第十三話


 シュウが寝やがった事により第一作戦失敗。次は第二作戦に移行する。

 班ごとにバーベキューをするにあたって材料を買わないといけない。トイレ休憩がてらにバスが止まったのは食品スーパーである。ここでもなんとかシュウとあかりの距離を近づけたいところなので、バスから降りて一策講じる事にする。


 それに当たって何か利用できそうなものは無いか駐車場を眺めると、アイスの自動販売機があるのを発見した。よし、これだ。


「なぁあかり、自販機のアイスクリームって美味しそうとは思わないか?」


 言って、アイコンタクトで話に乗れと伝えると、あかりも意図を理解したか、軽く頷く。


「あ、それ分かる! 美味しいよねぇ」

「だよなー」


 上手い事話すことはできているだろうか。そうだと信じたい。

 これは事前打ち合わせしていた、買い物デート気分を味わおう作戦。

 あらかじめ班ごとにスーパーで買い出しする事は決まっていたから、巧い事言ってシュウとあかりの二人にしようというシンプルな内容だ。男女がスーパーで買い物っていうのはちょっとだけ夫婦を連想するからな、たぶん効果はあるはずだ。


 それに当たって二人にする理由付けが必要となるが、それについては現場で俺がどうにかするから話を合わせろという事で落ち着いた。そして今がその時だ。


 あかりが俺の合図に気付かなかったらどうしようかと思ったが、杞憂で済んで良かった。


「なぁ食べたくないか?」

「え、食べたい!」

「まぁ、別に買ってもいいみたいだぞ?」

「え、ほんと⁉ じゃあ早速」

「待て待て」


 言うやいなやアイスクリーム自販機に飛んでいこうとするあかりの襟を掴む。

 

「買い出しの時間は無限じゃない。まずは材料から買わないと」

「えー」

「えーじゃありません」


 こいつ本当に意図汲んでくれてるのか? 今絶対普通に食べに行こうとしてたよな? まぁいい、とりあえず軌道修正だ。


「でも、急いで買えば間に合うと思うんだよな……だからちょっと分かれて時間短縮でもって思うけど……どうだろう?」


 軽く置いてけぼりにしていた二人をチラリと見やる。なんか不自然な巻き込み方だったような気がする。

 これでもしここで二人が頷いてくれなかったら作戦失敗だ。それだけは避けたい! だからお願いします了承してくださいなんでもしますから!


「僕は構わないよ」

「私もいいよー」


 祈りは届いた。

 二人とも特に何を思ったわけでも無さそうに、二つ返事で承諾してくれた。


「じゃあとりあえず、シュウとあかりで肉の方頼む」

「了解コウ」

「よ、よし、頑張る!」


 あらかじめ知っていたとはいえ、やはり緊張するらしい。

 お前は肉に関しては美味しいものが分かるからな。肉について饒舌に話せさえすれば家庭的な子だって思われるだろう。実際はともかくとして。


「コウ君、私たちは?」

「あー、姫野さんは飲み物お願いしようかな。俺は野菜を調達するから」


 尋ねてきたので答えると、姫野さんはどことなくむすっとする。


「ごめん、野菜が良かった?」

「違うよ」

「えーっと……」


 あと何があったっけ。お菓子とか?


「もう、なんでコウ君と私は単独行動なの? どうせなら一緒に行こうよ。飲み物なんてすぐに選べるし」

「あ、いやぁ、なるほど、その発想は無かったなぁ……なんて……」


 いや実は無い事も無かった。ただ姫野さんと二人で買い物など俺のメンタルがもたない気がするし、あと、花姫親衛隊もうちのクラスにいるらしいから下手にそういう事すると何というかかんというか。

 そもそも何より、あかりを応援するために考えた作戦なのにそれを俺のために利用するのは憚られる。


 でもここで断ったら姫野さんの機嫌を損ねてすなわちそれは親衛隊の怒りを買う事になってもっとやばいのか? 屋上に呼び出された時、姫野さんが俺の事をあまりよく思わない素振りを見せたら制裁を加える云々って言われたからな。監視は校外学習までと言う事は、たぶんクラスにも連中はいるだろうから、何かあったら即制裁されそうだし。


 はぁ、親衛隊の皆さん怖過ぎまっせ……。まぁこの校外学習を乗り越えれば監視体制は終わるらしいからもう少しの辛抱だな。


「別に嫌ならいいけど……」

「いやいや、全然嫌じゃないっす! むしろウェルカムっていうか⁉」


 若干拗ねたような口調で姫野さんが言うので慌てて取り繕う。

 ああでもこれ少しオーバーに反応しすぎたかもな……。逆に馬鹿にしてるとか思われたらどうしようやばい。今からでも言い直した方がいいか?


「それなら良かった」


一抹の不安が脳を掠めたが余計な心配で済んだらしい。姫野さんは笑顔を見せてくれた。


「行こ、刑部君」

「え、うん」


 待ちきれなくなったのか、あかりがシュウに話しかけるとずかずかと店の方に向かっていく。


「早めに終わったら先に出といてアイス食べといていいからなー」

「あ、りょうかーい」


 声をかけると少し遅れてシュウが手を振って応じてくれた。

 なるほど、あかりは返事をかえす余裕もないらしい。まったく、どんだけ緊張してんだよあいつは。二人にして大丈夫だったかちょっと心配だな。

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