第一話
「とまぁな、こんな事があったんだよシュウ」
「あはは……それまた大変だったんだね。でも好きって言われたんだったらよくない?」
授業の合間の休み時間。ほろ苦い中学時代の思い出を、前の席に座る俺の友人こと
「まったくよくない。なんたってあれは社交辞令だからな」
「え、そんな事ないと思うけど……」
分かってないなぁ。お前とは入学式以来つるんで二週間ほどだけど人が良すぎるんじゃないか。
「いやある。考えてもみろ。だってあの状況下だぞ? 校舎裏で好きだって言ってしかも付き合ってくださいって言ったのに分からない奴がいると思うか? 答えは否だ。つまりあれは俺なんかお断りっていう合図で、今も関わってくれるのはお情けに過ぎない。あかりは優しい奴だからな。無理して俺にああ言ってくれたんだと思うし、今も話しかけてくれるんだよ」
「流石に考えすぎじゃない?」
「シュウも優しいからな。そう言ってくれるその気持ちはほんとにありがたいよ」
でもな、それでもやっぱりあかりは無理してると思うんだ。だっていい奴だもん。例え誰か嫌いな人がいてもあいつはきっと分け隔てなく接すると確信できる。
だからこそ俺はあいつのためにも距離を取らないといけないわけだが……いきなり無視するのも感じ悪い気もするからなぁ。一応昔よりは距離を置いてるつもりだけど難しいところだよ本当に。と言ってもなんだかんだ普通に接しちゃう節もあるんだよなぁ。
「ねぇねぇコウ!」
突如不意討ちのように降りかかる声に身体が硬直する。
「よ、よ、よ、よぉ、あかり……」
「なんで壊れたロボットみたいになってるの?」
タブン君があの時俺の心を破壊シタからだと思うヨ。
「まぁいいや、次の授業って課題あったよね? ちょーっとノートを見せてもらいたいなぁと思いまして」
「またやってきてないのか?」
「いやぁ、昨日は何かとたてこんでて」
あかりはエヘヘーと笑み浮かべると「お願いっ」と言って両手を合わせてくる。
本来ならば心を鬼にすべきなんだろうが……。いかんせんあの姿には弱い。
「今度からちゃんとな」
「おお、ありがとう! 恩に着まする!」
ノートを渡してやると、自分の席に戻ろうとするあかりだったが、不意に動作を止める。
何事かと観察していると、あかりはシュウに気遣うような目線を送りつつ俺の耳元に顔を近づいてきた。それに伴って甘い柑橘類のような香りが鼻腔をくすぐり、どうにもむずがゆい。
「それと、今日の放課後ちょっと付き合ってくれない?」
「え? ああ、おう」
「それじゃ、写し次第すぐに返すでそうろう! でやぁ!」
謎の侍言語を残していくと、あかりはぱたぱたと自分の席に戻って行く。
「ふふーん」
声の方を見ると、シュウがニヤニヤと良いものを見てやったぞと言いたいばかりの目でこちらを見ていた。
「なんだよ……」
「やっぱり無理なんてしてないと思うよ。コウってけっこうマイナス思考だからねぇ。放課後デート、青春じゃない?」
「ば、馬鹿かお前は! どうせ久しぶりに部活無いから俺におごらせようとしてるだけだ! もしくは苦し気ながらも私に近づかないでほしいとか宣告されるのかもしれない……」
なんなら偶然を装って殺されるんじゃないかな?
「最後のは明らかおかしいと思うけど、まぁ放課後に会うのは本当なんだね」
「なっ……!」
こいつ鎌かけやがったのか!
「あっはは、ごめんね」
俺が悟ったのを理解したのか、シュウはとても愉快そうな笑い声を上げながら謝罪の言葉を口にする。
くっ、その爽やかスマイルで言われたら許してしまわざるを得ない。
「まったく、ほどほどにしてくれよ……」
「分かったよ。でもま、頑張ってね」
「頑張る要素なんて何一つ無い」
お金を出させられるかもしくは死刑宣告かのどっちかに決まってるからな。決まってるからな! シュウが何を言っても信じないから!
「それより、お前はなんかそういう話ないのか? 一人や二人くらい気になる子とかいてもいいだろ」
少し気になったのと軽く逆襲したかったので尋ねてみると、大した時間を置くことなくシュウは答える。
「うーん、いないかなぁ。僕あまりそういうの無いんだよね」
「そうか……」
まぁシュウがそう言うのは納得できるけどさ。
「おい日直誰だー、黒板消えてないぞー」
ふと、教師が教室に入ってきて声を張ると、シュウが音を立てて立ち上がる。
「あ、すみません!」
慌てた様子のシュウは軽く身体を当てながらも机の間を縫うようにいくと、周りの目線がその方向に向く。
たかだか日直そんな慌てなくてもいいと思うけどな……。
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