第7話

「あ 見て 猫」

「黒猫じゃん 黒猫が横切ると不幸が訪れるって言うよね」

「なにそれ 中学生になってもそんな迷信信じてんの?」

「そ、そんなことないよ 言ってみただけ」

日課となった2人で帰る放課後。

隣のこいつはただの友達で、俺がこいつをどう思ってるかなんて知らずにのうのうと隣に居座る。

好きな奴と2人で帰れるなんてこれ以上嬉しい事はないってくらい、今の俺には幸せなこと。

たまたま家が近くて、幼稚園のバスが同じで、親が仲良くて、小学校が一緒で、中学校も一緒になって。

同じ方向の友達がお互い自分達しかいなくて、学校が少し遠いから母親から一緒に帰るよう言われて。

たまたまが重なって俺のこの幸せはできている。

友達から付き合ってんじゃないかって冷やかしも勿論ある。うざいくらいに。

でも、俺は満更でもなくて、こいつはどう思ってるかわからないけど。

昔からのほほんとしてて、おっちょこちょいでどこか抜けてて。俺がいなきゃ駄目だって思う。

おばさんからも何かあったらよろしくね、なんて言われて。

逆にどうしたらこんなに鈍感でいられるのだろう。

「ねぇ 聞いてる?」

「え あ わりい 聞いてなかった なに?」

「もお 最近すぐボーッとする 車に轢かれても知らないよ」

「お前じゃねえんだから そんなんねーよ」

「なにそれ 酷い」

少し頬を膨らませる姿が昔から変わらず可愛い。

ごめんごめん、なんて謝るとにぱっと笑ってまだ少し幼い声でいいよなんて笑う。

「で、なんの話?」

「えっとね、今度遊びに行こうよって話 次の日曜日私暇なの それで、見たい映画があるって前言ってたでしょ? だから私が一緒に行ってあげようって思って」

「え 覚えてたの?」

「うん 話したこと全部覚えてるよー」

全部はさすがに言いすぎたかも、なんて少し悩んでる。

大分前に呟いた独り言を覚えていてくれたことに俺はテストで100点取った時よりも、初めてホームラン打った時よりも、喜びを感じた。

「い、いく! 絶対行く!!」

「じゃあ 決まりだね 頑張ってオシャレしちゃおー」

それから俺はたった三日後の次の日曜日が待ち遠しくて仕方ない。


当日の朝は平日なんかよりよっぽど早起きで、いつもは気にしない寝癖もしっかり直して。

女子を待たせる男子なんてモテないって父さんが言ってたのをふと思い出し、約束の時間の10分前に駅前についた。

少しして俺を見つけて小走りであいつが来る。

「あ 黒猫だ!」

「え.....?」

一匹の黒猫が俺らの間を通る。

その猫に気を取られたあいつは道路でたった5秒だけ止まった。

その5秒であいつは余所見運転をしていたバイクに身体を打ち付けられた。

脳内で再生されるあいつの言葉。

『黒猫が横切ると不幸が訪れるって言うよね』

あんなの嘘に決まってる。

赤黒い血が足元まで伸びてくる。

黒猫は俺と目を合わせどこかへ走っていった。

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