#9 扉

初めて魔法を使った日から約1週間――


僕は家の中では、ほぼずっと女の子になっていた。

トイレやお風呂の時は、どう頑張っても女の子になる事は出来ないけど、それ以外の時は恥ずかしさを感じる事なく女の子になれる。パジャマのお下がりも貰ったので寝る時まで女の子だ。


そしてお母さんやお父さんは、僕が元から女の子であったかのように僕に接してくれるようになった。ちーちゃん曰く、僕の無意識中の仕草もだんだん女の子らしくなっているらしい……。


それらの効果か、少しずつではあるが、魔法が安定するようになり始めた。


そして僕は最近、ある違和感を覚えていた。

それは普段、学校では男の子として生活している僕だけれど、学校でのの僕と家でのの僕、どっちがの僕なのだろう……?


女の子になれて嬉しいのは、魔法が使えるようになったから……?

それとも……


そんな事を考えていたら、ちーちゃんが帰宅した。




今日は土曜日。

僕の学校は休みだったが、ちーちゃんは私立の中学校に通っているので午前中だけの授業があった。


そして、今日は午後からちーちゃんとかなでとして出かける約束をしていた。

そう、初めて女の子として外に出るのだ。


「おかえり……」


頭から手足の指先までの全身が震えていたが、頑張って喉を震わせる。


「ただいま……」


帰宅したちーちゃんは、革靴を脱ぎながら、かわいい茶色のクマのマスコットのキーホルダーが付いた家の鍵を靴箱の上に置いているガラスの器に入れた。


「心の準備は……できてる……?」


少し意地の悪そうな顔をしながら、少し笑って聞いてくる。


“正直心の準備など出来る訳がないよ……。”


ある程度の覚悟はしているけれど、いざとなれば恐らく冷静さを失ってしまうに違いない。でもそんな事を言っていても仕方がない。


「うん、多分大丈夫。……やっぱり少し不安だけど……。」

「ふふっ……。着替えてくるから……少し待っててね……!」


そう言ってちーちゃんは小走りで階段を駆け上がっていった。


僕は初めての場所にショッピングセンターを選んだ。

やっぱり少しハードルは高いけどそこそこ人がいて目立ちにくいし、それに前にちーちゃんにもらったワンピースに加えてもう一着服を貰ったけれど、流石に毎日2着だけで着回すのは結構大変で、しかも貰った服が(また)少し肌寒かった。それなら新しい服を買いに行ってみるのはどうか、という話になったのだ。


ちなみに今日の服は、その貰ったもう一着の方の服で、水色っぽい長袖のセーターと白くて膝の下くらいまである長い丈のスカート。あとは髪が少し短くてやっぱり違和感があったので、お母さんにネットで買ってもらって、昨日家に届いたばかりの黒いロングのウィッグをつけて黒い毛糸で編まれた帽子を被る事にした。


「じゃあ……行こっか……」


そして僕は扉を開ける――

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