうジュースかな。」
「じゃあこれ……ぶどうジュースだと思って飲んでみて……?」
よくわからないけど、言われた通りに飲んでみる。
……!
「凄いよ、ちーちゃん!この水、ぶどうジュースの味がするよ!」
「この魔法はね……水の味が飲みたいと思っている味になる魔法なの……。あんまり水系統の魔法は得意じゃないから、上手に出来るか不安だったんだけど……。また別の味を想像したら別の味になるはずから……、よかったらやってみて……。」
言われた通りに今度はオレンジジュースを想像しながら飲んでみる。すると……
「おお!オレンジジュースの味がする!」
「面白い……でしょ……?多分奏くんにはまだ出来ないと思うけど……、一回……試しにやってみる……?」
そう言われたら試すしかない。
どうやら言葉を唱える時に、水とその水が色んな味がするのを想像すれば良いらしい。
魔法って案外大雑把なものなのかな……。
僕はもう片方の魔法をかけていない方の紙コップを手に取り、周りの人に聞こえないように小さな声で言葉を唱えた。
「自然よ、
ほんの僅かに手の表面が暖かくなったような気はしたが、正直自信はない。そして持っていたコップをそのままちーちゃんの方へ差し出す。
「どう……?」
「うーん……、ちょっと味が……薄い……かな……。」
ちーちゃんは苦笑いしてから、紙コップを置いた後、ハンバーガーの包み紙を開け始めた。
「さあ……食べよう……。冷めちゃうよ……。食べたら服を……買いに行こう……。」
僕も苦笑いしながらビビンバを混ぜ始める。
後から聞いた話だが、どうやらほのかに風味はしたような気はしたが、ほぼほぼ味はなかったらしい……。うぅ……。
魔女になりたての頃は皆こんな感じなのかな。
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