第8話

あたし、あいつ嫌いじゃないよ。

一瞬の間が空いてすぐに笑い声が聞こえる。

「あんたまじで言ってんの! まじやばくね?」

「あいつただの陰キャじゃん!絶対ありえないわ!」

「嫌いじゃないってだけ!」

金髪でぐるんぐるんに巻かれた髪と、長くネイルをキメた爪。

制服は着崩すのが当然。メイクは学校だろうと完璧に。

そんなあたしとは正反対の位置にいるであろうあいつは、黒髪メガネで常に本を読んでいるような奴。

いつからかあいつの事が気になる。

「今日は10月の18日 そうだな、出席番号18番 前に出て答えかけ」

数学の時間そう言われ小さな返事をして出席番号18番のあいつは前に出る。

着崩しのない、お手本のような格好。

チョークの音を響かせながら首を斜めに傾ける。

「先生 俺わかんねえわ 多分、問題間違ってる」

「ん? あ、本当だ ありがとう 直して解いてくれ」

教室は笑い声で包まれる。

先生の間違えで笑う皆とは違って、あたしは優等生だと思ってたあいつの先生へ使ったタメ口が頭を離れない。

「ねえ 数学の授業の時聞いた?」

「なにを?」

「あいつ先生にタメ口使ってたんだけど」

「ま?全然気づかなかったわ 優等生じゃねーのかよ」

実は裏で煙草吸ってたりして、なんて昼休みのいい話のネタとなってしまった。

その日の放課後、あたしは忘れ物をして教室に戻った。

あたしらの必需品、メイク道具。

これを忘れるなんてボーッとしすぎたか、なんて考えながらポーチを右手に持ちつつ気だるげに階段を降りる。

下駄箱でローファーに履き替えて校門を出ると少し先にあいつが見えた。

この後特に用事もないあたしは好奇心で後をつけみた。

特に何か目的があるようには見えない。

住宅街を抜けてとある小さな公園に来た。

そこであいつは内ポケから箱を取り出し、何か棒状の物を一本取って火をつけた。

「あんた煙草なんて吸ってんの!?」

「え?」

しまった、と思い、急いで口を塞ぐ。

「あー えっと 同じクラスの人だよね」

「そうだけど....」

まさか本当に吸ってるとは思わなかった。

とりあえず座りなよと言われ、あいつが座っているベンチに腰掛けた。

「あんた優等生かと思ってた」

「まさか 勝手な思い込み」

「そうらしいね」

特に会話も続かなく、一本吸い終わった所で自主的解散。

家に帰って制服から漂う微かな煙草の匂いを、あたしはずっと忘れられないでいる。

その匂いは今じゃ隣で毎日のように漂ってくるから不思議だ。

「あんたそれ今日何本目よ 子供の前では控えろって言ってんじゃん」

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ここらに愛、置いときますね。 藤波ゆうのう @114Hujinami514

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