第18話 まっすぐな猫。ひねた小鳥。イラついた暴君。
まほよさんとの濃厚なハートフルコミュニケーションを経て着替えを終えた香ちゃんがひだまりの店内へと戻ってきました。さすがにグッタリしています。
かなりの時間お店から抜けていたわけですが、そのお疲れな様子を見てなのか雲雀ちゃんも文句を言いにきたりはしません。
「……あれ?」
香ちゃんが辺りをキョロキョロと見回しています。どうも誠司くんの姿が見当たらないようです。
「彼なら少し前に帰ったわよ、カオ」
「えっ!?」
まほよさんが近づきながらそう告げると香ちゃんはハッと息を飲みます。そしてそれからアタフタと手足をバタつかせ始めました。
「わわっ!? お金っ! 奢るって約束したのにぃ!?」
「大丈夫、私がカオの代わりに立て替えといたわ」
いまにも走り出しそうな香ちゃんをまほよさんがピッと手で制します。流石まほよさん。デキるロリですね。
「ありがとっ! まほよ、ちゃ……ぁっ!」
まほよさんのアシストに香ちゃんは感謝のハグをしようと腕を広げますがその動きが途中でビシリと止まり固まってしまいました。
「あ、その……ありがとね」
「………」
香ちゃんが目を逸らしアハハと愛想笑いを浮かべます。どうやらさっきのことを意識しちゃってるみたいですね。
まほよさんはというと、不服そうですね。こめかみはヒクつき、あごにオコ梅干しができています。
「まぁた、バカがちっこいのを怒らせたのか?」
するとそこにケラケラ笑いながら雲雀ちゃんが混ざります。パッチワークのエプロンの腰に挿したバラのコサージュがキラリと光ります。
「なによ? 雲雀」
「いやぁ、忙しいってのに痴話喧嘩ばかりたぁ、いいご身分だなって思ってさ」
「ああ! ホントにごめん! ありがとね、雲雀ちゃん!」
「ひゃぅっ……!!」
一日振り回された意趣返しに嫌味のひとつでも言ってやろうと思っていた雲雀ちゃんでしたが、香ちゃんが手をギュッと握ると可愛らしい悲鳴を上げて赤面し始めました。
「おい、お前……営業中だぞ」
ふいっ、と視線を逃がす雲雀ちゃん。ですが香ちゃんは手を離しません。肉食系の
「………」
戸惑い逃げる視線とまっすぐ見つめる視線。2人の視線はなかなか交わりません。けれどこのままではいけないと雲雀ちゃんが顔を上げます。
そして雲雀ちゃんは香ちゃんの背後から迫る射殺すような視線に気づきます。
「………」
「……おい、バカ、離せ。いますぐアタシの手ぇ離すんだ」
「もぉ、ひだまりでは先輩だからって人のことをバカって言っちゃダメだよ、雲雀ちゃん?」
「………」
「そういうトコだよ。非常事態でも呑気してるトコがバカなんだ。いいから、離せっ、バカ」
「また言った! いい? 雲雀ちゃん! 私、25歳。10こも年上だよ!?」
「あんた、たちはぁ……2人ともお馬鹿よ……!」
「ひぃっ!!」
「あっ……!」
香ちゃんの首根っこをガシリと掴んだのはひだまりの小さな暴君の可愛らしい手。しかし、その表情は嗜虐的な暴君そのものです。
「お察しの通り、私の機嫌はよろしくないわ」
「……はい」
暴君の宣言に香ちゃんは瞳を閉じて頷きました。なんか本物のニャンコみたいですね。
「おいっ! アタシは関係ないだろ!? 離せ、離してくれっ」
「雲雀ちゃん、一緒に怒られよう? 私、この手は離さないから」
「諦めるな巻き込むな! らしい台詞で誤魔化すな! らしくないぞ、香ぃぃっ!?」
「名前、呼んでくれたね。嬉しいよ、雲雀ちゃん」
「あらあら仲睦まじいわね。イラッときたわ」
「バカ……! 何してくれてんだ、バカ!?」
それから姦しいひだまりの3人娘はひと塊になってしばらくギャースカ騒いでいました。
店長さんは少し離れたところからその様子を眺め1人頷きました。
「これなら、大丈夫だな」
香ちゃんは皆にコーヒー飲ませて独りケモる 世楽 八九郎 @selark896
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。香ちゃんは皆にコーヒー飲ませて独りケモるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます