第五話


 さて、これからどうするかだな。

 とりあえず、あかりのあの様子はいかがなものだろうか。


 はい、この先不安しか無いですね。


 恋は病とはよく聞くが本当に病気なんじゃないのかと疑うまでの空回りっぷりは

目を覆うものしかなかった。シュウには疲れるとたまにあんなふうになるとか適当な事言っておいてごまかしたが先は思いやられる。恋を初めて経験するとはいえ、あいつも社交性はあるはずだからもうちょっと慣れればいけると思うんだけどなぁ。


「ねぇコウ、委員会どっか入るとか決めた?」


 ふと、シュウがこちらを振り向きながら黒板を指し示すので見てみると、そこには文化祭実行委員やら図書委員やらという文字がずらずらと書かれていた。そういえば確か六時間目のHRの時間に委員会決めするとか言ってたような言ってなかったような……。と言う事は今は六時間目らしい。徹夜って怖いなぁ、気付かなかった。


「どこも入らないっていう選択肢は?」

「……まぁ、委員会は強制じゃないけど、その代わりに国語係とかそういうのに回されちゃうよ?」

「それは嫌だな」


 あれだろ、教科ごとの係ってその教科担当先生の奴隷になるやつだろ? 中学の時もあったけど、いいようにこき使われた記憶は今でも鮮明。


 それにしても委員会か……。これもしかして俺の青春の一ページを刻むのにけっこう使えるくないか? 委員会ってさ、基本各クラスから二人だろ? 


 まぁクラスによって違うらしいが……どうにもうちのクラスは男女一人ずつ編成でいくようだ。これはやるしかないな。


 もしかしたら別ルートの道が開けるかもしれない。とりあえず妥当なのが図書委員か。エロ……男性向けゲームとかではけっこう青春イベント起きるよな確か。いや別にそういうのは求めないから。ただラブコメ求めてるだけだからそこは勘違いしないでね!


 それはさておき、とりあえず文化祭実行委員とかもよさそうだけど、期間限定の役職は仕事が終わった途端全員冷めそうだから駄目だ。となるとやっぱり図書委員が妥当か。


「それじゃあ、庶務・会計委員になりたい人~」


 歳不相応に弾んだ声でアラサー女担任の先生が採決をとるが、いかにも面倒くさそうな名称に手を挙げる者はいない。


 ……と思ったが、どうやら物好きはいたらしい。前にいる奴、つまりシュウが不意に手を挙げた。


 刹那、複数人クラスの女子が一斉に手を挙げだし、のんびりとした教室内の空気が一気に殺伐としたものに移り変わる。


 女同士が互いを目線で牽制しあう。その中にあかりもいるのかなと見てみるが、当の本人は委員会とかどうでもいいと言ったように、くてーっと机に突っ伏して安眠なさっていた。あの馬鹿、ここで立候補すれば教室が血に染まる事も起きないだろうに……。


「ちょっと多いので……女子の皆さんはとりあえず後ろでじゃんけんですかね」


 担任が言うと、手を挙げた女たちは一斉に立ち上がり、殺意をたぎらす。


「とりあえず、刑部君は決まりと言う事で拍手!」


 別に委員会が決まった事などめでたくもなんともないので、一応拍手が起きるも、ぱち、ぱち、と心の籠らない拍手だ。中学にもいたよな、ちょっとしたことくらいで拍手させる先生。

 それに対しアラサー先生は臆した様子は見せずに次の話に移る。


「じゃあ今の間に次の委員会決めておきましょうか。図書委員に立候補する人~」


 後ろの殺伐とした女子たちの空気を背中で感じつつ、図書委員について言われたので手を挙げると、どうやら運の良いことに図書委員に立候補する人は俺以外いないようだった。


「じゃあとりあえず、忍坂君は決まりと言う事で、拍手!」


 またしてもテキトーな拍手の中、図書委員の横に俺の苗字が書かれて丸がつけられる。


 でもまぁ、とりあえず第一関門はクリアだ。俺の青春の材料を一つ増やす事に成功したぞ。


「あ、じゃあ図書委員、私もなっていいですか?」


 心の中で図書委員決定を喜んでいると、別の方角から誰かの声が放たれた。

 おっと? このタイミングで誰か立候補したのか? しかも完全に女子の声だぞ来たこれ! たぶん図書委員に立候補する子なら大人しい子なんだろうけど、無論射程範囲内だ。これは将来図書館デートとかも夢じゃないんじゃないのか⁉

 

 まぁとりあえずどんな子なのかだな、別に顔がすべてとは言わないけど、やっぱり多少は気になる要素だ。


 さて……右に顔をシフト。


 すると視界の先には、狂犬のごとくギラギラ俺を睨み付ける複数の男達の眼光がありました。なんすか皆さん、ちょっと怖いですよ……。


「他にいなさそうなので、姫野さんに拍手!」


 アラサー先生の声を聞いて理解した、というか若干気付いてた。図書委員に立候補したのが姫野ことみさんだという事を……。


 その後、終始睨み付けられていた俺は、普段途中まで一緒に帰るシュウは早速委員会があるという事で、下校時間となるやいなやすぐにその場を退散した。姫野さんに話しかけてみる事も考えたが、気持ち悪いと思われたらいやなのでとりあえず後に回す。

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