第14話 口火に水差し、雲雀飛び去る
「ねえ、香ちゃん。ちょっと気になったんだけど」
「どしたの?」
バックヤードから
「コーヒーは?」
「うん?」
短い質問の意図が
「ええっと、だから……普通はああいう甘いものと一緒なんじゃないかって、思って……」
そう言って誠司くんは上目遣いで香ちゃんの目を覗き込みます。自分がおかしなことを言ったんじゃないかなと不安そうな様子に香ちゃんはたまらずキュンキュンにゃんにゃんしてしまいます。
「大丈夫だよ、大丈……ぶふぅ……! ふふっ」
「………」
「ゴメンゴメン! えっとね、確かにさっきのトーストと一緒か食べ終わった直後に来るのが普通です。誠司くん、正解ですっ!」
「……じゃあ、今日のコーヒーは何か違う、ってこと?」
香ちゃんがにやにやを我慢できずに吹き出した直後の
「コーヒーも色々あるからね。それこそお酒みたいに食前食後、お食事と一緒にって感じにタイミングや楽しみ方も色々なんだよ」
「うん。なんとなくわかる」
「とりあえずブレンドコーヒーを頼めばどのタイミングでもOKって感じに大体のお店はしているみたいだよ。少なくとも
店長からの受け売りを一通り語ると香ちゃんがピシッと指を立てます。知的なお姉さん風にキメようとしているのにキュートに仕上がってますね。
「それでね、このコピルアクは単体で楽しんでもらいたいコーヒーなのですっ!」
「う、うん……」
目の前で通販番組よろしくなテンション語りだす香ちゃんに誠司くん若干引いてます。
○●○●○●
「でねでねっ……!」
「うん、うん……ねぇ、香ちゃん。ちょっと別のこと訊いていい?」
その後しばらく香ちゃんのコピルアク語りに
「どうしたの?」
香ちゃんの語りは熱意は充分ですがお世辞にも上手ではありません。それが良くなかったのでしょうか?
「さっきお酒がどうのって言ってたけど、香ちゃんはお酒飲むの?」
「ふぇ? まあ、飲むよ? たまに、ね」
突然な質問に香ちゃんはキョトンとしてしまいます。誠司くんは何が気になるのでしょう。
「香ちゃんって……いくつ?」
「ん、25ですけど?」
「そう、なんだ」
香ちゃんの回答に誠司くんは小さく呟き視線をテーブルに落としました。その表情は真剣で何かを思い出しているようにも見えます。突然彼が見せた表情に香ちゃんはドキドキしてしまいます。
(え? なになに? なんなの?)
誠司くんの次の言葉を待ちながら香ちゃんは大急ぎで頭の中から人間としての六音香の設定を引っ張り出していました。何を聞かれてもボロを出さないための心構えをしているのです。
(えっと、私は六音香、25歳。出身は東京都で家庭の事情により高校中退。そんなわけで過去についてはあまり話したくない……3年前から埼玉県に在住……よしっ!)
フンスと小さく鼻息を吐き、香ちゃんが気合を入れ終わると同時に誠司くんが顔を上げ口を開きました。
「あ、あの……香ちゃん、ってさ……!」
「どーぞ、お待たせしました。コピルアクおふたつ、でーす」
「「………」」
なんというか、あり得ないタイミングで特製コーヒーが届けられました。2人がぎこちなく声のする方を見やると雲雀ちゃんがお盆片手に微笑を
「どうぞ……ソレ、飲んだら仕事戻れよ。あぁ、一気はしなくていいから」
「うん。ありがとね、雲雀ちゃん」
ぶっきらぼうに香ちゃんに小言を投げつけながらきれいな動作で雲雀ちゃんは
「……どぉも」
「……ん、ども」
日頃関わりが薄い会社員同士のような煮え切らない挨拶(?)を誠司くんと交わすと雲雀ちゃんは退場していきました。
「「………」」
完全に流れがブッた切られてしまいました。こうなってはお手上げです。2人は気まずそうに視線をウロウロと散歩させてからどちらからともなくコーヒーカップを手に取りました。
雲雀ちゃんやってくれましたね。誠司くん可哀想に。でも一方で香ちゃんは内心安堵していたりするのでした。
(雲雀ちゃん、ナイス! なんかアレはヤバい感じだった……!)
もしかして香ちゃんはけっこうヘタレなのかもしれません。
「……っ、
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