〇校外学習大作戦

第十二話


 高校というのはかくも時間の歩みが速いのか、気付けば校外学習の日である。

 ゴールデンウィーク前という時期にしかも校外学習とだけあって、貸し切りバスでひしめくクラスの連中の雰囲気は、窓越しからでも非常に浮足立っているように見受けられる。全員私服だからという事もあるかもしれない。


 うちの高校の校外学習は、というよりどこでもそうなのかもしれないが、学習と銘打つ割にクラス単位で様々な所へ遊びに行くだけであり、もはや小学生の頃にあった遠足と言って差し支えないだろう。三年生のとあるクラスなんか遊園地に行くとか行かないとか。


 ちなみにうちのクラスも三ツ星旅行村という野外施設にバーベキューしに行くという学習要素なんてほぼ皆無な内容となっている。


 が、まぁそれはこの際いいさ。

 そんな事より大事なのは、ここであかりとシュウの仲を近づけなければならないという事。


 班決めの時こそあかり才能が少し発揮されたが、まだまだ足りない。

 だからこれを機に二人にはぐっと距離を縮めてもらいたいのだ。

 それに先んじてまずバスの座席だ。それは先日あかりと打ち合わせしたが、さてちゃんと予定通りの位置に座ってるだろうな。


「ねぇコウ? 乗らないの?」


 観光バスを見上げていると、隣のシュウが話しかけてくる。


「ああ、悪い。それと一つお願いしたいんだけど、俺ちょっと酔うから窓際でもいいか?」

「うん。大丈夫だよ」

「サンキュ」


 シュウの承諾を得てバスの中に入ると、ウェイウェイとクラスの連中の騒がしい話し声が聞こえる中、すぐに声が飛んできた。


「こっちだよコウ~」

「おう」

「やっほーコウ君。私もいるよ~」

「姫野さんもおはよう」


 二人に挨拶をすると、あかりは予定通り通路側の席に座っているようなので、俺はさっさと隣のシートの窓際へと座る。

 

 まず第一の作戦だがそれは簡単、席をあかりとシュウを隣にしようというもの。 ただし、流石に男子女子で隣同士座ると色々と周りの目線とかで落ち着いて話せなくなるだろうから、通路を挟んでという形ではある。


 さらにバスの通路は程よいパーソナルスペースを保ってくれる。それにより、精神衛生を保ちながらも話しかける事が可能なのだ。


 そして加えて俺は寝る。そうすれば自ずと暇になったシュウはあかりと話さざるを得ないだろう。我ながら素晴らしい策を練ったと思う。


「おっ、忍坂じゃん。花咲さんと隣じゃないの?」


 ふと座席の頭上から声がかかったので見てみると、ピアスを耳に光らせたナニガシさんが、俺を座席越しにのぞき込んでいた。


「だから幼馴染だからってそういうの無いって言ってるだろ?」

「へぇ、どうだかねぇ?」

「……ほんとだ」

「そんな事言って、実はもう付き合ってるんじゃないの? お? お?」

「だから付き合ってないっつってんだろ」


 まったく、幼馴染が珍しいのは分かったから何回否定させるんだよ。

 ちなみに某さんではなく何樫さんという名前なのでそこは間違いないでもらいたい。彼女はクラスの肉食獣の群れを束ねるパリピだ。

 確か下の名前はふうだったか。まぁそれはいい。


 別段この子とは仲がいいというわけでは無いが、女子からしたら幼稚園から一緒の幼馴染なんていう話は好物なのか、時々こんな風に茶々をいれられる。

 けど正直ちょっと勘弁してほしい。振られた身だし、何より今はあかりとシュウの事もあるのに。


「シュウ、お前もなんとか言って……うん?」


 肉食獣の対処はシュウにおまかせと声をかけたが、どうやら目論見は潰えたらしい。


「ぐー……」

「早すぎだろ……」


 シュウはとても気持ちよさそうに眠っていた。おいおいマジかよ。かと言って寝てるのを起こすのって悪いしな……。

 

 あかりが気になり通路の向こう側を見てみると、残念そうに……してると思ったが案外そうでもなかった。

 むしろシュウを見てどこかホッとしているかのようでもある。またおとめあかりちゃんモードでも入ったか。あとで喝を入れておこう。


「ほらほらぁ、コウ君~」


 早くも作戦が一つ潰されたとがっかりしていると、後ろから何樫がつついてきた。


「だからしつこいって何樫……」

「ねぇねぇ、今から忍坂が花咲さんとの色々な思い出話をしてくれるってさぁ!」

「はぁ⁉」


 何言っちゃってんのこのパリピは! クラスの奴らも嬉しそうにしてんじゃねーよ!


「お、私たちの激動の人生を語るんだね! 混ぜて混ぜて!」


 あかりもなにノっちゃってんだよ! ていうか俺とあまり仲良くするなって言ったよな⁉


「いいねぇ~」

「ヒューヒュー」


 完全に色々話さなきゃならない空気じゃないか。もしこれのせいでシュウが起きたらあかりと距離を感じかねないし、かといってここで断ればクラス中からシカトされるような存在になりかねない……。くっ、とりあえずシュウが起きたらどうにかして話の流れを変えよう。それまではこいつらの詰問に耐え忍ぶしかない。


 しかし、ついぞシュウは起きることなく、休憩地点でバスが止まるまで思い出話(主に俺の赤裸々な過去)をあかりの手によってさんざん暴露されてしまった。  まぁ、こういうのも青春と思えば……ハハ。

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