第1章 小学生編

#1 とある祝日に

「ちーちゃん!またあの魔法見せてよ!」


思ったよりも声が家中に響いた。お母さんがいれば絶対に怒られてただろうな。一瞬ヒヤッとしたが、幸いにも今はお母さんもお父さんも家にはいない。


今日はせっかくの祝日で学校も休みなのに、残念なことに大雨が降っている。お母さんもお父さんも仕事に行ってしまったので僕は暇だ。

暇すぎたから叫んだ。


一応、「ちひろ」とかわいくポップに書かれたボードが掛けられているドアをノックしてから部屋に入る。


「うん……いいよ……。」


部屋に入るとすぐに、ちーちゃんは笑って僕を迎え入れてくれた。

まるで天使の様な笑顔だ。

真っ白な美しい肌にスラッとした艷やかな黒い長髪、身長は2歳も歳上なんだから、当然僕よりは高い。

そんな彼女の細長い指が、部屋の真ん中辺りに置いてある座布団を指差した。


「ここに……座って……。」


震えるような、小さな声を絞り出す。

いつも少し心苦しく思うけど、仕方がない。


指定された場所に座ると、千尋はいつもの様に手をおにぎりを握るような形にしてから、目を瞑り言葉を唱え始めた。


「自然よ……わたくしに力をお貸し下さい……」


すると、千尋の手の中から小さなボールの様な少しだけ緑がかった光が現れた。その光はゆっくりとまっすぐ宙に浮いて行き、次第にその明るさを失ってゆく。


「わぁ……!」


思わず感動のため息をついてしまう。この光はもう100回以上は見ているのに。

それくらい僕はこの光を見るのが大好きだ。

とても美しくて、儚くて……


そして同時にこうも思ってしまう。

どうして僕は魔法が使えないんだろう……?


「どうして僕は男の子なんだろう……?」

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