#5 魔法使い

天から突き落とされたような気分だった。

束の間の幸せは一瞬にして消えてしまった。


布団の中に潜り込んで打ちひしがれる僕に、そばに座って心配そうに視線を送ってくるちーちゃん。


「どうして……なんだろう……ね?」


ちーちゃんなりの精一杯の励ましなのだろうけど、僕にはそれではまるで全く足りない。


「もう一回……、もう一回姿だけでも女の子になってみるのはどうかな……?」


部屋の中に悲しみに満ちた静けさが広がる。

もう何もかもが嫌になってしまった。

こんなはずじゃ無かった。嫌だ。怖い。


「僕、怖いんだ。次もう一度女の子の姿になって魔法を使おうとしたとして、もし魔法が使えなかったら、さっきみたいな事はもう一生できないんじゃないかな、って。」


「そうだよね……。でもね、奏くん。試してみないと何も始まらないと思うの……。奏くんは今のままじゃこのままずっと魔法は使えないんじゃないかな……。でもね、試してみたらもしかしたら魔法が使えるようになるかもしれないよ?それなら試してみる価値は十分あるんじゃないかな。」


確かに言われた通りだ。

このまま躊躇してたって魔法が使えるようになる訳じゃない。

それなら当たって砕ける覚悟で試してみるべきかもしれない。


「ねえ、ちーちゃん。もし僕が魔法使いになれたらちーちゃんはどう思う?」


「嬉しい……かな。きっと今よりも楽しくなると思うよ。」


「じゃあ、もし姿だけでも女の子になったとして、魔法が使えなかった時はどう思う?」


「それは……、何とも思わないよ。普通の男の子は魔法は使えないんだもの。奏くんは落ち込んじゃうかもしれないけど、私は奏くんを励ましてあげる。魔法も代わりに沢山見せてあげる。」


いつの間にか、ちーちゃんの視線も口調もしっかりとしたものに変わっていた。

僕が今まで見たことのない、まるで頼れるお姉さんのようだ。


「わかった。僕、もう一度試してみるよ。さっきの服、もう一度借りてもいい?」


「うんっ……!」


ちーちゃんは満面の笑みで服を取りに行ってくれた。


僕はもう覚悟を決めた。

絶対に魔法使いになる。

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