魔法の盾

@manaka_ve_

第2話

世界には多くの魔法の武器又は防具、「魔装」が存在している。

精霊の祝福を受けていたり、精霊そのものに取り憑かれているものは「妖装」などと呼ばれる。

また、武器や防具が精霊の影響を受けておらず、武器単体が使用者の魔力流を捻じ曲げるものは「物理魔装」などと呼称される。

妖装は物理魔装とは違い内部に魔力源を保持しており、使用者の魔力を増幅したり、変換したりする能力に優れている。

それに対して物理魔装は魔力源を使用者に依存するため、圧倒的な性能を持つということは無いが、人工的に制作でき、整った魔法を使いやすいという特徴を持つ。


―この盾も、そのどちらかなのだろうか…。


私は職員室の前で担任であるミーナ先生を待っていた。シールンという町で授かった、魔法の盾をより深く知るため、ミーナ先生や魔法学校の設備の力を借りようと考えた。


使う為ではなく、離れる為だ。


「おまたせアルミナ。」

職員室から分厚い本とどこかの鍵を持ったミーナ先生が出てきた。

「お疲れ様っす。…その本は?」

「あぁ、これ?」

ミーナ先生はくるっと分厚い本を半回転させ、

―第十八版 天授魔装辞典―

という題名が書かれた表紙をこちらに見せた。

「魔装辞典よ。」

「これまた年季の入った辞書ですね。」

「職員用書庫の奥の奥にあったわ。あまり古い本ではないのだけれど。なにせあそこ汚いから。」

「それで、書いてあったんですか?この盾のこと。」

「それらしいものはあったわ。シールン所蔵の魔盾。製作者は不明で、博物館に展示されていたそうよ…。」

「先生、それ多分この盾じゃないです。…!?、私盗んでないですって!!」

焦りながら涙目になる私にミーナ先生は疑わしい視線をこちらに向けていたが、冗談めかしてニコッと笑った。

「やっぱりそうよね。取り敢えずシールンにある他の盾については書いてなかったわ。」

「そうですか…。他の本を探してみます?」

「いえ、この本は他の全て本も参照して書かれた国公認の最強の辞書だから、他の本を見るのは無駄だわ。」

「その本の情報古いんじゃないですか?」

「そんなはずはないわ。この辞書はほかの全ての本と魔力で情報を共有していて、逐一自分で内容を書き換えてるの。ほら、最後の方に真っ白なページがあるでしょ?」

「本当だ。魔法って便利ですね。」

「ええ、便利よ。」

「そしたら…、調べますか。」

「それ以外無いわね。」


私たちはミュリア魔法学校の地下部分、魔法大学の研究学区へ向かった。

途中、エルナ語の先生とすれ違った時はヒヤヒヤした。


天井、壁、床、全てレンガ造りの回廊に突然存在している金属製の重厚な扉をくぐった先にあるのは、最先端の魔法機器の数々。

大きなテーブルのような機械を抜けた先にある馬鹿でかい顕微鏡のような形をした機械の前で先生が立ち止まった。

「さて、この機械が『魔力線照射式魔法反応検査機』。通称、顕微鏡よ。」

「正式名称が泣くようなあだ名は付けないであげてください。」

「原理聞きたい?次の次のテスト範囲なんだけど。」

「いえ、また今度で。」

「それじゃ、ここに盾を置いて?」


先生の言う通り盾を顕微鏡の使い道通りの場所に置く。


「それじゃ、いくわよ。」

先生がスイッチをパチっと上げる。


ガシャン!


上部の接眼レンズじみた部分が突如回転を始め、光が対物レンズの部分に集まっていき…やがて金色に輝く光が盾を貫いた。


それと同時に、金色の大きな魔法陣が空中に描かれた。


「うわぁ…すごい…!」


「初めて見た時は感動するわよね。」

「…はい!」


空気中に光の粒子が満ち、グラスハープのような澄んだ音がフロア全体に響き渡る。

それは限りなく美しい光景だった。


刹那。


貫通していた光が盾の表面で突如堰き止められたかと思うと、盾は、何倍もの光で機械を貫き返した。


機械は立体的に数十枚の魔法陣を周囲に描いたかと思うと、突如、黄金の爆轟と共に破壊された。


足元に、金色の輝きを帯びた盾が転がった。光は波打つようにそれを覆っている。


「何が…起こったの…?」

先生が呆然と宙に問いかけた。


ーーーーーーーーー

理由は、盾の「能力」だった。


あの後、先生は駆けつけた責任者らしき男の先生にこっぴどく叱られ、私は保健室に連れていかれた。


未成年のような成長過程の人間が多量の魔法線を直接浴びた場合は魔力の源である「意識」と「身体」を繋ぐ結合が切断され、魔力の使えない体になる可能性があるのだ。


保健室で服を全て脱がされ、魔法機器で体を隅々まで調べられたが、結合に異常は見られなかった。とてつもなく恥ずかしかった。


機械は木端微塵に砕け散り、先生は叱られ、私は全裸でスキャンされまくるという最悪かつカオスな状況のなかで、二つのニュースが生まれた。


一つは盾のことである。

盾は銀で出来ていて、内部に魔力伝導層を保有するいわゆる「物理魔装」だった。しかし、精霊に祝福された痕跡も確認されたのだ。


一般的に、精霊は人工物を祝福しない。精霊が祝福するのは木の枝や生物の遺骸である。それを人間がそのまま利用したり加工したりすることで妖装とするのだ。

しかしこの盾は、その自然の摂理に反して人工的に作られたものでありながら精霊の祝福を受け、内部に魔力源を有していたのだ。


物理魔装としての盾の能力は金属結合の強化、すなわち、防御力上昇である。これは、使用者が魔力を与えている時に盾が傷つかなくなるなるというものだ。しかし、それも古代の装備としては信じられないほど緻密に作られているという。


精霊の祝福の力は魔力源の保持、そして"魔法攻撃の反射"、"物理的衝撃の吸収"である。祝福にしては、出来すぎている。


結局のところわかったのは、この盾が普通の物理魔装や妖装とは違う、ハイブリットでより強固なものだということである。


そして二つ目は私である。


全裸でいやらしいところまでスキャンされた結果、私の体は"精霊によって祝福されている"ことが分かった。


精霊は人工物を祝福しない。これは先程も述べた通り多くの人が知る事実である。

そして、「精霊は生きた生物を祝福しない」。これもまた、良く知られた事実なのだ。


しかし私は生きている。

何よりもの証拠は意識も身体も、健康そのものだからである。


判明した理由は、私をスキャンしたデータに不自然なノイズが入っていたから。


私を祝福した精霊が何を思ったかは知らないが、私には「受けた魔力を増幅して放つ」という能力があったのだ。


その能力を持っていたせいで、盾を持てた可能性があるというが、詳しい事は学校にも私にも分からない。

ーーーーーーーー

「アルミナ、ごめんなさい。」

ミーナ先生が頭を深く下げ、私に謝った。

「いえ、謝らないでください…。盾を調べさせてもらいたいと頼んだのは私ですし、何より私のせいで学校の機械が…」

「違うの。私が先に盾に軽い魔力を掛けて能力を確認しなかったからなの。私のミスであなたに怖い思いをさせてしまったの。」

「そうです。あなたのミスです、ミーナ。」

眼鏡をかけた、先程の責任者らしき男が嫌味にそう言った。

「全く、あなたのせいでウチの機械はボロボロですよ。データが残ってたから良かったものの…。あぁ、アルミナさん。うちの教師のせいで本当に今日は散々な目に合わせてしまい、申し訳ない。」

ミーナ先生は無言で俯いている。

その顔は、悲しそうだ。

「いえ、私は大丈夫です。ていうか、全部この盾のせいですよ。」

盾は、銀色にぴかぴか光っている。

「それはそうですね。この盾の反射で私の機械が…。とはいえ不思議な盾だ。自らの物理魔装的な特徴を自らの魔力源が常にアクティブにしている。この盾は真の意味で無敵です。」

「む、無敵ぃ!?」

「何しろ物理攻撃は効かないどころか衝撃も吸収され、魔法攻撃は反射されますから、この盾は魔力源がその内部ある限りは破壊不可能です。そして、その盾を使えるのは…。」


私だけ。


「あなたはこの盾の唯一の持ち主でしょう。なにせ、祝福されている人間なんて聞いたことがありません。」

「いえ、それは違うかもです。」

「何?まさかその能力が親から受け継がれたものだとでも?」

「そうじゃなくて、この盾は元々"遠い昔に英雄が死んで落とした盾"っていう伝説の盾なんですよ。」

「その英雄というのは…?」

「えっと、なんだっけ?ペレセス?みたいな名前の…。」

「ペルセウス…?」

「あぁ!そうそう!」

顔を俯かせていたミーナ先生はいつの間にか顔を引きつらせている。

「多分、この盾の名前分かったよ、アルミナ。だいぶ伝承とは話が違いすぎるけど。」

メガネの男も続ける。

「ええ、酷く違っていますが、狂った性能といい恐らく。これは…。」


女神アーテナーが英雄ペルセウスに貸して、恐らく帰ってこなかったのであろう…


―『アイギスの盾』

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