第3話

八月


 夜の気配は嫌いだ。

 なんだか拒絶されている気がするから。

 コンビニの明るい店内で、紙パック入りのカフェオレに手を伸ばす。目的の商品を見つけたというのに、うすく主張する夜の気配のおかげでなんだか落ち着かない。

 夜、それ自体は別に嫌いではなかった。むしろ朝のランランとした感じよりも夜のシズシズとした感じの方が好きなくらいだった。

 どこか見覚えのある店員さんに会計をしてもらい、紙パック入りのカフェオレを袋に入れてもらう。名札には田中と書いてあったけれど、田中さんという名前の知り合いはいなかったはずなので、きっと私の勘違いだろう。

 店を出ると夜の気配がじゅわりと強くなる。

 夜の気配は嫌いだ。

 どうしても馴染むことが出来ない。なんだか拒絶されているような気すらしてくる。なのにこちらからは夜の気配を拒絶することが出来ないのだから、本当に酷い話だ。

 二十四時間明かりの消えることのないコンビニでさえ振り払うことが出来ないのだから、今頃真っ暗な私の部屋は、たっぷりと夜の気配を吸ってしまっていることだろう。ため息が出る。

 コンビニの袋を提げて信号待ちをしていると何かが目の前を通り過ぎた。

 反射で体がびくんと揺れる。

 べたんべたんと動くそれは蛙だった。

 近頃、どこにいるのか知らないが鬱陶しいくらいにゲコゲコと鳴き散らしている。昼間はそこまでうるさくないのに、蛙は夜行性なのだろうか。

 べたんべたんと飛び跳ねる、いやに後ろ足の大きいその蛙は赤信号の道路へ突き進んでいく。どこで危険に気付き方向転換するかと見ていたら、蛙はそのまま道路に出てしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る